バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~ 作:想いの力のその先へ
「もう、いきなりなんなんだよ。あの象モドキ!」
悪態をつきながら商店街のなかを駆け抜けるオーラムリーフ。フリル付きのスカートがバタバタとはためき、その先からは健康的な、スラリとした足が見えていた。
そんなオーラムリーフの先にはデスサイズを肩に乗せて走るレオーネの姿。彼女はたんっ、たんっ、と軽やかに、まるで空を翔るように身体を弾ませ走っている。
「ともかく、いまはエレファントムを追うよ!」
オーラムリーフに発破をかけるレオーネ。その後、彼女へ聞こえないよう、小さく呟く。
「見つけた、ってことは魔人がいたってことか……。秋葉ちゃんの親友の娘だと良いけど」
現状、東雲秋葉――魔法少女-オーラムリーフ――の親友、西野春菜は過去の監視カメラの映像から、彼女より早く魔法少女の契約をして、かつ、魔人化していることが判明している。
その西野春菜の魔人化した姿の認識名称は蔦の魔人。その名の通り、植物の蔦に覆われた見た目から、そう呼称されていた。
とにもかくにも、ヒロインふたりは怪人を追い、急ぐ。魔人がいるにせよ、いないにせよ街の被害を抑えなくてはいけない。
そんなふたりの前に、エレファントムの背中が見えてきた。どうやら追いついたようだ。彼は商店街の中央。ちょうど、少し大きめの公園の中にあった。
公園を隔離するように金網のフェンス。その近くにポツンと設置されている年季の入った、鎖が所々錆びたブランコ。
そして、公園の中央にいる異形。身体すべてが氷に覆われた、かろうじて、氷の下にぼろ切れを纏った少女の姿が、かつて、彼女もまた魔法少女であったことを示唆する存在。それを見て、オーラムリーフは驚きの声をあげた。
「……まさか、魔人かよっ!」
かつて、秋葉が千草と通信越しの片倉官房長官とともに映像で確認した魔人。氷の魔人の姿だった。
無意識に秋葉、オーラムリーフの喉が鳴る。岩の魔人以来の魔人。イマジン側の幹部クラス怪人の登場だからだ。
その力を示すように、周りには破砕された鉄の残骸。バトロイドたちの成れの果て。それがごろごろと転がっている。
「ちぃっ、ここまでバトロイドを壊されるともったいないぞぉう。しかも、魔人は無傷とはやってられないぞぉう!」
バベルにとっての戦闘員。バトロイドたちの惨状を見て、悪態をつくエレファントム。もっとも、もともとバトロイド自体魔物や、ましてや魔人たちと戦うことを前提とした設計はされていないのだから仕方ない。
なにしろ、ファンタジー。オカルト方面の魔物や魔人と科学サイドのバトロイドでは相性が最悪といって良い。なんといってもバトロイドは物理攻撃しかできず、なおかつ疑似PDCも予算、防諜関係から搭載できないのだから、対抗手段がなかった。
その結果が骸を、残骸をさらすバトロイドだったものの山。霜が降りた残骸の山を見てエレファントムは歯噛みした。
「こうも好き勝手されては、大首領に会わせる顔がないぞぉう。きさま、このエレファントムさまを怒らせたこと、後悔するが良いぞぉう!」
そういうとふわり、と浮かぶエレファントム。幽体化したのだ。そして、彼は飛翔し、直接氷の魔人に向かって突撃する。
そして、ごう、と空気を切り裂きながら象足の腕を突き出す。拳、というより変則的な蹴りを受けた氷の魔人はたたらを踏む。
……打撃が、通った。
その事に驚いている氷の魔人。なぜなら魔人も魔物と同じく物理防御のバリアを纏っていた。
にも拘らず、エレファントムの打撃が通ったのはなぜか。それは、エレファントムがインパクト。拳が当たる瞬間だけ実体化したことが原因だった。
しかし、打撃が通っただけで致命傷には程遠い。氷の魔人はお返しとばかりに周囲に氷の刃を生成。エレファントムに向けて射出する。だが――。
「ぞぉ、ぉ、ぉ、うぅ! 無駄だぞぉう。おいらに、幽体化したおいらにそんな攻撃は効かないぞぉう」
妙な笑い声とともに小馬鹿にするエレファントム。氷の刃はすべて、エレファントムの無駄という宣言を肯定するように身体を傷つけることなく突き抜けていた。
「なんだ、あれ。反則じゃないか……」
その光景を見て、オーラムリーフは絶句する。いわばエレファントムはほぼすべての攻撃を無力化できるのだから、そう言いたくなるのも無理なかった。
しかし、氷の魔人にはそんなこと関係ないのだろう。再び刃を形成すると、今度は四方八方からエレファントムへ打ち込んでいく。
むろん、そのすべてが身体を通り抜け、
「無駄、無駄だぞぉう!」
魔人の無駄な行動に、笑いながら啖呵を切るエレファントム。しかし、もし、それがすべて織り込み済みの行為であったなら?
