2009年4月19日(日)
「ウィザード…これも何かの予兆なのか?」
昨夜見た夢の内容に、綾は一人休日の自室で考えた。彼が目の前に置いたカード、ディケイドに目覚めた際、初めて変身した別のライダーであるそれは、やはり他と同様、力を失って灰色に染まったままである
「この夢を見た時も、そのほぼ同時期にグロンギが動いた。なら近い内にファントムが動く…と考えるべきか」
これまでに起きた事実をまとめ、これから始まる出来事を想像し、辟易する綾。だがそれをする間も惜しい程に、物語とは動くもの。だからこそ綾は思考を切り替え、私服に着替えて部屋を出た
「おはよう湊」
「…おはよう」
エントランスへ降りると、丁度テレビを見ていた湊と鉢合わせる。そして湊が見るテレビに目を向けると
「…特撮か何かか?」
「…『不死鳥戦隊フェザーマン』、知らない?」
どうも湊が見ていたのは、子ども達に人気の特撮番組で、日曜の朝放送される五人組で悪と戦う勧善懲悪ものの類らしい
「この年だとそう見ないな~」
「僕もついてたら見る位。でも結構面白い」
そう話しつつも、湊の目線はテレビに釘付け。案外子どもっぽい所がある様子
「俺もいいか?」
「構わない」
そしてそんな彼と付き添う綾も、物好きなのかもしれない
「うい~っす、お前ら朝から早ぇなって…お前ら何必死に見てんだ?」
その後上から降りてきた順平が見たのは、テレビに釘付けになった二人の姿だった
時は過ぎてお昼頃、綾と順平は暇を持て余したのでポロニアンモールに向かっていた。湊はと言うと、『時価ネットたなか』なる通販番組を見る為に別行動を取っている
「な~んか変わってるよな、湊も綾もさ?」
「いきなりどうした?」
「いやさ、普段は性格が真反対にすら見えんのに、朝っぱらから一緒にフェザーマン必死に見たりとかするんだぜ?変わってると思うだろ普通?」
「いいじゃねえか。他人と同じものを共有できるってのは悪いことか?」
「悪いとは言ってねえけどさ?綾みたいな明るい奴と湊みたいなクール系が、たまに似てるなぁとか考えちまうんだよ」
そんな他愛ない話をする中で、二人はいつの間にか駅まで辿り着き、湊を待つべく駅前でだべることにした
「…眠い」
一方、番組を見終えた湊は寝ぼけ眼で巌戸台駅前へ向かっていた。正直余り乗り気では無いのだが、行かなかったら行かなかったで面倒になると思い、彼は仕方なく足を進める
「やあ、初めまして。有里湊くん」
「…?」
そこへ突如声を掛けられた湊は、呼ばれた方へ体を向け、足を止めた
「私は鳴滝、君に警鐘を鳴らす者だ」
「…警鐘?」
その邂逅は何を意味するのか、この先に何が起こるのか、知る者は誰もいない
「そういや綾、俺らとクラス違うけど上手くやってんのか?」
湊が鳴滝と接触するその頃、暇を持て余す順平の一方的な質問責めを受ける綾だった
「おぅ、それなりに皆とは話すし、隣の奴とは特に仲良くなった」
「ほほぉ、流石コミュ力高いだけはあんね~!そんで?ソイツは男?女?」
「女だけど、お前が期待する様な事は起きやしねえよ」
「ちぇ、つまんねぇの」
何気ない高校生としての会話、そんな普通の日常を心地良く感じていた綾だが、彼は表情を引き締め、話題を変える
「順平、お前もこれから"非日常"に首突っ込む身だ。先に少しだけ、腹割った話をしたい」
「へ?な、何だよ急に…」
「正直、順平にはこの戦いには参加してほしくなかった」
「っ!」
そよ言葉を聞いた瞬間、順平の眉間に皺が寄った
「これは俺の…本心だ。…文字通り命懸けの戦いで、何でお前は戦うんだ?」
