バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~   作:想いの力のその先へ

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悪次郎《アクジロー》という名の意味

 千草がレオーネから戦力の増強する話を聞く少し前、首相官邸にて二人の男が話していた。

 

「それでよろしかったのですか、総理? 虎の子の特務小隊をバルドルに派遣するなどと……」

 

 一人は巌のような厳格な雰囲気をまとわせた片倉官房長官。

 

「なぁに、いつかはそうするつもりだったんだ。それが早まっただけだろうよ」

 

 もう一人、片倉官房長官にぶっきらぼうな返事を返した強面な、威圧感を感じさせる男。伊達内閣総理大臣だった。

 彼らは今回決定した――とはいえ、あくまで二人の間だけで本格的に動くのはしばらく後の事――特務小隊の派遣についてだ。

 

「ですが……」

「くどい。それに嬢ちゃんにも言っただろう。持ちつ持たれつ、だと」

 

 なおも反論しようとする官房長官に、伊達総理はかつてレオーネに言った言葉を使って切って捨てる。

 彼がなぜレオーネに言った言葉を敢えて使ったのか。それには理由があった。

 

「そもそも、バルドル自体地盤が緩いんだ。……かつてバベルを壊滅させた功績についてもレッドルビーの嬢ちゃんが主体でバルドルの功績とするには弱い」

「それは、確かにそうですが……」

「それに対秘密結社組織の戦力が嬢ちゃん二人ってのがそもそもおかしいんだからなぁ」

 

 どこか黄昏た様子で呟く伊達総理。彼としてもレッドルビー(真波渚)ブルーサファイア(南雲霞)が矢面に立つ現状に思うところがあるようだった。

 それは片倉官房長官も同じだったようで、なにも言うことなく沈黙する。

 そのまま二人の間に気まずい雰囲気が流れる。

 

 そんな雰囲気を払拭するため、伊達総理は努めて明るい声で、違う話題を出す。

 

「そういえばよ、片倉」

「……なんでしょう?」

「あの坊主。盛周の小僧がなんて名乗ったか聞いたかよ?」

「あぁ、あれですか……」

 

 伊達総理が何を言わんとしているか察した片倉官房長官は、どこか困ったような表情を浮かべ頷く。

 

()()()()()。いえ、悪次郎(あくじろう)でしたか」

「あぁ、そうだ。……まったく、東北出身の俺ら相手にそんな名前を名乗るなんて、いい度胸してると思わねぇか?」

 

 怒っていそうな言葉に反して笑いをこらえていそうな伊達総理。

 そんな総理と同じく、片倉官房長官もまた先ほどとは違い穏和な笑みを浮かべている。

 

「ええ、まったく。……しかし、これも彼なりの警告なのでしょう。もしも、私たちが私利私欲に走るなら()()()()()として誅する、という」

「こっちにはそんなつもり、毛頭ねぇっての。……しかも、よりによって悪次郎。いくら()()()()()だと言ってもなぁ……」

 

 先ほどから二人が語る悪次郎。そして名前が同じ、とはどういう意味か。それは、彼らの出身。そこに過去存在した一人の人物についての話だ。

 その人物とは、池田(いけだ)悪次郎(あくじろう)盛周(もりちか)

 今より約四百年前、戦国時代後期に活躍した人物だ。

 

 かつて太閤、豊臣秀吉が太閤検地を行った際、民衆が抵抗のため一揆に発展。悪次郎盛周はその際、民衆を守るため一揆勢に合流してともに戦っている。

 また、その時。彼は民衆を守るためとはいえ、時の権力者。太閤豊臣秀吉に反旗を翻したことから自ら悪次郎という名を名乗った。

 そして、一揆に参加する傍ら堰を築き現地を開墾。そのことに民衆は感動し、その地の名前を【悪次郎】に変え、後の世で政府から地名が良くないので変えるように指導があっても断固拒否した、という逸話がある。

 

 即ち、盛周。現バベル大首領は自身と同じ名前と民衆に味方した、という逸話をなぞらえて自らをアクジロー、否、悪次郎と名乗ったのだ。

 だからこそ彼は悪という言葉に拘った。かつて、自身と同じ名前の人物が、悪と分かっていてなお、人のため、民のため戦ったという故事にならって。

 なによりも、自身も彼のように自分の出来る範囲で、大切な人たちを、人々を守るために。

 それこそがかつて盛周がレッドルビー相手に啖呵を切った『巫山戯てなどいない。この名は我が信念、我が願い。俺の根幹に根差すものだ、侮らないでもらおうか――!』と、いう言葉の意味だった。

 彼もまたレッドルビーや、バルドルとは目線が違うとはいえ、人々の平和のため戦おうという覚悟の現れだったのだ。

 そんな言葉を人伝とはいえ聞いた二人としては、自身の出身に伝わる英雄を則る盛周を見て気恥ずかしいやら、誇らしいやら複雑な感情を抱くのは必然だった。

 だからこそ、二人とも皮肉げな物言いをしながらもまんざらでもない様子を見せていたのだから。

 

「まぁ、ともかく。あの小僧にサボってるなんて思われないためにも手伝ってもらうぞ。いいな、片倉」

「ええ、微力ながら尽くさせていただきますよ」

 

 そう言いながら二人は笑みを浮かべる。それはどこか悪戯小僧を思わせるような、スッキリとした笑顔だった。

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