香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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剣鬼を打倒せよ②

 

 

「あれが────────」

「不可視の斬撃の、正体…………!」

 

 太刀川と忍田は、ようやく姿を見せた敵の見えない斬撃の()()に息を呑む。

 

 銀河に連なる星々の如く、円環状に展開された無数のリング。

 

 その円環に惑星の代わりに配置されているのは、無骨でありながらも優美な意匠さえ感じさせる鋭利な刃の数々だった。

 

 重石が着けられた事で速度が減少し、ようやく可視の状態となった星の杖(オルガノン)の本当のブレード。

 

 それが、今ようやく目の前に現れたのだ。

 

 二宮、出水、そして樹里による誘導炸裂弾(サラマンダー)の三面攻撃。

 

 その隙を突いて投入した若村達を囮にして、ようやく遊真の『錨』印(アンカー)を打ち込む事に成功した。

 

 最初から、敵のブレードに重石を打ち込む為だけに組み上げられた作戦。

 

 三人のトリオン強者による爆撃に加え、カメレオンの使い手二名を犠牲にした贅沢なやり方であるが、此処までしないと成功はしなかっただろう。

 

 何せ、重石を付与する攻撃自体はヴィザにとっては既知にあたる。

 

 透明化トリガー(カメレオン)の情報を知っていた事から、トリオン兵や人型相手に使用したトリガーの情報は全て共有されていると考えるべきだ。

 

 故に重石を与える攻撃の存在自体は知っていた可能性が高く、そのまま使用しても対処されていただろう。

 

 だからこそ三重の爆撃によって遮光カーテンを敷き、更に緊急脱出による粉塵で視界を塞いだのだ。

 

 若村は今回、鉛弾(レッドバレット)をトリガーセットに積んでいる。

 

 故に、そのまま攻撃が通ればそれで良し。

 

 そうでなくとも彼等を囮にした遊真の一撃が通れば、目的は達成される。

 

 そうしてようやく敵のブレードに重石を叩き込んだ事で、これまで散々苦しめられて来た不可視の斬撃が白日の下に晒された。

 

 此処に至るまで、不可視の斬撃は大きな障害となって立ちはだかっていた。

 

 何せ、最上級の実力者でもなければ防御すらままならない脅威度なのだ。

 

 その実力者達にしても身体に染み付いた防衛反応による第六感じみた反射行動で凌いでいるだけに過ぎず、そもそも敵が本格的な攻勢に移っていればそのまま負けていた。

 

 いつ何処から飛んで来るか分からない防御も回避も困難な斬撃というのはそれだけ脅威であり、事実これがあるお陰でこちらは碌な身動きを取れていなかった。

 

 リソースは贅沢に使い潰したとはいえ、重石を付ける事でブレードの可視かに成功したのは快挙と言って良い。

 

 見えない攻撃が見えるようになる、という事はそれだけ大きいのだから。

 

「行くぞ」

「ええ」

 

 しかし、こうなった今となっても太刀川達の役目は変わらない。

 

 いや、むしろ明確化した、と言うべきか。

 

 ブレードが見える事になった事で、無理に旋空で押し切る必要もなくなった。

 

 どころか、下手に旋空を使って重石を斬ってしまえばその分だけ敵が身軽になってしまう。

 

 故に、此処からは敵の攻撃を掻い潜りながらの鍔迫り合いになる。

 

 彼等の役割は、前衛。

 

 守るべき後衛に攻撃が届かないよう、その身を盾として敵に挑む刃持つ守護者。

 

 二人は覚悟を以て、遂に姿を晒したヴィザのサークルブレードの群れに挑んでいった。

 

 

 

 

『撃て。畳みかけろ』

「了解…………!」

 

 東の号令を受け、出水が弾幕を展開する。

 

 ようやく敵のブレードが露となり、先程までとは脅威度は激減したと言って良い。

 

 いつ飛んで来るか分からない不可視の斬撃に警戒しながらの戦いは、とても神経を使うものだった。

 

 だが、今敵のブレードには遊真が撃ち込んだ重石が付与され、その剣速を激減させている。

 

