バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~   作:想いの力のその先へ

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智という力

 ブルーサファイア、南雲霞たちと魔物の駆除を終えた俺はブラックオニキス。バベル四天王がひとり、草壁楓とともに本拠地へと帰還していた。

 楓と別れた俺は、すぐに自身の部屋。大首領用に拵えられた一室へと戻った。

 そして、しばらく後。大首領用の一室、執務机に座った俺は背もたれに身体を預ける。ぎぃ、と木製の椅子が軋む音が室内に響く。

 これで、朱音さん。シナル・コーポレーションから上げられた報告の確認は終わった。出来れば、出撃前に終わらせておきたかった仕事だが、それを魔物が汲んでくれる訳ではないので仕方ない。

 

「それにしても、シナルの業績は順調。いや、堅調そのものか」

 

 なんというか、朱音さんの経営方針は本当に手堅いものだ。まぁ、バックに、商品開発に青木奈緒、という天才がいるからこそ、という部分が多分にあるのは確か。

 なにしろ、彼女が片手間に手掛けたものが、表の最新式のものより、性能面でも、コスト面でも優秀なのだ。それが日用品にしろ、輸送トラックなどの箱物にしろ。

 

 より良いものを安く売る。

 

 言うは易し行うは難しだが、それを出来るのであれば、それは業績がうなぎ登りになるのは必然だった。

 それはそうと、次は博士の報告だ。

 

「さて、博士の報告だが」

 

 ぺらり、と机に置かれた資料をめくる。そこにはレオーネたちと竜人が戦闘している姿が写真に収められていた。

 いつ、そんな写真が撮られていたのか。それは、博士。楓と同じく四天王のひとり、青木奈緒が製作したスパイドローンの成果だった。

 

 そも、レオーネに骨伝導による通信を送った博士がそれだけで終わらせるわけがなかった。

 特に途中からあの未来から来たと思わしき渚。アナザーレッドルビーが現れたのだから、情報収集をしないわけがない。

 

「ふむ、正直あの竜人型の魔物はどうでも良い」

 

 いわば、強化された魔物。その程度の情報価値しかない。

 確かに初見殺しであるだろうが、種が割れていればどうとでも処理できる程度。フツヌシや、やりようによってはブラックオニキスでも十分に処理できる。その程度だ。

 それよりも重要なのはアナザールビー。

 

「なんともまぁ、博士も張り切っている」

 

 アナザールビーに対する所見。それがまるでテストの赤ペンのようにつらつらと書かれている。

 それはブルーコメットをはじめ、パワードスーツ。PDC、あらゆるものに注釈が入っていた。

 

「特にサイキックエナジーの出力。明らかに渚よりも大きいな。修行だけでは説明がつかない、やはり、あちらも疑似PDCを使っている可能性大、か……」

 

 考えないでもなかった可能性。もともとサイキックエナジー自体、渚が、レッドルビーが使っていたのを再現したもの。それを彼女に与えて出力強化、などというのは、もともと使っていなかったものに使わせるより、はるかに使いこなせるだろう。

 まさしく、餅は餅屋というやつだ。

 

「だが、渚専用にするにはあまりに惜しい。うまく使えば、ヒロイン級の戦力を量産できる」

 

 そこまで考えて、ハッ、と俺は自身の頬を殴る。視界が歪む感覚とひりひり、とした痛みが走り、明らかに調子に乗って茹だっていた頭が冷えてきた。本当に危ない思考になっていた。

 確かに渚。レッドルビー級、あるいは廉価版の力を持つ戦力を配備できるのは魅力的だ。だが、それは同時に危険でもある。

 量産できる、ということは言い換えればバベル以外でも運用できる、ということ。それは即ち、もし、疑似PDCの技術が奪われた場合。レッドルビー級の戦闘力を持つ存在を複数展開できるようになることを意味する。

 

「だからこそ、軽々しく技術を使うわけにも……。痛し痒しだな」

 

 本音をいえば疑似PDCを怪人へ搭載したい。しかし、いままでの戦績でいえばあまりにも賭けに等しい。もし、撃破されて流出すれば取り返しがつかなくなる。

 自衛隊にも論外だろう。どこにスパイが潜り込んでいるか分からない。その状態であちらに納品するなど、わざわざ、きれいに梱包して、どこの誰とも知れぬ者へプレゼントするような愚行だ。

