(あー、まあ真木ちゃんがいきなり出て来たらこうなるよなぁ。分かってた事だけどよ)
当真は静まり返った会場を見回し、溜め息を吐く。
今回は、記念すべき今期のランク戦の第一回。
本来であればランク戦の実況・解説システムの立役者にして運営者である桜子がこの場の進行役を務めるのがセオリーではあるが、今回彼女は同時刻に行われるB級下位の実況の方を務めている。
向こうは色々な意味で話題が尽きない玉狛第二の試合であり、実況システムの立役者にして第一人者である桜子としては見逃すワケにはいかなかったのだ。
話題性で言えば樹里という新戦力が加入した香取隊の試合も相当なものだが、苦渋の決断の末桜子は前者を選択した。
三日三晩悩んだ末の結論なので後悔はないと言い切る桜子であるが、内心はどうだったかまでは分からない。
されど香取隊の試合も注目株である事は事実なので、生半可な相手には任せられない。
だからこそ色々な意味で信頼出来る三上に頼み、多数の者から慕われる超の付く人格者である彼女は二つ返事で了承した。
しかし、その三上も急な用事が入ってしまい、どうしようかと困っていた所に真木がやって来たワケである。
真木は自他共に認める三上のシンパであり、溺愛していると言っても過言ではない。
その可愛い三上が困っている以上、放っておくという選択肢は彼女にはない。
故に、真木もまた二つ返事で三上の代役を引き受けたのである。
本来解説を行う筈だった北添も用事が入った事を知ると、彼女は隊室で暇をしていた当真を問答無用で引っ張っていき解説役も確保。
最初から桜子に申し込んでおり解説が内定していた二宮と共に、この席に着く事となったワケだ。
いきなり真木理佐というインパクトのデカイ相手を前にする事になった隊員の皆々様はご愁傷様だが、此処は巡り合わせの妙だと諦めて貰うしかないだろう。
一度行動を始めた真木を止める事など、誰にも出来ないのだから。
「さて、続けるよ。ROUND1だから、軽い説明も入れておく。初めて見る奴もいるだろうから、基本的な所からね」
そんな当真の内心など知った事ではないとばかりに、真木は司会を進行する。
彼女なりの全力で、この任務をやり遂げる所存だった。
「今、B級には21組の部隊がいる。その上から順に上位・中位・下位グループに分けて、その中で三つ巴もしくは四つ巴で試合を行い、点を取り合うのがボーダーのチームランク戦だ。これが、今のそのランキングになる」
| 部隊 | 順位 | 得点 |
| 二宮隊 | 1位 | 15Pt |
| 影浦隊 | 2位 | 14Pt |
| 生駒隊 | 3位 | 13Pt |
| 弓場隊 | 4位 | 12Pt |
| 王子隊 | 5位 | 11Pt |
| 東隊 | 6位 | 10Pt |
| 鈴鳴第一 | 7位 | 9Pt |
| 香取隊 | 8位 | 8Pt |
| 漆間隊 | 9位 | 7Pt |
| 諏訪隊 | 10位 | 6Pt |
| 荒船隊 | 11位 | 5Pt |
| 那須隊 | 12位 | 4Pt |
| 柿崎隊 | 13位 | 3Pt |
| 早川隊 | 14位 | 2Pt |
真木の言葉と共に、スクリーンにランキングが表示される。
それまで彼女の威圧感に口を噤んでいたC級達も、それを見て少しずつざわめき始めた。
初対面の威圧感のある美少女の放つ空気を感じながらも、好奇心の方が優先されて来ている結果である。
「此処に表示してあるポイントが、今期のランク戦の初期ポイントになる。これは前期のランク戦の順位に応じて配分されているから、この並びが前のランク戦の最終順位だと思って貰えば分かり易いだろう」
「要するに、一度残した結果は無駄になんねーってこった。良くも悪くもな」
「説明が簡潔過ぎるが、まあその通りだな。たとえワンシーズンで目標順位に届かなくても、良い結果さえ残せば次への足掛かりになる。逆もまた然りだけどね」
それから、と真木は続ける。
「点を取る方法は、単純明快。相手チームの隊員を一人倒せば1ポイントが手に入る。それから他のチームが全員脱落した状態で生き残ったチームには生存点として二得点が入るから、順位を伸ばしたければ両方を狙うべきだね」