 脅威がなくなったワケではないが、それでも先程までと比べれば雲泥の差であるのは言うまでもない。

 

 言うなれば、先程まではいつ何処で即死攻撃が飛んで来るか分からずしかも狙われれば防御も回避も不可能、というクソゲー状態だったのだ。

 

 それと比べれば、敵の攻撃の威力や手数は変わらないとはいえ、攻撃が可視化されただけでも大分マシである。

 

 故に、この時こそが勝負。

 

 畳みかけるべきは、今しかない。

 

 出水の弾幕が発射されたと同時に、反対方向の空からも同じく光の雨が降り注ぐ。

 

 東の指示により攻撃を再開した、二宮のハウンドである。

 

 ブレードが可視化されたとはいえ、敵の実力が凶悪極まりない事は言うまでもない。

 

 故に、ヴィザに攻勢に移らせる事など愚の骨頂。

 

 あくまでも守勢を強いる為には、攻撃を仕掛け続ける必要があった。

 

 その為の射手であり、その為の陣形だ。

 

 彼等に遅れて、別方向からの弾幕が展開される。

 

 位置を移動し、この時を待っていた王子隊のハウンド(もの)だ。

 

 出水や二宮と比べれば数や威力が劣るものの、今この時は手数こそが重要になる。

 

 加えて、煙幕を張る必要もないので合成弾である必要もない。

 

 とにかく敵のブレードの動きが鈍った今こそ、攻撃を叩き込むチャンスなのだ。

 

 故に、手数重視。

 

 とにかく数を頼みに攻め続け、敵に攻撃に移らせない。

 

 その事こそが肝要であり、今は火力と弾数こそが正義である。

 

 先程までより数を増した光の雨が、流星雨の如くヴィザに降り注ぐ。

 

 重石を付けられたブレードでは、この攻撃を全て凌ぐ事は敵わないだろう。

 

 仕留める事は出来ずとも、何らかの手傷を与える事は出来る筈。

 

 出水でさえも、そう考えた。

 

 

 

 

「────────成る程。良い手です」

 

 ヴィザは、迫り来る光弾の雨を見上げながら微笑みを浮かべた。

 

 星の杖のサークルブレードに重石が撃ち込まれ、姿を露にしてしまったのは確かに痛手である。

 

 これまではその不可視と言っても過言ではない剣速こそを前面に押し出して戦っていたのだから、それが鈍化したとなれば攻撃の脅威度は下がってしまう。

 

 敵が一斉に攻勢に出たのも、当然と言えば当然だ。

 

 今この時であれば、ヴィザの動きは鈍っていると言っても良いのだから。

 

「ですが、ならばこうするだけの事」

 

 あくまでも。

 

 先程まで見せていたサークルブレードの剣速が、()()()()()()()()()()の話であるが。

 

「────────星の杖(オルガノン)

 

 ヴィザは星の杖を操作し、更なる加速を以てサークルブレードを起動。

 

 ブレード同士を接触ギリギリの軌道で旋回させ、撃ち込まれた重石を切断する。

 

 無論、撃ち込まれた重石の全てを撤去する事は敵わない。

 

 だが、大幅に体積を減じさせた事でかかる重量は相応に減少した。

 

 先程までのような不可視と言えるレベルの速度を取り戻す事は出来ないが、それでも充分戦えるだけの剣速は確保した。

 

 故に。

 

 ヴィザは速度をある程度回復したサークルブレードを以て、迫り来る弾幕を当然の如く斬り払った。

 

 

 

 

「対応が速いな。これだけ戦っていても、まだ底を見せてはいないという事か」

 

 それを目撃していた東は想定上の対応速度に、息を呑む。

 

 あれで完全に身動きを封じられたとまでは思っていなかったが、まさかこうまで即座に対処して来るとは想定以上の適応速度である。

 

 文字通り、戦術を戦略を以て凌駕する規格外。

 

 それこそがあの翁であると、改めて認識せざるを得なかった。

 

「だが、問題は無い。対処される事自体は想定内だ。二の矢三の矢でも足りない事は、初めから分かっていたからな」

 

