香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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漆間隊Ⅱ

 

 

「穂刈を追い詰めた香取隊だったが、それを横から掻っ攫う形で漆間が得点。お見事」

「ま、ありゃ漆間が巧いわな。本当によくやった、って言いたいところだ」

 

 真木と当真はそう言って、各々漆間隊を称賛する。

 

 実際、見事としか言いようのない立ち回りだった。

 

 ダミービーコンで位置を誤認させた上で、自身はバッグワームを纏ったまま移動する。

 

 そして若村に追いついたら息を殺し、彼が仕掛けるタイミングでダミービーコンを起動。

 

 襲撃に気付いた穂刈の進行ルート上に待ち構え、これを撃破。

 

 流れるようなやり口は、鮮やかとしか言いようのないものであった。

 

「漆間は恐らく、最初からこれを決める為に動いてたんだろうな。カメレオンとバッグワームを駆使して手早く上層を目指していたし、その後の動きにも迷いがねぇ。それに、ダミービーコンの使い方も巧かった」

「そうだね。カメレオンを起動するタイミングも慎重に見極めて、レーダーに映す時は決して不自然に見えない位置になるように徹底してた。やっぱり、こういうトリガーの扱いは漆間に一日の長があるね」

「だな。流石、一人部隊で立ち回ってるだけの事はあるぜ」

 

 加えて、漆間はカメレオンとダミービーコンを手足の如く使いこなしていた。

 

 カメレオンとバッグワームを切り替えつつ上層に向かう以上、必ず何処かでレーダーに映る瞬間が出て来る。

 

 漆間は決して若村達とそのタイミングが重ならないように工夫し、少しずつ上層まで移動していた。

 

 まるで若村達がカメレオンを使うタイミングを分かっているかのような立ち回りであったが、何の事はない。

 

 彼は最初に香取隊がカメレオンを使った瞬間から、この絵図を描いていたのだろう。

 

 少なくとも、一瞬だけレーダーに居場所が映った時点で若村と三浦がカメレオンを使っている事は読めた筈だ。

 

 使用中バッグワームを解除するという都合上、カメレオンを使えばレーダーにその痕跡が残る。

 

 彼はそれを確認した時から、香取隊が何を狙っているか朧気に把握していたのだ。

 

 そして、それに便乗する形で駒を進め、向こうを利用する形で漁夫の利を掻っ攫った。

 

 ハッキリ言って、百点満点としか言いようのない立ち回りである。

 

「……………………」

 

 なお、漆間を称賛する二人とは対照的に二宮は不機嫌そうな顔で黙ったままだ。

 

 矢張り、自身が教導した香取隊が簡単にあしらわれたのが面白くないのであろう。

 

 彼にもまた解説席から全体の映像が俯瞰視点で見えていた為、漆間の動きを見る度に加速度的に表情が険しくなっていく様は見ていて滑稽でもあった。

 

 無論、それを口にしないだけの賢明さは当真にも備わっている。

 

 ただでさえ、鉈振り役の真木が隣にいるのだ。

 

 余計な隙を生む口実は、可能な限り潰しておくに限るのである。

 

 ちなみに、二宮が不機嫌な理由の一つに漆間がダミービーコンを見事に使いこなしている事がある。

 

 ダミービーコンといえば彼の師である東の代名詞のようなトリガーであり、それが漆間に手足の如く使われているのを見るのが面白くないのであろう。

 

 使い方が下手ならば「所詮東さんの真似事だ」と断じれたであろうが、漆間のダミービーコンの扱いは二宮の眼から見ても文句の言いようのない出来栄えであった。

 

 その為、賞賛されて然るべき作戦行動を取った漆間に対し揶揄する言葉は見つからず、こうして不機嫌そうに黙りこくっているのである。

 

 (彼視点で)クールで冷徹に見えてはいるが、本質は割と子供っぽい所もある二宮であった。

 

「さて、此処からが肝要だね。漆間としては、最低限取るべき点は取った。後はいつも通り自主的に緊急脱出するのも有りだろうが」

「その為には、若村を振り切る必要があるな。単なる1対1なら漆間に分があるが、現状じゃ下手な応戦は悪手だ」

 

 何せ、と当真は続ける。

 

「穂刈に向けてた木岐坂の火力を、今度は漆間相手に存分に使えるようになってるんだからな」

 

 

 

 

(やられた…………っ!)

