vs アインズ・ウール・ゴウン   作:見世郎

2 / 2
発動 攻性防壁

 ナザリック地下大墳墓第九階層、ロイヤルストレートの一室。

 ユグドラシルプレーヤーの一人、死霊魔法を極めた死の支配者(オーバーロード)にして、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルド長であるモモンガは、ギルド拠点の自室でイスに座り、目の前の鏡を前に何やら手を動かしていた。

 

 モモンガがギルド拠点のNPCたちとともに見知らぬ世界へと転移してしまってから、すでに二日が経過していた。

 

 その間、モモンガは自身の使える魔法・スキルの確認や、NPCたちとの交流による安全の確保、ナザリックの地表面への偽装工作の指示といった急ぎの用件を済ませていた。

 

 続いてとりかかったのが、周辺情報の収集であり、そこでモモンガが効果を発揮すると期待して取り出したのが、先ほどから彼が操作している鏡、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)であった。

 

 このアイテムは、ユグドラシルにおいては対情報系魔法の妨害を簡単に受けてしまうためやや微妙な評価を受けていたが、今のように拠点の中にいながら外の風景を広範囲に確認したい場合においては、かなり便利に使える代物であった。

 

 鏡を使用し始めてからしばらくは、ユグドラシル時代との操作性の違いに戸惑っていたものの、視点の高さを変更する操作を見つけ出すと一気に利便度が上がり、目当てのもの――知的生物、おそらくは人間の集落を発見することができた。

 

 

 モモンガは村の風景の詳細を観察しようと、鏡に対して拡大の操作を行い――

 

 

 

 ――鏡が一面真っ赤に染まった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 ヒイロ・ワンは、目の前で起きた突然の出来事に混乱している二人目の敵兵士に対して、取り押さえるべく腕を振るい一撃を加える。

 先の剣による一閃は、村娘を襲う兵士を文字通り一刀両断してしまった。命の危機に瀕する彼女らを発見してから近づくまでの足の速さも併せて、自らの異常なほどの身体能力を自覚したヒイロは、うまく手加減した拳を放ち、兵士の頭を破裂させずに昏倒させることに成功する。

 

 その場にへたり込むいたいけな少女を救うことはできたものの、ヒイロの心は晴れない。いくら悪人のようだとはいえ、自らの手で人間をいとも簡単に殺してしまったことに衝撃を受けていた。

 

 しかし、その場でいつまでも思い悩むことは許されない。

 

 おそらくは姉妹であろう村娘たちが逃げてきた方向に意識を向ければ、どうやら村人を襲う兵士は彼ら二人以外にもいるらしく、そこかしこで逃走する村人たちの息遣いや悲鳴が聞こえてくる。

 戦争だろうか。

 

 ヒイロの思う正義に照らし合わせれば、この場では彼女ら村人たちを救うことこそが正義だ。

 しかしながら、彼女ら村人たちを救うことは、もしかしたら一概に正しいことだとは言えないのかもしれない。村より大きな枠組みで戦争が行われているのかもしれないし、村の中の犯罪者の一家を国家の兵士が処罰しようとしているだけかもしれない。

 なにより、ここで兵士を悪と決めつけ殺してしまうこともまた、正義に悖る行いと言えるのではなかろうか。

 

 迅速かつ穏便に、村人を襲う兵士たちを取り押さえ事情を聴く。

 

 それが最適解だと判断したヒイロは、さっそく行動を開始しようとする。

 まずは姉妹に防御の魔法をかけ、悲鳴のする方へ駆けつけようとしたその時、

 

 

 ――空に大きく亀裂が走った。

 

 

「なに!?」

 

 ヒイロは驚きとともに空を見上げる。

 

 天が割れるような光景はしかし、一瞬の後には元のような何もない空へと戻っていた。

 異様な現象ではあったが、ヒイロが驚いたのはその視覚的な情報自体に対してではない。

 それ自体はユグドラシル時代に腐るほど見てきたエフェクト、情報系魔法に対する攻勢防壁の起動によるものであった。

 

 

