B級9位漆間隊、及びB級11位荒船隊。
これら二つの部隊は、B級中位の部隊の中でも異色の部隊として知られている。
まず、漆間隊は隊長の漆間とオペレーターの六田のみという、事実上の戦闘員が一名だけという部隊だ。
チームとは名ばかりの漆間のワンマン部隊に思えるが、そんな構成でB級9位という高順位を誇っているのだからハッキリ言って異常だ。
何せ、事実上漆間一人の力で他の部隊に拮抗しているに等しいのだ。
幾ら戦闘に長けているとは言っても、個人で集団に対抗するには相応のやり方が必要となる。
個人戦と集団戦とでは、必要となるノウハウが全く違うからだ。
チームで動く場合と異なり、個人部隊である漆間は
通常の部隊であれば行えた筈の囮戦法や挟撃などといった真似は、漆間隊には不可能だ。
逆に漆間は戦闘の最中は常に他部隊からの横槍を意識せねばならず、当然ながら通常の部隊戦とは全く違う感覚で戦う事を強いられる。
故に、漆間の戦い方は基本的にはヒット&アウェイ。
バッグワームとカメレオンを駆使して全力で隠密し、隙を見て他部隊の戦闘に横槍を入れて点を掻っ攫い、頃合いを見て自発的に緊急脱出して点を
その性質上一試合で稼げるポイントは2、3点が限度といったところであり、点の取り合いであるランク戦では不利な戦術と言わざるを得ない。
にも関わらず、漆間隊は中位落ちとなり8位となった香取隊のすぐ下の順位を維持しているというのはハッキリ言って普通ではない。
そもそも、横槍を入れて点を掻っ攫うと一言で言っても、単独でそれを成功させ続けるというのは容易な事ではない。
しかもそれをきっちり成功させて自発的な緊急脱出で逃げ切っているのも、中々に異常な所業である。
漆間は単に強いというよりも、厄介な駒といった方が正確だ。
本人の非協調的な性格も相俟って、多くの者から忌避されている部隊と言えた。
そして、もう一方の荒船隊は狙撃手三人体制という特殊部隊もかくや、といった構成のチームである。
部隊に所属する三名は全員が腕利きの狙撃手であり、彼等は高所に陣取り包囲狙撃で敵チームを各個撃破するという戦法を取る。
その性質上地形の影響をモロに受けはするが、嵌まった時の厄介さはB級の中でも随一と言える。
そして、この二部隊を相手取った時に最も厄介な点は。
こちらが
漆間隊も荒船隊も、本領が不意打ちである為に常にバッグワームを纏い隠れ潜む。
それはつまり、それらを相手にする以上こちらまで姿を隠していては戦況が膠着し、点が取れないという事を意味している。
加えて、不意打ちを恐れて時間稼ぎをしようものならその間により厄介な狙撃陣形を完成され、いつの間にか身動きがまともに取れなくなる、といった事態も想定される。
それを防ぐ為には自ら姿を晒して囮になる他なく、だからこそ香取は苦い顔をしたのだ。
他に普通の戦い方をするチームがいればそちらを囮に使えもしたのだろうが、今回敵チームは両方が隠密を前提とした戦術をとる部隊。
必然的に貧乏くじを引く役目を担わなければいけない為、香取はあからさまに苦い顔をしたワケである。
「最悪じゃん。ホント、悪意しか感じないマッチングだわ」
「それには同意するぜ。ったく、なんなんだよこの組み合わせは」
「まあ、とは言っても決まったものは仕方ないよ。どうすれば良いか、対策を練ろう」
香取の言に珍しく賛同した若村に対し、三浦は苦笑しながらそう提案する。
確かに、彼の言う事にも一理ある。
幾ら対戦組み合わせが最悪だったからといって、このまま腐っていても何も始まらない。
決まったものはしょうがないのだから、切り替えていくしかないのだ。
「そうね。状況を整理しましょう。戦うのは、漆間隊と荒船隊。そして、この中で最も順位が低いのは荒船隊だから、MAPの選択権は彼等にあるわね」
「ホント、クソみたいな状況ね。あの荒船隊がMAP選択権あるとか、どう考えても市街地C選んで来るじゃないの」
「選ばない理由がないものね。奇を衒って別のMAPを選ぶ可能性もあるけれど、荒船先輩はそういうタイプじゃないでしょうし」
