香取隊の狙撃手   作:デスイーター

161 / 492
香取隊式カウンセリング①

 

 

「というワケでキリキリ吐きなさい。まずはそれからよ」

「い、いや、何がというワケでだよ。いきなり華さん達を追い出しやがって。話し合いをするんじゃなかったのかよ?」

 

 香取隊、隊室。

 

 そこでは香取と若村の二人だけが、向かい合うように座っていた。

 

 先程までは樹里や華、三浦までいたのだが、香取が「話し合いをする」と言った直後に「じゃ、麓郎以外は一端出てね」と隊室から出してしまったのだ。

 

 てっきり隊全員での話し合いが始まると思っていた若村は拍子抜けしたものだが、そんな彼を香取はジト目で睨みつけた。

 

「だからその為に聞き取りをするんじゃない。アンタ、華の前じゃ見栄張ろうとするじゃないの」

「そ、それは…………」

「今更アタシの前で張る見栄も何もないでしょ。これまで散々見苦しい姿見せ続けて来たんだし、これ以上晒す恥とかあるワケ?」

 

 ぐ、と若村はあまりの正論に言葉に詰まる。

 

 確かに香取の言う通り、自分は想いを寄せる華の前では見栄を張ろうとするし、香取相手に最早恥がどうこう言う段階ではないのは今更だ。

 

 これまでに散々、独りで頑張っていた香取に向かって文句ばかりを垂れ流していたのだ。

 

 今更張るような見栄など残っている筈がなく、以前の自分について猛省している現在となっては猶更である。

 

 要するに、自分と二人きりなら話したいように話せるでしょという香取の気遣いだったのだ。

 

 まさか香取にそのような配慮が出来るとは思っていなかった若村は、思い切り面食らってしまったが。

 

「じゃ、理解出来たなら話を戻すわよ。麓郎アンタ、色々溜め込んでるでしょ。それ、全部吐き出しちゃいなさい。今回に限り、受け止めてあげるから。ホラ、キリキリ出すモン出すっ!」

「わ、分かったっての。けど、少しは言い方考えろよな?」

「あん?」

 

 なんでもねぇ、と若村はため息を吐く。

 

 言いたい事は分かるのだが、色々字面があれだったので注意したのだが、よくよく考えればただの自分の邪推である。

 

 何を考えたか知られたら恥どころの騒ぎではないので、黙秘を選ぶ若村であった。

 

「で、その、お前が聞きたい事って…………」

「アンタが最近悩んでた事についてよ。色々、一人で燻ってたじゃない。まさか、気付かれてないとでも思ってたの?」

「それは…………」

 

 半ば以上に図星だった指摘に、若村は言葉を詰まらせる。

 

 確かに最近色々と葛藤していたが、それを口に出した事はない。

 

 しかしこの様子だと、他の面々にはバレバレだったらしい。

 

 その事がどうにも面映ゆく、居たたまれなくなる若村であった。

 

「言っとくけど、樹里以外は気付いてたからね? アンタ、分かり易いんだもの。樹里はともかく、そこそこの付き合いのアタシ等に隠せると思わない方がいいわよ」

「…………そうか」

「そうよ。だから、さっさと吐き出しなさい。大体予想はしてるけど、アタシはアンタの口から聞きたいの。これ以上、ウダウダやってんじゃないわよ」

「…………分かった」

 

 だが、今更張る見栄など残っていないのは事実。

 

 若村は観念し、抱えていた葛藤を明かす事に決めた。

 

 あのような失態を演じた時点で、どの道何も言わないという選択肢はない。

 

 これは、いわば香取からの恩情に近い。

 

 わざわざ他のチームメイトを退席させてまで、自分の言い訳を聞こうとしてくれているのだ。

 

 流石にこうなった以上、何も言わないと言う選択肢はない。

 

 あの香取が、此処まで配慮をしてくれたのだ。

 

 若村としては、その厚意を無碍にする事は出来ない。

 

 観念して、これまで抱え続けて来た葛藤を口に出し始めた。

 

「…………その、怖かったんだ。葉子達が眼に見えて成長していってる中で、オレだけ取り残されてる事が」

「取り残されてる、ね。それはどういう意味?」

「どうって、言葉通りだよ。お前は隊長として隊を立派に引っ張ってるし、雄太だって目立ったミスもなく隊に貢献してる。木岐坂に関しちゃ言うまでもねーし、オレだけが何の成長もしてないようで悔しかったんだ」

 

 若村は、そう言って唇を噛む。

 

 これが、彼の抱えていた葛藤。

 

 成長を続ける仲間を見続けて来たが故の、劣等感。

 

 他のチームメイトが眼に見える語りで活躍を続ける仲、自分だけが目立った活躍もなく燻っていたのが嫌だったのだ。

 

 隊長としての自覚を持ち、率先してチームを引っ張り上げていく香取。

 

 そんな香取の指示に従い、目立つ失敗もなく作戦をこなす三浦。

 

 最も派手に活躍し、隊に大きな貢献をしている樹里。

 

 眼に見える形で奮闘している仲間の傍で、自分だけが形に残る結果を残せていない。

 

