バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~ 作:想いの力のその先へ
バルドル秘密基地の一室、渚に与えられた個室にて、彼女は制服姿のまま備え付けられたベッドにごろん、と転がり深々とため息をつく。
もしも、ここに霞がいたら彼女のことをはしたない、と叱っていただろう。
なにせ、上はカッターシャツこそ乱れていないもののブレザーが肌蹴る形になっていて、下にいたってはかろうじて――角度を変えれば下着が見えそうなほどスカートがめくり上がっていたのだから。
だが、部屋に一人でいる渚からすればそんなことは関係なく、一人悶々と燻っていた。
「……はぁ、この頃チカくんに会えないなぁ……」
彼女が不満に思っていたのは、最近学校を欠席ぎみな盛周のこと。
一応、学校には家庭の都合で休学する。という連絡が入っているらしい、が……。
「ぜったい、バベルのことだよねぇ。それ……」
もはや、渚や霞。彼に近しいヒロインの間でそのことは公然の秘密となっており、渚にしても、霞にしてもどうしたものか。と、頭を悩ませる問題になっていた。
なぜなら、彼のひととなりは渚や霞はよく知っており、少なくとも彼が世界征服を企む人物ではないことを理解している。
むろん、彼が神輿としてまつられ、実際は決定権を持たない。という可能性は否定できないが――。
「まぁ、ありえないよねぇ……」
ごろん、と寝返りを打つ渚。
盛周、アクジローと何度か戦場で相対することになったが、そのときの怪人やブラックオニキスという名前のヒロインらしき女性の態度から、彼が組織内で敬われているのは想像に難くない。
そして、そんな人物に実権がない。というのは考えられないわけで……。
「あぁ、もう――!」
渚はイライラした様子で起き上がる。そのとき、部屋の扉が開いて――。
「なぎさ、入ります――」
「…………あっ」
「――――貴女、ね」
互いを見つめる二人。しかし、なぜか霞はこめかみをぴくぴく、と動かして怒っていた。
これが普段であれば問題なかったのだが、いまは渚の体勢が色々な意味でまずかった。
まず、先ほども言ったように渚の服装が乱れていたこともそうだが、起き上がるときに足を開いていたことから大股開きになっていて、スカートの裾をなおしていなかったことで、下着が顔を覗かせていたこと。
しかも、その股の間には渚の両腕があり、霞の視点からは太ももが死角となり、手、というより指がどうなっているのか窺いしれなかったこと。
そして最後にイライラしていた渚は悩ましげな表情になっていて、腕、というよりも指が
つまり、霞の視点から渚を見ると、彼女は部屋の鍵を閉めることもしないで自分を
そんな不用心者に対して、霞が放つ怒りの感情を読み取った渚は説得を試みる。
「ちょ、ちょっと待ってかすみ! 貴女が想像してるのとは違くて――」
「……ほう、ナニが違う、と?」
霞の底冷えする声に身震いする渚。それがまた一連の行動の一つに見えた霞は部屋の中へ入り、閉まった扉の鍵をかちり、と閉じる。
「あ、の……。かすみ? 冷静に――」
「冷静、冷静ですか。言われるまでもなく私は冷静ですが?」
霞から放たれる絶対零度の蔑まれた視線。それを浴びた渚はかたかた、と震える。
「ちょっ、おち、落ち着いて……。はなし――」
霞にストップ、とでも言いたげに腕を伸ばすが、聞き入れられる筈もなく――。
――――みぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
部屋のなかに渚の悲鳴が響き渡ることになる。唯一彼女にとってよかった、と言える点があったとするならば、部屋が防音加工されていたことで外へ悲鳴が漏れることはなく、恥の上塗りをすることがなかったことであった。
二人のコメディじみたやり取りのしばらくあと、ようやく落ち着いた霞は心底呆れた、とばかりにため息をついていた。
「なぎさ、貴女。紛らわしすぎますよ」
「紛らわしいって……。かすみが勝手に勘違いしただけじゃない」
霞の突っ込みに不満たらたらの様子で反論する渚。しかし、その反論が気に入らなかったようで――。
「ふむ、なにか言いましたか……?」
「な、なにも言ってないですぅぅぅ――」
渚の頭を鷲掴みにし、ぐわんぐわんと揺らしながら問いかける霞。
渚も渚で、これ以上されるのは堪ったものじゃない、と即座に降参する。
渚の全面降伏を見た霞は頭から手を離す。もっとも、解放された渚はぐるぐる、と目を回していたが……。
そして彼女は目を覚ますようにブンブンと顔を横に振ると――。
「それで、急にどうしたの、かすみ? 何かあった?」
急に部屋を訪ねてきた彼女へ用を聞く。
「いえ、あぁ、そうですね……。なぎさは盛周さ――じゃなかった、池田さんについてどう思われますか?」
「チカくんのこと?」
霞が盛周のことをさま付けで呼びそうになっていたことからバベル関連のことだと思った渚は自身の考えを述べる。
「そう、だね……。チカくんのことだから心配はいらないと思うんだけど……」
なにせ、渚にとって盛周はヒーローなのだ。彼がいなければ超能力に向き合うことも、レッドルビーとして活動することもなかった筈だ。
――彼がいたからこそ、超能力を制御することができた。
――彼がいるからこそ、この世界を守ろうと思えた。
それが偽らざる本音。彼女の
そして、正しいことを正しく行える彼だからこそバベル大首領だとしても信頼できる。
彼ならきっと大丈夫、だと。
そんなことを思い、盛周を想う渚の顔はまさしく恋する乙女であった。