香取隊の狙撃手   作:デスイーター

140 / 492
香取隊Ⅳ

 

 

「若村が漆間に撃破されて、その漆間も三浦と木岐坂の同時攻撃で緊急脱出(ベイルアウト)。最後にきっちり点取って行ったね。流石」

 

 実況席で、何処か上機嫌な真木が二人の脱落を報じる。

 

 若村と、漆間。

 

 続けざまに緊急脱出した二人であるが、その倒され方は対照的であった。

 

 若村は漆間の策に嵌まる形で倒され、漆間は自分の仕事を終えた後に予定調和のような形で撃破された。

 

 漆間を倒す、という香取隊側の目標は達成出来たが、これは点を取られるのを交換条件に倒された、と言っても過言ではないだろう。

 

 あわよくば生き残って離脱する事も狙っていただろうが、点さえ取れば撃破される事も想定の内として動いていたであろう事は間違いない。

 

 漆間は、そういう男なのだから。

 

「闇雲に逃げ回ってるように見えて、最初から置きメテオラを仕掛けた場所まで若村を誘導する事が目的だったってワケか。正直、あの罠で若村が一発で落ちなかった事は意外だったけどな」

「一応、あいつなりに成長していたという事だろう。漆間がいきなりシールドを張ってその場に留まったって違和感を、見逃さなかったからね。この点だけは漆間の不手際とも言えるが、不自然さを消す為だけに逃走中にシールドを使うのはリスキーだ。今回は、若村の洞察力が光った、という事で良いだろうね」

 

 真木はそう言って、若村が最初の起爆で倒されなかった事に対しての意見を述べる。

 

 恐らく、以前までの若村であれば漆間の行動の違和感に気付かずに置きメテオラの爆発によって倒されていたであろう。

 

 かといって、違和感を生じさせない為に逃走の最中にシールドを使うような真似をすれば、たちまち樹里と若村の両名によって捕捉されていただろう。

 

 故に、漆間に取れた手段の中ではあれがベターであったのだ。

 

 自身に配られた手札を効率的に用いて、持ち得る最善の結果を目指す。

 

 漆間はただ、それに全力を尽くしただけなのだから。

 

「しかし、こりゃ荒船は厳しいか。香取単体ならともかく、こっからは木岐坂の爆撃が襲って来る上に三浦も手が空いてる。幾らマスタークラスの弧月使いでも、今から逆転するのは難しいんじゃねーか?」

「この状況でイーグレットを使う余裕はないだろうからね。弧月一本でやり合うには、確かに厳しい状況だと思うよ」

 

 話題は、荒船の方に移る。

 

 漆間がいなくなった事で、情勢は荒船一人が残る香取隊を全員相手にするという構図となった。

 

 香取相手に膠着状態を続けている今の荒船に、樹里の火力が向けられるのだ。

 

 三浦は位置的に参戦には多少時間はかかるだろうが、放置すれば確実にやって来るだろう。

 

 この状況で荒船が勝ちの芽を探すのは、流石に無謀と言えた。

 

「ふん。確かに此処から荒船が勝ちを目指すのは不可能だろう。だが、漆間がそうであったように散り際に仕事をする可能性は充分にある」

 

 不機嫌そうに黙りこくっていた二宮が、口を開く。

 

 若村がやられた所を仏頂面で見ていた彼であったが、荒船には香取隊を指導する時に手伝って貰った借りがある。

 

 それは返さなければならないと、機嫌は下降中ながらも重い口を開く事に決めたのだろう。

 

 相変わらず、分かり難いようで単純な性質の男であった。

 

「香取隊の有利はまず覆らないが、油断をすれば刃を突き立てられる可能性はゼロではない。如何にその手段を潰しつつ、詰めるか。そこが肝要になるだろうな」

 

 

 

 

(遂に来たか…………っ!)