 秘密結社はバベルだけではない。その魔の手が自衛隊に伸びていないとは限らない。簡易量産型のモムノフであればまだ許容できる。しかし、戦略兵器となり得る疑似PDCは流石に許容できない。こちらは世界に混沌を望んでいる訳じゃない。

 

「さて、どうしたものか。……そうだな、話を聞いてみるか」

 

 先ほど餅は餅屋といったのだ。ならば、餅屋に聞けば良い。即ち、このバベルにおいて最高の天才。博士、青木奈緒に。

 俺はすぐに博士へこちらへ出頭するよう通信を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 博士に連絡を取った後、彼女はすぐにこちらへ来てくれた。博士とともに応接用のソファに身を沈める。まず、博士が話しかけてきた。

 

「それで、大首領? いつもはこちらの研究室に来るのに。今回は呼び出しとは、あまり穏やかではないね?」

「あぁ、そうだな。それに、博士もすぐに来てくれて感謝する」

「それは別に良いよ。それだけ重要な案件なんだろう?」

 

 暗に、くだらないことで呼んだんじゃないだろう、と確認してくる。それとともに用意されたカップ。容れたばかりのコーヒーを啜る博士。

 むろん、こちらとしても重要だから、と呼び出したので、すぐに本題へ入ることにする。

 

「あぁ、博士が報告書に上げてくれたアナザールビー。それについて、詳しいことを聞きたいと思ってね」

「ふぅん……?」

 

 どこか疑うような視線をこちらへ向けてくる。まぁ、いま言ったことがすべてではないので、彼女の視線も間違ってはいない。

 かと言って、俺がアナザールビーについて確認したいのも間違いじゃない。俺が知りたいのはひとつ。

 

「博士はアナザールビーが疑似PDCを使用している可能性を示唆していたね。実際、どの程度の確率で使用していた、と考えている?」

「あぁ、そういうことかい? それなら、ほぼ十割。十中八九、というやつだ」

 

 そこまで断言する。あの天才、青木奈緒が、だ。

 それは技術が確立されたか、あるいは……。

 

 ――そうせざるを得ないほど戦況が悪化したか、だ。

 

「なるほど、博士の意見は良く分かった。次に、だが。博士はアナザールビーが装着していたパワードスーツ、どう見る?」

「また抽象的な問いかけをするねぇ……。どう見る、か?」

 

 カップをかちゃり、と置いてうんうん頭を悩ませている博士。

 しかし、悩んでいるのはスーツのあり方ではなく、どう表現するか。言い方を変えれば、言語化するか、という気がする。

 そして、ようやく整理し終えたのだろう。博士が口を開いた。

 

「うん、奈緒さんの考えとしては、あれはブルーサファイアとブラックオニキスの合の子。疑似PDCを攻撃に全振りした、ブラックオニキスをさらに前のめりにしたものだと思うよ」

「ふむ、その心は?」

「殺られる前に殺れ」

「実に分かりやすい」

 

 やはり、そうなるか。博士も俺と同じ結論へ至ったようだ。と、なると、さて……。一応、答えも予想できるが、この問いもしておこうか。

 

「仮に、だが。博士。もし、その技術。シナルから自衛隊に流すとしたら――」

「本気、いや正気かい大首領?」

 

 うん、予想通りの答えが、博士が身を乗り出して、剣呑な雰囲気を身に纏って返してきた。俺が博士の立場なら同じ答えを返すし、なんなら精神病院へ叩き込むだろう。

 それくらい、あり得ない問いかけだ。だからこそ、博士は前のめりで、かつ、早口になってこちらへ話しかけてくる。

 

「そもそも、一応、霞くん。ブルーサファイアにも疑似PDCのプロトタイプは組み込んだけどね? それだって、一部性能をオミットした限定品だよ。それにエネルギー源の関係でずっと使用は出来ないようにしているし。奈緒さんだって、そうしてるんだよ? それを――」

「分かってる、分かってる。皆まで言うな。むろん、本気でする気なんてないさ」

「なら、良いけど……」

 

 そして、ぽすん。とソファに座り直して身を沈める博士。どことなく焦燥しているようにも見える。正直、悪いとも思うが、ここからが本題だ。

 

「で、だ博士。仮に技術を使うとして、どこら辺りが妥協点だ?」

「妥協点……? なるほど、大首領も人が悪いねぇ」

「それは褒め言葉だな」

 

