バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~ 作:想いの力のその先へ
前回のブルーサファイア救出作戦後、レオーネはブラックオニキスから受けた傷を治すため基地内の、自身に割り当てられた自室で安静にしていた。
「……うん、大分治ってきた、かな?」
彼女はそう言いながら、自身の体を動かして感触を確かめる。
拳がひゅっ、と空を裂く音を響かせながら繰り出される。
その後、彼女は軽くステップを踏みながらワン、ツーとジャブを繰り出す。
そこには怪我人だとは思えないほどのキレを繰り出すヒロインの姿が。
事実、彼女の怪我はほぼ完治しているといって過言ではない。
しかし、それは同時に普通ではあり得ないことだった。
なぜなら、彼女のダメージは身体の外部だけではなく内部まで浸透していたこともあって、普通であれば一週間程度で治るほど軽いものではなかった。
しかし、彼女自身の類稀なる身体能力の高さ。自己再生によって常人ではあり得ないほどのスピードで怪我が回復したのだ。
とはいえ、それは彼女が元々持っていた能力、というだけではなく、かつて彼女が孤児として暮らしていたときに拐われた組織。その組織で受けた薬物投与による改造。そのことで発現した部分も多分にあった。
もっとも、彼女からすれば改造だろうとなんだろうと、己の能力には変わらないのだから、その辺りは気にしていない。ただ、便利な能力なのだから使う、その程度の認識だ。
とにもかくにも、そのように己の調子を確認していたレオーネ。
その彼女の耳に、ドアを叩く音が聞こえた。誰か来たのだろうか?
そう小首をかしげるレオーネ。そんな彼女の耳に、今度はドアを叩いたであろう人物の声が聞こえてくる。
「あの……。レオーネさん、少し良いですか?」
「うん? なぎさちゃん、どうしたの?」
レオーネが言うように、ドアの先から聞こえてきた声の主は、ヒロインとしては彼女の後輩に当たるレッドルビー。真波渚であった。
急になんだろうと思うレオーネ。そんな彼女に渚は用件を告げる。
「実は、少し相談したいことがあって……。部屋の中にお邪魔して良いですか?」
「……? うん、良いよ。鍵は開いてるから入っちゃって」
「それじゃあ、お邪魔します」
そう言って渚はドアを開け、部屋の中に――。
「……ちょっ――」
入ろうとして、中にいるレオーネの姿を見て固まる。その、渚の仕草を見て頭の上に疑問符を浮かべるレオーネ。
そして再起動した渚は慌てて部屋の中に入ると、即座に鍵を閉め――。
「なんて格好してるんですか、レオーネさん!」
「……えっ?」
小声で怒鳴る、という器用な真似をしながらレオーネに突っ込みを入れる。そのことに、訳が分からない、とばかりに首をかしげるレオーネ。
しかし、今回の場合。間違いなく渚の突っ込みの方が正しいだろう。
何せ、目の前にいるレオーネの格好はあまりにもラフすぎる。というか、薄着どころの話ではなかった。
上半身はタンクトップ、下半身にいたってはショーツのみという有り様。これでドアを開けたのが渚以外の人間、それも男性だったら大問題に発展していたのは想像に難くなかった。
あまりにも無防備過ぎる、といえる格好をしていたレオーネを見たことから、渚は慌ててドアを閉め鍵をかけたのだ。
もっとも、当のレオーネは渚のそんな慌てふためいた行動を不思議そうな目で見つめていた。
この場にいるのはレオーネと渚。同性の二人のみ。さらに言えば――。
「……どうしたのさ、なぎさちゃん?」
「どうしたって……。いくらなんでも無防備過ぎですよ! いくら部屋の中と言っても、ここは家じゃないんですよ?! そんなところで、そんな格好――」
時は幾らか経ち、レオーネは千草の私室で彼女に愚痴るように渚とのやり取り、その後終始した説教について話していた。
それを聞いて千草は声こそ出さないものの、必死に笑いをこらえていた。
その姿を見て不満そうに頬を膨らませるレオーネ。しかし、彼女の反応がトドメとなったのか、ついに千草は限界を迎え、大笑いする。