「逆に言えば、必要な点さえ取れば必ずしも最後まで生き残る必要はねーってこった。まあ、このあたりは部隊の方針にもよるだろーが、今回戦う漆間隊なんかがそれが顕著だな」
「そうだな。漆間隊は生存点は狙わず、取れる駒を取って自発的に
当真の上げた例に、そう言って二宮が反応した。
彼からすれば、たった一人で部隊と言い張りちまちまと点を稼ぐ漆間はあまり好印象を抱ける存在には映らないのだろう。
狙うのなら完全な勝利を狙うべきと考える二宮にとって、隊員を増やす努力を怠り現状に甘んじている漆間は滑稽にすら思えているのかもしれない。
「漆間はあれで良いんですよ。あいつが他の奴とチームを組めるとも思えないし、それに────────いや、なんでもない」
しかし、事情を知る真木からすればそれは見当違いも良い所の見方だったのだろう。
思わず反論しかけて、これを口にするのはマナー違反だと即座に判断し己が言を引っ込めた。
誰が相手でも物怖じをせず発言する真木であるが、守るべき一線とTPOは弁えている。
必要と思えば蹴り飛ばしはするが、今回はそういう場では無いと判断したのである。
六田は並列思考が出来ないという漆間隊のウィークポイントを、此処で晒すワケにはいかないからだ。
少なくともそれをすれば、漆間は即座に真木を敵認定して来るだろうという信頼がある。
あのからかい甲斐のある二人とはこれからも(真木視点で)良好な関係を築いていきたいものであるし、下手に悪感情を抱かれる原因を作るのは得策ではない。
敏腕の女上司もかくやという威圧感を纏う真木であるが、その本質は17歳の女子高生。
少女らしい感性も、年頃の葛藤も少なからず存在する等身大の人間なのだ。
単にそれを他者に見せる事がまず無いだけで、彼女は何も冷血人間などではない。
基本的に容赦はしないし言葉にオブラートを被せるどころかナイフのように研ぎ澄ますのが常ではあるが、しっかりと年頃の少女らしい部分もあるのである。
他人の恋路は蜜の味、とは彼女の言なのだから。
「それから、最終ROUNDを経てB級一位と二位だったチームにはA級昇格の挑戦権が与えられる。B級ランク戦は、最終的にこれを目指して戦う事になるね。A級になるには基本的にこのランク戦で勝ち上がるしか道はないから、上を目指す意欲のある奴はチームを組む事を前提に将来設計を組み立てるのがベストだね」
「A級になれば、固定給が発生する。会社で言えば正社員と同じ扱いになる以上、誰でもなれるものではない。生半可な心構えでは、上を目指す資格を得る前に挫折するだけだ」
真木の言葉に、二宮が補足になっていない説明を付け足した。
二宮からすれば「正社員になるのと同じだから、相応の難しい過程と試験があるよ。上を目指す人は頑張ろうね」くらいの意味合いなのだが、如何せん
予想通りそれを聞いていたC級の面々は顔を顰めており、最早見慣れている正隊員の者達は呆れるか苦笑している。
観客席でそれを見ていた犬飼は「今からでも当真くんと交代すべきかなぁ」という考えが脳裏に浮かぶが、あの二宮と真木の間には入りたくない想いを優先させてその思考を引っ込めた。
二宮の世話に関しては今更だが、それをしながら真木の相手までするのは幾らコミュ強者である犬飼にとっても負担が大きい。
隊長の二宮の事は尊敬しているしこれ以上ない主であると思ってはいるが、それはそれとして彼の相手をし続けるのは疲労が溜まるのである。
そんなこんなで、色々と心配になりつつも傍観する事を選んだ犬飼であった。
「上を目指したいなら、まずは真剣に訓練に取り組んで地力を上げるのが基本だからね。戦術だのチーム力だのそういうのは、基礎が出来てからだ。努力をすればなんでも出来るワケじゃないが、努力をしなければそもそも道は開けない。このあたりがちゃんと分かってないと、B級にすら上がれないからね」
観客の反応など知った事ではないとばかりに正論の暴力を振り翳す真木は、あくまでも通常運転だ。
彼女としては別段特定の相手に言っているつもりはないし、この程度当たり前の事なのだからと改めての確認でしかない。
しかしそういった前提すら理解していなかった大多数のC級隊員にとって、彼女の言は容易に心に突き立つ棘となる。
真木の言葉を聞いた者達は一様に顔を顰めるが、こういうのは色々理由を付けて努力をサボった人間には強烈に刺さるものだ。