 

 荒船は上空を見上げ、舌打ちする。

 

 空に浮かぶは、無数の流星。

 

 先程まで漆間を狙っていた、樹里の誘導炸裂弾(サラマンダー)である。

 

 香取がいる以上それを巻き込む可能性を嫌って爆撃は避けるかもしれない、と淡い希望を抱いていたが、構わずやって来た。

 

 恐らく、香取ならば爆撃の中でも問題なく行動出来ると踏んでの事だろう。

 

 荒船も、彼女ならばそのくらいは出来る、と考えている。

 

 香取と直接戦う機会があったのはこれまでに数回程度だが、その中で見せたどの立ち回りよりも今回の彼女の動きのキレは群を抜いていた。

 

 きっと、その違いは。

 

 大切な幼馴染と、共に肩を並べて戦えている事にあるのだろう。

 

 香取は、メンタルが実力に直結するタイプである。

 

 調子が悪い時は格下相手でも崩れかねない程不安定になるが、反面好調で尚且つ機嫌が良い時は格上相手でも食いかねない爆発力を発揮する。

 

 気持ちの強さだけで勝敗が決まる事はないという太刀川の言は知っているし、荒船もその通りだと思ってはいる。

 

 しかし、香取に限ってはその気持ち次第で戦いの情勢が大きく変わって来る。

 

 その面から見れば、今の香取は絶好調の部類────────────────要するに、まず付け入る隙が見当たらない精神状態に見えた。

 

 漆間がやられる直前に若村が落ちた時には大きく眉を顰めたものの、若干前のめりになった程度で未だに動きのキレは健在。

 

 むしろ仲間が一人やられた事で奮起し、攻撃性自体は上がっているようにすら見えた。

 

 大規模侵攻の時もそうであったが、香取は仲間がやられたらその借りを返さなくては気が済まないタイプだ。

 

 一見サバサバしているようでいて少女らしい情念の塊である彼女は、身内に手を出されては決して黙る事はない。

 

 たとえそれが作戦の一環であったとしても、やられた分はきっちり返してやらなければならない。

 

 それが香取の中の絶対の原理であり、現に漆間は若村を落とした直後に撃滅されている。

 

 故に多少溜飲が下がったのか攻撃性自体は低下しているが、逆に冷静になった分隙が見当たらなくなったので荒船としては厄介な状況になっている。

 

(むしろ攻め焦ってくれた方が都合が良いんだがな。ったく、成長著しいってのも善し悪しだぜ。けど、今はそれより────────!)

 

 荒船は思考を打ち切り、降り注ぐ弾幕に眼を向ける。

 

 上空の弾は、広範囲を巻き込めるようにかなり散らばっている。

 

 多少逃げたところで、必ず効果範囲に入らせるようにとの意図だろう。

 

 故に、完全な回避は不可能。

 

 だが、このままただで受ければ確実にその隙を突かれる。

 

 故に。

 

「────────!」

 

 荒船は、弧月を振りかぶり香取に接近。

 

 逃走に入るとばかり思っていたのであろう香取は虚を突かれるが、反射行動で回避。

 

 その斬撃は空を切るが、直後。

 

 降り注ぐ流星が地面に着弾する。

 

 同時にシールドを張り、発生する爆発から身を護る荒船と香取。

 

 荒船はシールドの中で笑みを浮かべ、逆に香取は苦虫を噛み潰すような顔をしていた。

 

 今の攻防でもしも荒船が逃げの一手を打っていれば、香取は距離を詰めて彼に防御を強いた上で詰めに入っていただろう。

 

 しかし、荒船は逆に香取に攻め込み、彼女にこそ守勢を選択させた。

 

 爆撃が着弾する直前でそれを選択してしまった影響は大きく、香取は咄嗟に攻撃態勢に移る事が出来なかった。

 

 動きの練度や立ち回りは向上した香取であるが、矢張り戦闘での駆け引きには詰めの甘さが見られる。

 

 機転は利くし状況判断も悪くはないが、まだまだ泥臭さが足りない部分がある。

 

 そこが狙い目だな、と荒船はほくそ笑んだ。

 

「…………!」

 

 爆発が収まった、その直後。

 

 荒船は、踵を返して全力疾走を開始した。

 

 今回は奇襲だったからこそ巧くいったが、流石に次は同じ手は通用しないだろう。

 

 だからこそ、少しでも香取と距離を取る必要があった。

 

 同じように鍔迫り合いを演じれば、今度は確実に返り討たれるという確信があった。

 

 彼女に通じるのは、初見のみ。

 

 二度目を許す程、香取は甘くはない。

 

 香取は初見の状況に対する対応力こそ並だが、一度学習した手であるならば確実に対処して来る。

 

 それだけ彼女の戦技学習(ラーニング)能力は高く、潜在能力(ポテンシャル)で言えば圧倒的に負けている。

 