 ようやく俺の真意が理解できたのだろう。博士はくつくつ、と笑っている。そして、妥協点。こちらがどこまで出来るか、について話し始めた。

 

「まずはブラックオニキスのアップデート。楓くんの疑似PDCの強化、だろうね。もともと使っているんだから問題ない」

 

 そこで先ほど置いたカップを再び手に取り、残りのコーヒーを啜る。味を楽しんだ後、博士はまた口を開く。

 

「次にレオーネくんの強化。現在、彼女の武装。デスサイズだけに疑似PDCを搭載してるけど、それだけじゃなくて、彼女用のパワードスーツも仕立て上げる」

「ふむ、それは大丈夫なのか?」

「あぁ、問題ないよ。表向きシナルの試作品、として登録はしておくけどデータはすべてブラックボックス化しておくし、レオーネくんの身体能力がないと扱えないピーキーな仕様にしておくからね」

「前提として、完全なヒロイン専用機、という訳か」

「その通り」

 

 頷いてからから笑う博士。

 レオーネ並みの身体能力を持つ人間は他に見たこともないし、実質的にレオーネの専用機という訳か。ならば問題ないだろう。まぁ、政府筋への説明は……。本人に頑張ってもらうとしようか。

 

「あとは……そうだねぇ。里桜ちゃんを、どうするか、だねぇ」

「んっ……? それはどういう意味でだ?」

 

 なぜ、そこで急に、バベルで保護している魔法少女の話が出てくる?

 そんな疑問に、博士はあっけらかんと答えてきた。

 

「魔法と超能力。ふたつの特異能力の相性は未知数だからねぇ。出来ればどこかでテストしておきたいんだよ。ほら、選択肢は多い方が良いだろう?」

「ふむ。確かに、それはそうだが――」

 

 事実、今後バルドルとの同盟が成ることがあれば渚と霞、レッドルビー、ブルーサファイアに完全版の疑似PDCを供与することもあるだろう。それこそ、アナザールビーのように。

 その時に場合によって、オーラムリーフ。秋葉ちゃんにも渡せるのであれば、渡した方が良い。戦力拡充的な意味でも、だ。

 

「ならば協力してもらうか? 里桜ちゃんに」

「出来れば、奈緒さんとしてはそれが嬉しいねぇ」

「それじゃあ、それとなく聞いてみるか」

 

 まぁ、博士に懐いている彼女であれば、いちもにもなく頷くだろう。むしろ食い気味に近づいてくる可能性の方が高い。

 なにしろ博士は、自身を魔人化から解放してくれて、かつ、命まで助けてもらった恩人だからな。もっとも、博士もそれが分かってるからこそ、頼みづらいんだろうな。

 自身で頼めば彼女は命の危険があっても協力する。それが簡単に分かるから。まぁ、それは俺が頼んでも同じだと思うが。心意気の問題、というやつかな。

 それにテスト自体も無理させる必要はない。とりあえず最初の目的は、起動させられるか。起動させたとして身体に負荷がかからないか。そんなところだろう。

 

 俺が里桜ちゃんへの協力要請の内容を考えていとき。博士が次の話題を振ってきた。

 

「そうそう、あと、大首領。出撃前に頼まれていた件。調査完了したよ」

「それは早かったな」

「データ自体はもとからあったからね。それを照合するだけなんだから、すぐ終わるよ。でも……」

 

 博士が白衣の下から資料を取り出しながら問いかけてくる。そこには博士が怪訝な、なぜ気づいた、とでも言いたげな表情を浮かべていた。

 

「よく大首領も気づいたね。奈緒さんは、まったく気にも留めてなかったよ」

「偶然だ、本当にな。何となく、程度だが、なぜか気になった。それだけだ」

 

 そう、本当にそれだけだ。そして、俺は博士から資料を受け取り、ぺらぺら、と内容を把握していく。

 そこには、俺の予想通りの結果が示されていた。

 それを理解して、俺は頭が痛くなってくる。そして、それは俺に不審を抱かせるには十分なものだった。なにしろ、『これ』は間違いなくバベル四天王筆頭。葛城朱音も把握しているであろう内容なのだから。

 思わず、俺の口から本音が漏れる。

 

「朱音さん。あんたは一体、何者なんだ……?」

 

 裏切り者ではないのは確かだ。それでも、そんな疑問が出てくるのも仕方ない。なぜなら、葛城朱音、という人間は本来、この地球に存在しないのだから。

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