まずはどうぞ
月光館学園の中に敵がいた、そんな憶測は当然考えた。もしかしたらスパイがいて、此方の動向を読まれているのではないか、もしかしたら人目の無い中暗躍し、学園の人間を殺しに来るのではないかと。そう危惧していた、なのにーー
「何で…」
「嫌…違う、…見ないで!」
次の瞬間、彼女は再び光の翼を広げ、光弾をディケイド周辺へ放った。突然の攻撃に反応が遅れたディケイドはすぐに両手でガードを行ったが、次に視界を広げた時、彼女は羽を残して姿を消していた
「……クソっ!どうなってんだ!」
気付けば辺りにスティングフィッシュ、ないし霧を発生させたであろうオルフェノクの気配も消えており、彼は変身を解いて毒づいた
「…とりあえず、このままって訳には…いかねえよな」
そして綾に戻った彼は、酷く顔を曇らせ、路地裏を出て駅へ向かった
背後の影から覗く、三日月の様に引き伸ばした口元に気付かず
「あ、お帰り~」
「…あぁ、ただいま」
夜、巌戸台寮へ戻った綾は、ゆかりの出迎えのもと扉をくぐった
「八笠くん、今日なんだけど」
「…ごめん、ちょっと考え事」
「えっ?ちょ、ちょっと!」
ゆかりの言葉を受け付けず、綾はそのまま階段を登る。その余りの様子の変わりように、ロビーにいた全員が怪訝な顔を示した
「あいつ、様子が変だったぞ。順平、何か知らないか?」
「えぇ!?いきなり俺に振られても!」
「かなり思い悩んでいた様子だが…」
「…また、事件に遭遇したんじゃ?」
ゆかりの予測があながち間違いでなかったりするのだが、周りは周りであーだこーだと話をするせいで、その言葉もうやむやになっていく
「…ただいま」
だがそこに現れたのは、たった今帰った湊だった
「あぁ、君か。お帰り」
「なあ湊!綾について何か知らねえか!?何かすんげぇ思い悩んでたんだよ!もしかしたら、恋煩い!?」
「順平、冷やかすなら部屋に戻っといてくれる?」
「冷やかしじゃねえっての!俺ッチだって考えてんだぜ!?」
帰って早々喧しい中に立たされた湊だが、いたって冷静に美鶴の元へ行き、事情を聞いてみた
「…それって直接聞いちゃダメなの?」
そしてそれらを聞いた上で、最も効率の良い方法を提案した
「あー…それが出来れば簡単っていうか、その~」
「あんだけ悩んでるもんだから気安く突っ込んで良いもんなのか分かんなくてよ~…」
だがゆかり、順平に関しては歯切れの悪い答えが返ってくるばかり
「成る程、その手があった!」
約一名に関しては気付いてもいなかった
「ふむ、案外こういった事には君に任せてもいいかもしれない。有里、悪いが八笠を頼めないか?」
美鶴は少し考えると、湊へ頼みを述べた。それに対して湊は少しの間を開けて、口を開いた
「…分かりました」
「…入るよ?」
「…湊か。ああ、いいぜ」
美鶴の頼みを受けた湊は、早速綾の部屋の戸を叩き、部屋に入った。そこで最初に見たのは、ベッドに猫背気味に座り込み、両手を組んで額に当てている綾の姿だった
「皆心配してるみたいだけど、どうかしたの?」
「はは、直球で来るな。まあその方がかえって楽か…」
建前の無い問いに乾いた笑みで応えた綾だが、すぐさま顔を引き締め、上半身をベッドに投げ出した
「なぁ、湊。もし…会って間もない知り合いが化物になったらどうする?」
「それが悩んでる理由?」
核心を口にしたと悟った湊が問い直すと、綾はゆっくりと息を吐く
「…難儀な話と思わねえか?人を守る為にナニカを殺して、自分の知った顔になった途端拳を振るう動きが鈍くなっちまう。破壊する力で…失わない為に戦ってる俺が、無くしたくないものを壊そうとしてる。そんな自分に、嫌気が差す」
苦い表情を見せた後、拳を握って声を絞り出した
「何か事情があんのは目に見えてた。実際…アイツは姿を変えた後でも"怯えてた"…!なのに俺は!…裏があるかもなんて最低な事考えて手を伸ばせなかった!」
あの変身は自己防衛の為だろう。でなければあの場面で正体を曝すメリットなど無いのだから。だがそれでも、彼はライダーとしてそれを鵜呑みにする訳には行かず、どうしても疑ってしまう
ーーそれすらも、同情を誘う罠だったら、と
「いずれ来るっては覚悟してた…見知った顔の人間と殺し合う未来が来ることは。でも…それが今だなんて考えもしなかった…!」
「……」
綾は迷う。今日出会い、たった数時間の中で知った彼女を信じるのか、はたまた人を襲うオルフェノクとして自分の手で命を奪うのかを
