バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~ 作:想いの力のその先へ
その下にはブルーサファイアを彷彿とさせるパワードスーツが現れた。その姿、そして、傷の付いた自身の成長した顔を見て驚くレッドルビー。
さらには彼女が構えていた砲。それが流体化して棍に変わった。それはまさしく、ブルーサファイアの主兵装。対レッドルビー用流体変形兵装ブルーコメットに間違いなかった。
「嘘、なんで……」
その姿を見てルビーは絶句する。彼女が親友の、大事な人の武器を持っているとは思わなかったからだ。
そんなルビーの驚愕をよそに、アナザールビーは立っていた場所。廃工場の二階、その剥き出しになっていた鉄骨から跳躍し、すたっ、とふたりの横へ並び立つ。
「どうやら無事なようね」
「うん、お陰さまで」
アナザールビーと何事もなかったかのようにレオーネは答えを返す。
だが、正直彼女としてもアナザールビーのことは図りかねていた。なにしろ、風見鶏のようにバベルに協力したと思えば、今度はバルドルの手伝いをする。
それだけでも意味が分からないのに、さらには彼女が岩の魔人戦に乱入したことで結果的に、魔法少女-ヴィレッジロック。石原里桜の救出がギリギリ間に合ったのだから、レオーネとしても複雑な思いを抱くのは当然のことだった。
しかし、それはアナザールビーも同じこと。かつての
その彼女が生きて、この場で、自身のとなりにいる。
それをどれだけ望んでいたか。どれだけ切望したか。
叶わなかった
しかし、歓喜に、夢想した光景に浸るわけにもいかない。まだ、アナザールビーにとって道半ば。こんなところで足を止めるわけにはいかない。
だから、彼女はきゅ、と口を結んで己が感情を飲み込む。そして、レオーネたちへ話しかけた。
「あれが、どういう存在か理解してるな」
「うん、あれは魔物たちのボスみたいなもんでしょ」
「あぁ、あれは魔人じゃない。倒すべき敵だ」
竜人を見据えて吐き捨てたアナザールビー。彼女にとっても、あの存在は強敵だった。
「やつは素で圧倒的な物理防御がある。だから、先手は任せてもらおう。『これ』ならやつの第一の防御を貫ける」
「第一の防御……?」
ブルーコメットを掲げるアナザールビー。
皮膚下にバリアがあることを知らないレッドルビーが不思議そうにする。だが、それを奈緒に知らされたレオーネは納得する。
「それで、内側にあるバリアをボクやルビーちゃんが破れば良いんだね?」
「なるほど、知っていたのか。……いや、流石。あの人、といったところ?」
「もしかして、知ってるの?」
「あの人には、お世話になった。そう、世話になったんだ」
どことなく、優しげに顔が緩むアナザールビー。かつての記憶を思い出すようにやわやわ、と拳を握り、緩めるを繰り返す。
レオーネはアナザールビーと奈緒に何らかの関係があることに驚くとともに納得していた。
かつて、映像越しにアナザールビーを見た奈緒は、彼女が装着しているPDCに自身の作品にする刻印が刻まれていたことを指摘していた。
「まぁ、良いや。……任せて良いんだね?」
「あぁ、任せてもらおう」
ふたりの短いやり取り。そして、レオーネは次にレッドルビーに話しかける。
「それじゃ行くよ、ルビーちゃん」
「えっ、でも……」
「問題ない、ボクたちはボクたちに出来ることを、だよ」
そう言って、レオーネはぎゅ、とレッドルビーの首根っこを引っ張って後ろへ下がる。急に首を絞められたレッドルビーはぐぇ、とくぐもった悲鳴を上げた。
ふたりのやり取りを見て、かつては自身も同じような扱いを受けてたなぁ、と懐かしい気持ちになった。それは彼女がくすり、と小さく笑ったことでも見てとれた。
だが、懐かしがってもいられない。アナザールビーは目線を鋭く、気を引き締める。そして、ぶんぶん、とブルーコメットを振り回して身体をほぐす。
