バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~   作:想いの力のその先へ

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第二章 アクジロー
願い


 バベルの、ダンゴバックラーの襲撃を阻止した翌日。渚は家で朝食を食べていた。

 サクサクに焼けたトーストに、とろり、ととろけたチーズが乗り、さらにその上にはベーコンと目玉焼き。

 それを彼女は小さな口ではむ、と咥える。

 

 さく、というトーストを噛む音が聞こえ、口の中にはチーズの少し甘い感触、それとベーコンの油とほどよく塩味の利いた白身の味が広がる。

 その味を楽しみ、自然と笑みを浮かべる渚。

 

「ん~、おいし……」

 

 そのまま二口、三口と楽しもうとする渚だったが、その時。

 

『――それでは次のニュースです』

 

 渚の耳に、テレビから一つのニュースが聞こえてきた。いつもであれば気にしないような出来事。だが、虫の知らせなのか。今日はなぜかそれが気になった。

 

『立塔警察署は、立塔市郊外にある工場において違法薬物の製造の疑いがあるとして、立ち入り調査を行いました』

 

 その報道とともに映された景色を見て、渚は不思議そうな顔をする。

 

「あれ……? ここって、この間、ダンゴバックラーが襲撃しようとしてた場所?」

 

 そう、渚が言った通り。そこは盛周によって襲撃を指示された場所であった。

 そのことに首をかしげる渚。そんな彼女を尻目に報道は続いている。

 

『また、現地ではバベル怪人とレッドルビーたちヒロインの戦闘も確認されており、立塔警察は同組織の関与の線も含め捜査を続けています。次のニュースです――』

 

 そこまで報道を見た渚は、ふと時計を見る。

 

「うぇっ……! もうこんな時間?!」

 

 報道をじっと見つめていたことで、いつの間にか予想よりも時間が過ぎていたようで、まだ遅刻まで余裕はあるが、多少急ぐべき時刻となっていた。

 そのことを確認した渚は、朝食を味わう時間も勿体ない、とばかりにトーストを頬張ると飲み物で流し込む。

 

「んっ、んっ……んむっ!」

 

 もっとも、急いで掻き込んだことで少々喉に詰まったようで、渚は目を白黒させながら胸元を叩く。

 そしてその結果、なんとか食べ物が喉を通ったようで安堵のため息を漏らした。

 

「んぐっ、ぷはぁ……。危なかったぁ……。って、それよりも――」

 

 その後も先ほどのように、それでいて今度は喉に詰まらせないため慎重に残りの朝食を掻き込む渚。

 そして彼女は急いで食べ終わった食器を水に浸け、時間を確認する。

 それで洗っている時間はないことを理解した渚は――。

 

「やばっ、もう時間ないや。――帰ってきてから洗わなきゃ。それじゃ、行ってきます!」

 

 玄関に移動して靴を履きながら、元気良く行ってきます、と口にする。

 だが、その彼女に対して返事はなかった。

 ……その代わりに、玄関に飾られている一つの写真が彼女を見送る。

 

 ……その写真には幼い頃の渚と盛周。そして、二人の両親と思わしき人物たちが写されていた。

 その中でどこか快闊そうな雰囲気を見せる渚に似た女性と、逆に物静かそうな穏和な雰囲気を感じさせる男性。恐らく、渚の両親であろう人たちが見守っていた。

 愛しき愛娘を守るように……。

 

 

 

 

 

 池田盛周にとって、直接口に出すことはないが真波渚は()()()幼馴染みである。

 それは渚が彼の妹分、あるいは彼の前世からの年齢を換算すれば娘的な立場――もっとも渚としては、一人の女性として見てもらいたい――として接していることからも明らかだ。

 それに渚のことを気に掛ける理由はもう一つある。それは――。

 

(おじさんとおばさん。()()()()が亡くなってもうそろそろ三年、か……)

 

 そう、彼女の、渚の両親も盛周の両親と同じく既に鬼籍に入っていた。それも()()()()()()()()に巻き込まれる形で、だ。

 つまり、なんの因果か盛周と渚。二人は望まぬ内に双方の親の仇同士となっていたのだ。……一応、渚の親に関しては当時盛周は関わっていなかったのだが。まぁ、だからといって盛周としては納得できるものでもない。

 それに、渚としても知らず知らずの内に仇討ち自体は終わらせた形になる。……本人が納得するかどうかは別として。

 

 考えても仕方がないこと。そういうことだとは分かっている。だが、それでも考えてしまう。彼にとって割りきれるものではないのだ。

 そんな風に悶々と考えている盛周の耳に、渚の元気な声が聞こえてくる。

 

「チカくん、おはよー!」

 

 笑顔を見せて手を振りながら駆け寄ってきた渚はそのまま盛周の腕にしがみつく。

 そして、そのまま盛周の腕を自身の胸に押し付けるように抱きしめ、頬を紅潮させ上目遣いにはにかむ。

 その彼女の姿は、とても幸せそうで――。

 

「……ふぅ、おはよう。なぎさ」

「うんっ、チカくん! おはよっ!」

 

 そんな彼女を見て盛周は、今はまだ。先延ばしだと分かっているが、それでも今のぬるま湯のような関係が続けばいい、そう思った。

 

 それでもいつかは……。この関係が破綻する、と理解していても。

 己がバベルの大首領で、彼女がレッドルビー。敵対する関係にあるのだから。

 

 あるいは、彼女と敵対しない。という第三の道があるかもしれない。

 限りなく可能性が低い。だが、ゼロではない。そんな未知の可能性を模索するのもありかもしれない。そんな甘い考えを抱きながら。

 この日常が長く続きますように、と祈り盛周は、二人は先へと歩を進める。

 とりあえず、目下は少し先で二人が来るのを待つように立ち止まってこちらに小さく手を振っている霞と合流し、ともに学校へ行くために。

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