ペルソナ3 ~愚者と破壊者は旅をする~   作:Third+s

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進行がとても遅い作品と思います。ご了承願います


第一章~新しい生活に曇り模様?

2009年4月7日(火)

 

雀が鳴く朝、綾の目覚めは快適とは言えなかった

 

 

「……ふぁ、ぁぁ~」

 

 

間の抜けた欠伸と共に起き上がる彼は、取り敢えず時計を見た後洗面台に立ち、蛇口を捻る

 

この寝覚めの悪さは深夜の影響で、電車で思いの外熟睡したおかげで眠れなかったのだ

 

 

「確か~、こっからモノレール乗っへがっほういふはらぁ」

 

 

途中言語がおかしくなったのは歯ブラシを突っ込んだからである

 

 

「ガラガラガラ…ぺっ!…良し!朝だ!」

 

 

と歯を磨き終えた瞬間に元気になる綾。彼の朝のサイクルは歯ブラシから始まったりする

 

 

「そういや朝飯ってどうしよ?ここで作んのかな?時間無いし今日は買うけども」

 

「すいませ~ん!岳羽ですけど、起きてますか~?」

 

 

するとノックの後聞こえる女の子の声。しかし綾が知る女子は昨夜会った美鶴のみ。心当たりの無い彼は首を傾げつつも、取り敢えず最低限身なりを(と言ってもハネた髪のセット位だが)整えてドアを開ける

 

 

「はいはい、どなたです?」

 

「あ、ごめんなさい初対面なのに。私、ここに住んでる二年の『岳羽ゆかり』って言います。同じ二年だから、よろしくね」

 

「あれま、こりゃ朝から可愛い子が来たな…で、後ろの君は?」

 

 

そこにはお世辞抜きで整った顔立ちの男女がいた。片方の茶髪セミロングにピンクのカーディガンを着た岳羽ゆかりと名乗る少女、そして無意識に口説き文句を言った後、手で示した青髪に右目を髪で覆い、学校の制服を規則通り着て首にヘッドホンをかけた極めてイケメンな少年は、綾の質問に自ら進み出て答える

 

 

「『有里湊』、同じ二年の転入生。よろしく」

 

「お、てことはお前が1人目って奴か。んじゃ改めて、俺は八笠綾。お互い仲良く行こうや」

 

 

取り敢えず握手を求めると、湊も嫌がる素振りを見せず握手を返す。ただ、ひたすらに無表情ではあったが

 

 

「あのね、先輩に二人の案内頼まれちゃってて、時間もヤバいんだ」

 

「マジか!まだスウェットじゃねえか俺!…悪い、すぐ準備する!」

 

「うん、お願い」

 

 

そう言って綾は慌てて制服に着替える為、部屋へ戻る

 

 

「あはは、意外と親しみ易い人だったね」

 

「そうだね」

 

 

綾が部屋に戻ると、ゆかりは彼への評価を口にした。しかし湊からの返答は、感情の起伏が薄く、話が盛り上がり難い

 

 

「それに!湊君とは別のベクトルでイケメンだったって言うか」

 

「どうでもいい」

 

「何がだ?」

 

「早っ!?」

 

 

ドライ過ぎる湊の反応に苛立つゆかりだったが、それで生まれた微妙な空気を一瞬で霧散させてしまった噂の本人。もちろん意図してやった訳ではないんだが

 

 

「君準備早過ぎない!?」

 

「いやまぁ、昨日の内に準備はしてたし?着替えは中学もブレザーだったから慣れてんだ」

 

「さいですか…」

 

「取り敢えず行こう、初日の遅刻はマズい」

 

 

湊の冷静な発言により、一同は学校へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

綾たちは現在モノレールの中。学生でひしめく車内で、三人は学校について話をしていた

 

 

「ーーという訳なのよ」

 

「へ~」

 

「…」

 

 

何が、と問いたい所だが割愛させて頂こう

 

 

「ほら、そろそろ見えてくるよ」

 

 

ゆかりにそう促され、二人が窓から見下ろした場所。そこが彼らの目的地、『辰巳ポートアイランド』である

 

 

 

 

 

 

 

 

学生の流れに従い、彼らは目的地へと歩く。しかしそんな普通の行動に対し、周りの反応は奇妙だった。まるで珍しいものでも見たかのように、三人と周りの距離は僅かに離れていた