 

 若村は視界の先にいる漆間を見て、己がまんまと彼の策に嵌まった事を理解していた。

 

 思えば、穂刈に自分が発見された時点で気付くべきであったのだ。

 

 あのタイミングは、こちらの存在を予め分かっていなければ対応しようのないものだった筈だ。

 

 にも関わらず、穂刈は正確に自分の位置を分かっているかのように対処していた。

 

 この時、自分の背後にダミービーコンが浮かんでいる事に気付けていればまた違った結果になっただろう。

 

 何処で漆間に捕捉され、この作戦を仕掛けられたのかは分からない。

 

 ただ一つ、確かな事は。

 

 狙っていた得点は横から掻っ攫われ、その相手が目の前にいるという事だ。

 

「葉子、すまん。俺は────────」

『そういうのは後。今は、やるべき事をやりなさい』

「…………!」

 

 通信で香取に謝罪しようとしたところ、返って来たのは罵倒でも叱責でもなくただの激励であった。

 

 若村は香取に対し失敗すれば文句ばかりを言うイメージを持っていたのだが、どうやら最早それは過去の事らしい。

 

 今の香取にそんな無駄は存在しないし、彼よりも余程冷静に立ち回る事が出来ている。

 

 それを、まざまざと見せつけられた形となった。

 

『漆間に獲物を掻っ攫われたんなら、そいつを倒してケジメを取って貰うだけよ。幸い、手はあるわ』

 

 そして、その為の策も用意してある。

 

 丁度と言って良いのか、現在手すきになっている隊員が一人いる。

 

 無論、それは。

 

『────────樹里にそいつを狙わせるわ。アンタは銃撃でプレッシャーを与えて、じっくりと追い詰めるのよ』

 

 

 

 

「…………!」

 

 漆間はその動きが分かっていたかのように横に跳躍し、近くにあった家屋の敷地内に飛び込んだ。

 

 次の瞬間彼のいた場所が銃撃に晒され、弾丸が空を切る。

 

 それを銃撃音で確認した漆間は、即座に敷地内を駆け抜け路地に出た。

 

 家屋を壁にして銃撃戦を行う愚は、無論犯さない。

 

 何故ならば。

 

「そう来るよなぁ…………っ!」

 

 この場は、全く以て安全とは程遠い危険地帯なのだから。

 

 空から降り注ぐは、流星の雨。

 

 その正体は、誘導炸裂弾(サラマンダー)

 

 穂刈がいなくなり、標的を変えた樹里による爆撃であった。

 

 これがある限り、何処に隠れようが建物ごと吹き飛ばされる。

 

 一ヵ所に留まる事は、この爆撃の雨に身を晒す事に等しい。

 

 先程まで穂刈を炙り出す為に無差別に仕掛けられていたそれが、漆間という明確な目標を得た事で指向性を以て放たれているのである。

 

 まともに若村と応戦すれば、その隙に爆撃を叩き込まれるのが眼に見えていた。

 

 何せ、向こうはこちらを落とせさえすればそれで良いのだ。

 

 漆間が生存点を狙っていない事は理解しているであろうし、それを思えば若村を巻き込んで爆撃して来る事も普通に考えられる。

 

 若村一人ならどうとでもなるが、樹里の爆撃という明確な脅威がある以上は下手な応戦は命取りだ。

 

 此処からは、撤退戦になる。

 

 如何に爆撃を凌ぎつつ、撤退を成功させるか。

 

 或いは────────。

 

(どっちにしろ、足を止めたら死ぬな。ケツ捲って逃げるしかねーってのは癪だが、そうしなきゃやられるんだから仕方ねぇ。此処からの展開も想定はしてたし、巧くいくように立ち回るしかねーわな)

 

 漆間は不敵な笑みを浮かべ、駆け出す。

 

 それを追いかけるように若村が走り出し、同時に爆撃の二射目が宙から降り注いだ。

 

 

 

 

「案の定、こうなったね。まあ、穂刈がいなくなった以上木岐坂を動かさないでいるのは無駄でしかない。完全に他チームの隊員全員の位置が確定した以上リスクもないだろうから、爆撃も撃ち放題だからね」

「だな。若村とのタイマンなら漆間に分があるが、爆撃されながらじゃまともに戦うのは自殺行為だ。こっからは、どうやって逃げ切るかの戦いになるだろーな」

 

 真木と当真は、爆撃の雨から逃げるように移動する漆間の姿をスクリーンで見つめながら口々に所感を言い合っていた。

 

 穂刈という標的がいなくなった以上、樹里は自由(フリー)になる。

 

 その彼女を遊ばせておく理由は無いので、こうなる事は自明の理であった。

 

 樹里に荒船を狙わせる、という手もあったがそちらは香取が担当している。

 

 少なくとも彼女が一方的に負ける事は無い、と断じたのもあるのだろう。

 

 そちらよりは1対1では明確に不利な若村の方を支援するのは、当然と言えた。

 

 何せ、漆間は距離が離れれば確実に自身で緊急脱出するのが眼に見えている。

 

