香取隊の狙撃手   作:デスイーター

127 / 492
佐鳥賢④

 

 

「結論から言おう。木岐坂の処置は、これまでのものを継続する。それが、城戸司令を始めとした上層部の決定だ」

「…………そうですか」

 

 佐鳥は風間の話を聞き、神妙に頷いた。

 

 此処は、風間隊室。

 

 風間は香取達を見送った後、「話がある」という事で佐鳥を此処まで連れて来たのだ。

 

 即ち、上層部の決定の通達を。

 

 内容が内容なだけに樹里の前で言うワケにはいかないし、あの部屋の付近で話して彼女の耳にでも入れば事だ。

 

 だからこそ風間は人払いをした上で、自身の隊室まで彼を招いたというワケである。

 

 生真面目で几帳面な風間らしい、行き届いた気遣いぶりであった。

 

「じゃあ、俺への処分は特にない感じですかね?」

「あるワケがないだろう。お前は、職務をしっかりと遂行していた。あれは事故みたいなものであると、上層部は認識している。生憎、お前自身の負い目にまで干渉するつもりはない」

 

 風間は呆れたような調子でそう告げ、軽くため息を吐いた。

 

「そもそも、お前の与えられた役割はお前にしかこなせないものだ。木岐坂の最も信頼する人間で尚且つ彼女の事情を完全に知っている、という立場の者などお前以外にいないだろう。役割を解かれる事だけは有り得ない事くらい、分かるだろうが」

「…………そうですね。すみません、余計な事言いました」

「構わん。咎めたようになってしまったが、お前の心情も斟酌して然るべきだったのは事実だ。疑問を口にするな、とは流石に言わないさ」

 

 そう言って、風間は穏やかな笑みを浮かべる。

 

 矢張りこちらの心胆などお見通しか、と佐鳥は内心で苦笑した。

 

 恐らく、風間は佐鳥が抱える葛藤────────────────自罰願望を見抜いている。

 

 今回の一件で、佐鳥は自分にも大きな責任があると考えている。

 

 自分が付きっ切りで樹里を見ていれば、あの事態は防げたのではないか。

 

 あの時以来、そんな自問自答を彼は繰り返していた。

 

 迅は違うと言ってくれたが、これは佐鳥自身の自認の問題である。

 

 元より様々な負い目を抱える立場だった事もあり、その葛藤は根深い。

 

 風間はそこまで察して追及はせずにいてくれており、ありがたさが身に染みる想いである。

 

 一見冷たく厳しい印象を持つ風間であるが、その実面倒見が良く情が深い事は佐鳥も知っている。

 

 自分にも他人にも厳しい性格である為に言葉尻こそ棘だらけだが、しっかりと言うべき事は言うし相手へのフォローも忘れない。

 

 このあたり、言動の選択が暴言オンリーで尚且つ言葉足らずが天元突破し、相手の心情を斟酌して発言するという発想がそもそもない二宮とは天と地の差である。

 

 実力面はともかく、上に立つ者として持つべき器の大きさであれば風間の圧勝と言っても過言ではない。

 

 二宮の場合は天然がおかしな方向に影響を与えて色々感性がズレまくっているのであれだが、きっとどちらを上司にしたいかと問われれば10人中10人が風間と答えるだろう事は言うまでもない。

 

 というか、以前非公式で行われた「他部隊の隊長の中でならどの隊長の部下になりたいか」というアンケートでは、二宮はぶっちぎりの最下位を獲得している。

 

 対して風間は4位という結果であり、誤解され易い彼の性格を鑑みてもその上に立つ者としての器の大きさが分かる者には分かっているという事が見て取れる。

 

 見る者はきちんと見ている、という事なのだろう。

 

 そんな風間だからこそ、佐鳥の心胆もしっかり見通していた。

 

 彼が罰を求めているのは、すぐに分かった。

 

 しかし、その願望の通りに罰してしまっては、彼のマイナス方向の自己満足を叶えるだけで、建設的な解決とはとても呼べない。

 

 故に「罰しない事こそ罰である」とし、彼の自省を促したのである。

 

 ある意味普通に処罰されるよりもキツイ面もあるが、その過程こそ彼には必要だと風間は判断したのだ。

 

 自罰の末に安易な解決法になど縋って欲しくはないし、多少突き放したところで潰れるような少年ではない事も、彼は理解していた。

 

 つまるところ、この扱いは風間からの激励に等しい。

 

 この程度、乗り越えてみせろという彼なりの叱咤である。

 

 それが分かるからこそ、佐鳥は申し訳なさを感じつつも苦笑せざるを得ないのだった。

 

