深夜の月光館学園前にて、彼ら特別課外活動部は予定通り校門前へ集合していた
「全員揃ったようだな」
「で、結局なんなんスか?そのタルなんとかって?一体どこにあるんスか?もう揃ってるんだし出発しなくていいんスか?」
「だーっ!!あんたは有里くんとか八笠くんみたいに落ち着けないの!?」
順平の遠足前の様なはしゃぎように苛立つゆかりだが、それでもなお湊、綾の二人は落ち着いたもので、静かにその時を待っていた
(今まで気付かなかったけど、この辺りの光景どっかで見たような…?)
(…眠い)
しかし残念、二人はただ物思いに耽ったりマイペースなだけであった
「まぁ待て、もうすぐ時間だ」
そして明彦が開いた携帯の時計が、午前0時を告げる
隠された時間は顔を出し、人は棺の中へ眠りにつく。やけに大きい月は緑の空を照らし、沈黙の街を見下ろす
その時、"ソレ"は文字通り"生えてきた"
月光館学園の校舎が突如形を崩し、地面から次々と、それでいて物理法則を無視しながら無秩序に建物が好き放題伸び、"塔"を作り上げていく
「これが…影時間にだけ現れる"迷宮"、『タルタロス』だ」
正に天を衝くがごとく、タルタロスは彼らの前にその姿を晒した
「なっ…何なんだよこれ、俺らの学校!どこ行っちまったんだよ!?」
「…あ~、やっぱりここか」
初めて目の当たりにした順平は困惑して声を荒げるが、綾は何故か答え合わせを終えたような感想を述べた。そう、彼がここタルタロスへ訪れたのは"二度目"なのだ
彼が謎の男、鳴滝に拉致されトルーパーズ百人部隊と戦わされた場所こそ、この塔のエントランスだったのだ
「影時間が終われば、また元の地形に戻る」
「てかオカシイっしょ!?何でウチの学校ンとこだけこんなっ!……分からないンすか?」
「…恥ずかしながら、現状では把握しきれていない」
この光景を見慣れている面々が冷静過ぎるせいで余計混乱していた順平だったが、彼らの態度からある程度察することで、冷静さを取り戻した
「いいじゃん別に、きっと色々あるんでしょ?事情が…」
「っ?岳羽?」
その時、ゆかりが素っ気なく放った言葉に疑問を抱いた綾だが、それも会話の流れから口には出来なかった
「ここには絶対なにかある。影時間を解くカギ、またはそれに準ずるものがな…そのための探索だ。ワクワクするだろ!?」
「明彦、意気込むのは勝手だが探索は行かせんぞ」
「う、うるさいな!何度も言うな!」
一同はタルタロスの中へ潜入すると、辺りを見回しながら中央部へ集まった
「おお、中もスゲェな…」
「ここは所謂"エントランス"だ、迷宮はそこの階段の上の入り口を抜けてからだ」
そして美鶴は一旦間を置いて、引き継ぎ明彦があることを口にする
「それと暫くは有里、岳羽、順平の三人で探索に行ってもらう」
「「えっ!?」」
「あれ?もしかして皆聞いてなかったの?」
明彦の言葉にゆかりと順平が驚きの声をあげると、綾は現状の把握が食い違っていた事に驚いた。ただ湊はいつも通りだが、多少は綾について疑念を抱いたらしく言葉を放つ
「真田先輩はともかく、綾が行かない理由を聞いても?」
「綾は昨日も戦闘していたが、本来はもう少し療養しないといけない身だ。それに探索と言っても初めの階のみを予定している。無理をさせるつもりはない、私はそのバックアップを担当する立場なのでな。共には行けない」
そこで一旦話を区切ると、美鶴は三人を見回す
「あと、探索にあたってリーダーを決めておこうと思うが…有里、君がやってくれ」
「え!?何でっスか!?こいつ隊長っぽくないっしょ?」
「順平~、それっぽいだけじゃ意味ねえんだぞ?」
順平の不満に苦笑しながらツッコミを入れると、順平も図星を突かれて息を詰まらせた
「あのね、彼はもう実戦経験者なの。私もだけど…」
「え、マジ…?」
更に追い打ちを掛けるように、ゆかりの一言。この時点で順平のテンションは下降気味となる
「選んだ理由だが、岳羽は有里よりも実戦を積んでいるが少々冷静さに不安がある。有里にはそれを担える何かがある…そう判断した。それと順平、そいつらと同じ様に、ちゃんとペルソナ召喚出来るのか?」
「うっ…や、やってやるっスよ!」
明彦が自分のガンベルトから銃を抜き、米神に当てると、順平は一度唸るが、威勢良く返した
そこまで言い終えると、美鶴はあらかじめ用意しておいたメンバーそれぞれの武器とガンベルトを渡した
「よし、それでは…有里?どうした」
「いえ、少し…」
だがそこで、湊が突然周りから離れ、迷宮の階段脇の空間に向かって歩き出した。周りにとって、そこは"何もない場所"…しかし彼には見えていた。宙に浮かぶ謎の"青い扉"が
(周りには見えていない…?俺と湊だけが見える扉?)