 されど、此処までヴィザという怪物を観察して来た以上対処される事それ自体は想定していた。

 

 その速度が尋常ではなかったというだけで、作戦内容に影響はない。

 

 多少保険を利かせなければならなくなった程度であり、稀代の戦術家はこの局面に於いてもその思考を止めてはいなかった。

 

「二人共、少し早いがもう一度だ。いけるか?」

『ええ、大丈夫ですよ』

『当然です』

「なら、頼むぞ。第二波だ」

『『了解』』

 

 そして。

 

 東の号令により、二人のトリオン強者が動き出した。

 

 

 

 

「行け…………!」

 

 東の指示を受けた出水は手元で合成させたキューブを展開し、再び弾幕を放つ。

 

 これ程まで即座に対応して来るとは思わなかったが、こういった状況も東に聞かされた想定の中には存在していた。

 

 それでも尚この対処速度は規格外であるが、問題は無い。

 

 確かにサークルブレードの剣速は今尚凄まじいが、それでも先程までのように見えないレベルのそれではない。

 

 精々が、生駒旋空を一回り凌駕する程度の剣速だ。

 

 切断されたとはいえ重石を付けた状態でそれなのだから、規格外にも程がある。

 

 だが、敵の攻撃が可視化されたという事実に変わりはない。

 

 油断すれば一瞬で両断される脅威である事に違いは無いが、まだ常識的な範疇に収まっているだけマシである。

 

 だからこそ、東からこの指示が下ったのだ。

 

 再度、()()をせよと。

 

 同じ指示は、二宮にも下っている。

 

 反対方向の空には、それを証明するように彼の放った誘導炸裂弾(サラマンダー)が展開されている。

 

 二方向からの爆撃が、ヴィザへと襲い掛かる。

 

 それを見上げ、ヴィザは。

 

 迷う事なくサークルブレードを旋回させ、弾幕を両断。

 

 無数の誘導炸裂弾(サラマンダー)は一斉に起爆し、上空を凄まじい爆発が席捲した。

 

 

 

 

(矢張り、爆撃ですか。となると、今度も上からの攻撃を隠すつもりですかな)

 

 予想通りの光景を見て、ヴィザは眼を細める。

 

 攻撃の直前、出水が二つのキューブを一つに混ぜる様子は目撃している。

 

 恐らく、あれこそが誘導爆撃を行う為に必要な工程(プロセス)なのだろうとヴィザは判断していた。

 

 敵の爆撃はあの大柄な銃手のように放物線を描いたもの以外では、誘導弾の性質を付与させたものが存在する事を先程までの戦いで彼は見抜いていた。

 

 ボーダーのトリガーの性質など知らないヴィザではあるが、戦いを通して観察をしていれば大体の予想はつく。

 

 故に、剣速を回復させた自分相手に次の手を打って来るであろう事は予想出来た。

 

 この局面で爆撃をして来るという事は、先程と同じく上空からの第三射を隠すのが目的であると見て良い。

 

 少々単純ではあるが、ある程度の効果はある事は確かである。

 

 戦術としては、何も間違ってはいないだろう。

 

 されど、ヴィザ(じぶん)としては少々物足りない。

 

 これは、最早既知の攻撃手段だ。

 

 同じ方法が通じると思われる事は、若干ながら失望を禁じ得ない。

 

 この程度か。

 

 ヴィザの中に、そんな想いが沸き上がる。

 

 敵の評価を上げた直後なだけに、その失望は大きい。

 

 少々の落胆と共に、ヴィザは上からの攻撃を警戒するべく警戒網を張り直した。

 

「「旋空弧月」」

 

 その瞬間、太刀川と忍田が同時に旋空を用いて攻撃を仕掛けて来た。

 

 先程までと違い、既に重石は切断されている為旋空を使う事にデメリットは伴わない。

 

 故に、此処でそれを使わないという選択肢は無い。

 

 恐らく、上からの攻撃を補助する為の牽制だろう。

 

 そう判断したヴィザは、無造作にサークルブレードを振るいその拡張斬撃を迎撃した。

 