 

 

「おはよう」

 

「おはよう」

 

 

見るからに一目置かれた存在と分かる周りの応対に、綾は少なからずゆかりに対する評価を上げた。あれだけの容姿だ、恐らく学校のアイドル的存在なんだろうと当たりをつけた

 

 

「…なあ有里、もしかして俺ら初日から浮いた感じか?」

 

「…どうでもいい」

 

 

転入初日から面倒事かと冷や汗をかく綾だったが、意外にも図太い返事をされた彼は驚きを露わにする

 

 

「?どうしたの?」

 

「いや、案外図太い奴だなぁって」

 

「岳羽と知り合った時点でどうなるかなんて分かんないよ。先をウジウジ考えるだけ無駄ってやつさ」

 

「それもそうだな。つか思った以上にドライじゃね?」

 

「僕の素なもんで」

 

「はっはっは!言うじゃねえか!お前とは仲良く出来そうだ」

 

 

どうも転入という境遇を抜きにしても、この二人は会話が続くようだ。一方的に、ではあるが

 

 

「随分仲良いみたいだけど、着いたよ」

 

「…へえ、ここが」

 

 

そして三人は目的地の門の前に止まると、ゆかりは二人へ振り向き、微笑みかけた

 

 

「ここが、『月光館学園』の高等部。よろしくね!」

 

 

その花の様な笑顔を向けられた湊は、やはり無表情。一方綾は

 

 

カシャッ

 

「へ!?」

 

 

ゆかりの笑顔を写真で撮っていた

 

 

「え、綾君!?」

 

「あ、ゴメンゴメン!つい癖で…」

 

 

頭を掻きながら申し訳なさそうに言う綾の手元には、いつの間に持っていたのか、銀色のデジカメが収まっていた

 

 

「趣味で色んな所の写真撮ってんだ。今度二人にも写真見せるよ」

 

「あ、そ、そうなんだ…じゃなくて!」

 

「いやぁ、やっぱ可愛い子とか綺麗な人が、景色の良い場所で笑ってるのは映えるなぁ。焼き回してまた渡すな」

 

「え、え?…あぁもう!何でこうもやりにくいの二人とも!?」

 

 

顔を赤くして頭を抱えるゆかりを見て首を傾げる綾。湊は別段興味を抱かず、やはり無表情だったが

 

 

「どうでもいい」

 

「そこは良くないだろ…」

 

 

その一言で無関心ということも分かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎に入ってすぐの下駄箱にて、ゆかりは向き合って今後の動きを案内していた

 

 

「職員室はこの先を入ってすぐだから、詳しくはそこでね」

 

「了解」

 

「右に同じく!」

 

「よろしい、以上ナビでした。何か聞きたい事ある?」

 

 

そう訪ねられる二人は各々考えると、別々の答えを出す

 

 

「僕は無いかな」

 

「んじゃ岳羽は何組なんだ?どうせなら知り合いが同じクラスだと助かるしな」

 

「え?…さあ、まだクラス分け見てないし分かんないな」

 

 

後のお楽しみか、と1人納得する綾を尻目に、ゆかりはそっと湊に近づき何かを告げる

 

 

「それじゃ、また後でね!」

 

「はいよ~…なあ有里?隠れて何の話だ?」

 

「別に、これという程でも」

 

 

見るからに怪しい行動に疑問を浮かべないはずもない綾だが、湊の冷たいとも言える返答に溜め息を吐く

 

 

「何つーか、仲間外れ?てか夜の内に何やらかしたんだか…」

 

「…ねえ八笠くん。昨日、エントランスで"署名"を書いた?」

 

「綾でいい。てか"署名"?」

 

 

だが突如問うて来た謎の質問に、綾は疑問符を浮かべるばかりになってしまった

 

 

「…知らないならいい。あと僕も湊で構わない」

 

「え?ちょっ、ありさ…じゃなくて湊!…だああ!どいつもこいつも何だってんだ?」

 

 

何とも言えない心境だが、今は職員室に向かうミステリアスな同期に追従することに専念した綾。難しいことは考えるだけ損と判断したようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間を飛ばして、綾は現在担任との挨拶、始業式、HRを終えて放課後の教室にいた

