バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~   作:想いの力のその先へ

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象と亡霊

 立塔市中心から少し外れた商業地区。民間人が逃げるなか、古くから存在する商店街近辺にバベルの戦闘用アンドロイド、バトロイドが闊歩していた。

 

「よぅし、バトロイドども。さっさと仕事を終わらせるぞぉう!」

 

 そのバトロイドたちを指揮している怪人。象の頭に右腕が象の足。その他が人の形をした怪人。バベルの新型怪人、エレファントムだった。

 エレファントムは商店街の各地にバトロイドを配置させ、なにかをしようとしていた。

 その証拠、というわけではないが、バトロイドは専用ライフルや変形させたバズーカを構えているが一切発砲していない。

 それでいて民間人を追い散らすように行動している。

 しかし、別にエレファントムは遊び心で追い立てているわけではなかった。

 

「まったく、レオーネさまが帰らぬうちに作戦なんて、参ったぞぉう」

 

 左手の、人間の手で頭を掻くエレファントム。象の顔ゆえ、表情は読み取れないが声色から困っているのは確かだった。

 歩くたび、ずんずんと足がアスファルトがめり込む。それだけで彼がとんでもない重量をしているのがわかった。

 

 エレファントムは視線で辺りを確認する。彼の目には特殊なサーモグラフィーを搭載していた。それで熱源を探知しているが、そこに映し出されるのは民間人の体温だけ。

 

「奈緒さまの話では、魔力の淀みが商店街で確認されたはずなんだが、見つからないぞぉう?」

 

 エレファントムたちがここに、商店街に現れた理由。それは彼が言うように奈緒がこの近辺に魔人の反応をキャッチしたからだ。

 そのため、民間人を周囲から追い出すためバトロイドに発砲させないよう厳命した上で、各地を巡回させていた。

 

「むっ……。バトロイド、そこのたこ焼き屋に行け。火が点けっぱなしだから、消すんだぞぉう」

 

 サーモグラフィーに表示された熱源。たこ焼き屋の亭主が逃げる時に消し忘れたのだろう。

 それを見たエレファントムはそう指示を出した。そして、指示を受けたバトロイドも大きな身体を器用にくぐらせて内部に侵入。機器をマニピュレーターで摘まんで消火する。

 一見するとギャグみたいな光景だが、サーモグラフィー索敵では完全に邪魔な熱源であるし、また、火事による二次被害の抑制という観点でも必要なことであった。

 

「それはそれとして、あんまり時間をかけるとバルドルが来て、面倒なことに――」

 

 エレファントムの高性能な集音装置を搭載した耳が、ガリッという、なにかを引っ掻く音を拾う。それとともに軽い、本当に軽い足音が響く。

 そして、その足音。それはエレファントムのデータベースに記録されているものと同一のものがあった。

 

「ぬぅんっ!」

 

 右腕、象の足と化した分厚い肉壁と評しても良い装甲が自身に振るわれた刃を防ぐ。

 エレファントムは自身の右腕越しに見る。自身に刃を振るった相手。四天王のひとり、バルドルから出たレオーネの姿を。

 

「レオーネっ……!」

 

 さま、と付けようとしてなんとか踏み止まるエレファントム。どこに耳目があるか分からない状況で正体をバラすような危険を犯すわけにはいかなかった。

 ぎゃりぎゃり、とレオーネの刃。デスサイズとエレファントムの象足が火花を散らす。

 そのままレオーネはぐいぐい、と力押しでデスサイズの刃を食い込ませつつ、エレファントムと距離を詰める。そして、彼に聞こえる程度の小さな声で問いかける。

 

「奈緒姉ぇのところの新型? こんなとこでなにやってるの?」

 

 どうやらレオーネは交戦する振りを続けつつ、情報交換をしたい、ということを悟ったエレファントム。彼自身もそれは望むところだったので、念のため。小さな声で言葉を返した。

 

「おいらはエレファントムだぞぉう。大首領と博士の連名で調査するように仰せつかったぞぉう。なんでも、ここに魔人がいる可能性があるとか……」

「……ところで、その。ぞぉう、ってなに。こちらをバカにしてるの」

 

 どことなく不機嫌なレオーネ。彼、エレファントムの独特な語尾が気に入らないようだ。しかし、直後の話を聞いて考えを改めることとなった。

 

「これは、博士からインプットされてるんだぞぉう。大首領も『象型怪人なんだから、むしろお似合いだろう』なんて、ゴーサインまで出して……」

「そ、そう……。大変だね、キミも……」

 

 その話を聞いて気の毒になるレオーネ。心なしか、汗をかいて、顔を引きつらせている。また、エレファントムもようやく分かってくれる人が現れた、と疲れた雰囲気を醸し出し、肩を落としていた。