 自分だけが、足踏みを続けている。

 

 それが、たまらなく悔しかったのだ。

 

「オレには葉子のような才能はねーし、雄太のように気も利かねぇ。勿論、木岐坂のようなトリオンもねーしな。それは分かってっけど、なんだか置いてかれてるようで嫌だったんだ」

 

 自身に、才能が欠片もない事は自覚している。

 

 すぐ傍に香取という才覚の権化がいるだけに、その自覚はひとしおだった。

 

 以前香取に突っかかっていたのも、彼女の才能が羨ましいからだった。

 

 自分よりずっと才能に溢れている香取が、何の努力もせずに胡坐をかいている。

 

 そう見えてしまっていたが為に、自分の事を棚に上げて香取に文句を垂れ流し続けるという愚行を冒してしまっていたのだ。

 

 羨望と、嫉妬。

 

 それが、若村の停滞を助長していた感情の正体だった。

 

 樹里との戦いを経て自らの愚かしさを直視し、停滞を止めた後もそれはずっと付き纏っていた。

 

 眼に見える形でチームに貢献する仲間と比して、自分だけが足を引っ張り続けている。

 

 そんな想いが、どうしても頭から離れなかったのだ。

 

「だから────────んぐっ!?」

「もういい、大体分かった。だから一回黙りなさい」

                          

 自身の葛藤を更に言いだそうとしていた若村の口を、突然香取の手が押さえ込んだ。

 

 いきなりの事に眼を白黒させ、若村は困惑する。

 

 振り解こうとするがどうやら香取はトリオン体であるらしく、生身の若村では力負けしてしまう。

 

 先程トリオン体が破壊されたのはあくまでも仮想空間内の事である為換装は行えるだろうが、まさか試合が終わったばかりで換装しているとは思わなかったのだ。

 

 もがいても無駄に終わると理解し、若村は力を抜く。

 

 それを確認した香取は手を離し、ふん、と鼻を鳴らした。

 

「アンタの言い分は分かった。随分見当違いな事を考えてたって事もね」

「見当違い? 何が────────」

「あのね、アンタは眼に見える形で成果を挙げられなかったって言うけど、それなら華はどうなのよ? オペレートなんてそれこそ、()()()()()()()()()()()()()()仕事の筆頭じゃないの」

 

 それとも、と香取は続ける。

 

「アンタ、オペレートなしに戦える? 無理でしょ。そういう重要な仕事をやってるけど目立たたない華がいるってのに、なんで目に見える形で成果を残さなきゃいけない、ってなるのかしら?」

「…………! それ、は…………」

 

 確かに、香取の指摘通りである。

 

 若村は眼に見える形で成果を残せていない事に焦燥していたが、そもそも具体的な形で成果を残せないというならオペレーターの華も同じ条件なのだ。

 

 しかし、オペレートがどれだけ重要な要素かは理解している。

 

 オペレーターがいなければMAP上の索敵と警告も、必要に応じた情報取得もままならなくなるからだ。

 

 そういった重要な仕事を任せられているポジションではあるが、オペレーターが目に見える形で成果を挙げるといった事は無い。

 

 彼女達は傍から見ればずっとデスクに向かってキーボードを操作しているだけであり、まかり間違っても目立つような存在ではない。

 

 重要なポジションでありながら、決して派手な成果を残せるような存在ではない。

 

 それは、奇しくも若村と同じ境遇であった。

 

「隊に貢献するのに、必ずしも派手な成果が必要ってワケじゃないのは風間さん達もさっき解説で言ってたでしょうが。アンタ、あれ聞いてなかったの?」

「それは…………」

 

 香取は先程の風間達の解説を引き合いに出し、更に追及する。

 

 今回の試合では、若村が早期脱落した事が致命的となった。

 

 何とか奮闘は出来たが、結果としては王子隊と同点止まり。

 

 合計ポイントが同じ場合は今期の最初の順位が高い方が上のランクになる為、王子隊の順位を抜く事は出来なかった。

 

 それもこれも、若村が序盤で脱落してしまった事が大きく影響しているであろう事は間違いない。

 

 それだけ、香取隊に於ける若村のポジションというのは重要だったのだから。

 

犬飼先輩(アンタの師匠)も、言ってなかった? 銃手は、隊のサポーターだって。そのお手本のようなあのチャラ────────────────あの犬飼先輩が隊のサポートに徹してるってのに、アンタはそれを否定するわけ?」

「い、いや、そんな事は…………っ!」

 

 無い、と若村は心中で断言する。

 

 そうだ、確かに香取の言う通りである。

 

 若村の尊敬する先輩にして師である犬飼は、隊の補助に徹している優秀なサポーターだ。

 

 本人の戦闘能力が高く機転の利き方も尋常ではない為独力で戦う事も出来るが、彼の本質は隊の潤滑油たるバランサーだ。

 

 基本的に目立つ活躍をするワケではないものの、彼の存在がどれだけ二宮隊にとって重要な要素かは嫌でも分かる。

 

 何せ、二宮と組んだ犬飼のプレッシャーがどれ程圧倒的なのかは直で体験している。

 

 あれを経験したが為に、サポーターの脅威というのは充分過ぎる程理解出来ていたのだった。

 

