バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~   作:想いの力のその先へ

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パワードスーツ

 自衛隊立塔駐屯地の演習場。そこに約三十人、小隊規模の面々が集結していた。

 その中の一人、庭月(にわつき)隆信は緊張を隠すように飄々とした態度で仲間へ話しかけていた。

 

「しっかし、遅いっすねぇ。隊長たち。……もしかして、迷子になってる、とか?」

「それはあり得んだろ。それより、あまり無駄口を叩くなよ?」

「へいへい……」

 

 そう同僚にたしなめられて、庭月は気のない返事をすると口を閉じる。

 もっとも、あくまで口を閉じただけで庭月は同僚たちを観察するように目だけを動かして辺りを見回していた。

 そして分かったことは他の同僚たちも彼と同じように、多かれ少なかれ緊張している、ということだ。

 実際、先ほど話しかけた同僚はよく見れば、比較的涼しい時間帯にも関わらず額に汗をかき、他にも落ち着かない様子で辺りを見渡す者。緊張をほぐすため深呼吸を繰り返す者など様々だ。

 

 それもある意味必然だ。

 なぜならこれからここに来るのは、ヒロインとして秘密結社バベルを壊滅させたレッドルビーとブルーサファイア。

 いわゆる英雄と呼ぶべき二人だからだ。

 

 たしかに庭月や、ここにいる面々は鮭延の部下として二人と共同戦線を張っていた。

 だが、いや、だからこそ彼らは彼女ら二人の強さを、頑張りを知っている。……同時に彼女らが年端のいかない少女だということも。

 

 彼らも、庭月も含めて自衛隊の隊員と戦場に立つ、力なき人々を守る。という決意、覚悟はある。

 だからこそまだ未成年にも関わらず、同じような覚悟を持つ二人に敬意を、尊敬の念を抱いている。

 

 ……かつて、自身が彼女らと同じ年の時に同じ覚悟を抱けたか? 実際に行動を移すことが出来るのか?

 庭月は、正直無理だろう、と思っている。たとえ彼女らと同じ力を得ていたとしても、だ。

 だからこそ彼らは彼女たちに敬意を抱くのだ。

 

 そんな彼女らと訓練とはいえ、平時に会うのだから多少の緊張も抱くというものだ。

 そんな思いを馳せている庭月だったが、遠くから自身たちの指揮官。鮭延の声が聞こえてくる。

 

「小隊、集合しているな!」

『――はっ!』

 

 日頃の訓練の成果もあるのだろう。他の人員はわからないが、庭月は無意識のうちに反応して声を出す。

 

「よろしい。――各員注目!」

 

 鮭延の言葉とともに隊員たちの視線は彼に、そして近くにいたレッドルビー、ブルーサファイアに集まる。

 その視線にどこか居心地悪そうにするレッドルビー。それに対してブルーサファイアは自然体のままでいる。

 そんな対照的な二人を見て、庭月は一瞬微笑ましそうに顔をほころばせるがすぐに真剣な表情に戻り鮭延の次の言葉を待つ。

 

「諸君も知っていると思うが、合同訓練に参加していただくバルドル所属のレッドルビーさん、ブルーサファイアさんだ! 今回、お二人には仮想敵(アグレッサー)として怪人役をお願いすることになる。わかっているな!」

『はっ!』

 

 鮭延から語られた今回の訓練目的を聞いた隊員たちは問題なく返事する。

 むしろ問題なのはレッドルビーの方で、どうやら詳しいことを覚えていなかった。もしくは忘れていたようで目を白黒させている。

 その証拠に、彼女の有り様を見てブルーサファイアは呆れたように頭を抱えていた。

 

 そんな二人を尻目に鮭延は庭月を呼び出す。

 

「――庭月陸曹長!」

「――はっ!」

「彼女らに今回テストするパワードスーツを見せて差し上げろ!」

「……はっ!」

 

 鮭延の指示に内心、俺っすかぁ! と驚きながらも彼は隊員服を脱ぐことで、内に着込んでいた装備をみせる。

 ()()を見て驚く二人。

 なぜなら、それはどことなくブルーサファイアの衣装を彷彿とさせるものだったからだ。

 

「……あれって、霞の……?」

「そんな……。あれは、今の技術では再現は難しい筈……」

 

 驚きのあまり、無意識に口ずさむ二人。特にブルーサファイアが言うように彼女のパワードスーツは当時のバベルが技術の粋をもって開発したものであり、いくら日本という国が総力を上げたとしても、そうそう製造できるものではなかった。

 事実、バルドルでも彼女のパワードスーツを完全に解析することは出来ず、整備ももともとバベル所属の霞が主導することではじめて可能になる、というレベルなのだ。

 

 そんな二人の反応を見て満足そうに頷く鮭延。

 確かに霞の、ブルーサファイアレベルのパワードスーツを開発するのはかなりの難業だ。それは間違いない。

 だが、それはあくまで彼女が使っているパワードスーツ、という前提。

 性能をダウングレードさせれば、今の技術でも不可能ではない。

 

 たとえば、オリジナル(ブルーサファイア)は着装の言葉とともにパワードスーツを転送、装着するが、はじめから着込む設定ならそのようなものは必要ない。

 同じようにパワーアシストや防御性能なども多少落ちているが、その結果。現状でも何とか製造が可能なレベルに落ち着いている。それでも費用としてはかなりの高額。

 小隊分を揃えるだけで、下手すると戦車小隊並みの費用が掛かる、というのが現状だ。

 もっとも、費用に関しては今後量産体制が整うことで多少抑制できる、という試算も出ているのだが。

 

 ともかく、劣化ブルーサファイアなどと揶揄されそうだとはいえ、それなりの戦力上昇が望める状況で、実質オリジナルのブルーサファイア。それに彼女と互角以上の実力を持つレッドルビーと戦うことで性能評価試験、並びに練度を成熟させよう。というのが今回の訓練目的だった。

 

「驚かれましたかな?」

 

 鮭延の言葉にこくこく、と頷く二人。

 そんな二人の様子がおかしかったのか、吹き出しそうになる鮭延。

 だが、それを我慢して彼は隊員たちに声をかける。

 

「では諸君、10分後に最初の訓練を始める。かかれ!」

『――はっ!』

 

 そうして彼らは準備を始めるのだった。

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