 正直、レオーネは奈緒が遊ぶだけならともかく、大首領。盛周まで悪ノリするとは思ってもいなかった。

 もっとも、レオーネ預かり知らぬことではあるが、実際のところ、盛周がゴーサインを出したのは、その語尾かつエレファントムの造形で、どこか昭和の特撮怪人特有が持つ風情を感じた。という、ある意味、ミーハーなものだった。

 

 それはともかく、このまま鍔迫り合いを続けるだけだと逃げている人々にも不審に映る可能性が高い。そのため、エレファントムは力強くレオーネを押し退け、場を仕切り直す。

 また、押し退けられたレオーネも、空中でくるり、と一回転して着地。デスサイズを構えて相対した。

 

「ふぅん、意外と……。いや、見た目通りパワーファイターなんだ?」

「いくらバウンティハンター相手だろうと、力比べに負ける道理はない、ぞぉう」

 

 エレファントムの驕りともいえる宣言に、レオーネは確かに、と同意する。いくらレオーネが身体能力に優れたヒロインといえど、パワー強化型の怪人相手に力比べは分が悪すぎる。

 ならば、スピードで対抗すれば良い。そんなレオーネの考えは即座に打ち砕かれることとなった。

 相対していたエレファントムの身体が、ふわり、と浮いたのだ。そして、まるで重量を感じさせないスピードでレオーネの頭上へ移動。そのまま落下してきた。

 

「うそっ……!」

「ふははっ、押し潰すぞぉう!」

 

 むろん、そのまま回避しなければ押し花ならぬ押しレオーネというスプラッタな光景になるのだから、慌ててその場から離脱する。

 直後、ずずぅん。という地鳴りとともに土煙が上がり、アスファルトが爆ぜた。

 回避が間に合ったレオーネ。そして彼女はまだ土煙の中にエレファントムがいることを確信すると土煙ごと切り裂くようにデスサイズを振るった。しかし……。

 

「手応えが、ない……!」

 

 そんなわけがない、エレファントムが移動する場面は見ていない。動揺するレオーネの眼前に、今度は土煙を貫くように象足。エレファントムの打撃が迫る。

 慌ててデスサイズの柄で防御したレオーネであるが、耐えられるわけもなく、後ろへ吹き飛ばされる。

 そして、土煙が晴れた落下地点から現れたエレファントム。その身体には傷ひとつ付いていなかった。

 いかなるカラクリでそうなったのか、皆目見当がつかない。その答えは、エレファントムの口からもたらされた。

 

「言ったはずだぞぉう。おいらの名前はエレ『()()()()()』。象であり、亡霊なんだぞぉう」

「……ちっ、たしか位相ずらしだっけ? 前に奈緒姉ぇが、対ファンタジーとして研究してた。厄介な能力だよ」

「お褒めに預かり光栄、だぞぉう……!」

 

 まるで煽りのようにレオーネへ慇懃無礼に一礼するエレファントム。しかし、直後に前のめりになる。なんとか倒れないように右腕を地につけたエレファントム。その背中から煙が吹き出している。

 そして、その奥には――。

 

「ファイア、ドライブ……!」

 

 東雲秋葉、いや、ヒロイン。魔法少女-オーラムリーフの姿。まさか彼女がここにいるとは思わず、驚きの声をあげるレオーネ。

 

「あき……、リーフちゃん!」

「援護に来たぜ、レオーネさん!」

 

 驚くレオーネに、へへっ、と得意気に笑うオーラムリーフ。その間にエレファントムはゆらり、と立ち上がった。

 

「くぅ、油断したぞぉう。しかし、オーラムリーフ。まさか、このエレファントムの弱点。幽体化した状態ではこちらも攻撃できないことを見抜くとは、流石だそぉう」

「……そうなの?」

「……ぞぉう?!」

 

 良くやった、とばかりに自らの弱点をさらすエレファントム。しかし、到着したばかりのオーラムリーフがそんなこと知るわけもなく、結果として勘違いしたままペラペラ弱点をしゃべった、という事実に気づきショックを受けていた。

 

「……と、ともかく! ここからは油断なし、だぞぉう!」

 

 誤魔化すように声を張り上げるエレファントム。しかし、弛緩した空気はいかんともしがたかった。

 そんな状態であったが、そこへ一体のバトロイドが乱入してくる。彼はエレファントムの前でびし、と敬礼すると機械言語で報告を始めた。

 

「なんと、見つけたか! こうしてはおれんぞぉう!」

 

 そのままエレファントムはレオーネとオーラムリーフ。ヒロインふたりを無視して、どすどす、とアスファルトを割って、明らかに商店街へ被害を出しながら駆けていく。そして、その後を追うバトロイド。

 後には呆然と成り行きを見守っていたヒロインふたりだけが残された。

 しばし呆然としていたレオーネ。だが、正気を取り戻すと……。

 

「ハッ……。ちょっ、待てっ! 追うよ、リーフちゃん!」

「あ、あぁ……。レオーネさん、分かった!」

 

 そう言って、ヒロインふたりもエレファントムを追うように駆け出すのだった。

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