 如何に絶対の切断力を持つ旋空であっても、先端でなければその威力は減衰する。

 

 ヴィザは的確に刃の中腹を叩き、合計四つの旋空を的確に斬り払う。

 

 その、刹那。

 

「────────!」

 

 建物の瓦礫の陰から、無数の光弾が一斉に出現した。

 

 追尾弾(ハウンド)では有り得ない、その変幻自在な軌道を持つ弾の名は変化弾(バイパー)

 

 この時の為に呼び寄せていた、もう一人の変化弾のリアルタイム弾道制御が可能な少女。

 

 那須玲が、超低空の軌道を以て展開させていた弾であった。

 

 今回の大規模侵攻ではトリオン兵の駆除を担当していた那須隊であったが、今回の作戦に必要との事で東の号令で招集をかけたのである。

 

 全ては、この展開に繋げる為に。

 

 上空を爆煙で覆ったのは、あくまでもヴィザの注意を上を向けさせる為のブラフ。

 

 本命は、この低空軌道のバイパーを叩き込む事にこそあった。

 

 那須隊はB級中位でもそこまで成績が良いワケではないが、隊長の那須個人に限って言えばB級上位でも充分通用するだけの潜在能力(ポテンシャル)はある。

 

 とりわけ、リアルタイム弾道制御が可能なバイパーによる包囲射撃、通称「鳥籠」は彼女の代名詞ともなっている強力な攻撃だ。

 

 これまでシールドらしきものを見せていないヴィザにとっては、文字通り死の檻となる。

 

 黒トリガーは威力や性能が尖っている代わりに、通常のトリガーと併用出来ないという弱点がある。

 

 風刃のように、武器は文字通り剣一本だけでシールドもバッグワームも存在せず、ノーマルトリガーでは出来た事が出来ない、といった事はザラだ。

 

 見たところ、ヴィザの操る黒トリガー星の杖(オルガノン)の能力は展開されたサークルブレードを除けば仕込み刀となっている本体の杖による斬撃のみ。

 

 アフトクラトルのメンバーが全員纏っているあのマントに何かしらのギミックがある可能性はあるが、星の杖自体にシールド展開能力は存在しないと見て良いだろう。

 

 だからこそ、この包囲射撃が有効なのだから。

 

「やりますな。ですが」

 

 されど、ヴィザはこの期に及んでも焦りを見せなかった。

 

 その手に持つ星の杖の本体の仕込み杖を抜刀し、自身を包囲する鳥籠の一部のみを両断。

 

 最低限の脱出路を確保し、そのまま瞬間移動じみた速度で跳躍。

 

 脱出不可能と思われた鳥籠を、剣鬼は難なく脱してみせた。

 

 ヴィザにとっては、この程度の包囲攻撃は慣れ切ったものに過ぎない。

 

 数多の戦場を蹂躙して来た剣鬼にとって、四方八方からの弾幕など飽きる程に踏破したものなのだから。

 

 

 

 

『烏丸。頼む』

「了解」

 

 だが。

 

 この時をこそを、待っていた。

 

 バイパーの奇襲だけで彼を仕留められるとは、東も考えてはいなかった。

 

 故に、当然二の矢は装填していた。

 

 今、この瞬間に限り。

 

 ヴィザは位置を移動したばかりで、迎撃態勢に移るまでには多少のタイムラグがある。

 

 無論、それでもあの剣鬼ならば対応してみせるだろう。

 

 それならば、その対処能力を上回る物量を以て攻め入るだけの話。

 

「ガイスト、起動(オン)────────白兵戦特化(ブレードシフト)

 

 バチバチと、トリオンが弾ける音が響き渡る。

 

 指令を受けた烏丸が起動させた唯一無二(ワンオフ)トリガーの効果により、烏丸の弧月及び脚部が黒い紫電に覆われる。

 

 玉狛支部謹製、特殊トリガーガイスト。

 

 その片道切符を切った烏丸は、その手に黒い刀身と化した弧月を携え。

 

 神速と化した脚力を以て、ヴィザに向け疾駆を開始した。

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