ーマゼンタ色のトイカメラで、誰かが写真を撮っていた。景色を、光を、動物を、人を……だが写真のどれもがピンボケしたように歪み、焦点が合わないー
ー誰かが文句を言われていた。ピンボケした写真を突き出し、優しげなお爺さんが頭を下げ、その孫らしき女性が元凶を懲らしめに実家である写真店を出たー
ー灰色のカーテンが世界を破壊した。カーテンの向こうから夥しい数の化け物が街を、人を蹂躙し、トイカメラの男も偶々居合わせた女性も為す術がなかったー
ー気弱そうな美青年が男の前に現れた。彼は青年に世界を救えと言われたー
そして彼は、女性が見つけた白いバックルとカードホルダーを手に、マゼンタの戦士へと姿を変えた
2009年4月8日(水)
(…結局何だったんだあれは?夢っていうか、記憶みたいだったけど)
「…どうかしたの?」
「へ…?いやぁ、何でも」
昨晩の影時間が過ぎた現在、月光館学園は十分休憩に入りお各々が思い思いの時間を過ごす中、影時間など知る由もない綾は、昨晩に見た謎の夢に思いを馳せた
「いやさ?うちの担任って、F組の『鳥海先生』敵視してる節があるんだけどどう思う?」
「ねぇ八笠くん…その流れすっごいデジャヴ感じるよ?」
だがそれを悟られぬよう、彼は適当な話題を出してはぐらかす事にした
「う~ん、どうなんだろ?私もよくは分からないかな」
「まあそんなもんかな?案外好きの裏返しだったりして、とか邪推してたんだけどさぁ」
「ふふふ、意外とあるかも」
するとそんな二人の元に三人の女子が近寄った
「ちょっと山岸、転校生一人占めとか舐めてんの?」
「ぇ、そ、そんなつもりは」
「初日からイチャイチャしてさ、何様な訳?」
その三人はしきりに風花を罵倒していた。対する彼女は何も言い返せぬまま、ただひたすらいわれない罵りを受け続ける
「いやお前ら、一人占めって何の話だ?」
「はあ?」
だがそれを黙って見ているほど、綾も薄情ではなかった
「あんたは黙ってて!部外者なんだからさあ!」
「勝手に俺が話しかけてる女の子がこんな言われ方してたら関係も何もねえよ。てか何様はこっちの台詞だ…こいつの交友関係に口出し出来るほどテメェは偉いのか?」
「うっ」
出来るだけ低く、鋭い目で威嚇することで、三人組は思わずたじろいだ。それを合図にリーダー格らしき女が舌打ちすると、踵を返して席へ戻って行く
「…はぁ、ったくしょうもない」
「あの、八笠くん…ありがとう」
綾は風花のお礼の言葉を聞くと、先程までの鋭い目を止め、朗らかに笑う
「いいって、お前が気弱で優しいのは知ってるし、言い返せないのなんて目に見えてたから」
「でも、迷惑かけちゃったんじゃ?」
「友達助けるのにそんなもんあるかよ。後、あんなの多いなら相談してくれな?解決策くらい、一緒に考えるから」
「っ!…うん!」
そして次の授業のチャイムが鳴り、綾も自分のノートを準備する。その時、隣の彼女の顔が、僅かに赤くなってることも知らずに
2009年4月9日(木) 影時間
この日も訪れた影時間。幾月、美鶴、ゆかりの三名は今日も彼、有里湊の監視を続けていた
「どうだい、彼の様子は?」
「…昨夜と同じです」
「そうか、『真田くん』はまた見回りかい?」
「はい、何事も無ければいいですが」
そして彼らはここにいないもう一人の寮生、三年の『真田明彦』のことを思う。彼はこの影時間になると大概は外を出歩いており、"ある存在"と戦っている。ただそれに対して娯楽を求めている節があるが
「しかし、やはり興味深いねぇ彼は。いくら影時間に適性があろうと、初めからあれほど安定しているなんて異常とも言える。普通なら記憶が消えたり、混乱したりするはずなんだ。…今までとまるで違う、全く例外的なケースだよ」
「でもこれじゃ…まるでモルモットみたい」
「まあそう言わずに。彼はクラスメイトだそうじゃないか、同年の仲間がいれば心強いだろ?」
「そう、ですけど…」
言い淀むゆかりであるが、彼女も頭では分かっているのだ。自分たちの状況を鑑みるに、"同類が多いに越したことはない"ことは。だが同時に、何も知らないクラスメイトを、そして象徴化しているとはいえ、同じ寮生である綾を騙しているような負い目を感じており、とても簡単には割り切れない心境なのだ