但し、華の発言によって状況はより厄介な事も判明したのだが。
ランク戦では、戦う部隊の中でポイントが最も低いチームがMAPの選択権を持つ。
今回戦う部隊では最も順位が低いのが荒船隊である為、彼等が戦場を選ぶ権利を持っている。
それはつまり、狙撃手チームである荒船隊にとって最も有利な地形での戦闘を余儀なくされるという事でもある。
香取が挙げた市街地CというMAPは、高低差のある段々畑のような街並みの地形であり、上を取れば一方的に攻撃を仕掛けられると言う狙撃手有利なMAPである。
荒船隊は基本的にMAP選択権のある時はこの地形を選んでおり、今回もその例に漏れる事はないと考えられる。
厄介な戦術を持つ部隊が、その得意とするフィールドでの戦闘を強要して来る。
これ程脅威的な組み合わせは、中々にないだろう。
「まずは、荒船隊をどう攻略するか。これが、第一の課題ね」
「香取隊と漆間隊か、戦う相手は。木岐坂が入ったらしいな、香取隊には」
「そっすね。ホント、ダルいっす」
荒船隊、隊室。
そこでは対戦組み合わせを見た穂刈と半崎が、各々の感想を漏らしていた。
珍妙な喋り方をする穂刈だが、その腕と機転の巧みさは本物だ。
その彼が顔を顰めるくらいには、樹里が香取隊に入った、というのは重要事項なのである。
同じ狙撃手であるだけに、彼女の事はそれなりに知っているのだから。
半崎はその樹里と同じクラスであり、佐鳥を巡る関係性からそもそも相性が良いとは言えない相手でもある。
むしろ、友人に負担をかける人物としてどちらかと言えばあまり快く思っていない相手でもある。
口癖のようにダルいとぼやく半崎の眼に、少々剣呑な光が宿っているのがその証拠だろう。
これまでは直接対決の機会などなかったが、こうして戦う機会が巡って来た以上は容赦しない。
そんな想いが、彼の表情からは見え隠れしていた。
「確かに厄介な相手だが、今回は組み合わせに恵まれたな。もう一つのチームが漆間隊なら、香取隊は姿を隠す選択肢を取れない。それをしたら、膠着状態になっちまうからな」
「可能性はないのか、敢えてそれを狙う」
「なくはないが、低いだろうな。それをして得をするのは俺達の方だし、今の香取隊はそこまで考え無しじゃないだろ。特級戦功なんてモンを取った連中なんだしな」
一方、荒船は冷静に相手の戦力を分析していた。
今回、対戦する相手は香取隊と漆間隊。
この組み合わせで戦う以上、香取隊は自ら身を晒さざるを得ない。
時間は荒船隊の方を有利にしていく以上、下手に隠れるのは愚策でしかないからだ。
苦渋の選択であっても、徒に時間を浪費するよりはずっとマシな選択である。
そちらを選ばない程考え無しだとは、荒船は思っていなかった。
「ちなみに、MAPはいつも通り市街地Cでいくんすか?」
「ああ、そのつもりだ。相手次第じゃ別のMAPも考慮したが、漆間がいる以上複雑な地形を選ぶのは自殺行為だしな。ここは、強みを押し付ける形でいった方が良いだろう」
そして、大方の予想通り荒船は堅実な選択をするつもりでいた。
敵にも狙撃手の樹里がいるが、狙撃の練度ではこちらの方が上であり数も多い。
ランダム転送で樹里に高所を取られるという危険はあるものの、そもそも碌に射線が通らないMAPを選んでしまえば香取隊が有利になってしまう。
向こうには乱戦を得意とする香取がいるし、何より複雑な地形は遭遇戦を得意とする漆間の独壇場だ。
基本的に漁夫の利を掻っ攫うのが漆間隊のスタイルなので、それを許すような地形を選べば自分で首を絞めるのと同義だ。
奇をてらって賭けに出るよりは、堅実な選択がベストと言えよう。
「だが、油断はするなよ。仮にも相手は上位にいたチームだし、木岐坂の加入以降順調に成長してる。有利な条件といって侮れば、痛い目を見るのはこちらだろうからな」
「わわ、相手荒船隊と香取隊なんだ。どっちも強いチームだね」
「ま、悪い条件じゃないでしょ。どうせ荒船隊は市街地C選んで来るだろうし、香取隊は自分から身を晒してくれるでしょうしね」
漆間隊、隊室。
そこでは対戦組み合わせを見た六田と漆間が、各々の感想を漏らしていた。