最もリスクが低いのは、後者だろう。まだ何も知らないと言ってもいい彼女を諸手を上げて信頼するなど、お人好しでもなければ出来ない程に危険なのだから
しかし、そんなお人好しに近いからこそ、彼はあの時を悔やみ、自分を嫌悪する
「…君が何に悩んでるのかは分からない」
「…っ」
「君はライダーとして戦うって決めて、人を守る為に覚悟してきたんなら、それを実行する事を選ぶのが正しいんだと思う」
そこへ掛ける言葉は、彼らしく、どこか他所へ語るような平坦なものだった
「でも君が迷うってことは、助けたい気持ちがあるってことでいい?」
「っ!」
しかし、何故思い悩むのか、戸惑うのか、それらが理解出来ない湊だが、だからこそ一切の余剰を剥ぎ取った核心を告げられる。その言葉は、他所へ語るような冷めたものだが、同時に最も真相に近い答えになる
「君が最後に後悔しない選択が、答えじゃないかな」
「…いかなる選択にも自分が責任を持つ、か。アイツ等に約束した事だったな」
言われた言葉はありきたりで、何一つ解決した訳ではないのかもしれない。それでも、言葉にして再認識することも大事なのではないか、と考える位には綾のモヤモヤは晴れていた
「サンキューな、湊」
「…どういたしまして?」
ベッドから勢い良く立ち上がった綾の言葉に疑問符が浮かびそうな返事をもらい、綾は苦笑した
「取り敢えず、一回ぶち当たってみる。もしかしたら、手を借りるかもしれない。そん時は頼む」
「…うん」
ーー我は汝、汝は我
汝、"愚者"のペルソナを生み出せし時、我ら新たなる力の祝福を与えんーー
新たなる絆を感じ取った湊は、再び歩き出す彼を見送り、次に見たものは
自室のドアを全開に開け放つ綾と、どこのマンガだと言いたくなるような聞き耳を立てる寮のメンバー達だった
「盗み聞きとは随分イイご趣味で」
「い、いや~中の様子が気になってつい、さ?」
「つい、で盗聴が許されるとでも?順平、並びに他の方々…」
《……撤収っ!》
「へ!?ちょ皆置いてかないで「先ずは一人」あがっ…!?」
コキャリ!と小気味良い音が首から響いた順平は、そのまま地に沈み
「逃げんなコラ~~~!」
他のメンツを追いかける綾だった
「…どうでもいい」
湊は埃を舞わせて暴れる面々を見送ると、自室に向けて歩き出した。勿論順平を置いて
ちなみにこの日制裁を受けたのは順平だけだったという。合掌
ーー青年は巻き込まれるように戦いに身を投じた。人を超えた人と人間の"同士討ちの争い"に
ーー何度も迷い、目を背けた。それが悲劇となり後悔もした
ーー彼は幾多の葛藤を越え、高々と右手に握る希望を掲げ続けた
ーー彼は人の光、闇を切り裂く"赤き閃光"
4月25日(土)
岩崎理緒に接触を試みた綾だが、彼女は今日学校を休んでいた。それは考えられる事態だったので彼も動揺はせず、一度放課後になってから辺りを探してみることにした。まあ探すと言っても、ある程度検討をつけながらなのだが
「…いた」
そうして探して30分程してから、案外あっさり件の彼女の姿を確認した綾は、迷わず背を向ける彼女へ歩み寄った
「部活は無いにしても、学校サボるのは良く無いんじゃねえの?」
「っ!?…八笠くん」
眠れなかったのだろう。昨日見た顔にうっすらと分かる隈を浮かべ、瞳からは迷い、諦めの感情が読み取れた
「何で分かったの?」
「自分の正体が知れて、誰かに指をさされるかも、罵倒されるかも分かったもんじゃない…そう考える人間なら、まず人目に着かない所に行くのが心情だろ?」
そうして見つけたのは、ポロニアンモールと巌戸台を結ぶ橋の下、河原に近い場所で、岩崎はひっそりと佇んでいた
「…私を殺しに来たの?あの人達みたいに」
「……オルフェノクは人類の進化形と位置付けられる種族、それなら元を辿れば同じ人間なのも知ってる。…悪かったよ、岩崎の前で辛いもの見せちまった」
言い方もあるだろうが、今の彼女は昨日倒した怪人と"同類"である。つまり、自分の"末路"を目の当たりにした彼女の心境は…計り知れない
「…私ね、テニス部の学年リーダーとして頑張ってみたんだけど、回りは中々着いてきてくれなくって、先生も投げやりな事しか言ってくれない。それに耐えきれなくて、悩んでたの」
「…それがあの態度に繋がる、か」
頷く岩崎は続きを口にする
「それである時、自主トレで追い込みをかけて疲れが出てたみたいで、足がおぼつかなかったの。その時…丁度信号が変わった横断歩道の真ん中で、トラックに轢かれたの」