 

 

「何っつーか…転入生が二人とも同じになるたぁ思ってなかったけどさ?何故に岳羽と有里は同じで仲間外れなん俺?そこんとこどう思う?」

 

「へ!?い、いや急にそんなこと言われても…」

 

 

そう、彼は湊、ゆかりのいるF組とは隣に位置するE組の生徒になったのだ。そして綾が無茶ぶりにも程がある話題転嫁をしたのは、クラスメイトにして隣の席になった女の子

 

 

「まあこの組も良い奴いそうで助かってるけどさ、何故に遠目に見るだけで近付いて来ないのやら…」

 

「あ、それ…噂のせい、かも…ぁと、私……」

 

「噂?」

 

 

後ろ半分は蚊の鳴くような声で聞こえなかったが、綾は辛うじて噂とやらの話を拾った

 

 

「うん、八笠くん登校してた時、岳羽さんともう1人の転入生と3人で登校してたでしょ?」

 

「……あっちゃ~、早速その弊害か」

 

 

そう言うと彼はしまったといった顔で頬をポリポリ掻く。彼も少なからず、登校の際の周りの反応について幾らか懸念はしていた。だがこうも早くに影響があるものかと想定外だった為、この態度なのだ

 

 

「サンキュ『山岸』、助かるよ」

 

「え!そんな私、何にも」

 

 

常に気弱そうな態度を取る少女、名を『山岸風花』は、綾のちょっとしたお礼に対して過剰に反応して慌てた

 

 

「いや、その噂とやらの風潮に流されないで接してくれてんだろ?なら十分助けてもらってんじゃん」

 

「…私が、私なんかが?」

 

「?何を基準に言ってんのか知らねえけど、山岸の優しさは強さだよ。これでも俺、人に馴染むの苦手なんだ」

 

「それは嘘」

 

「ホントだぜ?てか何故そこだけキョドらない?地味に怖いんですけど!?」   

 

 

不思議な程良く話せる少女に、綾は不思議と無邪気な笑顔を浮かべた。そんな笑顔につられて、風花もまた笑ってしまう。それが"久しく本気で笑えた"瞬間であれば、尚更だ

 

 

「おーい八笠く~ん!」

 

「岳羽に湊か。んじゃ俺行くけど、山岸はいいか?」

 

「えっと、ううん。今日はいい」

 

「そっか、ならまた明日だな!っと、そうそう」

 

 

そう告げると、綾は鞄を肩に乗せて席を立つ。が、何故か不意に立ち止まると、風花を一度見る

 

 

「…何に"怯えてるのか"は知らないけどさ?何かあったら相談くらい乗るから」

 

「え…」

 

「んじゃあな!」

 

 

確信を持って言ったわけでは無いが、綾は彼女へ意味深な言葉を残すと、そのまま有無を言わさず立ち去る

 

 

「…八笠くん」

 

 

彼女、山岸風花の目に映る彼の姿が、この時少し大きく映るのだった

 

 

 

 

 

 

 

「待たせた二人とも!てかそっちの髭ボーイは?」

 

「髭ボーイ!?」

 

 

帰りを誘って来た同じ寮生組と合流する綾。するとそこにはキャップを被り、髭を伸ばした何とも明るい(悪く言えば浮いた)見知らぬ少年がいた

 

 

「しょ、初対面からバッサリ行くじゃん…」

 

「気にしてたか?ならゴメンな。俺は八笠綾、知っての通り今日からここに通う転入生だ」

 

「別に気にしてねえよ。あと俺は『伊織順平』、順平でいいぜ!俺も転入してこの学校に来てさ、困ってんなら声掛けようと思ったんだ。どうだ、良い奴だろ!」

 

「お前一言多いとか言われねえ?」

 

「うぐっ!」

 

 

図星と一発で分かる順平の反応に、綾も苦笑してしまう

 

 

「アンタさっきも同じことして一蹴されたのに懲りないわねえ」

 

「うっさい!俺はポジティブなんだよ!そこんとこどう思うよ湊!?」

 

「どうでもいい」

 

 

見事な回避スキルにより、順平は崩れ落ちた

 

 

「まあまあ落ち着けって。順平も悪い奴じゃねえし気にしてないぜ?」

 

「り、綾…お前は味方なんだな」

 

