伸元お兄さんと舞白ちゃん(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
2024.10 改訂済
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――― 2102年 8月
時刻は昼前の11時30分過ぎ――
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照りつける太陽の日差し
100年以上前から温暖化現象やら囁かれていたがある程度年数が経つと慣れが生じる。年々高くなる気温、それに比例するように人々は試行錯誤し順応していく術を身につけていくのだが……
「……今日も暑いな。」
宜野座伸元 18歳
吹き抜ける温い潮風にしかめっ面をみせ、持っていたタオルハンカチで汗を拭う。
海沿いとなると高い建物も周辺にはなく都心に居るより余計に暑さを感じる。
「ダイム、あと少しで目的地だ。」
「ワンっ!」
宜野座の片割れには相棒とも呼べるシベリアンハスキーの"ダイム"。今日は相棒と共にとある場所へ向かっていた。
照りつける熱波に毛皮を纏ったダイムは主人の言葉に反応しつつも、どことなく暑さに疲れた様子。
久しぶりに訪れる場所に若干緊張しながらも目的の建物が見えてくると
あと少しで開放されるであろう暑さに安堵していた。
"低層の白いマンション"
周りは新緑の木々に覆われ、セミの鳴き声も響き渡る。同時に目の前に広がるのは広い青空に美しい海。コンクリートではなく大自然に囲まれたこの環境を密かに羨ましく感じていた。
全てが本物。バーチャルでは無い現実。
潮の香りも、木々の匂いも、風邪で揺れる緑の音も――
宜野座は深々と鼻から空気を吸い込み口から吐き出す。
心地よかった。新鮮な空気が体を巡る感覚に喜びの頬笑みを浮かべる。
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マンションのエントランス。
扉が開くと体が涼しい風に包まれ宜野座もダイムも一息つく。
「今年の夏も堪えるな……」
「クゥウン……」
「ほら、水を飲め。お前の方が数倍も暑いだろうからな。」
エントランスの隅でダイムに水を与える。
そしてあっという間に携帯用の皿を空にする。宜野座も手にしていたミネラルウォーターを飲み干すとリュックへと戻し、小さく息を吐いた。
そして再びしっかりとリードを握りると手土産の入った袋を片手に抱え、インターホンに手を伸ばす。
「501……と……」
部屋番号を打ち込むと鳴り響くチャイム音。ダイムはその音に不思議そうに首を傾げ主人の足元に大人しくすり寄る。
そして暫くすると音声口から聞き慣れた声がエントランスに響いた。
『――おっ!来たなギノ』
友人を嬉しそうに出迎える声。
気のせいだろうか?いつもより声色が明るい。
「"狡噛"。予定より遅くなってすまない。」
『全然そんな事気にしないさ。ちょうど昼飯の用意もできたところだ。早く入れ。』
「ああ。ありがとう。」
音声が切れると同時に目の前の扉が開く。
すると宜野座とダイムはお互いに顔を向け合った。
「ダイム、粗相のないようにな?」
「ワンっ!」
言葉を理解しているのか、元気よく吠えると宜野座の表情が綻ぶ。そしてマンション内へと進み、エレベーターへと乗り込むのだった。
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"501 KOGAMI"
表札を確認しチャイムを押す。
前回来たのは約1ヶ月前だ。
その時は"期末考査の勉強会"という事で2人でひたすら机に向かって過ごした。狡噛はとにかく頭が良い。考査はいつもトップ。なのにひけらかすことなく謙虚で"すごい人物"だった。
2人でどこかに遊びに行く、というような関係性では無いが一緒にいて心地が良い。
「((今日は狡噛だけじゃないんだよな。))」
しかし今日はどうやら妹も居るらしい。
そもそもダイムが共に来た理由は狡噛の妹がいるからだ。
"ギノがもしよかったらダイムも連れてきて欲しいんだが……妹がワンワンと遊びたいって聞かなくてな"――なんて。
恥ずかしそうに後頭部を擦りながら言いに来たことをはっきりと覚えていた。
((狡噛の妹は写真でしか見たことは無かったが……確か6歳だったか。初等部に入りたてだとか、そんなことを話していたな。))
そうこう考えていると扉のロックが解除され見慣れた人物が顔を出す。
「ギノ、暑い中よく来てくれたな。」
「いや、こっちこそ待たせて悪かった。これ手土産だ。妹にと思って……」
可愛らしいピンクの紙袋、中の箱にはケーキが3つ。幼い妹を気遣って選んでくれたんだろうと狡噛は宜野座の優しい気づかいに笑みを浮かべた。
「気を使わせて悪いな?……ほら、早く入れ」
「お邪魔します。」
