【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件 作:ホッケ貝
「――はい、繋がりましたね。今、我々は旭川トレセン学園の入学式に訪れています。お目当ては勿論…この新しい制服です!」
「「イエーイ!」」
ベージュのスーツでピッチリと身を固めたリポーターがリポートするなり、コマンドーなロケランかなと言いたくなるようなカメラを背負ったカメラマンは、カメラを二人組でピースをする生徒に向ける。
その様子を、俺は遠方から微笑ましく見守っていた。
大変嬉しい事に、制服のデザインが可愛くなる事を聞き付けた幾つかの地元メディアが「取材させてくれ!」と申し込んで来たのである。
ポスターやパンフレットの説明だけでは広報力がやや火力不足なため、一発の威力がデカいマスメディアの取材を快諾し、今に至るという訳だ。
「この学園に入学するきっかけになったことは、なんでしょうか?」
「そうですね…。この制服が可愛かったから(笑)ははは」
「あなたは――」
「うーん、そうですねぇ…。体験入学で、決心がついたというか……」
取材の内容をさも当然の権利ですと言わんばかりに盗み聞きしつつ、改革の成果をしみじみと実感し、思わず「ヨシッ!」と小さくガッツポーズを決める。
パンフレット配りに始まる地道な広報戦略と、制服の変更や体験入学のボリュームアップなど大胆な改革の結果は、受験者数の大幅増加や注目が集まるなどして予想を遥かに上回る大成功を収め、これに俺は大満足する。
また、制服の変更はかなり効果があったらしく、わざわざ本州から受験を受けに来るウマ娘がいたのである。
ただ、それだけ影響を及ぼすと弊害と言うものが現れてしまうのである。
受験者の中には、同じくホッカイドウシリーズ加盟校がある岩見沢や札幌などの地域から、わざわざ故郷を離れてまでここ旭川トレセンの入試を受けに来る……いわば共食いとも見れる現象が発生してしまったのである。
これが中央だったり全く別の枠組みの地方トレセンならぶっちゃけ問題無いのだが、身内で競争している状態なのである。
このまま入学希望者が我が校に偏り過ぎてしまうと、仲間である加盟校の瀕死の病人と化した財政に止めを刺してしまう可能性が浮上してきたりと、新たな問題が立ちはだかるのである。
……まぁそんな事は置いておいて、今は素直に成果を喜ぶ時だろう。
職員や生徒、そして業者などの多大な努力が報われた誇らしい結果である。
「……みんなのお陰なのだ。だから、俺は恩返しをしなくてはならんのだ」
そう自分に言い聞かせ、俺は賑やかな人混みの中に入っていった。
・・・
東京都府中市に陸上戦艦の如く鎮座する巨大な建築物群、中央トレセン学園。
勝利への渇望というドロドロとした感情が水面下で渦巻く彼の地にて、その様な果てしない戦いを忘れるような"ある事"が話題になっていた。
生徒会"役員"のシンボリルドルフは、トレーナー室で新聞を読んでいた。
メガネを掛け、左手を顎下に添えて右手で新聞を掴んで読み更けている視線の焦点は、"旭川トレセン学園の新制服が話題に!"というデカデカと書かれた見出しに向けられていた。
「……ほう、なるほど」
珍獣を見るような好奇心溢れる眼差しで、ルドルフはいつものように黙々と記事を読む。
その最中、ふと食堂にいた時を思い出す。
それは最近の事であった。
食堂で食事をしていると、近くで三人ほどのグループを作って食事をしている者達の会話が耳に入ってきたのである。
会話の内容はずばり、旭川トレセン学園の新制服であった。
よくよく耳を傾けて見れば、そこらかしこで地方トレセンの改革が話題になっているという現状を、ルドルフは早々に理解した。
ふとルドルフは、新聞に掲載されている新制服のブレザーと、今自分が着ているダークブルー色のセーラー服を比較する。
そして、たかが地方の話がなぜここまで話題になっているのかを考える。
理由は単純だった。
「皆がこれを望んでいる……」
ウマ娘は女の子だ。年頃になれば、身なりを気にするようになる。
化粧の仕方だとか、ファッションのセンスを極めたりなどがそれに当たるだろう。
その理論で行けば、このような古くさくて汎用的なセーラー服よりも、旭川トレセン学園のような先進的なデザインとファッションセンスの制服を望むだろうし、流行に敏感な年頃の女の子がわざわざ古い方を選ぶというのはあまり考えられないので、当然の理だろう。
ここでルドルフは知恵が働いた。
"今度行われる生徒会会長選挙で、制服のデザイン更新という公約を掲げよう"と――
――結論から先に述べておくと、シンボリルドルフは上記の公約に加えて、現役時代の名声、さらには培ってきた人望や人脈によって、見事に当選を果たして晴れて生徒会会長に就任する。
我々にとって馴染み深い会長の称号を得るなり、早速新制服導入に向けて動き出す。
だが、主に保守的な学園運営の反対や、お役所仕事特有の動きの遅さにより改革は難航し、全生徒のアンケートを取って嘆願書を提出したり、様々な妥協の末、数年かけてやっと新制服の導入を果たすのであった。
のろのろと作業を続けている間、旭川以外の地方でも後を追うように続々と新制服の導入がなされていく様子を、ルドルフは悔しげな顔をして眺めなければいけない事となった。
そしてルドルフは、新たな危機感を抱くようになった。
――中央が地方に追い越されるかもしれない――
まさかとは言うが、ここ最近のホッカイドウシリーズの下克上的経営方針は、とても見過ごせるようなものではなかった。
だからこそルドルフは決意した。
「私が守らなければならないのだ」
と……
走る事以外で初めてライバルができた瞬間であった。
=学園の状況=1986
・シンボリルドルフの光
シンボリルドルフの活躍により、中央のトゥインクルシリーズに関心が持っていかれている
話題性が低下する
経済力が低下する
・ブレザー革命
古きを破壊し、新しきを創造した制服改革は、全国的に注目を集める事となった
話題性が大幅に増加する
経済力が大幅に増加する
やる気が大幅に増加する
※陳腐化するまで効果は続く
・追い風が吹いてきた経営状態
小さな改革が実を結び、予想以上の成果を収めた。だが、依然として適切に策を立て続けなければ、また傾くだろう
時が来れば、末路が分かるだろう
・困惑するホッカイドウシリーズの枠組み
北海道を基盤とした各地開催レースは、一定の成果を生んでいる。
だが、学園間の緩い均衡は、急進的な改革により崩れようとしている
話題性が増加する
経済力が増加する
※今ならまだ間に合う!ブレーキを踏むんだ!!
・希望、信頼、協力
今代の理事長は、改革に意欲的なようだ
もっとも、成功するかどうかは置いておいての話だが……
話題性が少しずつ増加する
経済力が少しずつ増加する
やる気が少しずつ増加する
・好景気
今のところ世間は好景気なのだが、我々はその恩恵を受けているとは言いがたい
だが、その逆の場合は必ず受けるだろう
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