「それが覚醒の要因だな。確かオルフェノクは人間を襲って、資質のある人間が覚醒するタイプと、一度死んで自然覚醒するタイプがいたはずだから」
同時に、綾の頭の中では朝に日課とした新聞の中で見た、謎のトラック事故という見出しの記事を思い出していた
「初めは訳が分からなかった。体にもの凄い痛みが走った後、意識が途切れたと思ったら、今まで感じた事の無い力が溢れだして…とにかく怖くて逃げたの。そしたら、逃げた先が路地裏で…良く溜まり場になってる場所で絡まれたの。これからされるかもしれない事が怖くて、正気を保てなくなった瞬間…私は」
俯く彼女の言葉が止まる。それが意味する事が何なのか、綾は早くも気付いてしまった
「…人を殺す事を仕方ないとは言わない」
「…なら私を「だがそれでお前を倒すなんて結果には結びつかない」…なら、どうするって言うのよ!?」
「分からない!」
「っ!?」
岩崎の叫びに、彼はどう答えるべきだったのか。いっそここで倒すと言い切るべきだったのか?それとも彼女の罪を見ぬフリで済ませ、ただ手を差し伸べるべきだったのか
「俺は人ひとりの人生を背負える程、強くない…だからこそお前の、岩崎自身の答えを聞きたい。お前は、この先どう生きたい?どうしたいんだ!」
それは人によっては、逃避と呼ぶだろう。だが別の視点から見れば、妥当だと思われるかもしれない
彼は決して、テレビの向こう側のヒーローではない。ただ知りもしない記憶に振り回され、突然降って沸いた厄災を振り払っているだけに過ぎない。しかし彼は、それを受け入れた。自ら選択し、進む運命を
だからこそ、結果的にこの選択は、間違いだった
「…そんなの、私だって分からないわよ!!」
「っ!岩崎!」
岩崎は激昂し、頭を抱えながらその目を白に色付け、姿を変えた。鶴を模した異形、クレインオルフェノクへと
「もう私に人として生きる道なんて無い!ここで殺される位なら、あなたを殺して私は生きたい!」
「止めろ!それじゃ昨日の連中と同じになるぞ!」
「私の人生は私が決めるんでしょ!?だから私は決めたのよ!!」
最早錯乱とも言える状態のクレインは、太股から光弾を幾重にも射出して綾を襲う。それを間一髪で避けた彼は、すかさず懐からバックルを引き抜くが、その後の動きに僅かな躊躇が混じる
「ハッ!」
「うぁっ!」
そして躊躇は彼女にとって絶好の隙であり、光弾を彼の周囲にばら蒔くと、綾の手元からバックルが離れた
「ぐっ…!」
「っ、……!」
クレインは何かを考える素振りを見せたが、そのまま無防備な綾へ近付く。そんなクレインを、攻撃の余波で傷付いた右手を庇いながら見上げる綾は、未だ目を背けず、クレインを見据える
「岩崎…!」
クレインは歩みを止め、綾の側に立ち尽くす。微動だにしない、その目の様子すら見えない姿は、より恐怖を駆り立てる
「八笠!」
「っ!?」
だが次の瞬間、男の声と一発の破裂音がクレインの動きを鈍らせた
「黒沢さん!?」
「無事か!」
そしてクレインが振り返った先には、こちらへ向かってくる大勢の警察車両のサイレンの光と、此方へ銃を向ける警察官、黒沢の姿だった
「…貴方が呼んだの?」
「……いや、俺じゃない」
「…そう」
クレイン、岩崎はその言葉を残して、羽を広げると空を舞い、地面に転がるディケイドライバーを回収して姿を消した
「ベルトを盗まれた~!?」
その日の内に警察の取り調べを終え、黒沢の尽力により深い詮索をされずに済んだ綾は、巌戸台寮にて特別課外活動部の面々に事の顛末を話した
「それ、どうするのよ!?八笠くんが変身出来なくなったら、昼間に怪物が現れた時どうしたら」
「止めないか!…彼だってそれくらい分かっているさ。そうだろう?」
「…すいません」
「それで、その岩崎という女子生徒の行方は?」
腕を組んで壁に背を預けていた明彦が話の先を促した
「今、桐条の情報網を使って全力で捜査にあたっている。その結果を待つしか、今は打つ手が無い」
「……綾?」
美鶴の芳しくない報告に暗い空気が漂う部屋の中、湊は対面に座る綾の様子が少し違うことに気付き声をかけた
ーー…そう
あの一言に、一体どのような思いが込められていたのか。綾の頭ではその言葉が繰り返し再生され、その度に残っていた"違和感"が強くなっていった
(今、少なくとも分かることは…彼女はまだ人を止めていない。でもどうして、あの言葉から"諦め"のような感覚を覚えたんだ?)