「あっはははははははは――――」
「ちょっと、千草さん。笑い事じゃないんだけど……」
大笑いする千草をじと目で睨むレオーネ。
そんな彼女に、千草は笑いすぎて出てきた涙をぬぐいながら謝罪する。
「はは…………はぁ。ごめんなさい、ちょっと我慢が無理だったの」
「もう……」
「でも、今回のことはなぎささんが正しいと思うの。レオーネちゃん、貴女も女の子なんだから、もう少し自分を大切にするべきだわ」
ようやく落ち着いた千草は、小さい子を軽く叱るように、めっ、と額を小突く。
小突かれたレオーネは、あう。と言って額を手で覆う。しかし、それは痛みがあるというわけではなく、あくまで反射的にしてしまったリアクション、というのが正確だった。
そして彼女は不満そうに口を尖らせると――。
「でも、ボクの姿なんて見て誰が喜ぶのさ」
そう言いながらレオーネを自身の身体を見下ろすように下を向く。
そこには、千草はもとより渚と比べたとしても明らかに見劣りする、多少なだらかさはあるものの、擬音としてすとーん、という音が聞こえそうなほどの貧相な体つきが見える。
そして次に彼女は目の前にいる千草は見る。
そこには、比べること自体が烏滸がましいほどの胸囲の戦力差が――。
その後、二度、三度と自身と千草の身体を見比べるレオーネ。
しかし、いくら見比べたところで彼我の戦力差が覆るわけもなく。
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
深い、深いため息をつくレオーネ。
そんな彼女を見て千草は苦笑いする。そして、彼女はフォローを入れるように彼女へ話しかける。
「でも、私はレオーネちゃんのこと可愛らしいと思ってるわよ? それに、レオーネちゃんの良いところ、ちゃんと見てくれる人だっていると思うわ」
だから大丈夫、と安心させるように告げる千草。その言葉を聞いたレオーネはちゃんと見てくれる人、と呟く。
そんな彼女の脳裏には一人の
その様子に、千草は物珍しいものを見たかのように、あら、と呟く。
そして彼女は好奇心が刺激されたようににやり、笑ってレオーネに話しかける。
「もしかして、レオーネちゃん」
「……なに?」
「今、恋してる?」
「……へ?」
レオーネが想像していなかった千草の一言。それを聞いて、レオーネは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしている。
しかし、千草からするとレオーネが恋煩いをしているであろうことは一目瞭然だった。
なぜなら、先ほど自身の身体を見てがっかりしている時、そして千草が言ったちゃんと見てくれる人。その言葉を反芻するレオーネが浮かべていた物憂げな表情。
それら全てが今のレオーネに大切な人、それも異性がいることを示していたのだから。
「…………――! あ、わわ。ボ、ボクはそんな……!」
そして後れ馳せながら千草の言葉を理解できたレオーネは瞬間沸騰したかのように、顔を真っ赤にして否定しようとする。しかし――。
「あ、あぅぅぅ……」
否定しようにも彼女の脳裏にちらつく男性、彼女がご主人さま、と慕う盛周の姿が浮かんで答えに窮する。
それを見て、千草は面白そうな、ホッとしたような複雑な表情を浮かべる。
彼女にとって、レオーネもまた渚や霞とはベクトルは別としても妹のように、娘のように見ている節はあった。
しかし、当のレオーネはどうにも浮いた話の一つも聞こえてこない、本当にビジネスライクな関係でしかなかったことに一抹の不安があった。
そんな彼女が今は年頃の女の子と同じく、普通に笑ったり、恋に悩んだりしている。それが千草には嬉しかった。
彼女も、レオーネもヒロインである前に一人の女の子。
ならば、戦いだけでなく、遊びに、恋に青春を謳歌しても罰は当たらない。むしろ、もっと欲張るべきだと思っている。
それがレオーネの幸せに通じていく、と千草は信じているから。
でも今は――。
「あうあうあう……」
少し趣味は悪いが、珍しくレオーネが慌てふためく姿を目に刻もうと思うのだった。