バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~ 作:想いの力のその先へ
今話を間違えてがっこう転生の方へ予約投稿してしまっていました。申し訳ありません。
改めて更新致しますので、楽しんでいただけると幸いです。
バルドル基地内の自室に引きこもった渚は一人考え込んでいた。
なぜ、こんなことになってしまったのか。どうすれば良かったのか……。
渚にとってバベルと戦う、という行為は盛周を、想い人を守るための行動だった。しかし――。
体育座りをしていた渚は、己の膝に顔を埋める。
「……でも、それで。チカくんを不幸にしてれば世話ないよね……」
悔しさで、愚かしさで歯を食いしばる渚。
知らなかった、と言えばそれまでだ。しかし、それでも……。
渚にとって盛周の両親は小さい頃から良くしてもらった恩人だ。
それが、たとえ渚の超能力を解析するためだったとしても、彼らの優しさに救われたのは確かだ。
……だが、渚はそんな恩人たちに恩を仇で、それも命を奪う。という形で返してしまった。
これほど恩知らずなことはないだろう。
しかも、一番最初に自身を助けてくれて、惚れた男の子を不幸にしてしまった……。
それが何より許せなかった。
しかも本人は、渚はそれで盛周を守れたんだ。と喜ぶ始末。事情を知る者からすれば完全な道化ではないか。
守るべき人を、守りたい人を手に掛け、それでいて平和は守られたのだ、と。まるで質の悪い三文芝居だ。
「チカくん、ごめん。ごめんね……」
人知れず盛周に謝罪する渚の声は涙に濡れていて……。
そんな渚の耳に、ドアをノックする音が聞こえてきた。
彼女は顔を上げ、流していた涙を袖で乱暴に拭って、外にいるであろう人に声をかける。
「……どうぞ」
「お邪魔しますね、なぎさ」
「かすみ、どうして……」
部屋の中に入ってきたのはヒロインとしての相棒、そして親友の霞であった。
彼女はベッドに座っていた渚の隣へ座ると優しく抱きしめる。
「わぷっ……」
「心配だったから、ではいけませんか?」
霞の優しい言葉、それは本心からであるとともに、彼女の暖かい音色の声を聞いた渚の瞳には再び涙が溢れてくる。
なぎさが涙を流していることに気付いた霞は、己が濡れることも厭わず、渚を胸元へ抱きしめ、安心させるように頭を撫でる。
それは、同年代の親友というよりも、本当に彼女のことを想っている母親のようで……。
「あ、ぅ、ぁぁぁ…………」
渚もまた安心したように、甘えるように霞に抱きつくと滂沱の涙を流す。
そんな彼女をあやす霞。
その二人の画はとても美しいもので、もし第三者がこの場にいれば、うっすらと涙を流していたかもしれない。
そう思わせるほどには美しい光景であった。
しばらく泣き続けた後、ようやく落ち着いてきた渚は霞の胸に埋めていた顔を上げる。
彼女は泣き腫らした目で霞を見つめると照れ臭そうにしていた。
「かすみ、ごめんね」
「いいえ、大丈夫ですよ」
申し訳なさそうな渚に対して、霞は安心させるように笑みを浮かべる。
しかし、直後。霞は悲しそうな顔を浮かべ、渚を強く抱きしめる。
「ごめんなさい、なぎさ」
「……なんで、かすみが謝るの?」
「……私が、あの人たちと戦うことが出来ていたら、なぎさがそこまで悩む必要なんてなかったのに……」
「……かす、み?」
悔しそうに、悲しそうに話す霞に困惑する渚。
そんなことは霞のせいじゃない。あの時、渚が先代大首領を討つことになったのは、あくまで千草や歩夢、そして渚が決めたことだ。
だから、そのことで霞が悩む必要なんてないのに――。
「ごめんなさい、私は知ってたの。あの方々が池田さんの、盛周さまのご両親であることを」
「……え?」
……それは、渚が考えないようにしていたことだった。
もともと霞はバベル所属で、後にこちら側に寝返った人物だ。
それゆえ、彼女が大首領や副首領の正体を知っているのは当然。そして、その家族関係を知っていても不思議ではない。
さらに言えば、かつて敵本拠地への奇襲作戦を立案時、彼女は自身が大首領と副首領を討つことを強硬に主張していた。
そのことについて彼女が裏切らない、ということを理解していた渚はともかく、千草や歩夢といった組織を運営する側の人間は、たとえ少しでも可能性があるのなら、警戒しなければいけないということもあり、彼女の主張を退け、渚に討つことを要請した。
そのこと自体は渚も間違っていたとは思わない。しかし、それがもし……。
もし、霞がすべてを知った上で提案していたとするのなら……。
「ううん、それでも。それでも、かすみのせいじゃないよ」
「……なぎさ」
「わたしが、わたしが選んだ道だもの」
そうだ、知らなかったとはいえ、選んだのは渚自身。それを、いまさら霞の、千草たちのせいだ。などという言い訳は見苦しいだけだ。それに――。
「……それに、きっと」
「きっと……?」
「きっと、あの時。もしも、霞があの人たちを倒して、今みたいに後々すべてを知ったら。きっとわたしはかすみを恨んでたと思う」
それは渚の偽りざる本心。
その時知ったとして、自分の手で殺さなかったことに対する安堵と、これみよがしに霞を弾劾していたであろう浅ましい自分を簡単に想像できたから。
だから、これで良かったのだと思う渚。誰かのせいにして、自分は悪くない。悪くないんだ、と駄々を捏ねる自分を見た時、その姿を大好きな人に、盛周に誇れるのか。胸を張れるのか。
そんな訳ない、誇れる訳がない。その時の自分の顔は、きっと――。
「……だから、これで良かったんだよ。きっと……」
「なぎさ……」
今にも泣き出しそうなほど、くしゃくしゃに顔を歪めた渚を見て、霞はそんな訳ない、と思う。
彼女は心優しいから、誰よりも傷付きやすい。それで、人一倍頑固だから、自分の中にすべて背負い込んでしまう。
だからこそ、だからこそ私があの人たちと戦うべきだった。そう、思う霞。
それは、互いが互いを想うがゆえのすれ違い。
渚は霞のことを、そして盛周への贖罪を想うがゆえに。霞は渚のことを、何より大切な親友を想うがゆえに。
それでも、いや、だからこそ渚は決意する。
「……もう、大丈夫だよ」
霞の胸をとん、と押して渚は彼女から離れる。
「なぎさ――」
何が大丈夫なの? 霞がそう問いかけようとする前に、渚は悲壮感を漂わせた決意を見せる。
「すべて、わたしが行ったことだもん。だから、今のわたしに出来ることを――」
たとえ、地獄に落ちることになっても人々のために戦う。それがあの人たちを、盛周を不幸にした自分が出来る贖罪。
悲壮な決意を固める渚を見て、霞の表情は悲しみに染まる。
なぜ、この娘がここまで追い詰められなければならないのか。
ただ、大切な、愛しい人を守るために戦っていただけなのに。
渚がそんな決意を抱くのなら、私は彼女の助けになろう。それが今の私が出来ることだと思うから。
悲壮な決意を固める渚を見て、霞もまた決意する。
それが今、自身の出来ることと信じて……。