人であることを諦めたのなら、その感情が出ても可笑しくない。だがそれ以外で諦めるとするなら、一体何を諦めたのか。それが分からず、彼は必死に頭を働かせる
「…また一人で悩み事?」
「うぉっ!?…湊、おどかすなよ」
しかしその思考を遮断させたのは、割と近い距離で顔を覗きに来た湊だった
「気になるのなら口に出してみろ。その為の俺達だ」
「我々の言葉が解決の糸口になるやもしれん。話してくれ、八笠」
明彦、美鶴の言葉に一瞬声を詰まらせたが、尤もな事を言われた事もあり、彼は潔く口を開いた
「まずそれを伝える前に、状況を整理しますんで、そこから付き合って下さい」
「構わん」
「どうも…今回の中心人物は岩崎理緒、月光館学園二年で女子テニス部学年リーダーを務めてる」
「岩崎さんなら女子テニスでは結構有名だよ。それなりに結果も残してるみたいだし、責任感が強いって友達から聞いた事があるわ」
「それは俺も接してみて感じた。次に、彼女はその真面目さのせいで、テニス部では少し浮いてたんだ。やる気の相違とか、顧問…叶先生の方針が曖昧なのも原因だと思う」
「あ~叶先生ね。確かに部活みてぇな堅苦しい仕事嫌いそうだもんな」
ゆかり、順平が各々知るその人物像を口にし、それを聞きながら違和感の正体を探る綾は続きを話す
「彼女がオルフェノクに覚醒した理由は、部員との摩擦によるストレスが起こした事故らしい。トラックに轢かれた話と、覚醒後の混乱時に防衛目的で人を灰にしたって話は、時間と場所が新聞で照らし合わせたものとで一致してたから、間違いない筈だ」
「聞くだけ聞けば仕方ないと言えるが…人命に関わるのならそうは言えん、か」
「岩崎さん…きっとかなりショック受けてると思うよ。訳も分からず化物になって、気付いたら人を殺してて…挙げ句には自分を殺せる人が唐突に目の前に現れたら、パニックにもなるよ」
ゆかりの主観が多く含まれるにせよ、あながちその意見は間違っていないのだろう。普通の人間なら、そんな状況に放り込まれたら、誰でもそうなる筈だ
ーーそれならば、彼女が諦めてしまったものはーー
「…くっそ!…大体分かった」
「え!?分かったのかよ?」
綾は自分の浅はかさに吐き気がする程怒りを露にし、頭を掻いた
ーー彼女は結局、一つしか求めていなかったのだ。たった一つ、それこそすがるように求めていた
ーーそれを彼は、突き放しただけなのだ
「…待てよ。だとしたら、何でベルトを盗む?」
その答えを整合化するにしろ、そこで一つ可笑しなものが残った。何故、あそこでベルトを盗む必要があったのか
(もし、俺が彼女ならベルトを盗むより…きっとあの場で殺される事を選ぶ。だがそれをしなかった…つまりまだ、彼女には"別の選択肢"があった?だけどそれは彼女が選びたくなかった選択だったとしたら)
その瞬間、彼の違和感に最後のピースが嵌まる
「八笠、そろそろ説明してくれないか?」
「……はい、ですが手短に話します。多分、事は一刻を争います…彼女が危ない」
《っ!!》
そして彼は踏み出す。己が選ぶその道を、仲間と共に
主人公、変身しない(てか盗られた)回
心情描写難しい…おかげで進んでませんね本当に申し訳ありませんm(__)m
普段の生活の中でも、特別課外活動部の援助は綾を支えている。こういった描写も欲しくて載せました
そんなのいらねえサッサと戦え!という若干バトルジャンキーな方にはまどろっこしい展開でしょうが、ご了承下さい
次回で岩崎コミュ完結を目指します
ご視聴、ありがとうございました!