六田がおどおどした様子なのはいつもの事なので、スルーしつつ、漆間は的確に状況を分析していた。
守銭奴で尚且つ性格の悪さが目立つ漆間であるが、戦闘者としては優秀の一言に尽きる。
盤面の把握能力は高いし、咄嗟の機転も利く。
図太い性格をしているので少々の事では揺らがないし、彼にとって大事なのは六田と自分だけなので、優先順位を履き違える事もない。
今も対戦組み合わせの内容から敵の動きを正確に想定し、己の意見を口にしている。
リアリストで効率主義な彼らしい、サバサバした物言いだった。
「で、でも香取隊って樹里ちゃんが入ったんだよね? あの子、トリオンかなり高いし結構強いって話聞くよ? 大丈夫かな?」
「二宮さんみたいなMAP兵器クラスじゃないってだけ、まだマシでしょ。それに、狙撃手である事を放り投げて火力に任せて来るようなら、それこそ好都合ってモンでしょ。その隙を見逃す荒船隊じゃねーし、なんならこっちで隙を突いても良いんですしね」
漆間はそう言って、六田の懸念を一蹴する。
確かに、高火力を持つ樹里は厄介な存在だ。
しかしそれを活かす為に狙撃手の利点である奇襲性を捨てて来るというのなら、それこそ儲けものだ。
そんな隙を晒すような真似をすれば荒船隊が黙っていないだろうし、場合によっては漆間自らが横槍を入れに行っても良い。
どちらにしろ有利なのは自分達だと、漆間は自分の言を撤回しなかった。
「けど、あくまでそれは最終手段。基本的には、若村と三浦を狙うべきっしょ。誰を落としても点数同じなんだし、わざわざ危ない橋を渡るよりはそっちの方が楽ですしね」
「そ、そうだよね。樹里ちゃんも香取ちゃんも強いし、そっちの方が良いよね」
「とはいえ、狙えるなら狙いますけどね。強いっても二宮先輩や影浦先輩みてーなクソゲー仕掛けて来るワケじゃないし、やりようはありますからね」
そう言って、漆間は二人のB級上位隊長の姿を想起する。
二宮はその圧倒的な火力でのごり押しによる別ゲーを仕掛けて来るし、影浦は
どちらも下手に近寄っただけで即死する類の相手であり、特に影浦は漆間の持ち味である奇襲戦法が完全に封殺されてしまう天敵でもある。
故に漆間はこの二人のような相手を「取れない駒」として扱っており、そういう相手には無理に干渉しない事にしている。
彼等と比べれば強いがやりようはあるのが香取と樹里なので、彼女達を狙うのも普通に選択肢には入る。
優先順位が高くないというだけで、チャンスがあるなら狙うつもりはあるのだ。
一人部隊という特殊な性質を持つ自分達が勝つ為には、あまり獲物を選り好むワケにはいかないのだから。
「まかり間違って木岐坂が上を取っちまった場合は、地獄絵図でしょうけどね。その場合は、どちらかというと混乱している隙に荒船隊を狙った方が良いでしょ。まあ、何処まで割り切って攻撃して来るかって問題もありますけど」
「そ、そうだね。そうならない事を祈った方が、良いかな」
「出来ればそっすね。オレも、あの火力相手に逃げ回りながら隙を伺うのは勘弁願いたいですし。取り敢えず、ランダム転送の運が良い事を願うしかないでしょ」
それに、と漆間は続ける。
「そうなったらそうなったで、タダでやられる程荒船隊も温くないでしょ。向こうは三人いるんだし、全員が高所取れてれば包囲狙撃の的にも出来るでしょうしね」
「うん、そうだね。ちなみに、そうなったら漆間くんはどうする?」
「その隙に位置バレした荒船隊を狙うに決まってます。流石に高所を取られた木岐坂相手に単独の奇襲でどうにかなるとは思えないし、あいつを取る為に荒船隊が表に出て来るならこれ以上ないチャンスですからね」
そう言って、漆間ははぁ、とため息を吐く。
確かに、条件は有利ではある。
少なくとも、そこまで悪い状況ではないだろう。
(けど、なーんか嫌な予感がすんだよな。これ、本当にオレ等が有利なんだよな…………?)
しかし、その脳裏には。
説明出来ない奇妙な予感が、燻っていたのだった。
────────そして。
時は流れ、遂に。
ランク戦が始まる日が、やって来る。