バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~ 作:想いの力のその先へ
レオーネと秋葉、ふたりの秘密と予定外の襲撃
竜人を撃破したレオーネとレッドルビー、真波渚もバルドルの基地へと帰還していた。
そしてふたりはレクリエーションルームでバルドル司令、南雲千草と話していた。
「ふたりともご苦労様。助かったわ」
千草がふたりへ紙コップにいれたコーヒーを渡しながら労う。
コーヒーを受け取った渚は両手で抱えるように持ちながら、ふぅ、ふぅ、と息を吹きかけて冷ます。
そして、ずずっ、と啜り、ホッとひと息つけた。
「えへへっ、でも、なんとかなって良かったです」
「うん、そうだね。本当に……」
渚と違い、疲れた顔を見せたレオーネ。
いくら疑似PDCで魔物に対しての攻撃方法を得た、といってもその時間は限られており、精神を集中させるための磨耗や、ストレスはかなりのものとなる。
それからようやく解放されたのだから、疲れた顔を見せるのは当然といえた。
「それで千草さん。魔人についてだけど、そのうちあちらの方から見分けるための方法が送られてくると思うよ」
「えっ、そうなの。レオーネさん?」
「うん、こちらも詳しく知らないんだけどね?」
そうシラを切るレオーネ。実際のところは――。
(まぁ、実際は奈緒姉ぇから送られて、ううん。贈られてくるんだけどね)
そんな考えを頭に浮かべていた。レオーネも先ほどまで魔人と魔物の違いが分からなかったのは事実だし、奈緒が把握する方法を確立させなければ不明だったのも事実。
それをシナル経由で政府へ渡し、そこからバルドルへ提供する、という形になる。
もちろん、それがどのタイミングにもたらされるのかは不明だが。
「それよりも、重要なのはあの娘だと思う」
「えぇ、渚さんの……」
レオーネの指摘に千草が相槌を打つ。
アナザーレッドルビー。彼女の存在はバルドルでも注目の的だった。その、全貌とまではいかないが、少し背景が見えてきた。
「あの霞さんと似たパワードスーツ」
「うん、おそらくあれと同等のものを現時点のバルドルでは製造不可能だね」
「でも、そうなると……」
そういって悩み始めた千草。事実、考えている可能性は荒唐無稽なものしかない。即ち、未来からへの過去転移。いわゆる時間遡行、あるいは逆行。その可能性を。
「別におかしいとは思わないけど?」
「レオーネさん?」
「だって、ここの転送室。渚ちゃんの超能力を土台にしてるんでしょ?」
「えぇ、そうね」
そこまで確認したレオーネはひと息に指摘する。即ち、渚が時間転移している可能性を。
「あの部屋から転移する場所までほぼ時間が変わってないでしょ。それってさ、つまり、そういうこと、なんじゃないの?」
「……それは」
その可能性は千草自身も考えていた。しかし、あの転送室の技術自体はほぼ分かっていない。偶然、転移できるから使用している、という状況なのだ。それゆえ、千草からするとなにも言えなかった。
「まっ、ボクが言うことじゃないけどね」
そういうとレオーネは肩をすくめた。
レオーネ本人は以前のバベル四天王での会議。そこで奈緒からもたらされた、アナザールビーの装備に刻印されたサインで、彼女が時間遡行者であるという確証を得ている。
だからこそ、アナザールビーとの共闘にすぐ踏み込めたし、背中を預けることが出来た。
かといって、その情報を千草に渡すわけにもいかない。それは、自身がスパイであることを自白することになるのだから。
談笑していた三人。そこに、かしゅ、と空気が抜ける音とともにレクリエーションルームの扉が開き、盛周。アクジローたちと共闘していたふたり。霞と秋葉が顔を出してきた。
「ふたりとも帰ってきたのね」
「先輩たち、お疲れ様です」
自然体の霞、どことなく緊張している秋葉。