「すみません。余計な手間をかけさせてしまって」

「構わん。問いに答えるのは、目上の者として当然の義務だ。疑問を口にするのは、当然の権利だからな」

「ありがとうございます」

 

 何処までも面倒見が良く優しい、童顔の青年に対し佐鳥はそう言って頭を下げた。

 

 全てを見通した上でそう言ってくれている事が、何よりありがたかった。

 

 風間も、今回の件で佐鳥に一切の非が無いとまでは考えてはいないだろう。

 

 樹里の監視といざという時の抑止が佐鳥の任務であった以上、彼女がああなった段階で職務上果たすべき義務を怠ったと見られても言い訳は出来ない。

 

 それはあくまでも佐鳥の自認であり、実際はそこまで理不尽な事は思われてはいない。

 

 しかし佐鳥が樹里への監視を緩めた事が今回の発端であった事は佐鳥の中では事実であり、風間の側もこちらに何らかの過失があった事くらいは察している筈だ。

 

 にも関わらず風間はあくまでも知り得る客観的な情報から判断を下し、言葉を選んでくれている。

 

 処置の内容を決めたのは上層部だが、風間は恐らく上の思惑も相応に汲んでいるだろう。

 

 上層部としては樹里の監視と行動の誘導という役割を佐鳥以外にこなせないという事が分かり切っている以上、多少過失があった程度で彼を解任する選択肢など存在しない。

 

 それがどれだけのデメリットを生むか、分からない彼等ではないのだ。

 

 樹里は、佐鳥の存在を精神安定剤代わりにしている面がある。

 

 彼がある程度自分の時間を犠牲にしてでも彼女に付き添っているのは、それを半ば理解しているからだ。

 

 健全な関係と言い難い事は分かっているが、かといって放置すれば樹里の精神状態の悪化は眼に見えて明らかである為どうしようもない。

 

 何よりも佐鳥自身が彼女の傍にいる事を望んでいるので、決して渋々樹里と共にいるワケではない事もある。

 

 普通に考えて、自分を慕ってくれる美少女の傍にいたくない男などいないに決まっている。

 

 何か理由があって枯れたような精神性の人間ならばともかくとして、佐鳥は性質的には一般的な男子高校生の範疇にある。

 

 精神面は年齢にしてみれば成熟しているが、それはボーダー隊員では良くある事なので些細な事だ。

 

 ともあれ、超絶美少女の類である樹里に慕われておきながらそれを無下に出来るような精神性を彼は持ち合わせてはいない。

 

 時折爆弾発言を連発して来るのが困りもので、それが半ば以上に本気である事も悩みどころではあるが。

 

 決して、佐鳥自身も自分の立場を苦とは思っていないのだ。

 

 勿論彼女や迅に対する負い目はあるし、そのあたりの葛藤も抱えてはいる。

 

 しかし、好きでもない相手と四六時中付き合うような真似を出来る人間ではない。

 

 佐鳥の側からも樹里への好意はしっかりとあるし、実のところ彼女の無自覚な誘惑に屈してしまいそうになった事すらある。

 

 鋼の精神でそれに耐えているだけで、彼でなかったら間違いの一つや二つはとうに犯してしまっている事は言うまでもない。

 

 流石にそこまで見通されているとは思いたくはないが、それでも佐鳥が樹里に悪い感情を抱いていない事くらいは分かっているだろう。

 

 色々な意味で、風間には頭が上がらない佐鳥であった。

 

「ともかく、ご苦労だったな。この後は、また木岐坂の所に戻るのか?」

「ええ、一緒に夕食を摂るよう催促されていますしね。それが何かしましたか?」

「それなら丁度良い。これを持っていけ」

 

 風間はそう言うと戸棚を空け、紙袋を一つ渡して来た。

 

 「鹿のや」の名前がプリントされている袋を見て、佐鳥はその中身を察した。

 

 これは、間違いなく。

 

 彼女の好物である、()()である。

 

 風間は軽く笑みを浮かべ、佐鳥の肩をポンと叩いた。

 

「いいとこのどら焼きだ。俺が渡すよりも、お前から渡した方が良いだろう。頼んだぞ」

 

 

 

 

「というワケで、これは風間さんからのお見舞い。わざわざ買って来てくれたみたいだし、後でお礼言っておこうね」

「わかった。風間さん、グッジョブ」

「なんでそこでその返しなのかなぁ」

 

 その後、樹里のいる部屋へと戻った佐鳥は鹿のやの袋を渡しながらそれを満面の笑みで受け取る少女を見てため息を吐いた。

 