 情報系魔法とその対策。

 それは、ユグドラシルというゲームの中でも屈指の複雑さを持つ分野であり、一部の玄人プレーヤーに言わせればユグドラシルの対人要素における醍醐味であり、ヒイロ含む一般プレーヤーからすればクソゲーのクソゲーたる象徴であるシステムであり、そのとっつき辛さから後期のユグドラシルが新規獲得に失敗した理由の一つに挙げられる要素であった。

 

 かくいうヒイロ自身、クソゲーなどと悪態を吐きながらも、トップランカーには劣るもののその手の情報は収集しており、情報系魔法に対する妨害(ジャミング)と攻性防壁を常時展開していた。

 

 ユグドラシルプレーヤーとしての嗜み、というやつである。

 

 そしてこの転移後の世界においても、攻性防壁は有効なようで、実際今目の前で起動したのであった。

 そしてどうやら、こういった対情報系魔法に対する対策も同じように機能するようで、ヒイロには自身の攻性防壁が不発となった感覚があった。

 

 ここまでなら良かった。同格以上のプレーヤーが相手であれば、攻性防壁は有効なダメージを期待できるものではない。

 メインとなるのは、相手がこちらを補足することへの妨害であり、それは上手くいったようであった。

 

 問題は、ヒイロが驚愕したのは、その先であった。

 

「俺の攻性防壁を上回るカウンターだと!?」

 

 通常、同格のプレーヤーに情報魔法を使われれば、攻性防壁が起動し相手に軽微な損害を与えられる。

 情報系魔法に関して格上だったり、相手が補助魔法を使っていれば、攻性防壁は無効化され不発となる。

 達人級のトッププレーヤーであれば、探知されていることを感知できず、攻性防壁が発動することさえないだろう。

 

 だが、今回はそのどれでもない。

 

 ヒイロの攻性防壁に対し、相手の自動迎撃魔法――攻性防壁が複数発動し、一部は打ち消し合ったりこちらの対策装備で無効化したものの、相手の圧倒的な魔法リソースがこちらを上回り、ヒイロのすぐ近くで相手の魔法が発動したようであった。

 

 これは異常なことである。

 情報系魔法に特化したプレーヤーが、わざわざ情報の取得でなくこちらへ損害を与えることを優先した魔法を発動したか、あるいは各ワールドに一つしかない巨大ギルドのような、万全の防御態勢の中で相手がこちらに探りを入れてきたか。

 

 いずれにせよ、情報系魔法に関して隔絶した実力差がなければ起こりえない事象だ。

 

 

 ヒイロは想像する。この村を襲う兵士たちの背後に、強大な組織が存在することを。

 ユグドラシルプレーヤーに匹敵する魔法の使い手、あるいは魔法団体が存在することを。

 

 ヒイロの胸に一抹の不安がよぎる。

 ここで村を救うことは、その強大な組織に目を付けられる結果になりかねない。

 もしかしたら、この世界には自分を上回る強者がいるのかもしれない。

 

 

 だが、それでも。

 

 目の前で苦しむ村人たちを捨て置くことなど、できようはずもない。

 

 

 ヒイロは意識を切り替える。

 どうやら相手の攻性防壁は、こちらの周囲に悪魔の軍勢を召喚するものらしい。

 すでに何体かの下級悪魔が召喚されている。

 ヒイロにとっては、強さ自体は大したことはないが一部厄介なスキルを持つという程度であるが、村人たちにとってはかなり危険なモンスターであろう。

 

 迅速に事態を解決すべく、ヒイロは駆け出し、剣を振るう。

 

 

 ――この後、ヒイロは巨悪を打ち倒す正義に生きることを誓った。

 その背景には、今回の出来事を踏まえ、この世界にもかなりの強者が存在する可能性が念頭にあった。

 しかし、敵が強大であろうとも、ヒイロは自らの思う正義をなすことを誓ったのだ。

 今度の世界の自分には、それを実行するだけの力があると信じて……

 

 ……あの極悪ギルドがこの世界に居ると知るまでは――

 

 

 

 ・

 

 

 

「失礼します、モモンガ様!先ほどナザリックが魔法的な攻撃を受け、自動攻性防壁が起動しました!これより各守護者は警戒態勢に入ります!」

 

 モモンガの自室の扉を押し開け、黒い羽根の生えた美女、アルベドが部屋に入るなりそう報告してきた。

 最上位者に対して礼を失した行動であり、普段であれば眉を顰められるどころではすまない行いではあるが、モモンガの背後に控えていた執事、セバスは何も言わない。

 モモンガの操作していた鏡の変化を受け、非常事態と理解していたためである。

 

 アルベドはその後も、起こった事象と今後の体制について詳細な報告を続けるが、その間モモンガは骨の両手で顔を覆い、何も言わない。

 

 いや、何も言えない。

 

(失敗したー!!)