そして昨夜告げられた、有里湊を守れという件。これに関しても彼女は不安を抱えていた
「我々にはどうしても"力"が必要だ。これもやむなし…と考えて欲しい」
幾月の言葉は、自然と部屋の雰囲気を落ち着かせていた
だが現実は、容赦なく彼らを戦場へ駆り立てる
ーーー???ーーー
「……あれ?」
奇妙な感覚、それが綾の感じた最初の感覚だった。そして次に感じたのは異様な雰囲気。何故自分は綾で寝ていたのに"青い巨大エレベーター"にいるのだろうかという疑問が湧いて出た
「おやおや、これは何とも数奇なものだ。2日という短い間に二人ものお客人を招くことになるとは」
「はい?」
すると混乱が続く中で、綾は正面から声を掛けられてそちらを見やる。そこには現実世界には到底いそうにない、長い鼻とギョロリとした目が特徴的な老人、イゴールがいた
「ようこそベルベットルームへ。私の名はイゴール、そしてこちらはエリザベス。同じくここの住人だ」
「エリザベスでございます」
「は、はあ…」
いまいち状況が理解出来ない綾だったが、何となくこの人(?)の話を聞く必要があると考えたので、取り敢えず話の続きを待つ
「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある部屋。本来ここに来られるお客人は、何らかの『契約』を果たされた方のみとなっております」
「契約?そんなものした覚えがないんだけど?」
「その通りなのです…あなた様が契約なしにこの部屋に訪れたとなると、それは正しく運命。あなた様は世界の大きな流れに導かれた"旅人"ということなのでしょう」
引きつった笑い声の後に告げる言葉に、綾は僅かな不快感を感じた
「そんな誰かさんに人生操られてるような運命、俺は認めない」
「ほぉ、己の運命は自分で切り開くと。そう申しておるのですかな?」
「当たり前だろ。俺が歩いてきた人生が誰かの思い通りだったなら、俺はそいつを憎み続けるかもしれない…そんな何の利益にもならない生き方はしないって決めたからな」
「ふむ、何とも面白い考えをお持ちでいらっしゃる…あるいは、あなたが"例の方"なのかもしれませぬな」
すると意味深な事を告げたイゴールは、エリザベスに手を差し伸べ、あるものを催促すると、彼女も意図を察してそれを渡した
「どちらにせよ、あなたはもうこのベルベットルームのお客人だ。そしてあなたの運命、しかと見届けてみたいものだ…ただし、一つだけ契約を」
そしてイゴールは手に持ったものをテーブルに置いた
「なに、あなたが自分で選択した運命に、それ相応の責任を負って頂くという当たり前の内容でございます」
「…これって!?」
イゴールが置いたもの、それは二つ。一つは白が基調で、中心に赤い円形の装飾が施され、周りにはそれを覆うように幾つかのエンブレムが描かれたバックル。もう一つは、機械的なカードホルダーのようなもの。それは正しく、綾が夢で見たあのマゼンタの戦士が身に付けていたものだった
「それでよろしければ、これに署名を。これらはあなた様にとって必要不可欠なもの。このバックルとカードは、あなた様の選択を大いに広げてくれるでしょう」
「…これを受け取った先に、何があるんだ?」
ある程度話が済んだと見た綾は、イゴールの疑問だらけな説明を、未だに飲み込めてはいなかった。だがそれでも、最低限わかった事と言えば、何かが起ころうとしている事だけ
「それはあなた様自身が、その目でお確かめ下さい。既に物語は幕を開けております」
「そうか、それなら…大体分かった」
そしてイゴールから得られた情報により、彼の行動方針は決まった
「確かに…ここに契約は成されました」
綾は自らペンを取り契約署にサインを入れ、バックルとカードホルダーを手に取る
「今、選択を迫られる何かが起こってるなら、知らぬフリして後悔したくない。だから、俺は進ませてもらう」
「左様でございますか…エリザベス、お客人に鍵を」
「かしこまりました」
するとエリザベスは綾の傍らに近付き、青い不思議な鍵を手渡した
「あなた様はいずれ、必ず我々の力が必要となるでしょう。その時は、その鍵をお使い下され」