 先程香取達を連れて来た時に渡さなかったのは彼女達から余計な勘繰りを受ける事を阻止する目的もあっただろうが、佐鳥への余計な気遣いも一因であった事は間違いない。

 

 風間は確かに気配りが出来る有能な上司ではあるが、時折こういった茶目っ気を見せる事がある。

 

 そういうフランクさも慕われる一因となってはいるのだが、それを向けられた佐鳥としては苦笑する他ない。

 

 余計なお世話だとまでは言わないあたりが、佐鳥の本心を物語っているのだが。

 

「そういえば、戦功って確かポイントもプラスされるんだっけか」

「そうだね。樹里ちゃんの場合は特級戦功だから、1500ポイントの加点になるね。今メインにしてるイーグレットのポイントが6750だったから、8250になってマスタークラスじゃん。おめでとう」

「うん。ありがと。でも、なんだか不思議な気分。初のマスタークラスになったけど、少し実感が湧かないかな」

 

 樹里はそう言って、小首を傾げてみせた。

 

 攻撃手から射手、狙撃手へと転向を繰り返した樹里は、これまでマスタークラスに到達したトリガーが一つもなかった。

 

 狙撃手への転向直前までポイントを上げ続けたハウンドの得点も7865とギリギリマスタークラスには足りておらず、スコーピオンに至ってはB級への昇格後すぐに射手に転向した為に4341ポイントから変動していない。

 

 事実上これが初めてのマスタークラスになる為感慨深いが、一足跳びに繰り上がったので実感が湧かないのだろう。

 

 それだけの戦果を挙げた事は事実なので妥当な昇格ではあるのだが、肝心の最終局面の記憶が曖昧である事もあっては無理もない。

 

 まあ、あの時の詳細な記憶を思い出されては困るのでそれはそれで良いのだが。

 

「香取ちゃん達と人型を撃破して捕虜にも出来たし、しっかりと結果は出してるんだからそれだけの戦果は出た、って事で納得しとこうよ。貰って困るものでもないんだしさ」

「ん、そだね。わたし、頑張った。賢、褒めて」

「はいはい、マスターへの昇格おめでとう。良く頑張ったね、樹里ちゃん」

 

 そう言って佐鳥が樹里の頭を撫でると、ん、と気持ち良さそうな声を漏らして少女は表情を和らげる。

 

 飼い主に構って貰った時の犬のようだなぁ、と思いつつ佐鳥は口には出さない。

 

 前に似たような事を言ってしまい、「犬耳が、良いの?」と何気なしに問われた事は今でも覚えている。

 

 あの時は「もし付けたら可愛いだろうなぁ」という誘惑をへし折るのが非常に大変だったので、二の轍は踏まないように心掛けている佐鳥であった。

 

 多分、そういうコスプレもどきも樹里は頼めばやってくれる。

 

 基本的に慕う相手からの要求は断らないのが樹里なので、佐鳥が望めば嬉々としてやらかしてしまうに違いない。

 

 それが分かっているからこそ、佐鳥はそういった誘惑に対し下手に乗れないのである。

 

 多分際どい恰好であろうと特に躊躇なくやってくれるであろう年頃の少女に対して、そこまで欲望全開になるのは流石にどうかと思うのが佐鳥なのだ。

 

 少しくらい良いのでは、と誘惑に折れかけた回数もそれなりに多く、彼は自分の理性をあまり信用していない。

 

 だからこそ割と意固地になって樹里の誘いを断り続けている面もあるが、実のところ彼女の側も幾分かは確信犯でやっているのでは、という疑いがある。

 

 何せ、自分の嗜好を見通しているとしか思えないタイミングや方向性で誘って来る時がたまにあるのだ。

 

 色々な事を試して自分の趣味嗜好を探られているのでは、と疑念を抱いた事も数知れない。

 

 樹里に限ってそんな事は、と思いつつももしや、という懸念が捨てきれない為に彼はより一層精神のバリアを強めるのであった。

 

「賢。マスターになったし、お祝いしよ。取り敢えず、泊まってって」

「いやいや、泊まるのは幾らなんでも駄目だって樹里ちゃん。そんな事したら、香取ちゃん達に何言われるか」

「ん。犬耳、持ってるよ? 付ける?」

「………………………………駄目です。駄目だから、ね」

 

 樹里の突然の誘いに危うく頷きそうになりながらも、佐鳥は己の理性ポイントを消費して精神防壁を補強して事なきを得た。

 

 その返答に「えー」とぶーたれつつ、何処か探るような瞳で樹里は佐鳥を見上げている。

 