「…そんなの、影時間で人を襲うシャドウから皆を守るために」
「そんな大義名分なんてどうでもいい、俺は伊織順平に聞いてるんだ。何故命を懸ける?」
綾の目は鋭く、順平の目を捉え離さない。彼が問うた事は、それだけ真剣みを帯びたものであることを物語るように
「何だよ偉そうに…自分は何でも正しいですよってか?」
だがその思いは、かえって順平の心を荒ませた
「お前が参加した時期って俺と変わんねえんだろ?ちょっと周りからチヤホヤされていい気になってんじゃねえの?」
「…そう見えるのか?」
「ああ見えるね!エリート気取ってるか知らねえが、俺だってやる時はやるんだ!自分で決めた事を邪魔すんじゃねえ!それとも自分の見せ場取られるからって僻んでんのか!?」
明確な怒りをぶつけた順平の肩は上下に揺れる。しかし綾は一度溜め息を吐くだけで、言い返しはしなかった
「…分かったよ、なら聞かない。でもこれだけは言うぞ。今、お前が"楽しい"って思ってるんなら、一度認識を改めた方がいい」
「っ!?」
順平の顔が怒りから驚愕に変わる。綾はそれだけ確認すると、何故か笑みを浮かべて告げる
「何で分かる、って顔すんなよ。こういうの慣れてるだけだから」
「え、あ…調子狂うな~ったくよ!」
シリアスな空気はそれを引き金に霧散する。二人の顔はその後から険しさが嘘のように消え、意味もなく笑ってしまった
「う、うわああああ!!」
「「っ!!」」
だが直後、二人の前で事件は起きた
「ディケイドは危険だ。存在するだけで世界の秩序が乱れ、破滅をもたらす悪魔なのだよ」
湊が謎の男、鳴滝と出会ってから、彼はディケイドの危険性について聞かされていた
「…それで僕に、どうして欲しいの?」
「分からないか?君は仮面の力、ペルソナを宿しながら他とは違う力に目覚めている。恐らくディケイドと渡り合えるのは、その力を宿す君しかいない」
湊を指差す鳴滝に、湊は無表情な顔を向けたまま微動だにせず、話を聞き続ける
「君が世界を救うのだ、湊君。そのためならば、私は君に力を貸そう。全ては世界の平和のためにね」
「……」
その言葉を最後に、その場に沈黙が訪れる。だが湊がゆっくりとした調子で姿勢を直すと、ハッキリ告げた
「どうでもいい」
「…何だと?」
「綾は破壊者なのかもしれない…でもそれ以前に、彼は彼だ。…八笠綾を、僕は信じる」
「救済よりも破滅を取るか…愚かだが、まあいい。いずれ分かるだろう、君が選んだものの愚かしさが!ふはははは…」
意志を宿した目で拒絶を示した湊に、不気味な笑い声を残して消え去る鳴滝。しかし、周りはその変化に気付かぬまま、休日を過ごす
「…早く行こう」
そして湊もまた、先の出来事が無かったかの様に、駅前に歩を進めた
巌戸台駅前にいる人々を突如襲う鬼の軍勢。改札辺りから現状を見回した順平は、焦りと困惑に包まれた
「な、何だぁ!?コイツら、どっから来たんだよ!」
「ちっ!順平!避難を手伝え!」
「は!?綾!」
しかし綾は混乱する順平をよそに、鬼の軍勢…ファントムへ駆ける
「早く逃げろ!」
一番近くにいたファントムへ跳び蹴りを入れ、襲われていた一人を助け起こすと、続けざまに近づいて来たファントムの攻撃を屈んで避ける
「はあ!」
ミドルキックからのエルボーがファントムの顔面に叩き込まれた
「おら、よっと!」
後に綾は別のファントムへ2歩助走をつけると、前へ飛び込んで横に回転して蹴りを放つ。更に追撃のため回転の勢いをそのままにシンバルキックを顔面に蹴り込み、ファントムを吹き飛ばした
(体が軽い…ベルトの影響か?)
