バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~ 作:想いの力のその先へ
バベルアジト内、反対側から歩いてくる構成員が道を譲り、頭を下げたり、敬礼するのを横目に見ながら俺、池田盛周はひとり、黙々と歩いていた。
そんな中、突如として悲鳴に近い絶叫が耳へ届く。
「なんだよ、それぇぇぇぇ――――!」
その声に驚き、俺は立ち止まった。
「なんの叫びだ?」
なにか問題でも起きたのだろうか?
それに先ほどの叫び声の主に覚えがなかった。大首領として、配下の管理、把握はきちんとしていた筈だが……。
なにか問題が起きたのかもしれない。俺は足早に歩き、声が聞こえた場所。おそらく食堂を目指した。
ほどなくして食堂に着いた俺が目にしたのは見覚えのない、そしてある意味見覚えの
……が、俺はその姿を確認した瞬間に、さっ、と目をそらす。
彼女はいま、テーブルに手を叩き付けていることから少し身体が前のめりになっている。そして、彼女は制服。ミニスカートを穿いてるから、前のめりになった影響で彼女の健康的な太ももと、その奥。普段スカートの中に隠れているデルタゾーンが
……本当にかろうじて見えてないだけだが、もう少し前屈みになれば、そのまま見えてしまいそうだ。が、なんというか、間が悪かった。
「あっ、大首領さーん!」
ちょうど秋葉ちゃんの影に隠れていたんだろう。我々、というか博士が助けた魔法少女。ヴィレッジロックこと、石原里桜ちゃんがこちらへ声をかけてきた。
顔を上げて彼女を見ると、満面の笑みを浮かべ、ぶんぶん、と手を振っている。
そんな彼女にほっこりしていたのもつかの間、里桜ちゃんにつられ、こちらを見てくる。まだ、レオーネと博士は問題ない。
問題は秋葉ちゃんだ。彼女は首だけ振り向くような形でこちらを見てきていた。そして、視線の先には男である俺の姿。そこでようやく彼女は自身の姿を自覚する。……ようは、男にお尻を突き出して、なおかつショーツが見えそうになっている際どい姿を、だ。
彼女のつり目がまんまるに開いて、口がわなわな、と震えている。頬、どころか、首から上がだんだん赤く染まっていく。
「――み」
あ、これ。ダメなやつだ。瞬間的に判断した俺は耳を塞ぐ。博士は苦笑し、レオーネと里桜ちゃんは首をかしげている。
「みぎゃああぁぁあぁあああ――!!」
秋葉ちゃんの渾身の悲鳴がびりびり、と辺り一面へ、つまり食堂中に響き渡った。
騒音、というと失礼だが秋葉ちゃんの悲鳴が食堂周辺に響いた少しあと、さすがに落ち着いたようで周囲は平穏を取り戻していた。
……もっとも、秋葉ちゃん自身はまだ恥ずかしいようで座った席で小さく縮こまり、テーブルに視線を落とすよううつむいている。なにより、彼女の首筋から上が、いまだ少し朱に染まっていることからも、彼女がどう思っているかなど、想像に難くない。
そんな彼女をニマニマと見つめているレオーネ。聞いたところによると、彼女が秋葉ちゃんをここへ連れてきたようだが……。
同じ魔法少女仲間である里桜ちゃんの無事を伝えたかった、という気持ちは分かる。だがなぁ……。
「レオーネ、お前はなにをやってるんだ」
俺はそう突っ込むとともにレオーネへ、デコピン一閃。ぺちん、という音とともにレオーネは、あぅ、と呻いて仰け反る。
「いきなりなにするのさ、ご主人さま」
「お前こそなにをやってるんだ。仮にもバルドルのヒロイン、魔法少女を案内するなんて」
俺たちの会話を聞いていた秋葉ちゃんがぎょっとして顔を上げている。しかし、アジト云々より、レオーネが俺をご主人さま呼ばわりしたことに驚いているようだ。
「えっと……。バベルでは司令官のこと、ご主人さまって呼んでたり――?」
まさかまさかの斜め上の疑問が聞こえてきたことで、博士。奈緒がぶふぉっ、と噴き出す。そしてそのまま我慢せず、ゲラゲラと笑っていた。
「あっはははは、それは良い。今度から、そう義務付けてみるかい? ご主人さま?」
からかってくる博士に、俺は無言で手刀を振り下ろす。どごん、と鈍い音が響き、彼女の上半身はテーブルの上に沈み、ぴくぴく、と痙攣している。
まさか自身の一言からこんな惨状になると思っていなかった秋葉ちゃんと、ついでにまだバベルに入って間もない里桜ちゃんはあたふたしている。
だが、心配する必要などこれっぽっちもない。なんといっても、博士がぴくぴくしているのは単純に――。
「あぁ、ふたりとも。心配するな、といっても無理だろうけど心配しなくて良い。ただ単に博士は悦んでるだけだ」
「は……?」
「えぅ……?」
俺の指摘に訳が分からない、とばかりに不思議な声を出すふたり。対するレオーネは、うんうん、とばかりに頷いている。
「まっ、奈緒
「……レオーネくん。少しは奈緒さんの心配をしても良いんじゃないかなぁ……?」
そう言って顔を上げる博士。しかし、なぁ……。
「博士。そういうのは、もうちょっと取り繕って言うべきだと思うぞ。説得力がまるでない」
上げた顔が恍惚とした、艶やかな表情となっている。その状態で言ったところで、どの口が、という感想しか抱けんぞ。
……あぁ、案の定秋葉ちゃんは元より、里桜ちゃんも彼女ほどあからさまではないけど引いちまってる。まぁ、引くな。というのがどだい無理な話だが。
それよりも、どうしたものか……。
いや、里桜ちゃんが思いっきり口に出した時点で誤魔化すのは不可能か。さて、どこまで話すかな。
よし、決めた。
「さて、東雲秋葉ちゃん」
「えっ、あ、はい……」
突然話しかけられた彼女は警戒するようにこちらを見る。知らない男から、しかもちゃん付けで呼ばれたらそうなるのもやむ無しだな。
「薄々感づいていると思うが、俺がバベル二代目大首領。アクジローこと、池田盛周だ」
俺の自己紹介に目が鋭くなる。然もありなん、自ら敵対組織のトップだと語ったんだ。そうなるのが普通というもんだ。だが、続けての情報を聞いたらどうかな?