ふたりは部屋へ入ってくると近場のソファへ座る。
「渚たちの方は大変だったみたいね」
「うん、本当だよ。あんなのまで出てくるなんて」
軽口を叩きながら微笑みあう霞と渚。
ようやく、無事に帰ってきて顔をあわせることが出来た。それだけで安心できた。
その中で秋葉だけは少し手持ち無沙汰になっていた。
秋葉の姿が気になって話しかけた千草。
「どうしたの、秋葉さん? 疲れた?」
「えっ……? えっと、そんなんじゃなくて……」
秋葉はちらり、とレオーネを見た。視線を感じたレオーネもまた、秋葉を見る。だが、見られる心当たりがなく、首をかしげるレオーネ。
「秋葉ちゃん、どうしたの?」
「なぁ、レオーネさん。ちょっと……」
立ち上がり、部屋の角へ移動してから手招きする秋葉。どうにも、他の者に聞かれたくない話があるようだった。
レオーネとしても、そこまでする秋葉の話が気になるようで、手招きする彼女のところまで赴いた。
そんなふたりを他の面々は不思議そうに見ていた。
「それで? わざわざこんなことまでして。本当にどうしたの?」
「その、さ。レオーネさん。あっちのことは、秘密、なんだよな?」
ぼそぼそ、とした秋葉の声。瞬間、レオーネは顔を引きつらせ、素早く視線を方々へ向ける。さいわい、千草たちは再びそれぞれの会話に夢中で、聞かれてないようだった。
その事に安堵したレオーネは、どういうつもりか、と素早く秋葉に問い詰める。なにしろ、秋葉が言うあっち、とはバベルのことであり、それは口外しないように、と口止めしていたのだから、当然だった。
「秋葉ちゃん、もし、バレたらどうするつもり? 事と次第によっては……」
「ご、ごめんっ! で、でもさ……」
焦りながらもなにかを伝えたい様子の秋葉。
それを見て、仕方ない。と、腰を落ち着かせるレオーネ。少なくとも、彼女の態度に情報をバラしてやろう。なんて、悪意は感じなかった。
だからこそ、レオーネは先を促した。それを受けて、秋葉はぽつり、と話し出した。
「その、あいつ……。里桜のことも秘密、なんだよね?」
「――あぁ、そういう…………」
それでようやくレオーネ、秋葉がぼそぼそとしているのに納得がいった。確かに、バベルに救われた彼女は公的には死亡扱いされている。半分以上、早とちりしたレオーネ自身のせいではあるが。
それはそれとして、秋葉はある意味同胞。しかも、親友である西野春菜の情報を持つ可能性のある、かつて春菜とバディを組んでいた魔法少女。
魔法少女-ヴィレッジロックこと、石原里桜の生存を黙っていることに呵責を覚えているのだろう。
確かに、レオーネとしても彼女が生存していることをなんとか伝えたい、という気持ちがないわけではない。その事を口に出そうとして――。
――ビー、ビー。とサイレンの音が鳴る。続いて、バベル怪人出現の報が基地内を駆け巡る。
思わず、驚いた顔でレオーネを凝視する秋葉。見詰められたレオーネは首をブンブン横に振っている。
彼女はこのタイミングで怪人が活動する、というスケジュールは受け取っていない。が、それはそれとして。ヒロインとしてバルドルにいる以上、行動をしないと怪しまれるのは必定。
レオーネとしては情報確認の意味合いもあって、なんとしても怪人討伐へ参加しなければならなかった。
そのため、レオーネはあえて大声を張り上げた。
「千草さん、ボクが出る!」
「えぇっ……?! 大丈夫なの、レオーネちゃん?」
「大丈夫! それに、肉体的な消耗はボクが一番少ない。だから――」
レオーネからの提案を受け、一瞬、逡巡した千草。そして、提案が合理的と判断すると。
「お願いできる? レオーネちゃん」
「任せてよ、それじゃ!」
「あっ、ちょ――!」
千草に頼まれたレオーネはこれさいわい、と秋葉の制止を振り切るようにレクリエーションルームを飛び出すのだった。