――ガコン。
「イグニション――」
彼女の言葉と同時にPDCが起動し、粒子が、サイキックエナジーが腕と足からごう、と嵐のように放出された。
PDCは本来、レッドルビーの超能力ありきの機構だ。それゆえ、その出力はレッドルビー。真波渚の資質に左右される。それでも一線で戦えたのは、真波渚の資質が素晴らしい、凄まじいものだった。
それでもかつての世界で彼女たちは敗北した。レオーネが敗死し、ブルーサファイア、オーラムリーフ。そして、この世界ではいまだ現れていない仲間たちもまた、後を追うことになった。
最後の戦士となったレッドルビー。彼女の能力を向上させるのは必然であり、急務だった。
そのために使われたのが疑似PDC。超能力を持たない人物に劣化版とはいえ、ルビーの能力を与える機構。それを敢えてルビーに使用することで彼女の出力向上、ならびに安定させるために運用された。
それこそがブルーサファイアに似たパワードスーツであり、ブルーコメット。これは親友の形見であるとともに彼女を新たなステージへと旅立たせる翼。
その翼はいま、搭載され、稼働した融合炉が、ごうごうと廻り、無尽蔵のエネルギーを全身に運ぶ。そして、それは多少のロスがありながらもサイキックエナジーに変換され、薄緑の燐光とともに彼女の力を爆発的に高めている。
「……いくよ、霞」
それは追想。それは悔恨。もはや取り戻せない
それはどことなく、フツヌシ。
「過ちは、繰り返さない……!」
アナザールビーはブルーコメットを、ヒナワを構える。そして、砲口に薄緑の燐光。サイキックエナジーが集まっていく。
竜人はそれが自身を穿ち得る牙だと、直感的に確信した。ゆえに、撃たれるまえに屠らなければならない。
その焦燥とともにバサッ、と翼を拡げ、羽ばたき、周囲に落ちている廃材を吹き飛ばしながらアナザールビーへと突撃する。
「ギシャアァ!」
「……遅い!」
咆哮を上げた竜人。しかし、既に整っていたアナザールビーは引鉄を引く。暴力的なまでの輝きを放つ燐光が、光の帯が照射される。
阻止するのが間に合わないと悟った竜人は、胴体を守るように腕をクロスさせ防御体勢になった。
直後、光が竜人へ直撃!
「ギ、ギィ……!」
防御は成功させた。しかし、羽ばたいた。空中にいたことが仇となった。まるで質量を持つ光に押されるよう、竜人はじりじり、と後退させられる。
なんとか堪えようと羽ばたく竜人。しかし――。
「ギッ――」
光の威力に負けた竜人は吹き飛ばさせるように後退。背後にある廃工場の壁を破壊し、残骸を撒き散らしながら内部へ押し込まれいった。
――好機。
そう感じ取ったレオーネはレッドルビーとともに竜人が、アナザールビーの砲撃によって開けられた穴から内部へ侵入する。
内部は廃工場らしく、埃まみれで、あちらこちらに一斗缶。ドラム缶が散乱していた。
そして、竜人は奥まで押しやられたのであろう。工場内の柱を1本へし折り、さらに奥まで。いくつかのドラム缶に埋もれる形で止まっていた。
へし折れた柱。鉄骨からぎぃ、ぎぃ、と音が響く。
竜人はがらがら、とドラム缶を押し退けて立ち上がった。その姿はいかにも痛々しいものだった。
両腕から竜鱗が剥がれ、バリアで守られているものの、その奥の皮膚は焼き爛れている。
その痛々しい竜人の姿を見て、レオーネはにやり、と笑う。あの状態なら、間違いなく攻撃が通る。
「ルビーちゃん!」
「はいっ!」
ふたりはだんっ、と埃だらけの床を踏みしめ加速。踏み込みの力強さにぶわっ、と後ろへ埃が舞う。
狙うは竜鱗が剥がれた両腕。
「はあっ!」
レッドルビーは己が超能力を限界まで高め、右腕に集中。手刀の構えを見せ、そこにサイキックエナジーを纏わせる。
「疾ッ――!」
レオーネもまた疑似PDCの弾丸を使用し、刃にサイキックエナジーを纏わせた。
「「覇ぁぁぁあぁぁああッ――――!」」
――斬っ!
