バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~   作:想いの力のその先へ

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パンドラの箱

 奈緒の治療を受けて数日後、秋葉は地獄のような痒みからようやく解放され、バルドル基地にて宛がわれている私室で寛いでいた。

 

「……ん、んぅ~~。はぁ……」

 

 備え付けのベッドに横になりつつ背伸びして身体をほぐす秋葉。

 そこには、つい先日まで身体を動かすたびに痛みを感じて億劫になっていたのが嘘のようであった。

 

「あぁ~~、極楽ぅ……」

 

 寝返りを打ってうつ伏せになり、枕を抱き締める秋葉。ふにゃふにゃに緩んだ表情を見せる彼女だったが、ふと悩ましげな顔になるとため息をつく。

 

「はぁ……。はるなのやつ、いったいどこにいるんだよ……」

 

 秋葉の脳裏によぎるのは親友、西野春菜の安否。本当にどこへ行ったのか、無事でいるのか。そんな心配だけが頭の中をかけめぐる。

 そんな秋葉は、横になったままベッド脇に備え付けられている収納スペース。その上に置かれているUSBを見る。入院時、奈緒に貰ったものだ。

 結局彼女は、それをいまだバルドルに提出することが出来ないでいた。

 

「……訳、分からねぇよ」

 

 霞と、なにより奈緒自身から聞いた彼女の正体。秘密結社バベル大幹部という立場。一つ間違えば背信行為、と思われてもおかしくない行動を嬉々として行った奈緒の思惑。

 少なくとも、秋葉の認識ではバベルとバルドル。二つの組織は不倶戴天の敵だった筈なのだ。

 そんな組織の大幹部から貰ったUSBなど、罠にしても分かりやすい。

 しかし、秋葉としてはどんな些細な情報でもほしい、というのが本音。

 その情報が入っているかもしれないUSBを捨てる気になれなかった。

 

「やっぱり、水瀬さんに見せるしかないかぁ……」

 

 結局のところ、結論など既に出ていたのだ。ただ、秋葉の踏ん切りがつかなかっただけで。

 秋葉はまだバルドルの組織的立ち位置、というものを詳しく理解していない。一応、説明は受けたがそれでも難解だった、というのが正確か。

 なにせ、秋葉はまだ中学生。そんな女の子に組織のあれこれや利害関係など説明されても理解できる訳なかった。

 それ以上に、歩夢たちも秋葉の夢を壊さないように、意図的に薄汚れた部分の説明を省いた、というのも多分に影響していた。

 それでも秋葉は、USBによってバルドルに何らかの不利益が生じた場合、問題が大きくなる、ということだけは理解出来ていた。

 だからこそ、踏ん切りがつかなかったのだが……。

 

「だからこそ、一歩踏み出す必要がある、かぁ……」

 

 USBの中身が判明していない以上、それがバルドルにとって有益か不利益か、そんなことは分からない。

 ただただ罠の可能性もあるし、もしかしたらパンドラの箱。その中にあった最後の希望、という可能性もある。

 

「……女は度胸、だもんな」

 

 秋葉は気怠そうに起き上がると、寝間着から私服に着替える。そして、USBをむんず、と掴むと――。

 

「……よし、行くか!」

 

 勢い良く部屋を飛び出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、なるほど。そんなことがあったのね」

 

 それからしばらくして、秋葉は歩夢のもとへたどり着くと、一連のことを説明しつつUSBを渡していた。

 そのUSBをしげしげと眺めつつ気のない返事をする歩夢。しかし、内心ではもう少し早くそういう報告はほしかった、と思っていた。

 まぁ、それを社会に出ていない中学生に、しかも善意の協力者である秋葉に求めるのは筋違いである、ということも理解していたが。

 

「それで? このUSBを調べれば良いのかしら?」

「はい、お願いできますか?」

 

 秋葉の不安そうな顔を見た歩夢は安心させるように微笑む。そして、秋葉の額を軽く小突くと。

 

「ほら、そんな不安な顔しない。私に任せて、ちゃんと調べてみせるから。じゃあ、これはちょっと預かるわね?」

「は、はいっ! お願いします!」

 

 秋葉はホッとした様子でアタマを深々とさげている。そんな彼女に歩夢は退室を促すと――。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……。やってみますか!」

 

 己に気合いを入れ、USBの中身を精査するのだった。

 

 

 

 

 

 

「……と、気合いを入れたのは良かったものの――」

 

 USBの精査を始めた歩夢。しかし、彼女のやる気はある意味空回りすることとなった。

 

「特に、罠なんかも仕掛けてなくて中身もまた有用ではあるけど……」

 

 歩夢の言うとおり、USBに特に仕掛けはなく、中身については――。

 

「魔物や魔人のエネルギー。それの波長パターン。確かに有用だし、どうやって手に入れたか知りたいけど……」

 

 いまだバルドルでは完成していない新たなる敵たちの解析データ。これを基地のレーダーに連動させれば、即座に魔物たちが現れた位置を特定し、現場に派遣することが出来るだろう。

 それは即ち、秋葉にとって間違いなく贈り物に違いなかった。

 なにせ、魔物や魔人。それらの存在を追っていけばいずれ親友、西野春菜のもとへたどり着ける可能性が高い。

 間違いなく、秋葉にとって最後の希望であった。

 

 どちらにせよ、取り敢えずUSBが有用なものであると分かったことを秋葉に報告すべく通信しようとした歩夢。

 しかし、その前にデータ内部にまだ閲覧していない部分があったことに気付く。

 

「……これは?」

 

 そのまま、何の気なしにデータを開いた歩夢。そして彼女は驚きの表情を浮かべ、絶句することになる。

 

『やぁやぁ、初めまして。それとも秋葉くんがいるなら、お久しぶりかな? バベル四天王の一人。まぁ、簡単に言うと大幹部の奈緒さんだよ――』

 

 そこには、奈緒が隠していた音声データがあったのだから。

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