地面に打ち込まれた刃がびきびき、音を立てて成長していく。そして、それはまるで触手のようにエレファントムへ群がった。
合体する氷の刃。それは巨大な氷塊となりエレファントムの下半身を覆っている。
だが、エレファントムは余裕綽々だった。まだ本人は幽体化している。
無駄な抵抗を嘲笑うように、ふわり、と浮こうとした。……身体が、動かない。
「な、なんだぞぉう……!」
あり得ない状況に混乱するエレファントム。だが、それも仕方なかった。
そも、エレファントムは、そして、オーラムリーフも魔法、というものを完全に理解していなかった。
確かに魔人が放った刃も、オーラムリーフのファイアドライブもある程度、物理法則に縛られている。その、ある程度というのが問題だった。
そも、魔力とはなにか?
魔力、とは人の精神力を依り代とするエネルギー。広義ではレッドルビーの超能力と似て非なるもの。一種の亜種エネルギーだと思えば良い。
それは本来この世界に存在しないエネルギー。4つの力。強い力、弱い力、電磁気力、重力の他に存在する第5の新しきエナジー。それが彼女たち、ヒロインの行使する力だ。
エレファントムの幽体化も似たようなものであるが、彼の幽体化は簡潔にいえば身体をアストラル界。別の位相へと移す技術。しかし、それは魔法とて同じだった。
そも、魔法のプロセスは魔力をアストラル界へアクセスさせ、そこで現象を発生させた後に現実世界へ顕現させる、というもの。
ここまで語ればお分かりだろうが、氷の魔人はアストラル界で現象を発生させたものの、顕現させずにそのまま留め、同じくアストラル界に身体を置いているエレファントムを氷漬けにして拘束したのだ。
……時に、おかしく思わなかっただろうか?
なぜ、オーラムリーフはエレファントムにファイアドライブを当てることができたのか。
実は、あのとき。エレファントムは幽体化を解除していなかった。それにも拘らず、彼女は当てることができた。
あのとき、エレファントムは自身が幽体化を解除していた、と勘違いして弱点を話してしまっていたが、それは間違い。
ハッキリ言おう。彼女、東雲秋葉は間違いなく、魔法少女として天才に分類される。彼女は肌感覚だけで現実とアストラル界のことを理解している。ただ、言語化できないだけで、だ。
そして、無意識のうちに最適解を選び取った。
そう、このように……。
「フレア、ピラァー!」
彼女の言霊とともに炎の柱が轟々、と燃え、エレファントムを拘束する氷を溶かす。
「な、なんと……。あつ、あっついぞぉう!」
……少々火力を間違えて、エレファントムも燃やしているようだが。
それはともかくとして、オーラムリーフの機転によって辛くも脱出できたエレファントムは後ろへ下がる。
「助かったぞぉう、オーラムリーフ」
「わっけ分かんねぇけど、なんとかなって良かったよ」
そういって並び立つ両名。そこへレオーネが話しかけてくる。
「ふたりとも、和やかになってるとこ悪いけど、ここからが本番だよ」
氷の魔人は目の前のオーラムリーフ。秋葉が自身の難敵である、と判断したのだろう。少女を覆っていたはずの氷が凝固していき、まるで鎧のように纏わりついていく。
それはかつて岩の魔人が形態変化したのを想起させた。虚ろな、濁った瞳がオーラムリーフを貫く。
氷の魔人の本気、第2ラウンドの開始であった。