近くにいる人間を片っ端から逃がす綾を、順平はただ立ち尽くして見た
「すげぇ…」
だが、つい出てきた感嘆の声とは裏腹に、順平はどこか皮肉げな表情を浮かべており、その雰囲気は暗い
「ぐっ!う"ぁ…」
「っ!?ちょ、大丈夫っすか…って」
その時、順平の近くで二十代の男が胸を押さえて倒れた。だが彼を見た順平は、思わず息を詰まらせる
何故なら彼の体に、"無数の亀裂"が走り、ひび割れを起こしていたのだから
「おい…おい!しっかりしろ!」
「っ!?マズい、順平離れろ!」
もがき苦しむ男に必死な様相で声を掛ける順平だったが、綾が順平の側にいる男を見た瞬間、最悪の事態に気がついた
「ちっ!くしょっ、邪魔だ!」
順平の元へ駆け付けようにも、綾を阻むようにファントムが彼を囲み、執拗に動きを阻害する
「ぁ、あ"…あああああああ!!」
次の瞬間、紫のヒビが全身に及んだ男は絶叫し、その形をボロボロに崩した…
「ハァァ"ァ"ァ"…」
「な…ば、けもの…!」
そして男が次に姿を見せた時、彼は人ではなかった
「あ?何だこのガキ、死ねよ」
「っ!?ひっ!」
変わり果てた姿となった男は、強靭な肉体を硬い外殻で覆い、黄色く光る一つ目を順平に歩み寄り、右手に鋭い剣を握った
順平が恐怖で竦む中、綾は鬼のファントム、『グール』に取り囲まれ、外側からは見えない程壁を作られて身動きが出来ない。そして一つ目のファントム、『リザードマン』の凶刃が順平に振りかざされた
「えい」
だがその瞬間、何故かその場にはそぐわない無気力な声と共に、カーンッ!といった小気味よい音がリザードマンの後頭部から響いた
「……へ?」
「あぁ"?誰だふざけやが「とお」ぶほっ!?」
本日二度目にわたる珍プレイが発生するが、今度は振り向いたリザードマンの顎に高速で横振りされた鉄パイプがヒットし、リザードマンはたまらずよろけてしまった
「…大丈夫?」
「み、湊!」
順平のピンチを救ったのは、遅れて到着した湊だった。湊は緊急事態でも変わらずポーカーフェイスを貫いてひしゃげたパイプを放り捨てると、漸く状況を理解した順平は一気に表情を明るくさせた
「変身」
『kamen ride! decade!』
その時、一カ所に固まっていたグールが一瞬で四方へ吹き飛んだ。吹き飛ばした十五のシルエットは中心の男を囲むように配置され、次の瞬間その男へ収束し、黒のスーツにマゼンタと白、緑の複眼が輝き、顔に長方体のエネルギーが差し込まれ、バーコードのように配置されて仮面を形作る
「え、ちょっ!?今度は何だってんだぁ!」
「…あれは綾」
「知ってるっての!あれ何なんだよ!あれがペルソナなのか!?」
「仮面ライダー…それが名前」
慌てる順平とは対照的に冷静な湊だが、その目は確かに仮面の戦士、ディケイドを捉えていた
「くっ、そがぁ…このガキただじゃおかねえ!」
「こっちのセリフだ、ファントムさんよ」
「ぐおっ!?」
体勢を整えたリザードマンが怒りの様相で湊を睨んだが、ディケイドはすかさずライドブッカーをガンモードに切り替えて発砲する
《オオォォォ!》
「おっと、はっ!」
しかし吹き飛ばされたグールが再びディケイドへ襲い掛かる。それをディケイドはカウンターパンチで応戦し、別の一体から来る槍の一撃を体を反らして避けた瞬間に手刀で後頭部を殴った後、回転しながら背後のグールを後ろ蹴りで遠ざける
「はっ、はっ!使ってみるか」
『attack ride!』
横合いから来る槍を素手で受け止め掌低を顔面に叩き込んだ後、ディケイドはバックルのサイドハンドルを開き、ブッカーから新たなカードを取り出して装填した
『blast!』
ブッカーを再びガンモードに切り替え、周囲のグールに銃口を向けると、ブッカーの周囲にマゼンタのエネルギー体で複数の銃口が出現し、再現無く銃弾が発射され、周囲のグールを一掃する
「はあっ!」
《オォォォォッ!!》
そして仕上げとばかりに銃を360度に向けて回転しながら掃射すると、グールは力尽き爆散した
「厄介だなテメェ!」
「こっちのセリフだって言ってんだろ!」
そこへすかさずリザードマンが剣を振りかざして飛びかかるが、ディケイドはそれを回転しながら後ろへ退き、ブッカーをソードモードに切り替えて応戦する
