バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~   作:想いの力のその先へ

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竜人《ドラゴニュート》という規格外

 突如現れた竜人(ドラゴニュート)に気圧されたふたり。しかし、すぐに己を鼓舞し化物と相対する。

 じゃり、とアスファルトを踏みしめるレオーネ。

 彼女の心には若干の焦燥があった。

 

(まっずいなぁ、もう……。もしかして、あの化物。魔人とかいうオチ、ないよね?)

 

 かつて魔法少女-ヴィレッジロック、石原里桜がそうであったように、魔法少女が妖精たちに貶められた存在、魔人。

 里桜は運良く、本当にギリギリであったが救うことが出来た。しかし、もし、目の前の化物も魔人であったら。レオーネは手加減出来るとも思えないし、救う自信もなかった。

 なにしろ、岩の魔人戦ではヒロインたちが集合してギリギリだった。だが、いまここにはレオーネと渚、レッドルビーしかいない。

 戦うことは出来る。あの時とは違い、レオーネにも物理を遮断するバリアを突破する方法がある。ただ、バリアを突破したところで、あのいかにも硬そうな黒く、鈍い輝きを放つ竜鱗を断てるかは未知数だ。

 

 フィクションだが、スーパーロボットのお約束よろしく間接の隙間を狙う方法もあるだろう。さすがに間接を硬くすると稼働が出来なくなるのだから、他の部分より柔らかいのは自明の理だ。

 ただし、他と比べて、という前提つき。もしかしたら、レオーネたちからすれば普通に硬い。というオチもあり得る。

 

「さてさて、どうしよっか。ルビーちゃん」

「本当に、どうしましょうね?」

 

 レオーネの問いかけに、レッドルビーもまた拳を構えながらじりじり、と間合いを探る。

 あの竜人が一足飛びにこちらへ詰められないように、同時にこちらが有利になる立ち位置へ。

 ルビーには遠距離攻撃用の技、サイコ・バスターがある。なおかつ、強敵用の収束モードなら相手にダメージを与えられる可能性も十分だ。だが、だからといって連射するのは現実的じゃない。

 

(さすがに、このタイミングでサイキックエナジーが尽きたらお仕舞いだよ)

 

 そう、彼女の超能力には総じてサイキックエナジーを使用する。そして、サイキックエナジーは別に無限にあるわけではない。ルビーも人間である以上、限界、というものは存在する。

 そして、サイキックエナジーが尽きたらレッドルビーは対抗する手段がなくなる。そのシナリオだけはなんとしても防がなければならなかった。

 

(さいわい、エナジー自体は体感八割程度残ってる。今すぐ枯渇する、ということはないけど……)

 

 確かにすぐに枯渇する心配はない。しかし、だからといって無駄遣いをしても良い、というわけでもない。いかに効率的にダメージを与え、竜人を撃破するかを考えなければ。

 

「参ったなぁ……」

 

 そんなことを考えているルビーを横目に、レオーネは独り言ちる。レッドルビーもまた及び腰、とまではいかないが慎重になってる状態でどうしたものか、と思案する。

 

「無い物ねだりだけど、ここに秋葉ちゃん。オーラムリーフがいてくれたら、ここまで悩まずにすんだんだけど」

 

 むろん、彼女の攻撃でも鱗を突破できない可能性はある。しかし、攻撃が通らなかったとしても、熱の方はどうか?

 あそこまで黒光りしている鱗だ。さぞ、熱は通しやすいだろう。そのまま熱で焙ってしまえば。

 

「蜥蜴の蒸し焼き、一丁上がり。で、済んだかもだけど、ね……」

 

 そんなもしも、を夢想していても仕方ない。現状、いまある手札で切っていくしかない。ならば、いまは少しでも情報を得るべきだった。

 

「とりあえず、試してみるか――!」

 

 レオーネは忍ばせていた暗器。投げナイフを――投てき! 投げられたナイフは寸分違わず喉、胸、肘、膝へと迫り、がきん、と音を立てて直撃。

 

「あっちゃあ……」

 

 ある意味予想通り、ナイフはすべて弾かれてしまった。しかし……。

 

「あれ……?」

 

 ナイフが弾かれた光景にレオーネは違和感を覚えた。そして、すぐ原因に思い至る。

 ナイフは身体に直撃し、弾かれた。即ち、物理遮断バリアを展開していなかったのだ、あの竜人は。

 

「もしかして、ナメられてる? それとも――」

 

 なぜバリアを展開してなかったのか、可能性を考えるレオーネ。そこに……。

 

 ――はろはろ、レオーネくん。聞こえるかい?

「奈緒姉ぇ……?!」

 

 同じくバベル四天王のひとり。青木奈緒の声が聞こえて叫びそうになり、慌てて片手で口を塞いだレオーネ。

 レッドルビーはレオーネの突然の奇行に驚いているだけで、奈緒の声に気付かなかったようだ。レオーネはその事に安堵した。

 ただ、その心配も杞憂であったことが直後、判明する。他ならぬ奈緒の手によって。

 

 ――やれやれ、慌てなくても奈緒さんの声はきみにしか聞こえないよ。あぁ、疑問があるなら口の中で小さくささやくだけで結構。それでこちらも聞き届けられるからね。

「……それって、どういう」

 ――骨振動って、知ってるかい? つまり、そう言うことだよ。

 

 奈緒の言葉を聞いてなるほど、と納得したレオーネ。同時に、その方法を問い質したとしても。

 

 ――レオーネくんが知っても意味ないだろう? いま、奈緒さんと話が出来る。その事が重要なんだから。

 

 予想通りはぐらかされてしまった。それに、奈緒自身が言っていることも間違いではない。これにより、外部からは通信している、と悟られることはない。

 なにしろ、バルドルにはまだレオーネが四天王だとバレていない。下手に奈緒と通信していることがバレたら、いくらお人好しのバルドルの人間であろうと、レオーネを疑うだろう。それは避けたかった。

 

 ――それより、観測してたけどとんだ化物が現れたようだね?