「そうか、それじゃありがたく貰うよ」
「さて、そろそろお目覚めになるべきだ。時の流れは待ってはくれませぬ」
イゴールのその言葉を聞くと、綾の視界が突然霞んでゆき、意識が遠退いていく
「そうそう、あなた様の道の傍ら、そこで共に歩むであろう『愚者』。その方と共々、くれぐれもお気をつけて」
彼がベルベットルームで聞いた言葉は、それが最後となった
2009年4月9日 影時間
「……世界が消えた?」
綾が次に目が覚めて見た光景、それは正に闇一色だった
「いや、待てよ?何だこれ、何かに閉じ込められてる!?」
だが彼は、体が感じる窮屈感から閉じ込められていると察した事で、一気に意識が覚醒する
「おいおい、何処のっどいつだよ…!こん、なことした野郎っは!」
綾は上から被せられている何かに手をかけると、思いっきり力を込めて押し上げた
「ぐっ、ぬぬぬぬ!どうっ!」
漸く何かを退かせた綾は、寝起きやら何やらの影響で凝った肩をほぐして、自分が入っていた箱状の何かに目をやる
「…は?棺桶!?」
それは映画とかで見そうなまんま棺桶と呼べるものだった。彼は困惑の中でも辺りを見回し、現状を把握しようと棺桶から出て立ち上がり、制服に手をかけた
「あれ?…空が、緑色?」
そう、綾が感じた違和感とは正にこれ。影時間の特有の雰囲気を肌で感じたことで、彼はただ事ではないと理解することが出来たのだ
そして制服を着替え終えたその時、突如寮全体を揺るがす衝撃と、上からガラスの割れる音が響いた
「っ!!?何だってんだよ!地震でもねえし…待てよ」
すると彼は一瞬、自分が体験した夢(?)らしき現象の中で聞いた、イゴールとやらの言葉を思い出した
「あれは…夢じゃなかった?」
ベルベットルームと呼ばれる奇怪な部屋での出来事と、今の異変が余りにも内容が合致しているにと気付いた綾は、ふと棺桶が横たわる自分のベッドを見た
そこには棺桶が塵のように消えていき、代わりに置かれたように、ベルベットルームで受け取ったバックルとカードホルダーがあった
バックルとカードホルダーを手にした綾はまず、外の様子を見るためにエントランスへ降りた。そして彼は迷うことなくドアを開け放つ
「なっ、桐条さん!?」
「っ!?八笠!?」
そして外へ出て最初に目にしたのは同寮の先輩である桐条美鶴。そしてまだ顔を合わせていないもう一人の先輩、真田明彦の姿だった。彼女らは一様に驚きを露わにし、綾はそれとは別に二人が持つ、日常生活ではまず身に付けないであろうレイピアとガントレットに目が行き、事態はただ事でないと察知していた
「おい美鶴!あいつは適性が無いんじゃなかったのか!?」
「いや、確かに彼は象徴化していたはずだ!こんなことって」
「ちょっと桐条さん!これって一体っ!?危ない!!」
その声が美鶴たちに届くと同時に、綾と美鶴たちの間を巨大な生物が通り過ぎた。それはよく見ると、海洋生物であるマンタに似ているが空を飛んでおり、更にそれが通り過ぎたルートに沿って灰色のカーテンが世界を遮断したのだ
「クソ!桐条さん!」
「何だあの『シャドウ』は!?見たことが無いぞ!」
「美鶴!」
すると、寮と遮断された美鶴たちの方で、突如異変が起きる。どこからともなく空から石が降り注ぎ、それらは形を変え、岩のような肌をした鬼らしき怪物に変貌し、各々が槍を構えた
「ふん、面白い!纏めて倒してやる!」
「アキ!面白がってる場合か!」
だが彼女らはそんな異常事態であっても取り乱さず戦闘態勢に入ると、各々がガンホルスターから拳銃を取り出し、米神に押し付けた
「なっ!何やってんで」
「「『ペルソナ』ッ!」」
突然の狂行に驚きつつも止めようとした綾の制止も聞かず、二人が引き金を引くと、二人の頭は吹き飛ぶことはなく、代わりに小気味良いガラスの割れる音とともに彼女らの周囲に青いオーラが吹き出る
「『ペンテシレア』!」
「『ポリデュークス』!」
そして現れたのは、二体の異形。一方はフリルの付いた騎士の甲冑を纏う騎士が、美鶴と同じくレイピアを身に付け、もう一方は金の長髪に両手足が針のように鋭いのが特徴的な巨人が各々の背後に佇んでいた
「っ!?…すげぇ」