心当たりしか無いC級の面々にとっては、さぞ耳に痛いだろう。
「真木ちゃん、次の説明行こうぜ」
「分かってるよ。追加説明として、ランク戦は全て仮想空間の中で行われる。この中じゃ開発部の弛まぬ努力の成果によって、様々な場所を戦場として模倣出来るようになってる。そして、当然地形次第でチームの有利にも不利にもなるワケだ」
「そんで、その試合で戦う中で一番順位が低いチームがそのMAPを決める権利を持つんだよ。今回の場合は、11位の荒船隊だな」
さり気ない当真の誘導により、真木は説明を再開した。
真木は冬島隊の鉈振り役だが、何も当真達は全てに於いて唯々諾々と彼女に従っているワケではない。
必要と思えば通るかどうかはともかくとして進言もするし、時には言葉の融通が利き難い彼女へフォローをする事もある。
大体9割ぐらいは言いなりになっているのが現状であるのはさておいて、なんだかんだで身内カウントをしている相手なのだ。
香取隊の仲良しムーブのような関係にはまずなれはしないが、これはこれで悪くない関係性なのであった。
「これは順位が奮わないチームへの救済措置であると同時に、不利な地形に足を踏み入れた時の予行演習の意味合いもある。遠征を目指すなら、そういう心構えも必要って事だ」
なお、此処で真木が遠征の事を口に出したのは件の記者会見で公開遠征の事が大衆に周知されたからである。
あれがなければ言葉を濁すか別の言い回しを使っただろうが、既に遠征を行う事そのものに関しては隠していない以上それは無用な配慮だ。
声高に喧伝する事はなくとも、あの記者会見が与えた影響は大きい。
状況に応じて発言を変えるのは、組織人としては当然のモラルなのだから。
「そんで、今回はよりにもよって荒船隊が市街地CってMAPを選んだワケだ。此処は簡単に言えば、狙撃手超有利MAPでな。狙撃手三人体制チームの荒船隊にとっちゃ一番有利な地形だし、それ以外のチームにとっちゃ最悪の地形って言っても良いだろーな」
「そうだね。そこのところどう見ますか? 二宮さん。木岐坂は、貴方の弟子と聞きましたが」
「弟子ではない。単にあいつに乞われて少し技術を教える機会があっただけだ。それ以上でも以下でもない」
ざわ、と二宮の発言に眼に見えて会場が動揺する。
樹里の美貌は、C級の間でもそれなりに広まっている。
何せ、街ではまずお目にかかれないレベルの美少女ぶりなのだ。
高嶺の花過ぎてお近付きになろうとする者すらいないが、そんな彼女の師匠がこのような不愛想を形にしたような男であるとは中々に衝撃的だったのだろう。
その関係性を邪推する者もいないワケではなく、気付いていないのは二宮本人だけである。
ちなみにそのインパクトが大き過ぎて、「二宮は弟子の活躍を見る為に解説を引き受けた」という、少し考えれば分かる事象には誰も目が向いてはいない。
とうの二宮本人が堂々とした傲岸不遜な態度を一切崩していないので、無理からぬ事とも言える。
「樹里ちゃんか。正直狙撃手としちゃあそこまで怖くはねーが、単純にトリオンの高い射手として見ても結構厄介なんだよな。狙撃が使える射手、って見た方が良いかもだぜ」
「あいつは本来は射手が適役なのだからそれが当たり前だと言える。小賢しい事を考えて狙撃手になったようだが、不慣れな事をやっていればそうもなるだろう」
大真面目にそう告げる二宮を当真は呆れ顔で、真木はマジかこいつ、という表情で見つめる。
当真達は樹里が狙撃手になった理由について、恐らく佐鳥にあるんだろうな、という事に勘付いている。
学業は奮わないが勘は鋭い当真と、成績優秀で聡明な真木からすればその程度見通す事は難しくはない。
そんな二人からしてみれば恐らく樹里が言ったであろう誤魔化しの理由を何の疑いもなく信じてしまっている二宮が滑稽に見えてしまうのは仕方がない。
しかし此処で敢えて指摘する理由も無い為、二人は何も言わずとも意思を統一し口を噤むのであった。
「そろそろ時間だね。全員の準備も出来たようだし、始めようか」
そして、時が来る。
真木が時計を確認しながら機器を操作し、すぅ、と息を吸い込む。
「各部隊、転送開始」
ハスキーなアルトボイスが響き渡り、それを合図に仮想空間への転送が開始される。
B級ランク戦、第一試合。
それが、遂に始まりの時を迎えた。