 荒船は自分が凡人だからと卑下するつもりはないが、目の前にいる香取は紛れもない天才である。

 

 これまでは原石の状態のまま放置されていたような恰好であったが、樹里を巡る騒動を契機として練磨され、その輝きと鋭さを一気に向上させた。

 

 今の彼女は、充分にB級上位陣とタメを張れる能力を持っている。

 

 弱点だった安定感のなさも改善の兆しを見せている以上、一手でも誤ればそこで終わるのは必然だ。

 

「来たか」

 

 そして、機動力で負けているのも分かっていた。

 

 香取はグラスホッパーを用いて、一気に荒船との距離を詰めて来た。

 

 同時に、上空に再び流星が現れる。

 

 矢張り今度も、香取の事などお構いなしに爆撃を敢行して来たようだ。

 

 というよりも、信頼の賜物だろう。

 

 彼女であれば、爆撃の中であっても充分に対応出来ると。

 

 そういう信頼が、この動きからは見て取れた。

 

 恐らく、彼女達が狙っているのは────────。

 

(時間を稼いで、三浦が到着するのを待っているな。あいつにゃ、旋空があるからな)

 

 ────────三浦の到着を待っての、三面攻撃である。

 

 香取には、シールドを強引に突破する手段がない。

 

 いや、可能と言えば可能だが、確実性に欠けると言った方が良いだろう。

 

 香取の武器は、スコーピオン。

 

 弧月に比べ応用力で上回る代わりに、強度と威力では劣るブレードだ。

 

 字面上の威力は同じなのだが、スコーピオンには弧月と比べ()()という性質がある。

 

 それは取り回しの向上に繋がっているが、結果的に威力の低下を招いている側面がある。

 

 弧月は硬度と切れ味に加えて重さがある為、そのまま振り下ろすだけで大抵のシールドは突破出来る。

 

 しかし、スコーピオンには重量という加圧(ブースト)が無い為、ただ振るっただけではシールドを突破するのは難しい。

 

 相応に体重をかけて全力で振るえば突破出来る可能性はあるが、それには相当前のめりになる必要があった。

 

 そもそもスコーピオンで相手を仕留める際にはシールドを張られる前に懐に入り込んで突き刺すか、身体の何処からでも生やせるという応用性を利用してシールドを避ける形で攻撃するのが常だ。

 

 正面からシールドを叩き切る事をメインとした弧月とでは、運用方法の前提が違うのである。

 

 そして、迂闊に力任せに踏み込むような真似をすればその隙を突く事は荒船には容易い。

 

 荒船の武器は、弧月。

 

 ただでさえ威力と硬度特化のこの傑作トリガーは、力押しだけでシールドを割る事が可能だ。

 

 加えて、旋空を用いれば硬さで有名なエスクードすら易々と突破出来る。

 

 この武器の性質の差が、この戦況を覆すキーになると荒船は考えていた。

 

 彼は、この状況から自分が生き残れると思う程無謀ではなかった。

 

 漆間のように、散り際に点を取れれば上々。

 

 既に、そう割り切っていた。

 

 故に、香取が強引にシールドの突破を狙って来るようであれば、相打ち狙いで旋空を振るうつもりだった。

 

 しかし、想定していたよりも香取の攻めっ気は低かった。

 

 ならば、考えられるのは時間を稼いでの仲間の合流しか有り得ない。

 

 三浦が到着すれば、実際に詰みだと言って良い。

 

 香取の攻撃と爆撃の両方を対処している最中に三浦に旋空で奇襲されれば、最早どうする事も出来ないからだ。

 

 今は旋空という絶対の矛がこちらにのみあるが為に膠着状態が続けられているが、あちらにもその武器を握られればそれも終わりだ。

 

 香取隊はどうやら香取一人の才覚に任せて強引に突破するのではなく、絶対確実な方法で詰ませる事を選んだらしい。

 

 確かに、この状況なら正しい選択である。

 

 最早他に敵はおらず、時間も差し迫ってはいない。

 

 多少時間がかかっても確実な手を取るのは、悪くない選択だ。

 

「────────!」

 

 だが。

 

 故にこそ、付け入る隙はある。

 

 荒船は、弧月ではなくイーグレットを構えて銃口を香取に向けた。

 

 それを見た香取は、咄嗟に横に跳んだ。

 

 荒船の、思惑通りに。

 