その超然とした姿に息を呑む綾だったが、戦いは始まってすらおらず、ペルソナと呼ばれた二体は彼女たちの指示に従い動き出す
「『ブフ』!」
「『ジオ』!」
次の瞬間、美鶴の側にいた騎士は氷塊を、明彦の後ろにいた長髪の巨人は雷を放ち、鬼らしき怪物たちを蹴散らしていく。その中でも美鶴たちは襲い来る敵にレイピアの一閃を、拳の右ストレートを叩き込みながら迎撃していた
「はあ!」
「食らえ!」
そして右フックとレイピアによる横凪ぎが敵の顔面を捕らえ吹き飛ばすと、ペルソナたちが蹴散らした鬼たちと同時に爆散して消滅した
「ふん、手応えの無いっ!?ぐっ!」
「アキ!無茶をするな!」
敵の殲滅を終えた二人が警戒を解いていた頃、綾は先程の光景を見て疑問を感じていた
「何故だ…俺は、あいつらを"知っている"?」
だがその時、彼は唐突に危険を感知する
「そいつらは雑魚だ!"本命"が別にいる!」
「っ!うわっ!?」
その言葉が合図のように、綾の言葉は現実となった
「フン"ン"ンン!」
「ハァ"ァ…」
「ちっ!新手か!」
彼女たちを襲ったのは、先程の鬼とは全く別の化物だった。牛を模したゴツい体躯をした怪人、全身がメラメラと燃えたぎる炎のような怪人。この二体がうなり声をあげ、ゆっくりと美鶴たちに近付く
「いいぞ、もっと来い!」
「お前は傷が酷い!私がやる!」
新たな怪物を前に、美鶴は一人立ちはだかると、再び拳銃を突き付けて引き金を引いた
「ペンテシレア!ブフだ!」
「フンォォォ"!」
再び姿を現した異形、ペンテシレアは先程と同じく氷塊を二体の異形へ撃ち出す。すると牛の怪人が奮起するように雄叫びをあげ、四つん這いになると同時に氷塊目掛けて突進したのだ
そして氷塊は呆気なく、その猛った双角によって砕かれた
「何というパワーだ!」
「ぐあっ!?」
「っ!アキ!!」
怪人の桁違いな力を前に驚くのも束の間、今度はほんの少し目を離した合間に、いつの間にか背後に近づいていたもう一体の異形が負傷する明彦の首を掴み上げていたのだ
「くっ!ペンテシレ」
「フン"ッ!」
「ぐああああ!」
美鶴が即座にペンテシレアを使役しようとしたが、氷塊を砕いた牛の怪人はそのまま勢いを殺さず、気を逸らしていた美鶴を吹き飛ばした
「二人とも!!クソッ!何だよこの壁!」
壁を殴りつけるがビクともせず、その向こう側では使用者のダメージによってペンテシレアが幽鬼のように消え去り、残ったのは首を絞められ苦しむ明彦と、角の一撃でボロボロになった美鶴のみ。そして助けようにも助けられない無力感に、壁に隔たれた綾は膝をつき、下を向いた
「俺は…どうして守れない。どうして目の前の命を掴めない…!」
情けない己への怒り、言いようの無い虚無感に歯噛みする綾は、そこでふと思い出す。夢で見た、あの戦士の姿を
「…もしかして」
急いで懐からバックルとカードホルダーを取り出すと、バックル下腹部へと押し付けた
「成る程な、夢の通りって事か!」
バックルから伸びてベルトが腰に巻き付くと、綾はカードホルダーを開き、左側に納められた、マゼンタの戦士が描かれたカードを引き抜き、夢で見た名も知らぬ男と同じ手順で、右手で見せ付けるように顔の前へ運んだ
「『変身』!」
『kamen ride!』
カードを反転させ、ベルトに装填すると電子音が響き、同時に待機音が流れる
そして綾は両手でバックルのサイドハンドルを内に押し込み、バックルの中央部を90度回転させ、ベルトを起動する!
『decade!』
彼の周囲を総勢"十五人"のシルエットが覆い、彼へと収束すると、十枚のカードが顔に差し込まれ、黒のスーツにマゼンタが加えられ、顔の大きな緑の複眼が光り輝く
そして次の瞬間、彼と美鶴たちを隔てていた壁はガラスのように砕け散る
ーその者、世界を破壊し絆を紡ぐ『愚者』の旅人ー
ー創造は破壊にしか生まれず。されど旅の記憶は永遠となり、新たな未来を指し示さんー
ー破壊者にして創造主、その名も『ディケイド』。仮面の力、ペルソナと非なる仮面の力なり!ー
「イッヒッヒ!さあ…始まりますぞ」
やっと初変身。次は戦闘だらけ…かと
次回は本日13時を予定しています
それでは、感想お待ちしています!
6月27日 イゴールの笑い声を改訂