「はっ!はっ、おら!」
「ぐぁっ!」
リザードマンの剣よりも早く剣を振り袈裟斬りを叩き込み、一歩踏み込んで縦斬り、応戦の為に横に振られた敵の剣を左手ストレートを顔面に入れることで空振りさせた後、回転を加えた後ろ蹴りから横に腹を斬り、後ろへ後退させた
「トドメだ」
『attack ride! slash!』
「っ!ヤバイ!」
だがディケイドの決め手となる一撃が放たれる直前に、リザードマンは命を危機を感じ取り即座に戦線を離脱した
「ちっ!逃げるな!」
「勝負は今度にしてやるよ!次は必ず殺す!そこのガキ共諸共なぁ!」
マゼンタの軌跡を残して空振りした剣は虚しく、リザードマンはそのまま壁をトカゲの様に這って登り、姿を消した
「ふぅ、逃げ足が速いな」
だがディケイドも追うことは無く、サイドハンドルを開いて変身を解除し、綾へ戻る
「あ~取り敢えず…事後処理頼むか」
綾へ戻った第一声は、今からの事を想像して辟易している様子を如実に示していた
その日の夜、取り敢えず事後処理と報告の為に寮へ帰り、三人はその後各々の部屋へ戻った
「…はあ」
だが一人、順平は屋上へ上がり、夜空を眺めながら溜め息を吐く
「なっさけねえ…何にも出来なかった」
順平は先程の戦闘について考えていた。そして同時に、あの戦いの中で己の無力さを悔やみ、落ち込みと苛立ちを覚えていた
「確かに、親父といるのが嫌で、都合よかったから来たようなもんだけどさぁ…正直無理っしょ、あんな化け物といきなり戦えとか…!」
苛立ちは増すばかりで、彼は拳に力が入りは歯噛みする
しかし彼の言うとおり、伊織順平とはつい昨日までそこいらの人間と変わらない一般人なのだ。そんな彼が唐突に、命を狙う化け物へ臆することなく戦うなど、無理からぬ事である
それでも順平は、見てしまった。そんな一般人から逸脱して間もない二人の転入生を。命を顧みず人を助け、殺される寸前の自分を救い出した男を、彼は目の当たりにした…だからこそ、順平は悔やみ、苛立った。"自分に無いものを持つ二人"へ、軽い嫉妬を抱いたのだ
「……あ~ダメだ、悩むの面倒くさくなったわ。今度何かあったらぜってぇ活躍してやる!」
だが順平次に切り替える事にしたようで、空に向かって拳を掲げた後、眠気に任せて部屋に戻るのだった
2009年4月20日(金)
ー青年は悩んだ。嘗て救えなかった少女と同じ面影を持つ少女を救わんとする、己と同じ面影を持つ少年を救うべきか
ー青年は迷う。その選択が即ち、世界を破滅に導く選択であり、己はそれを是とする事が、ライダーとして正しいのかどうかを
ーしかし青年は、ふとある時、とある男に出逢う…彼は破壊者。世界を旅する仮面の戦士ディケイド、またの名をー
「おい、八笠!起きないか!」
「ふぁぶっ!?」
昼休みにこだました奇声は、只でさえ注目される来訪者の元へ更なる視線を集めることとなる
涎を垂らして寝ていた綾がひっぱたかれ、文字通り叩き起こされた人物に寝ぼけ眼を向けた
「…あら?桐条さんどうしました?」
「用件があるから来た。一昨日話していた事を覚えているか?」
件の来訪者、美鶴は腕を組んで彼を見下ろすが、綾はマイペース気味に伸びをして欠伸を一つすると、改めて彼は彼女へ向き合う
「一昨日って言うと…探索の?」
「あぁ、私は色々と準備がある。そうだな…0時前に校門前に集まってくれ」
「分かりました。この事について隣の連中には?」
「既に伝えてある。ではな」
それだけ伝えて、美鶴は踵を返すが、ふと思いついたように肩越しに振り返ると、綾に告げる
「それと、今回については君の参加は見送らせてもらうからな」
「はい?」
一瞬、言われた意味を理解出来なかった彼だが、美鶴が去った後に正気に戻ると、何とも微妙な表情で頭を掻いた
「あぁ…大体分かった、かな」
その言葉に何が込められているのかは、この時点で知るのは彼のみであった
「あれ?山岸がいねえ?…なあ、どこ行ったとか知らねえかな?」
「え?休みに入って教室から出たのは見たけど」
「ふむ、図書館かな?先に飯食って構わねえよな」
そう言って彼は近くのグループに交じり、コンビニのパンの封を開ける
少年少女は、これより挑む。破滅を告げる鐘を鳴らす戦いに
次回は11月2日午前0時です