「弄りやすいのは確かだが」

 

「上げて落とさないでぇぇ!?」

 

 

一々反応が大袈裟な順平を見て、綾の中で彼のキャラが固定された

 

 

「てか順平とゆかりは仲良さそうだな」

 

「ああ、去年も同じクラスだったのよ。腐れ縁って奴かな…」

 

「へえ、いいんじゃないか?腐っても縁、繋がりは大事だろ」

 

「おっ、良いこと言うじゃん!お前良い奴だな!」

 

 

上げて落とされた直後なのに、上げれば調子が戻る順平の変わり身の速さに、若干関心してしまう綾だった

 

 

「そうそう、お前もこの二人と登校してたんだよな?昨日の夜がどうこうって話をしてたんだが、そこんとこ知ってるかお前?」

 

「は?夜?」

 

「だ~か~ら誤解招くような事言ってんじゃないわよ!それに八笠くんは有里くんより後に寮に来たから何の関係も無いわよ!」

 

「あれ?話も分からぬまま除け者にされた?」

 

 

どうもゆかりにとってこの話は長引かせたくないもののようだ

 

 

「(もしかして昨日の桐条さんが聞いてきた話って…)まぁそういうデリケートな話は当人同士の秘密ってやつだろ?あんまし首突っ込むと良くないんじゃねえか?」

 

「あら?意外と大人な意見だな、まあ一理あるけどさ」

 

「とはいえ、秘密が噂になるような安易なマネをしてる岳羽にも原因はあるけどなぁ?」

 

「え、あたし!?」

 

 

というわけで、早々に話を纏めてお開きにすることにした

 

 

「そりゃ秘密にしたいことを公で目立つ場所で喋ったら嫌でも誰かの耳には入るだろうに」

 

「あ…そうだね。ごめん」

 

「いや謝るっつうより気をつける、でいいだろ?」

 

「…ふふ、何か八笠くんって年上みたい」

 

 

何となく可笑しくなって笑うゆかりだが、言われた本人は突如慌てる

 

 

「え、俺って老けてる!?順平の方が百倍老けてそうなのに!」

 

「サラッと罵倒したろお前!?ま、まぁ年上っぽいのは同感だな。兄貴がいたらこんな感じなのかな」

 

「順平が弟…嫌だ、手が掛かるところしか思い浮かばねえ」

 

「なあ、おれッチ泣いていいよな?」

 

「「「どうぞどうぞ」」」

 

「ちっくしょーーー!!」

 

 

何とも愉快な新学期の一コマだった

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん、ふふん…♪」

 

 

鼻歌混じりに彼、八笠綾は月光館学園近くの複合総合施設、『ポロニアンモール』へ足を運んでいた。特に理由は無いが、学生が時間を潰すと言えばここという話を聞いたので、取り敢えず見に来たといった感じだ

 

 

「おっ、この辺の景色良いな」

 

 

そう言った直後に彼はデジカメのシャッターを切った。彼の趣味の一環であり、こうして1人歩きするのは彼自身好んでいる

 

 

「そこのお前、何をやってるんだ?」

 

「はい?」

 

 

すると背後から掛けられた声に、綾は振り返る。そこにいたのは紺の制服を着た公務員さん。ぶっちゃけ警察官だ

 

 

「カメラ持って彼方此方写真撮り回ってるらしいが、何を撮ってる?」

 

「いや、単に趣味で撮ってるんですが?別に疚しいものは撮ってませんし…それほど言うならどうぞ」

 

 

どうやら彼の行動が相当怪しまれたらしく、お巡りさんの目に留まってしまったのだ。だが綾は写真を撮ることを趣味としているだけあって、多少怪しまれた事に遺憾の念を抱いたので、デジカメをそのままお巡りさんに渡す

 

 

「ふむ…別段怪しいものは無いな」

 

「色んな世界を撮りたくてやってますから。一度見たものを、一生残したくて…ね」

 

「ほぉ、良いじゃないか。その考え、嫌いじゃない」

 

 

そう言うとお巡りさんはデジカメを彼へ返し、一度敬礼する

 

 

「失礼したな。俺はこの辺りの安全を守る『黒沢』という者だ。何かあったら頼ってくれ」

 