 

 モモンガは何が起きたか正確に把握していた。把握できてしまった。

 

 なぜならこの事態を引き起こした原因が他ならぬ自分自身だからだ。

 

(対探知に対して何の対策もせず情報系魔法を使って反撃を受けるなんて。ぷにっと萌えさんに聞かれたら何て言われるだろう……)

 

 おそらく、自分が安易に遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を使用してしまったせいで、現地の存在か転移したプレーヤーかはともかく何らかの攻性防壁を起動させてしまい、通常ならアイテム使用者へ攻撃が届くところギルド拠点内にいたため、ナザリックの自動防衛システムが起動してしまったのだろう。

 

 ゲーム時代なら絶対にしないような凡ミスだ。

 

(NPCたちの忠誠に応えるためにちゃんとした支配者になるんだ、って思った矢先に……)

 

 モモンガは頭を抱える。

 

 自分のミスでNPCたちを失望させてしまうわけにはいかないが、かといって事の顛末を伝えないというのはもっと駄目だろう。

 

 実際、目の前のアルベドは、ナザリックの防衛機能が発揮された謎の魔法攻撃に対し、転移初日に外に出たセバスが補足されていたとか、マーレによるナザリック周辺の草原の変化が観測されていたとか、様々な可能性を挙げ、攻撃したきた勢力の規模に応じた対応策の検討を始めている。

 

 相手がナザリックを狙って攻撃してきたと思っているがゆえの行動である。

 

(そうじゃない、群発的な事故なんだ、って伝えないと……)

 

 ここは、たとえ自分がミスしたことを伝えてNPCたちに失望されたとしても、真実を伝えるべきだろう。

 

 転移してから3日、支配者に相応しい自分を演じてきたつもりだったが、さっそく化けの皮がはがれてしまった。

 結局、自分はこんなくだらないミスをするような存在でしかないのだ。

 NPCたちに失望されることは恐ろしいが、自分が犯したミスは包み隠さず報告するのが組織としてあるべき姿だ。

 

 支配者としての自分は嘘っぱちであったと、誠心誠意謝ろう。

 

「アルベドよ。実はな……。そう、実は、今回ナザリックが攻撃を受けてしまった原因は、すでに予測がついているのだよ」

 

 そうアルベドに語りかけ、事の顛末の推測を、自らの失態を含め隠し事なく伝える。

 

 

 モモンガの話を聞いたアルベドの瞳に理解の色が広がる。

 

 さて、彼女はこんな自分に失望してしまっただろうか。だが、自分はこの程度の人間でしかないのだ。

 そう思いながら彼女の言葉を待つ。まるで判決を言い渡される前の被告人のように――

 

 

 

 ――結果、この攻撃を仕掛けてきた何者かは、ナザリックではなくモモンガ個人への攻撃を行ったと解釈され、NPCたちからより一層の敵意を向けられるようになった。

 

 話を聞いたデミウルゴスに至っては、「未知なる世界の潜在的敵対勢力に対する威力偵察を行うだけでなく、我々に情報戦のいろはについてその身をもってご教示いただけるとは、さすがは端倪すべからざる御方!」などとモモンガを称賛し、「しかし今後は、わずかにでも御身を危険に曝すような行いは控えていただけると……」などなどこちらを諫めてくる有様だ。

 遠回しに、そんなミスをするんだったら勝手に行動しないでほしい、と言われているのかとも思ったが、どうやらそうではなく純粋にこちらの身を案じての発言のようだ。

 

 その後はアルベドとデミウルゴスを中心とした守護者たちで、モモンガへ狼藉を働いた不届き者をいかにして追い詰めるか、という議題で話を進めている……

 

 

……どうしてこうなった?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。