ダイムと共に中に入る。玄関でダイムの足を拭きながら涼しい冷房の空気に上がりきっていた体の体温が下がっていく。
「舞白ー!お客さん。」
狡噛は妹の名を呼んだ。すると"はーい!"と元気な声が返ってくる。
宜野座は反射的に廊下の先の扉に視線を向けると狡噛の傍らに見慣れない女の子の姿が現れた。妹は顔だけをひょっこり覗かせ宜野座とダイムの姿をじっと見つめる。
「ほら舞白。お兄ちゃんの友達だ。」
「…………」
人見知りなのだろうか。それとも緊張しているのか?舞白は扉から手を離せば今度は兄の足にしがみつくと宜野座をじっと見つめ続けた。
「こんにちは。君が舞白ちゃんだね?」
宜野座はゆっくりと立ち上がると微かに口元を緩ませた。ダイムが興奮して飛び掛らないようにと念の為リードをつけたまま狡噛兄妹が居るリビングへと向かう。
「……ッ……」
「舞白。挨拶は?」
「…………」
狡噛は優しく舞白の頭に触れるも恥ずかしそうに兄の背後に体を隠す。その姿に小さく息を吐く狡噛はどこか呆れた様子だ。
「悪いなギノ。普段はこんなじゃないんだが……」
「別に構わないよ。……寧ろ何か悪いな。ダイム連れてきても大丈夫だったのか?」
「問題ない。毎日のように"ワンワン欲しい"って口にするくらい犬好きでな?バーチャルじゃなくて本物のな?」
「ならいいんだが……」
宜野座は狡噛の言葉に少し安心するもそれでも警戒する舞白に小さく微笑む。年相応の女の子らしい反応と"ワンワン欲しい"だなんて可愛いではないかと。狡噛の妹だからどんな女の子だろうかと何となく想像していたが思った以上に普通で安心したのだ。
ゆっくりとダイムの傍らでしゃがみこむ宜野座。実兄の後ろに隠れ続ける舞白に対しゆっくりと手を差し出す。
「はじめまして、お兄さんのお友達の宜野座伸元です。こっちはシベリアンハスキーのダイム。見た目は大きくて怖いかもしれないけど優しくて良い奴なんだ。仲良くしてくれるかい?」
ダイムの背中を優しく撫で上げ再び笑顔を向ける宜野座。するとほんの少しだけ警戒を解き始めた舞白は兄の手を握ったまま、恥ずかしそうにひょっこりと顔だけを覗かせる。そんな妹を横目に狡噛も穏やかに笑っていた。
「"もう一度、君の名前を教えて貰っていいかな?"」
"このお兄ちゃんは優しい"
――そんな印象を宜野座に対して思い始める舞白。
眼鏡から覗く優しい瞳。優しい口調。そんな相手に舞白も少しずつ更に緊張を解かせると隠れるのを止め、兄の手を握り直せば姿を現した。
「こっ……狡噛……舞白。6歳です……こんにちは……」
2つに結われた艶のある黒髪。可愛らしい水色のワンピースを纏う可愛らしい姿。狡噛と兄妹と言われて納得だった。
可愛らしさの中にある知的な印象。それは左目下にある涙ボクロのせいもあるかもしれない。だがそれ以外にも纏う雰囲気や整った顔立ち、自分をとらえる真っ直ぐな瞳の輝き――
「…ワンワン、触っていい?」
宜野座の隣で大人しく座るダイムを指さすとうずうずとしている様子の舞白。先程まで無言で隠れていたのが嘘のようだった。
「もちろん。一緒に遊んであげてくれるかな?」
「っ!うん!遊ぶ!!」
先程とは打って変わって満面の笑みを浮かべる舞白。子供らしい反応についつい笑いを浮かべるふたりは嬉しそうだった。パッと見大人しそうな女の子と思いきや全く違うらしい。素直で天真爛漫で好奇心旺盛。自分より大きい犬に臆することない女の子。
舞白はダイムのそばに歩み寄り背中を擦る。ダイムも元々性格は温厚だ。害がないと分かればすぐに心を開き幼い女の子に擦り寄る。
あっという間に打ち解けあった2人はリビングへと走り向かうと早速遊び始めたのだった。
「((……よかった。一先ず打ち解けてくれた様子だな。))」
ほっと胸を撫で下ろす宜野座。舞白のような女の子は周りに居らず、扱いがよく分からない事もあり不安だった。しかし目の前で楽しそうに笑顔を浮かべている様子に嬉しさを滲み出す。
「……似てるな。お前と。」
「この短時間でどこが似てるって思ったのかは分からんが……雰囲気は似てるってよく言われる。」
具体的にどう似ているかは応えられないが"なんとなく"なのだ。そして分かったことがある。あの狡噛がいつも妹の事を気にかけている理由。可愛くて堪らないんだと言わんばかりの日々の言動。
「お前が妹を溺愛する理由が分かった気がするよ。」
自分と血が繋がったきょうだい、妹。
歳もひとまわり以上離れていれば可愛くて仕方ないだろう。見方を変えれば兄の狡噛が父親にも見えてしまう。
宜野座自身は一人っ子だ。きょうだいという概念は理解できない。だが想像はできる。自分にももし妹が居たら……
「可愛いだろ?俺の妹。」
「…トイレ借りていいか。」
「スルーすんなよ……」
溺愛する兄、それを見守る友人。
ふたまわりも離れた少女との出会い。
これが狡噛舞白と宜野座伸元の出会いだった。
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