Fate/IdeateBliss‐Ib‐美術館聖杯戦争 作:放仮ご百物語
今回はついにあの子が登場。楽しんでいただければ幸いです。
イヴとライダーとお茶会を楽しんだ翌日。長かった夜もようやく明けて、割り当てられた部屋の大きな窓から朝日を拝む。…こんないい部屋を使って本当によかったのかしら。下手なホテルより豪華なんだけど。
「おはよう、ギャリー」
「おはよう、イヴ」
サーヴァントに睡眠は不要だと寝ずの番をしていたイヴが霊体化を解きながらの言葉に応えながらベッドから降りる。申し訳なかったけど、同盟を組んだとはいえ本来敵同士のライダー陣営を完全に信用しきれないらしいイヴからの申し出に頷くしかなかった。様子を見るに心配していたことはなかった様だけど。
「ギャリーさん、起きてるかしら?」
「ええ、ライダー。起きてるわよ。おはよう」
「おはよう!ご機嫌はいかがかしら?アマデウスが呼んでいるわ、朝食と…魔術を教える約束を果たす、ですって」
その言葉に目を見開く。そうだ、アタシはアマデウスに師事したんだった。簡単な魔術から教えてくれるらしいけど……私に出来るかしら?
パンとスープと言う普通の朝食の後、私はホワイトボードと案山子の様な木の人形が置いてある部屋に通された。ナイフやガラス、新聞紙など色々机に置かれている。
「強化の魔術は魔力を通して対象の存在を高める、文字通りの効果を発揮する基礎の魔術の一つで全ての魔術の基本だ。ナイフに使えば切れ味が良くなり、ガラスに使えば硬くなる。新聞紙を丸めたものでも武器にできる。基本的に自分の身体に魔力を通して一時的に身体強化して身体能力や強度を上げて使う魔術で、器物に魔力を通すのは難しい。ちなみに自分以外の生物に用いるのはもっと困難だ」
ホワイトボードに書き込みながら、実際に「強化」の魔術を使って実践して見せるアマデウス。案山子に刃が通らなかったナイフが「強化」の魔術をかけることで容易く斬り裂いてみせた光景はすごい物を見た気分になった。
「また、曖昧なモノを曖昧に強化させることはできない。シンプルながら奥が深いことから、基礎中の基礎であり全ての魔術の基本なのだけど、その自由度の高さからか明確な実行形式が定まって極めるのは困難と言われている」
「ほへー」
「ちゃんとついてきているかい?」
「え、ええ。続けて?」
正直ちんぷんかんぷんだけどなんとなくはわかった。
「強化は完成した芸術品に筆を加えること、と言ってもいい。完成している物に手を加えるということは、完成度を貶める、という危険性もあるのさ。単純でありながら難易度が高く、好んで使う魔術師は少ない。ぶっちゃけ強化を極めるぐらいだったら家系の魔術を極める方が楽だからね」
「家系の魔術って言うのは?」
「魔術師の家に代々伝わる固有の魔術の事さ。僕で言えばアムドシアス家の音楽魔術さ。オルフェウスに由来する音を媒介とした魔術で……これは他人に教えたところでどうこうなるものじゃないから習得は諦めた方がいい。君は魔術師の家系じゃないみたいだからなおさらね」
「そう…残念だわ」
アタシが魔術師の家系だったらイヴをもっと助ける事ができたのだろうか。そう考えると残念でならない。
「早速実践してみよう。まずは自分の身体に流れる魔力を感じ取るんだ」
「と言われても…」
「じゃあまずは魔力を実際に感じてもらうとしよう。
「っ!?」
指揮棒の様な杖を取り出し、突きつけながら叫んでくるアマデウス。瞬間、指揮棒から五線譜が流れてきたかと思えばアタシに纏わりつき、身体の力が奪われた感覚と共に膝から崩れ落ちる。ち、力が入らない…これは…!?
「僕の声こそが音楽そのものだ。他人の身体に働きかけて様々な効果を発揮する。これは相手の力を弱らせる魔術さ」
「ギャリー、無事!?」
すると扉をドロップキックで蹴り飛ばして入ってきたイヴ。アマデウスから頼まれたアジトの工房化をしていたのかエプロンが絵具塗れだ。そのまま真顔で丸まった体でころりと一回転、前転して立ち上がるとポケットから振り抜いた彫刻刀をアマデウスに突きつける。
「やっぱり、魔術を教えるふりをしてギャリーを…!」
「待った待った。君のマスターが察しが悪いから実際に教えていただけさ。勘違いしないでくれ、そもそも本当にそれが狙いならライダーに君の足止めを頼んでいるはずだろう」
「アマデウス、あなたが悪いわ」
扉からヒョコッと顔を出したライダーが「メッ!」と幼子を叱るようにアマデウスにぷりぷり怒る。あの、この魔術を早く解いてくれないかしら…?
「あー、酷い目に遭ったわ」
「ギャリーももう少し警戒してよね」
大きく肩を回して肩凝りを治しているとイヴに咎められてそっぽを向く。魔術の勉強を中断し、買い出しに外に出されたアタシとイヴ。なんでも、聖杯戦争は秘匿されるもの。
「居候の身で教えてもらっている身だから逆らえないわ…」
「世知辛いね…」
「こんなマスターでごめんねイヴ…」
ズーンと落ち込みながら歩いていると、目を惹く美少女が前から歩いてくるのが見えた。金髪碧眼で深い緑色のワンピースに青いリボンスカーフを身に付けている、どこか他と浮いている印象を感じる少女だ。
「…イヴ?」
キョロキョロと興味深げに辺りを見渡す金髪の少女になんとなく視線が行っていると、隣を歩いていた方の美少女がついてこないことに気付いた。振り返ると、イヴは信じられないものを見たよう顔で立ち止まっていた。
「どうしたの、イヴ?」
「メア、リー…?」
「…あっ!」
すると金髪の少女もこちらに気付いたようで顔を輝かせるとこちらに駆け寄ってくる。脇目も振らず駆け寄ってくる姿は可愛らしく、呆然としているイヴに抱き着いてきた。
「イヴ!会いたかった!」
「…本当にメアリーなの?」
イヴからメアリーと呼ばれた少女。見れば見る程絵に描いたような美少女だ。それにしてもサーヴァントのイヴと面識があるとはどういうことだろう?
「正真正銘、メアリーだよ!」
「メアリーは、どうしてここに…?」
イヴに抱き着いたメアリーは、イヴの耳元に口を寄せてにっこり笑う。
「“聞き耳”で聴いたよ?イヴもゲルテナとして呼ばれたんだってね?」
「っ!」
「私は私の願いを叶える。邪魔するなら容赦しないから」
「メアリー…」
「ギャリーも、また会おうね」
なにやらぼそっと耳元で呟いてイヴが目を見開くと、メアリーはこちらに手を振りながら満足したように人ごみの中に消えて行った。……私、名前を言ったかしら?
「なんだったのかしら…イヴ?」
「……ううん、なんでもない」
様子がおかしいイヴに問いかけるもはぐらかされる。この時の真意を知るのは、結構早くのことだった。
もう一人のゲルテナ、メアリー登場。
次回も楽しみにしていただければ幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。ここすき機能などで気に入った部分を教えていただけたら参考にします。