バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~   作:想いの力のその先へ

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自由人、奈緒

 草壁楓は秘密結社バベル本拠地の一室、四天王用に割り当てられた部屋の中で一人、険しい顔をして悩んでいた。

 

「……盛周さまと葛城さま。なにかを意図的に隠してる気がするのだけど。でも……」

 

 それは以前朱音が危惧した通り、ダンゴバックラーの襲撃の件について、盛周たちの行動を訝しんでいたのだ。

 しかし、そのことについて確証をもてない楓。

 それは状況証拠しかない、というのも正解であるが、それ以上に彼女のバベルに対する、そして盛周、即ち大首領に対する忠誠心の高さが彼ら二人を疑うことをよしとしなかった。

 

 忠義と疑心、揺れ動く二つの感情に挟まれ、頭を抱えて悶々とする楓。

 そんな楓の耳に部屋のドアがノックされる音が聞こえる。

 基本彼女の部屋に来客、というのはないので珍しい、と思いつつ入り口を見て返事をしようとした楓。

 しかし、その前にノックした人物の声が聞こえてくる。

 

「やあやあ、楓くん。私だ、奈緒さんだよ。部屋に入れてくれないかい?」

「……うぇ、奈緒さま?!」

 

 本当に想定外の来客に、楓は動転した声をあげる。そして、すぐに部屋のロックを解除して彼女を、同じ四天王にして楓の教育担当者だった青木奈緒を部屋に招き入れるのだった。

 

 

 

 

「それで奈緒さま、どのようなご用件で……?」

 

 奈緒を部屋の中に招き入れてしばらくした後、楓は来客用の飲み物と、菓子類を準備して彼女を持て成しつつ質問していた。

 そんな彼女に対して、奈緒は菓子類をまるでハムスターのように口の中一杯に頬張っている。

 その姿を見た楓は苦笑いを浮かべる。この方の自由人ぶりは相変わらずだ、と。

 

 正直そのことで、研修中だいぶん苦労させられたが、結果としてそれを経験したことで予想外のハプニングが起きた時も冷静さを失わないようになれたのだから、良い思い出なのだろう。多分。

 まぁ、だからといってまた同じ目に遭いたい、とは欠片も思わないのだが。

 もっとも、現実は……。

 

「結局、振り回されてるのよねぇ……」

 

 前回のサモバットの件もあり、少し徒労感を感じていた楓は思わずぽつり、とこぼす。

 だが、幸か不幸かその呟きは奈緒に聞こえていなかったようで、彼女は不思議そうに問い掛けてくる。

 

「んむ……? どうかしたのかい、楓くん?」

「いえ、何も……。それよりもどんなご用件で?」

 

 一連のことで疲労を感じていた楓は雑な対応ながら、一応の誤魔化しをしつつ、先ほどと同じように、というよりも話題を変えるために、ふたたび用件について問い掛けた。

 それでようやく用事のことを思い出したのか、奈緒は手をポンッ、と叩いて話しはじめる。

 

「あぁ、そうだった、そうだった。……えっと、なんだったけ? ……そうそう、新しい怪人についてだった」

「……もう完成したのですか?」

 

 奈緒が出した話題に、楓は不思議そうな顔をする。

 確かに汎用怪人コアが出来た報告は受けているが、それでもこんな早い段階で新しい怪人が製作出来るものなのか、と訝しむ。

 そもそも、怪人コアについても起動に関する報告を受けていないのも、その考えに拍車を掛けている。

 そんな楓の様子がおかしいのか、奈緒はころころ笑いながら話を先に進める。

 

「なんだい、楓くん。疑っているのかい?」

「はい……、って、あ……」

 

 奈緒の疑っているのか、という問い掛けに反射的に即答し、しまったという顔をする楓。

 そんな彼女を見て、奈緒はついに耐えきれなくなったのか――。

 

「……ぷ、あっはははははははは――」

 

 ――爆笑していた。

 

 奈緒を怒らせたかもしれない、と内心ヒヤヒヤしていた楓は、とりあえず今のところは怒っていない。ということを確信し、ほっ、とため息を吐き安堵していた。

 

「あぁ、おかし……。久々に笑ったよ」

 

 そんな奈緒の正直な感想を聞いて、楓は少し恥ずかしくなり俯きながら縮こまる。

 その楓の様子に、奈緒はまたもや笑いそうになるが、そうすると話がいつまでたっても進まないため、我慢して先に進める。

 

「……くくっ。――はぁ。そうそう、怪人について、だったね。ん~、そもそも楓くん?」

「……はい」

「いくら奈緒さんが天才でも、そんな一朝一夕で新しい怪人を造る、というのは流石に無理だよ?」

「……ちょっ――!」

 

 今までの話の流れをぶった切る奈緒に楓は驚愕しながら、声にならない突っ込みを入れる。

 主に、それじゃあ今までのやり取りはなんだったのか、という意味を込めて。

 それに対して奈緒は、早とちりした方が悪い。と言いたげにため息を吐く。

 

「はぁ……。当然だろう? これから汎用怪人コアの起動実験にその他諸々。やることは一杯あるんだからねぇ」

「……うぐぐ」

 

 何を当たり前のことを。そんな感じで吐かれた言葉を聞いた楓は悔しそうに呻く。主に、非常識人に常識を吐かれた、という意味合いで。

 そんな悔しそうな楓を見つつ、奈緒は――。

 

「まぁ、理論上は何も問題ないからね。そう遠くないうちに完成すると思うよ? 楓くんの()()()()()()

「……副官候補?」

 

 奈緒が言ったことが、どうやら初耳だったようでおうむ返ししてしまう楓。

 その彼女の様子に、奈緒は訝しげに聞く。

 

「……ん? 大首領から何も聞いてないのかい?」

「……は、はい」

 

 楓からの返事を聞いた奈緒は、顔をひきつらせて冷や汗を流す。

 

「…………えっ、と。これはもしや、やっちゃった。というやつかな……?」

「……え、えぇ?」

 

 奈緒の様子に今度は楓が困惑する。

 そのまま部屋の中には微妙な雰囲気が流れる。

 だが、奈緒はここまで来たら、毒を食らえば皿まで、の精神でさらに情報を付け加える。

 

「ここまで言ったら今さらだねッ! ついでに言うと怪人は二体。前線指揮官タイプと参謀タイプが予定されてるよっ。じゃっ――!」

 

 そこまで一息に話した奈緒はしゅたっ! と、敬礼のように手を伸ばすと、そそくさと部屋を出ていく。

 嵐のように去っていった奈緒を見送ることになった楓は――。

 

「……えぇ?」

 

 呆然とした様子で困惑の声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 楓の部屋を慌てて立ち去った筈の奈緒。しかし、部屋を出た彼女にそのような様子はなく、悠然とした態度で歩みを進める。

 

「はてさて、これからどうなるか……」

 

 そう言いながら不敵に笑う奈緒。

 

「たしかに指揮官タイプと参謀タイプの怪人。それについて、完成はまだまださ。でもね――」

 

 独りごちながらにたり、と口角をあげる奈緒。たしかに彼女が楓に言った言葉は嘘ではない。しかし――。

 

「強化型怪人が完成していない、なんて()()()()()()()()からねぇ――」

 

 くつくつ、と奈緒は抑えながらも心底楽しそうに笑う。そこには、先ほどまで自由人然とした彼女の姿はない。

 

「さて、では近く楓くんのお手並みを拝見といこうか」

 

 そう言って奈緒は楽しげに笑いながら自身の寝床へと戻るのだった。

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