 普通であれば、この近距離で狙撃銃を構えられたところで脅威ではないと考えるだろう。

 

 だが、香取の身近には樹里という例外がいた。

 

 彼女はスコープなしで狙いを付けられる強化視覚の副作用(サイドエフェクト)を持ち、至近距離であっても銃手トリガーの如く狙撃銃を取り回せる。

 

 樹里がイーグレットを手にした時点で、近くにいるのは危険でしかないと彼女は学習しているのだろう。

 

 今回はそれが、裏目に出た。

 

 樹里(れいがい)を知っているが故に、他の狙撃手が彼女と同じ事が出来る筈がないという前提が抜け落ちていたのだ。

 

 知識としては、理解してはいただろう。

 

 しかし戦場での咄嗟の反応であったが為に、良く知る方の前提を優先してしまった。

 

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()相手であっても大袈裟な回避を取ってしまったのである。

 

 荒船は、最初からイーグレットで攻撃するつもりなどサラサラなかった。

 

 ごく普通の狙撃手である彼が、この距離でイーグレットを取り回した所で出来る事など無い。

 

 だからこそ、陽動(ブラフ)の為に利用したのだ。

 

 イーグレットは一度出した後は、破棄しない限りはそのままだ。

 

 オフにした状態であっても物質としては残り、持ち運ぶには荷物とするしかない。

 

 故に弧月で戦う時はイーグレットは破棄するのが常の荒船であるが、今回はこの作戦を狙う為に腰に装備したまま戦っていた。

 

 他の誰にも通じないが、唯一香取にだけは通じる幻想の弾(ファントムパレット)として。

 

 荒船は、己の愛銃を用いたのだ。

 

「旋空弧月」

 

 荒船は、シールドを張りつつ旋空を放つ。

 

 最早爆撃は着弾直前であり、此処で回避を選択すれば爆発に巻き込まれる。

 

 そういう状況を狙って、彼は動いていたのだ。

 

 奇しくも、漆間がやられたのと同じ状況。

 

 それを生み出した荒船は、自らの勝利を確信した。

 

「な…………っ!?」

 

 ────────されど。

 

 勝利の女神は、彼には微笑まなかった。

 

 弧月を握った荒船の右腕が、シールドを貫いた一発の弾丸によって肩ごと吹き飛ばされる。

 

 片腕を吹き飛ばされた事によって斬撃は振るう前に止まり、攻撃は中断された。

 

 視界の先では、シールドを張り爆撃に備える香取の姿。

 

 何が、起きたのか。

 

 香取ではない。

 

 今のは確実に、()()()()()()()()()()()であった。

 

(まさか…………っ!)

 

 そこで、気付く。

 

 荒船は、周囲を見回した。

 

 広がるのは、爆撃によって吹き飛ばされた瓦礫の山。

 

 先程まで存在していた家屋は根こそぎ破壊され、周辺には()()()()

 

 つまり、それは。

 

 ()()()()()()()事と、同義である。

 

 最初から、先程の爆撃は樹里の射線を確保する為のものだったのだ。

 

 時間を稼ぎ、三浦の到着を待つという姿勢こそこちらに向けたブラフ。

 

 彼女達は初めから、樹里の狙撃で勝負を決める為に動いていたのだ。

 

 樹里のいる場所からこの位置までは、相当に距離がある。

 

 故に、彼女は誘導炸裂弾(サラマンダー)を撃った後でも充分にイーグレットを構える時間があった。

 

 樹里のサラマンダーは遠距離での爆撃を可能とする為に、弾速を相当に犠牲にしていた。

 

 だからこそ、その着弾のタイミングより先にイーグレットの弾を届かせる、という芸当が可能になっていたのだ。

 

 それまで最早気にする事はなかった樹里との間の距離という武器を、彼女は的確に使って来たのだ。

 

「やってくれたな、お前等」

 

 シールドは割られ、右腕も失った。

 

 そして、爆撃は着弾間近。

 

 最早出来る事はなく、荒船は乾いた笑みを浮かべた。

 

 ────────直後、爆撃が着弾。

 

 シールドを破壊された荒船にそれに抗する手段はなく、爆発に呑まれてその姿が掻き消える。

 

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が、荒船の脱落を告げる。

 

 これにて、幕。

 

 今の香取隊の脅威を存分に見せつけたROUND1の試合は、荒船の敗退を以て終わりを告げたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。