 やっぱり色々見抜かれているんじゃ、とより一層の疑念を抱く佐鳥であった。





 自部隊の隊長以外で隊長にするなら誰が良いかランキング(非公式/主催・王子一彰)

 桜子「王子先輩が色々な思惑により興味を抱いて非公式に開催したアンケートの結果集計です。隊長を除いた隊員の多くのアンケートを配り、尚且つ主催者の名前を誤魔化しながら開催した模様。え?私ですか? 別に解説の依頼や色んな便宜と引き換えに表向きの進行役を引き受けたりなんかしてませんよ?ホントですってば」

 桜子「ちなみにB級下位のメンバーは全く投票がなかったので載っていませんのであしからず。知名度や活躍の面を考えると仕方ないですね。悲しい事に。ついでに漆間隊長も同じく0票なので圏外です。一人チームで尚且つ評判も悪いのでむべもなるかな」

 桜子「それからランク戦に関わらない玉狛支部の面子は投票対象に入っていません。三雲隊長はそもそもデビュー前なので当然対象外となっております」

 1位:東春秋:コメント/①色々頼りになるから②隊長にするなら東さんでしょ!あの人の部下もっかいやりたい。一条雪丸

 2位:諏訪洸太郎:コメント/①面倒見が良くて頼りになる②前に面倒見て貰って笹森が言ってた事を実感した。半崎義人

 3位:来馬辰也:コメント/①菩薩。尊い②この人を慕う鈴鳴の気持ちも分かる。こういう隊長もいいよな。若村麓郎

 4位:風間蒼也:コメント/①上司として頼りになるし面倒見が良い②諏訪さんが色々言ってたけど良い人なのは間違いないので一度部下になってみるのもいいかも。堤大地

 5位:荒船哲次:コメント/①色んな面で頼りになるし良い兄貴分過ぎる②一度荒船の下に就いてみるのも面白いと思った。村上鋼

 6位:嵐山准:コメント/①ヒーローみたいで格好良いから②以前柿崎さんがお世話になったそうですし、一度下に就いてみるのも参考になるんじゃないかと思っています。照屋文香

 7位:生駒達人:コメント/①強くて頼りになりそう②生駒旋空を活かすサポートをするのも面白そうだ。出水公平

 8位:柿崎国治:コメント/①支え甲斐があるというのも分かる②他に隊長にするならこの人がいいかなやっぱり。時枝実

 9位:那須玲:コメント/①那須さん可愛い②この人なら私のスピードが活かせそうだし、一度一緒に組んでみたい。木虎先輩と違ってとっつき易そうだし。双葉黒江

 10位:加古望:コメント/①セレブ感がある美人だし下に就いてみたい②同じガールズチームの隊長だし他の人よりはやり易いかも。一応、私も名字はKだし。熊谷友子

 11位:太刀川慶:コメント/①強い。それ以上に理由いる?②ま、単に勝ちたいってんならこの人が最適解っぽいじゃん。強いしな。米屋陽介

 12位:草壁早紀:コメント:①草壁ちゃんかわいい②頑張って私の隊よりも順位を上げたし、この子の下でも私の能力は発揮出来そうですので。木虎藍

 13位:片桐隆明:コメント/①一緒にいると楽しそう②前に東さんの部隊にいた人って話ですし、一度交流してみたいですね。奥寺常幸

 14位:王子一彰:コメント/①頭良さそうで頼りに出来そう②うちの隊に前にいたって事で交流もあるし、一回一緒になってもいいかもですね。外岡一斗

 15位:弓場拓磨:コメント/①弓場さんカッケェ②もう一度弓場さんの下で戦うのも良いかもしれないな。蔵内和紀

 16位:冬島慎次:コメント/①大人だし頼りになる②あの害悪戦法の恩恵は一度与ってみたいですね。佐鳥賢

 17位:香取葉子:コメント/①香取ちゃん可愛い②色々勿体ないんだよね。やりようによっては化けるから、一度やってみるのも面白いかもだ。犬飼澄晴

 18位:三輪秀次:コメント/①強いし真面目そうだから②少しとっつき難いけど悪い人ではないからね。強いから、色々参考に出来そう。三浦雄太

 19位:影浦雅人:コメント/①前はA級だったし強いから②面白いかもしれないな。カゲのサポートをするのも。穂刈篤

 20位:二宮匡貴:コメント/①あの弾幕は凄ぇ②正直早紀ちゃんがいなかったら二宮さんトコ行ってたかも! いや、弓場さんとも迷うかもだけど。里見一馬


 ※なお、これらは作者の独断と偏見で尚且つこの世界線独自のものなのであしからず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。