バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~   作:想いの力のその先へ

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裏切り者-アグ

 秋葉にとって片倉から告げられた真実はあまりにも衝撃的だった。

 その証拠に、秋葉はあのあと一体なにがあったのかわからないほど疲弊した状態で部屋へと戻ってきていた。

 

 片倉から告げられた異世界の魔人、そのうちの一体。蔦の魔人の正体が親友であり、行方不明となっていた西野春菜である可能性が高い、という事実。

 その事実に打ちのめされた秋葉は、ぼふん、と力なくベッドの上に倒れ込む。

 

 部屋を出ていったときはあんなに元気だった秋葉の変化をみて、アグは心配そうに駆け寄り声をかける。

 

「秋葉、大丈夫だもん……?」

「アグ――」

 

 声をかけた結果、アグの方を振り向いた秋葉。アグは彼女の瞳をみて息を呑む。

 その瞳は、全てに絶望したかのような昏い光を宿していたから。

 その瞳の光に気圧されていたアグは、自らへ近づく秋葉の腕に気付かなかった。

 

「ぐぇ――! な、にを……」

 

 首を捕まれたアグ。掴んだ秋葉はぎりぎり、と音が鳴りそうなほど力を込め、首を絞める。

 

「……おまえ、知ってたな?」

「な、ん――」

「魔人と魔法少女。なんでおまえは――!」

 

 憤怒の表情を浮かべ涙を流す秋葉。

 彼女の放った言葉を聞いたアグは、そういうことか。と納得するとともに、だが、このまま無抵抗に殺されるわけには、と激しく抵抗する。

 アグの必死な様子に、多少頭が冷えた秋葉は首から手を放す。

 

「げほっ、ごほっ――」

「なんで黙ってた、言えよ!」

 

 それでもアグのことを許せないのだろう。彼女は睨み付けるように見つめて詰問する。

 彼女が怒り心頭になるのも無理はない。だって信じていたのだ。アグという相棒を。

 秋葉にとってアグはヒロインに憧れていた自身を魔法少女という名のヒロインにしてくれた恩人であり、春菜という親友を一緒に探してくれていた相棒なのだ。

 

 ――それなのに実際はどうだ?

 

 アグたち妖精は魔法少女という力を与えてくれていたが、それが実際には魔人を生み出すための一連の作業のひとつにすぎないとしたら?

 まさしく、秋葉にとってこれは裏切りに等しかった。

 ヒロインだと思っていたものが怪人の卵だった。

 親友を一緒に探していた筈なのに、実際のところはその親友を誘拐した一味の所属だった。

 秋葉にとってこれほど腹立たしいことなどないだろう。

 

 自分は何のため、この力を手にしたのか。何のため、この力を振るえば良いのか?

 

「答えろよ、アグ! ……答えて、くれよ」

 

 涙を流しながら詰め寄る秋葉。それはどこか懇願するようで――。

 

 

 

 

 

 

 追い詰められた様子の秋葉をみて、アグはやはりこうなってしまった。と思い悔やむ。

 確かに彼は秋葉が言うように魔人と魔法少女の関係性を知っていた。

 それに、彼女が探していた西野春菜についても最低限の情報は持っていたのだ。しかし――。

 

 ――言える、わけないもん……。

 

 本当のことを告げれは秋葉がショックを受ける。その程度のことがわからないほどアグは間抜けではなかった。

 それに、アグもそのことについて思うところがあったのだ。なにせ、アグは――。

 

 ――オイラは……。

 

 秋葉に気取られないように歯を食いしばる。そもそも、彼が所属する妖精の国にとって魔人や魔物は()()()()()

 それは、簡単に排除できる相手。という意味ではなく、もっと単純な――。

 

 

 ――妖精の国が運用する()()という意味であった。

 

 そう、魔物とは本来、直接武力を持たない妖精たちの暴力装置として産み出された存在であり、魔人はそれをさらに発展させた技術のひとつ。

 即ち、妖精たちがこの世界に進出した真の理由は戦力の確保。素質のある存在を魔人化させるため、材料を確保するためであった。

 それが妖精の国では常識。当たり前のことであった。

 

 しかし、アグにはそれが――。

 

 

 

 ぎり、という音が、歯軋りが聞こえる。

 

 アグにはそれが許せなかった。あるいは彼が妖精の国の常識に染まりきっていればそんなことにはならなかっただろう。しかし、彼は好奇心旺盛であり、常識に染まりきる前に人の営みを、家族との有り様を知ってしまった。

 そしてそれは妖精たちと差程変わらないもので……。

 

 それなのに自分たち、妖精は平気で人々の営みを踏みにじっていた。そんなもの、彼にとって許せるものではなかった。

 しかし、彼の独力で出きることはたかが知れている。ならばどうするべきか?

 

 そうして彼が至った考え。それは毒を以て毒を制する。

 即ち、魔法少女の力を使い、彼らを止める。……あるいは、妖精の国自体を滅ぼす、というもの。

 つまり、アグという妖精は他の妖精たちからすれば裏切り者であった。

 もちろん、今はまだ気付かれていない。気付かれてしまえば、今までの苦労が水泡に帰してしまうから。

 だからこそ、アグは屈辱に感じながらも獅子心中の虫として動いているのだから。

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