ふたりは寸分違わぬ軌道で、右腕を、左腕を刃で断つ。
「グ、ギュウゥゥゥウゥ――――!」
己が両腕を断たれたことで悲痛な叫びを上げる竜人。ごとり、と腕が落ち断面からはぶしゃあ、と鮮血が舞った。
悲鳴を上げた竜人が、頭を仰け反らせた。
それを見たレッドルビーはぞくり、と特大の警鐘がなった。
「まずっ……!」
仰け反った竜人の口の中、牙の間から焔が漏れるのが見えた。焔を吐くつもりなのが見てとれた。そして、周囲は埃の山で先ほど開けた穴以外はほぼ密閉されている。
このままでは内部で粉塵爆発するのが目に見えていた。
レッドルビーはレオーネに抱きつくように飛びかかると、即座にサイキックエナジーで円形のバリアを張る。
――直後、竜人が口から焔を吐き出す。
地面を這う焔。ちりちり、と燃える埃。次の瞬間。光が周囲を包み込んだ。
アナザールビーは竜人を砲撃した後、ブルーコメットの砲塔を冷却させるため待機していた。いまだふしゅう、と湯気を揺らめかせながら熱を持っているブルーコメット。
それと連動するように、アナザールビーの心の中も焦りで満ちていた。
「ちっ……。突撃すべき、かしら」
彼女にとってブルーコメットは武装のひとつでしかない。本来の彼女の戦い方は超能力を身に纏った徒手空拳だ。
……やるか、と。アナザールビーが覚悟を決めた。そして突入しようとして。
「……なに?」
なにか、直感がささやく。入るのは危険だ。それで行動が一瞬遅れた。それが明暗を分けた。
廃工場が、電気が通っていない筈の内部が光る。次の瞬間。暴力的な光が外へ漏れた。そして、少し遅れて衝撃波が――。
「ぐぅ……!」
目を細め、腕で覆うアナザールビー。衝撃に吹き飛ばされないよう足に力を溜めて踏み締める。
がしゃん、と一斉にガラスが割れる音が響く。なにか、丸いものが転がってきた。それは――。
「レオーネさん! ……ルビー!」
それは竜人に追撃をかけるべく内部へ侵入したふたりだった。役目を終えた円形のバリアが空気に溶け込むように霧散する。
あとには、頬や腕に軽く煤がついているものの、無事な姿のふたりがいた。
その姿を見て、アナザールビーはほっ、と胸を撫で下ろした。
――ぐしゃん。
遠くで鉄骨が落ちる音がした。もうもう、と土煙が上がった。その奥に影が見える。
煙を掻き分け、竜人が姿を表した。だが、その姿は――。
「なるほど、これは……」
竜人の姿、それは既に死に体だった。
そも、粉塵爆発に巻き込まれたのは竜人も同じ。しかも、竜人はレオーネとレッドルビーに両腕を切断され、肉が露出していた。
そこへもろに爆発を浴びた。
それは奇しくもレオーネがオーラムリーフがここにいてくれれば、と考えた攻略法のひとつ。
竜人は内部を爆風、熱で蹂躙され蒸し焼きに近い状態になった。
全身を蹂躙された竜人の身体から、ぼろぼろ、と鱗が剥がれ落ちていく。そして、胸元の鱗が落ちたことで中央。ちょうど人間の鳩尾部分に鈍く輝く珠。明らかに弱点と思わしきものが露出している。
「ギ、グゥ……」
竜人の呻きにも力を感じない。口や、瞳から血を垂れ流している。まさしく、千載一遇の好機。
それを見たアナザールビーが躊躇う筈もない。
――どんっ!
力強く踏み込む、捲れ上がるアスファルト。衝撃波が後ろへ発生。それを推進力としてアナザールビーが跳ぶ。一瞬のうちに竜人の懐へ跳び込んだ。
「覇ッ!」
ガコン、とPDCがスライド。サイキックエナジーが噴射され、そして、竜人の珠を穿ち、打ち貫く!
打撃を打ち込んだ衝撃が竜人の肉を砕き、背中から拡散される。それが破壊された廃工場の梁を、柱をぎぃ、と揺らしていた。
「……
粉塵爆発の衝撃で一瞬意識が飛んでいたレッドルビーが
近くには既に立ち上がっていたレオーネの姿。
「レオーネさん」
「あぁ、ルビーちゃん」
声をかけられたレオーネは振り返る。
振り返ったレオーネはどこか困ったように笑っていた。
「やれやれ、結局あの娘はどこか行ったみたいだね」
「……えっ?」
レオーネに言われて、レッドルビーは辺りを見渡す。
たしかに、辺りにアナザールビーの姿がない。
「まっ、今回のことであの娘が敵じゃない。それが分かっただけでも収穫、かな?」
「そう、ですね……」
アナザールビーが消え、竜人もまた影も形もなくなった廃工場には、痛々しいほどの静寂だけが残されていた。