 彼のノルマである得点を得る事は成功しているのだから、これ以上失点のリスクを重ねるよりは即座に離脱するのが漆間らしいやり方だ。

 

 漆間は基本的に、生存点はまず狙わない。

 

 取れる点を取ったら、そのまま他チームと距離を取って自発的に緊急脱出するのが常であった。

 

 こうする事によって取れない駒との戦闘はそもそも回避し、必要な分だけ点を取ってそのまま逃げ切る。

 

 それがチームランク戦に於ける漆間のやり方であり、たった一人で集団を相手にする為に彼が編み出した最適解でもあった。

 

 漆間は決して弱くはないが、トップ層と正面から戦り合える程特筆して強いというワケでもない。

 

 流石に一方的にやられるとは思わないが、それでも影浦や生駒相手に正面からぶつかれば流石に分が悪い。

 

 彼の本分は隠密と奇襲であり、決して正面からぶつかるようなタイプの駒ではないのだ。

 

 特に影浦はその得意分野が封殺されてしまう関係上、まず仕留められない相手である。

 

 彼程ではないが鉄壁の守りを持つ村上に関しても、漆間はまず狙わない。

 

 来馬を狙えばそれを守ってしまう鈴鳴の性質を利用して負傷させた事はあるが、突破が不可能と見るや即座に撤退している。

 

 取れる駒は速やかに処理するが、無理をしてでも強敵を倒そうとする気概は漆間とは無縁だ。

 

 彼は徹底したリアリストであり、確実な得点のみを求め無理に厄介な駒を狙う事はない。

 

 友軍がいるならともかくとして、たった一人で立ち回らなければならない都合上彼が取れる策には限界がある。

 

 それを誰よりも承知している為、漆間は決して無茶はしないのだ。

 

 二宮あたりからすると「姑息だな」としか思えない立ち回りであるが、こういった戦い方もあると知っている真木や当真からすればそのやり口はむしろ賞賛されて然るべきだと考えている。

 

 自分の持ち得る手札で、最善を目指す。

 

 漆間はそれを実行しているに過ぎないのだから、文句を言われる筋合いはないのだと。

 

 ワープを繰り返しながら狙撃するという理不尽極まりない立ち回りをする冬島隊の二人からすれば、この程度卑怯と言うのも烏滸がましい。

 

 そも、戦場に於いて卑怯などという言葉は存在しない。

 

 そんなものは巧い立ち回りが出来なかった弱者の負け惜しみであり、ルールを破っていないのであればどんなものであれ作戦行動の一環に過ぎないからだ。

 

 勝てば正義。

 

 これが全てとは言わないが、少なくとも戦いというのは負けた方が悪いのである。

 

 どれだけ高尚な覚悟を持とうが力のない主張に意味はなく、尊い信念だけで全てが巧くいくような夢物語もまた存在しない。

 

 勝敗を分けるのはあくまでも鍛え上げた技量と適切な作戦行動を取れたか否か、そしてイレギュラーな事象へどれだけ対処出来るかという能力の有無である。

 

 目的を持つのはあくまでも自身を鍛える切っ掛けと原動力であり、弛まぬ鍛錬というものはやって当たり前の事でしかない。

 

 その上で具体的な勝つ為の作戦を練り上げるのもまた当然であり、その方策を卑怯と断じる方がナンセンスだ。

 

 自身の目的を果たす為に勝つしかないのであれば、手段を選ぶ方が不誠実と言える。

 

 正々堂々というのは、あくまでも反則を使わないというだけの意味でしかない。

 

 姿を晒して正面から戦う事しかしないのは、ただの馬鹿だ。

 

 それが敵を倒す最高効率の作戦であるのならばまだしも、思考停止でぶつかるだけしか能がないのは論外である。

 

 二宮の場合は正面からの力押しが最も効率良く敵を撃破出来る手段だからやっているのであり、必要があれば彼は身を隠す事も部下に奇襲を命じる事も普通にやる。

 

 漆間の場合は隠密戦闘が自身が最も効率的に点を持ち逃げする手段だから選んでいるのであり、それは卑怯でもなんでもなくただそれが彼にとっての最善であるからだ。

 

 最善の行動は各々の持ち得る手札や状況によって異なり、自身の持ち得る手段の中で行動する事に慣れ切っている漆間からすれば当然のやり方である。

 

 自分に出来る最善を以て、結果を出す。

 

 彼はただ、それを実践しているに過ぎないのだから。

 

「漆間が撤退を成功させるか否かで、この後の動きは変わる。あいつがこの爆撃の中でどう動くか、見ものだね」

 

 真木は自然に後方理解者面をしながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

 この場にいる誰よりも漆間の奮戦を喜んでいる彼女は、横に座る当真の怯え顔にも気付かず悠然と友の戦う姿を見守っていた。

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