「お勤めご苦労様です。俺は八笠綾って言います。もしその時があればどうぞよろしく」

 

「そうしてくれ。街の安全を守るのが、俺の仕事だ」

 

 

お巡りさん、黒沢はそれだけ言うと踵を返し、別の場所を巡回し始めた。その背中を、綾は敬礼で見送り、彼も別の道を歩く

 

 

「今時珍しいよな、あれだけ仕事に実直な人って」

 

 

そしてその後も辺りを歩き、写真を撮りながらも店などを回って、この日は寮へ帰った

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃぃ、たっだいま~」

 

「あれ、今帰ったんだ」

 

 

綾が寮の扉を開くと、すぐ近くにあるソファーでゆかり、湊が隣合わせで座っていた

 

 

「何だ、二人して。雑談?」

 

「あぁ、学園の理事長がお見えになってたの。それで私たちは待ち時間の間にお話の相手を」

 

「何故に寮に理事長が…あ、桐条さんか?」

 

「うん、そういうこと」

 

 

それにしては妙に疲れた顔をしているゆかりに、首を傾げる綾。湊は逆に眠そうだが

 

 

「ま、俺が挨拶した所で変わらんだろ。俺もう部屋入るから、じゃな」

 

「お休み」

 

 

そんな軽いやりとりの後、彼は部屋で目を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

一日は二十四時間ではない、と言われて信じる者はいるだろうか?普通ならNOである

 

だが、午前0時の一日と一日の狭間…そこには隠された、否認識しようのない時間が存在していた

 

 

ここは巌戸台分寮の四階、そこでは巨大なスクリーンに様々なグラフ、映像が映し出されていた。その機械の前に座り、話をする者たち。一人はここの寮長、桐条美鶴。二人目は湊のクラスメイト、岳羽ゆかり。そして最後の一人は、月光館学園の理事長『幾月修司』その人だ

 

 

「お疲れ様。どうだい、彼の様子?」

 

「先程就寝に入りました。今は眠っています」

 

 

長い茶髪に眼鏡を掛け、一見すると爽やかな印象のある彼、幾月はそう軽く声を掛け合うと、空いていた席に座り、モニターを覗く。そこには、ベッドで静かに眠る湊、そして綾の姿が映っていた

 

 

「…理事長、やはり彼は」

 

「まあ取り敢えず見守ろうじゃないか。もうすぐ『影時間』だ」

 

 

そして時計の針は、午前0時を知らせるーーー

 

 

 

 

 

 

 

2009年4月8日 影時間

 

世界はその瞬間、全ての時を止めた。街の明かりは全て消え、機械は自販機や携帯に至るあらゆるものが機能を停止させ、人が忽然と消えた代わりには棺が立ち並んでいた

 

 

「ふん、どうやら作戦は成功したようだな」

 

 

だがそこに、奇妙な現象が発生した。ある一角に立つビルの上、そこに突如灰色のカーテンが出現し、全身をローブで覆った謎の人物が現れ、緑色になった空のやけに大きい月を見上げた

 

 

「『鳴滝』が陽動を買って出たお陰ですんなり来れた。…後はこの世界の破滅の力を我がモノにするだけ!」

 

 

ローブの人物は右手を月に向け、掴み取るように拳を握った。だがその腕は、人のモノではなかった

 

 

「まだ時期ではないが…一番厄介な『ディケイド』も抑えられた今、我々『大ショッカー』に阻むものなし!」

 

 

世界はゆっくりと、運命の歯車を回す

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、平然と眠ったままか…彼は見ての通り『象徴化』が起きていない。つまり、現在も影時間を体験していることになる」

 

「では彼には…"適性"が?」

 

「あるんだろうね。でなければ"奴ら"の餌食になってるはずだ」

 

「餌食…ですか」

 

 

場所は戻り、巌戸台分寮。彼らはこの影時間の中でも活動出来る人間である。そしてこの不可思議な時間の中でも、彼らは未だ稼働を続けるモニターの映像を…正確には"湊のみを"監視していた

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼…八笠くんの様に"象徴化が起きていれば"話は別だけどね。まあしばらくは見守ってやろうじゃないか」

 

 

幾月の言葉を受けてゆかりが視線を動かした先には、"棺の形に変わった綾が映っていた"

 




次話投稿は明日7時を予定しています
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