「そして、レッドルビー。真波渚の幼馴染みでもある。あいつはバルドルでも元気にやってるかな?」
無論、元気にやってることは知っている。ただ単にこの話題は揺さぶりみたいなもんだ。
そして、どうやら効果はあったみたいだな。話を聞いた秋葉ちゃんはポカン、としている。
もっとも、しばらくすると情報を咀嚼できたようで――。
「え、えぇぇぇえぇぇえぇ…………!」
先ほどと同じように絶叫を上げていた。
……どうでも良いが、結構騒がしい娘だな、この娘は。
驚きで目を白黒させていた秋葉ちゃんが落ち着くのを待って、しばらく後。ようやく話ができるまで落ち着いた彼女へ改めて話しかける。
「いつぞやは迷惑をかけて申し訳ない」
「……迷惑?」
「以前の怪人襲撃、エレキクラーゲンのことだよ」
「えっ……? あ、あぁ……」
俺があの馬鹿者の名を告げたことで思い出したのだろう、秋葉ちゃんが渋い顔になる。戦い方もそうだし、偶然、というより運悪くストッパー役のガスパイダー、サモバットがアナザーレッドルビー。未来の渚、と思われる人物に足止め、撃破されてしまったのが原因のひとつとはいえ、彼女に大怪我を負わせてしまったからな。
まぁ、それも彼女からしたら言い訳にしかならないが。
それはそれとしてケジメはつけるべきだから、な。
「その詫び、と言ってはなんだが君が聞きたいことがあるなら答えよう。……もっとも、すべてに答えられるかは分からないが」
「……えっ?」
「ちょっと、大首領?」
俺の言葉に秋葉ちゃんはびっくりした顔、対して博士は責めるような表情になった。特に博士は治療とバルドルへ情報を流したことでチャラだと考えてる筈だから、なおさらだな。
それでも、まぁ。これも必要なことだ。
「……じゃあ、バベルの目的ってなんなんだよ?」
ふむ、予想通り食いついたな。これなら答えられる。
「その答え、答える前にひとつ伝えておこう。信じるか、信じないかはキミ、そしてバルドル次第だ」
「どういう意味だよ?」
「そのままの意味だとも」
俺の答えがおちゃらけてる、とでも取ったのだろう。秋葉ちゃんの視線が鋭くなる。別にからかっている訳じゃないんだがな。
「さて、バベルの目的だったな。……ときに秋葉ちゃん、キミはこう言われて信じるかな? ――地球は狙われている、と」
「……アンタらバベルにか?」
「まぁ、そういう返しが来るとは思ってたけどね。違う、そうじゃないよ。キミも知ってる筈だ、関係者なんだから」
自身が関係者だと言われ、訝しんでいた秋葉ちゃん。だが、すぐに気付いたんだろう。あっ、と声を上げた。
「魔物に、魔人。アグが言ってたイマジンのこと?」
「そう、異世界からの侵略者。いや、今回の場合拉致、略奪者とでも言うべきかな? むろん、敵は妖精だけじゃない。他の秘密結社などもいるし、また別の組織も現れるだろう」
異星の侵略者、なんて言ってもまだ信じられないだろうしな。それはおいおいだ。
「我らはそれらに対抗するため力を求めた。単純な暴力だけじゃなく、財力や権力。あらゆる力を求めて、な」
財力はシナル・コーポレーション、権力は現政府との繋がり、と言えば分かりやすいだろう。それに科学力で言えば博士となる。
つまり、バベル四天王は各々の力と密接な関係にある。朱音さんはシナルという財力。レオーネは現政府とのパイプというある意味権力。楓はブラックオニキス、そして怪人、バトロイドの指揮という暴力。そして博士の科学力。すべてがバベルに必要なものだ。
「すべては侵略者に対抗するため。そして、それを警鐘したのは先代バベル大首領たる俺の親父――」
博士がうんうん、と頷いている。レオーネはどうでも良いようで我関せず。そして魔法少女たちは驚きで目を見開いている。
「嘘、だろ……」
呆然と呟く秋葉ちゃん。残念ながら嘘じゃあない。だけど――。
「言っただろう? 信じるか、信じないかはキミ、そしてバルドル次第だ、と」
その言葉を受け、秋葉ちゃんは呆然とこちらを見つめてくるのだった。