そして彼、八笠綾も同じく、その扉が見えていた
その後湊はポケットから不思議な形状の青い鍵を使い、扉を開いた
「…ここは」
湊は開け放たれた扉へ入ると、ここ最近で見慣れたあの青いエレベーターにいた
「成る程、ここに繋がってるなら俺たちしか見えないよな」
「っ!綾」
すると背後から聞こえた声に振り向くと、綾が当然の如く立っていたことに少し驚いた
「お待ちしておりました、二人の旅人よ。いよいよその力、使いこなす時が来たようですな」
そしてエレベーターには、当然の如く真ん中のテーブル越しでソファーに座る鼻長老人、イゴールが存在していた。その隣には、いつも通り金髪のエレベーターガール、エリザベスもいる
「今から挑まんとする塔…その起源と意義は、一体何であるのか。残念ながらお二人の今の力では、答えを導くことはお出来にならぬでしょう」
「当たり前だろ、まだ旅は始まったばかりだ。果てを最初から知ってる旅ほど、面白みの無いものはない…そうだろ?」
「確かに、貴方の言い分も一理ありましょう、八笠綾殿。ならば進まれる前に、知っておかれるとよろしい…己の力の性質というものを、ね」
普段から薄気味悪い笑みを浮かべるイゴールが、更に笑みを深める。それに対し、湊は静かに口を開く
「その性質って、綾と似通ってたりする?」
「ご明察、貴方と八笠殿…愚者と破壊者の力はペルソナ使いからしても、ライダーからしても異なる特別なもの。"数字のゼロの如く、何者にも属さず無限の可能性を宿す者"なのです…まあ、ディケイドは本質を言えばまた違っているのですがね」
そこで一旦イゴールの語りが止まり小休止が入ると、綾が口を開いた
「つまり湊は、俺の力をペルソナに照らし合わせて言えば、複数の力を宿せるってことか?」
「その通り。そしてそれを使い分け敵を倒した時、湊様には見える筈だ。自分の得た"可能性の芽"が手札として」
「可能性の芽が、手札として…」
「その説明からすると、俺は倒しても得られないのか?」
「そうでは御座いません。破壊者の力は愚者以上に他者との繋がり、"絆"を必要とするもの。関わりの中で得た力は、時として己の力不足で酷く、曖昧なものになってしまう。貴方は一度、それを経験したことがあるでしょう」
そう言われて綾が思い起こした記憶は、あの時。トルーパーズとの戦いで決定打を打とうと発動させた、あの白いクウガのこと
「あれは、俺の力不足?」
「経験の不足に加えてもう一つ、繋がりの曖昧さも要因の一つでしたが、そのお考えで間違いはありませぬ」
「…じゃあ僕は、繋がりを持ちつつ敵を倒し、塔を登れと」
「そうなりますな。しかし、時に得た力は酷く捉え辛いことも御座います。恐れず掴みなされ…それが貴方の力を大きくすることを、よくよくお覚え下され」
引きつった笑い声を上げるイゴールの様子は、どこか愉快そうで、そんな様子の彼を見る綾は、その姿に何処か現実離れした印象を持った
「さて、私も忙しくなりそうだ。次からはご自分達の意思で此方に来られるといい。綾殿への手助けについては、また考慮させていただくとして、湊様の手助けは私の本来の役割。そちらはまた説明させていただきます。最後に、湊様の力の名は『ワイルド』…時として切り札となる力の名です。それでは、また見える時までごきげんよう」
そこで二人の意識は微睡みに沈む
「……ぅ、ょう!綾!」
「っ!?はい!」
次に意識が浮上したのは、隣で激を飛ばすように名前を呼ばれた時だった
「いきなりどうした?有里といいお前といい、今からボーッとして油断するな」