「それが答えよ。分かってんじゃない」

「あ…………」

 

 香取の指摘に、若村は納得を得てしまった。

 

 確かに、彼女の言う通りである。

 

 自身の師である犬飼が黒子に徹していて尚且つ隊へ絶大な貢献をしているというのに、自分は眼に見える成果ばかりを求めて見当違いな葛藤を抱いていた。

 

 本当に重要なのは、目に見える派手な成果などではない。

 

 たとえ目に見えずとも、確実に隊に貢献する動き方であるのだと。

 

 若村は、ようやく理解した。

 

「アンタは眼に見える活躍を欲しがってたけど、アンタのポジションは何? 例外枠(弓場さん)じゃあるまいし、一人で無双して点を取るようなポジションじゃないでしょうが。そもそもの話、派手な活躍がしたいんなら攻撃手や万能手になるべきでしょ。アンタにそれが出来るっての?」

「それは…………」

「無理でしょ。アンタの適性は明らかに銃手の方だし、アタシから見ても近接格闘の才能は無いわ。結局のところ、アンタの天職は銃手なのよ。どう考えてもね」

 

 そう、銃手はそもそも派手な活躍を求められるポジションではない。

 

 弓場という例外枠はいるが、それを除外すれば銃手は決して単独で点を取る事を求められてはいない。

 

 銃手の仕事とは、中距離の牽制を軸として他の隊員が動き易いように敵の行動を縛り、誘導し、自部隊を優位な状況に導く事だ。

 

 その役割は決して目立つ事はなく、傍目から見れば地味に見えてもしまうだろう。

 

 だが、それは銃手が軽視される理由にはならない。

 

 高い練度を持つ銃手がどれだけの難敵かは犬飼を見れば分かるし、サポーターに徹した銃手の脅威はこれ以上ない形で理解出来ている。

 

 だというのに、自分は「派手な活躍が出来ていない」という事ばかりに固執し、見当違いな葛藤を抱いてしまっていた。

 

 その事がどうにも情けなく思えてしまい、若村は俯いた。

 

 また、自分は明後日の方向の思い悩み方をしてしまっていた。

 

 以前と同じてつを踏んでいた事が、とても恥ずかしく思えたのだ。

 

「アンタがどれだけ馬鹿な勘違いをしてたかは、これで分かったでしょ? だから、この問題に関しちゃ終わりでいいわね?」

「…………ああ、すまん。面倒をかけた」

「ま、いいわよ。こういうのも隊長の仕事でしょうし、幾らでもとは言わないけど面倒をかけるなとは言わないわ。いざという時に頼れないようじゃ、仲間とは言えないしね」

 

 香取はそう言って、優しく微笑んだ。

 

 その普段は決して見る事のない表情に面食らい、若村は眼を白黒させる。

 

 まさか香取がこんなにも優し気な表情を見せるなど、思ってもみなかったのだから無理もない。

 

 ギャップによる衝撃で混乱している若村の心中には気付かず、香取はふぅ、とため息を吐いた。

 

「ってワケだから、出て来ていいわよ。次はアンタの番だしね」

「え…………?」

「…………葉子…………」

 

 その混乱も束の間、香取の呼びかけに即応するように出て来た樹里の姿を見て若村は固まった。

 

 見ればその後ろにはバツの悪そうな顔の三浦と普段通りの無表情の華が立っており、どうやら今までのやり取りは全て聞かれていたらしい事を若村はようやく理解する。

 

「って、外に出てたんじゃ…………っ!?」

「言ったでしょ、身内会議(はなしあい)って。アンタの聞き取りの内容をもっかい言うのは二度手間だし、あの子の問題解決にはアンタの内面を見て貰うのは必須だもの。単なる説得で折れる程素直じゃないわよ、樹里は」

 

 ぐ、とあまりの正論に若村は押し黙る。

 

 確かに、自分が本音を言えたのは香取と二人きりであったからだ。

 

 友人の三浦や想いを寄せる華、そして仲間となって日が浅く嫌われている自覚もある樹里がその場にいては、先程の葛藤を口にする事は出来なかっただろう。

 

 理屈は分かるが不意打ちのような形での事実暴露に、若村は何を言えば良いか分からず押し黙る。

 

 最適解であるのは理解出来るが、だからといってそれで納得出来るような事でもない。

 

 ないのだが、自分の勝手な思い悩みで迷惑をかけた自覚もあるので、喉に出かかった文句を押し込めた若村であった。

 

 先程の笑顔でノックアウト済みであった事も、恐らく無関係ではないだろう。

 

 割と理不尽な目に遭っていたとしても、女の子の笑顔はそれを棚上げにするだけの破壊力があったりするものなのだから。

 

「さて、始めましょうか。今度こそ、全員での家族会議(はなしあい)ってやつをね」

 

 そんな若村の内心など露知らぬ香取は、真っ直ぐに樹里を見据えてそう宣言した。

 

 樹里はその視線を受けてバツの悪そうな顔をしつつも、チラリと若村に視線を向けた。

 

 その右目だけが青い瞳は、困惑と自省で揺れていたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。