「あの竜人のこと? 本当に、だよ。しかも手を出しづらい」

 ――そんなレオーネくんに朗報だ。おそらく、手を出しづらいのは、あれが魔人かどうか分からないからだと思うけど。奈緒さんの考えでは、十中八九あれは魔人じゃないよ。

 

 思わず、ひゅ、と空気が漏れるレオーネ。奈緒に心配していることを悟られたのもそうだが、なにより、魔人ではない、と語られたからだ。

 

 ――そもそも、いままで里桜ちゃんのデータしかないから、まだ断定はできないけど。魔人、というのは魔力の波長的に生物として破綻してたんだよ。

「……破綻、していた?」

 ――そうさ。なんと言えば良いかな。抽象的な言い方になるけど、魔力が淀んでいた。それが一番近いね。しかし、里桜ちゃんに戻って魔力の淀みはなくなったし、同じ魔法少女である秋葉くんにも淀みはなかった。

 

 そこまで聞いてレオーネも、魔力の淀みが魔人特有のものであると理解する。そして、奈緒がなにを言いたいのかも。

 

「……つまり、目の前の竜人にも魔力の淀みはない、と?」

 ――そう言うこと。正真正銘の魔物だよ、あれは。

 

 その奈緒の断言にレオーネの心配事が消えた。しかし、次にまた奈緒から情報がもたらされることになった。

 

 ――それとあの竜人、だっけ? あれはどうやら、バリアを特殊な使い方しているようだね。

「えっ? あれ、バリアを張ってるの?」

 

 先ほどナイフが直接、接触したこともあり、バリアを張っていない、と判断していたレオーネ。しかし、奈緒は違うと言う。

 

 ――うん。あれは自身の防御力にとても自信があるみたいだね。その代わり、装甲が硬すぎてそのままでは動けないから、バリアを皮膚下に展開して潤滑油代わりにしているようだ。

「面倒な……」

 

 思わずレオーネが愚痴がこぼれた。それはつまり、竜鱗の下にバリアがある。ということであり、二重の装甲壁に竜人が守られていることも意味していた。

 むろん、皮膚下のバリアに関してはレオーネ、ルビーともに突破する方法はある。しかし、それも竜鱗の守りを突破できれば、という前提のもと。

 まず、そちらを突破できなければ話にならない。それに――。

 

「不味いのは、竜人の後ろに控えている魔物たちも、だよねぇ……」

 

 そう、先ほど。竜人が現れる前の魔物たちも殲滅できたわけではなかった。このまま竜人にかかりきりになると、魔物たちが離散して周囲に被害が拡散する恐れがあるし、竜人と戦闘を開始すると横やりを入れられる可能性もある。

 明らかに戦闘力が高そうな、かつ、未知数な竜人と戦闘中に乱戦に持ち込まれると危険だというのは嫌でも分かる。しかし、かといってひとりが魔物。ひとりが竜人で分散して戦えるのか、というと……。

 

「さすがに厳しいよねぇ……」

 

 思わず苦虫を噛み潰したように顔をしかめるレオーネ。やはり、手数が足りない。どうしても打開策が見つからなかった。

 だが、どうしても悩んでいる暇はない。時間をかけすぎたら、懸念通り魔物たちが離散する可能性がある。

 いっそ、博打にでも出てみようか。そんな考えが鎌首をもたげる。

 疑似PDCをオーバーフローさせ、なおかつレオーネ自身の戦闘力を併せれば魔物の掃討自体は可能だ。しかし、それでは残りの竜人戦では役立たずとなるだろう。

 

 でも、やるしかない。

 そう、悲壮な覚悟を決めるレオーネ。だが、直後。彼女の覚悟は不要なものとなった。

 

「……ん?」

 

 廃工場の奥から、きらり、と光が見えた。

 なんだ、と疑問を抱く。が、次の瞬間。

 ごう、と光の渦が魔物たちを巻き込んでいく。

 

「な、なっ……?」

 

 思わぬ光景に思考が追い付かないレオーネ。光の渦が去った後。そこには、先ほどまでいた筈の魔物たちの姿はなかった。

 なにが……。と、辺りを見渡して状況を把握しようとする。そして、見つけた。光の渦の下手人を。ヒロインたちを援護した人物を。

 

「あれは……!」

 

 外套に身をつつんだ女性。彼女は巨大な砲を抱えている。その砲塔は先ほど魔物たちがいた方を向いている。

 その姿に見覚えがあった。彼女は間違いない。

 

 そこで、小さな声が。ルビーのぽつり、とした声がレオーネの耳へ届いた。

 

「わた、し……?」

 

 そう、あれは。あれはあり得た未来からこの世界へ訪れたレッドルビー。アナザーレッドルビー、その人であった。

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