「あぁ…すんません桐条さん」
隣で心配そうに見る美鶴にどう答えるか迷った末、綾は頬を掻きながら話題を逸らすことにした。見ると、湊もゆかりと順平に声を掛けられている
(やっぱり、俺と湊以外は知覚すら出来ない、か…何なんだろうな、あの部屋とその住人は)
ま、考えても無駄か…と一人自己完結してみた綾は、その後戻って来た探索組を先輩陣と共に見送った
タルタロス 2F 世俗の庭テベル
湊を筆頭とした三人が最初に見たのは、先の見えないモノクロの大理石で出来た道と、異界であることを全面に主張するように醸し出された異様な空気だった
「こっから本番ってやつか」
「なんか、すぐ迷いそう」
「……」
各々が思うことは言葉として発せられ、湊はそれでも静かに状況を見る
『三人とも、聞こえるか』
「…はい、聞こえます」
すると突然頭に響いた美鶴の声に、湊がいち早く対応する
『ここからは声でバックアップする。覚えておいてくれ』
「え、中の様子が分かるんスか?」
『私のペルソナの特性さ、実はこのタルタロスの形状は、日によって変わってしまうんだ。私も加わりたいが、サポートなしではどうにもならない』
「うわっ…ますます迷いそう」
探索開始から辟易とするゆかりを余所に、美鶴のサポートの元、探索は進む
「…いよいよ、か」
そして順平はこの時、一つのチャンスを手にしたと考えていた。彼は口でやる気を見せているように、彼の中では確固たる決意があった
(今から俺は、あの化け物みたいな連中と戦う。俺の力で…ようやく、俺だってやれるんだって証明できる!)
順平は昨日の戦いで見た二人の転校生へライバル心を抱きながら、影の巣くう迷宮の奥へ突き進んだ
「どうやら接敵したようだ」
そう美鶴が口を開き、彼女は愛機である大型バイクに取り付けた機器を調整しつつ、三人へ指示を飛ばす
「くっ、つまらんな」
「心底行きたかったんですね」
居残り組の明彦は不満を漏らし、それを聞く綾は苦笑いを浮かべる
「…真田さん、この探索メンバーの選抜って、新人育成の為ですよね?」
「む?」
「いや、三人には直接言わなかったみたいですけど、俺の療養に関しては、見立てでも真田さんのそれよりもまだ軽いはずなんですよ。なのに桐条さんは敢えて俺をここに置いた…それってもしかして」
「皆まで言うな。そこまで分かってるなら、口にするだけ野暮だ」
説明する綾を制した明彦が、右手を腰に当てて綾へ体を向けた
「お前は確かに強い。だからこそ今、影時間の外で起こる事態を任せられるのはお前しかいない…だが俺達だってそれを"黙ってる訳がない"」
明彦は綾の肩を叩き、軽く笑みを浮かべると、言葉を続ける。その姿は、まるで弟を諭す兄の様にも見えた
「お前にばかり負担を掛けているのは、俺達の力不足もある。だから必ず追いついて、お前と共に戦えるようになってやる。それまでは歯痒いかもしれんが、ここは任せろ」
「…真田さん」
彼の優しさに触れ、口角を緩ませた綾はその言葉をしっかりと聞き入れた上で
「漸く先輩らしく見えました」
「失礼だなお前は!?」
照れ隠しにも似た憎まれ口を叩いた
「…ありがとうございます」
「最初からそれを言え全く」
少し拗ねたように明彦はそっぽを向くと、やっぱ子供っぽい?とまたも失礼な事を考える綾だったが
「っ!真田さん!」
「どうし…たも無いな。美鶴!緊急事態だ!」
その時、彼らの前に現れたのは
《ォォォォ!》
亡霊の一団、グールだった
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