香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ROUND2/case玉狛第二③

 

「あ・い・つ~~~~~~っ!? 香取隊(ウチ)の戦術、パクりやがったわねぇぇぇぇぇ…………っ!!!」

 

 ギリギリと、観客席で拳を握り締めて唸る香取。

 

 周囲の歓声と重なった事からそう目立ちはしなかったが、偶然近くに座っていた諏訪はダイレクトでそれを聞いてしまい突然の怒声に困惑するも、声の主を確認すると「なんだ香取か」とスルーする事を決めた。

 

 香取がオーバーリアクションするのはそう珍しい事ではないので、関わっても面倒なだけだと判断した次第である。

 

 このあたり、諏訪の世渡り上手具合が垣間見えていると言える。

 

「ったく、いきなりうるせぇな。周囲の迷惑考えろよ」

「ってなんでアンタ平然としてんのよ麓郎っ! 戦術パクられてんのよ? 普通にケジメ案件でしょうがっ!」

「オレがワイヤーをランク戦で使ったの今日が初めてだぞ? 幾らなんでも────────」

「やるわよ。あのメガネなら有用そうだと思ったら他人の戦法だろうが即日採用だって有り得るわよ」

 

 むぅ、と若村は香取の勢いに押し黙る。

 

 普通ならば有り得ないと断じるところだが、伝え聞く修関連のエピソードを鑑みるに決して否定し切れないのが怖いところである。

 

 何せ戦闘中に換装を解く、などといったぶっ飛んだ真似をする相手なのだ。

 

 普通の常識では考え付かない事をしでかしても、なんらおかしくはない。

 

 幾ら合理的な理由があったとはいえ、躊躇なく自分の命を危険に晒す精神性を持った相手の事など理解出来る筈もない。

 

 特筆した個性を持たない凡人の若村だからこそ、その異常性を客観視出来ていた。

 

 修には、普通なら踏み出さないような一歩でも躊躇いなく踏み出して来るような怖さがある。

 

 それが修の話を聞いた若村の結論であり、香取の修評を否定出来ない一因となっていた。

 

 彼なら、やりかねない。

 

 そんな香取の言は、本人の思った以上に真実味を帯びていたのである。

 

「けど、別にルール違反をしたワケじゃねぇし問題はねぇだろ」

「理屈を言ってんじゃないの。アタシはただそれがムカつくって言ってんのよ」

「じゃあどうすんだよ? 言っとくけど、殴り込みとか勘弁だからな。木岐坂の件があるから上層部にはなるだけ睨まれたくないとか、前に言ってただろうが」

「…………麓郎の癖に生意気ね。まあいいわ、アンタがいいってんならそれで良いわよ。アタシも、好んで問題を起こしたいワケじゃないし」

 

 けど、と香取は続ける。

 

「気が変わったら、いつでも言いなさいよ。その時は、遠慮なく殴り込みに行ってあげるから」

「…………ねぇっての、そんなの」

 

 思った以上にこちらの意思を尊重する台詞が出て来た事で、若村は何処かバツの悪そうな顔をする。

 

 香取が激昂したのは、あくまでも若村(じぶん)の為であったのだと再確認したからだ。

 

 彼女は、案外自分一人だけの事なら落ち着いていられる。

 

 しかしチーム全体や仲間の事となると、想定以上に沸点が低くなる傾向が見受けられるのだ。

 

 個人主義なようでいて、その実チームの事はしっかりと考えている。

 

 それが、破天荒なようでいて割と気を回しがちな香取という少女の特性なのだった。

 

 今この場に観戦に来ているのも、その内必ず当たるであろう玉狛第二の偵察の為だ。

 

 どうやら香取はいずれ彼等が上位に上がって来る事を確信しているらしく、今後の明確な仮想敵としている。

 

 故に隊室にいたメンバーを引っ張り出し、こうして観戦に来たのである。

 

 「ちょっと戦術教わってくる」と書き残していつの間にか出て行った、樹里を除いて。

 

「ったく、こんな時に樹里は何してるのかしら? まあ、あの子のマイペースぶりは散々思い知ってるし別に良いけど」

 

 

 

 

「あれ、スパイダー」

「ああ、そういや君のトコの若村も使ってたっけか。仲間の戦法が真似られて悔しい?」

「別に。誰が何のトリガーを使おうが、自由だし」

「まあ、それもそうか」

 

 上層、観戦席。

 

 そこでは同じく試合を観戦していた樹里と出水が、口々に玉狛の使用したスパイダーについて話していた。

 

 今日の試合で、若村がスパイダーを使用した事は樹里も知っている。

 

 序盤に脱落した若村であるが、落ちる前に事前にスパイダーを仕込んでいた事で樫尾撃破の布石を打つ事に成功していた。

 

 その活躍を視ていたが故に、スパイダーの有用性自体は理解していた。

 

 思っていた以上に便利なトリガーなので、他に使う人がいてもおかしくないだろうというのが樹里の判定だったのである。

 

 その日の気分や戦術的な理由で割と躊躇なくトリガーセットを変える樹里にとって、特定のトリガーに対する拘りはあまり無い。

 

 唯一佐鳥のイーグレット二丁スタイルだけは例外だが、あんな非常識な芸当が出来るのは彼だけなのでそこは心配していない。

 

 若村に対する意識改革は出来た樹里であるが、だからといって香取のように彼の為に怒ったりはしない。

 

 使用トリガーの件くらいで怒る香取の沸点の方が低いと言えるが、対人関係の事となると割と極端な幼馴染二名であった。

 

「三雲くんは、トリオンが低いからね。消耗が少なくてただ設置するだけで機能するスパイダーは、最適なトリガーだと思うよ」

「確か、本人の戦闘技能も低いんでしたっけ」

「そうだね。お世辞にも強い、とは言えないかな。ウチの唯我に負けるくらいだし、普通に1対1で戦えばB級下位の面子でも勝てると思うよ」

 

 けど、と出水は続ける。

 

「三雲くんは、そんな自分の弱さを承知して尚且つそれを武器にしてる。その意味は、すぐに分かると思うぜ」

 

 

 

 

(スパイダー、やられた…………っ!)

 

 遊真の攻撃によって右足を失った柿崎は、内心で舌打ちした。

 

 完全に、自分のミスだ。

 

 玉狛第二が侮れない相手である事は、照屋から聞かされていた。

 

 可能であれば早急に修を対処した方が良いと、進言さえされていた。

 

 しかし柿崎はどうしても仲間に責任を負わせる方法を取る事が出来ず、結局普段通りの合流優先で舵を切ってしまった。

 

 その結果修に時間を与える事になり、みすみす罠に踏み込んで足を失う事となってしまった。

 

 眼を凝らせば、周囲一帯に蜘蛛の巣のようにワイヤーが張り巡らされているのが見える。

 

 その中心で一見空中に浮いているかのように君臨する遊真は、ワイヤーの存在を誇示するかのように宙に張り巡らされた糸の上に立っていた。

 

 何の感情も映していない瞳が、柿崎を睥睨する。

 

「…………!」

 

 次の瞬間、遊真の姿が掻き消えた。

 

 否。

 

 そうとしか思えないスピードで、跳躍を開始したのだ。

 

 大きく右へ跳び、ワイヤーを掴んで方向転換。

 

 すぐさま上へ移動したかと思うと、更に糸を辿って跳躍。

 

 あっという間に柿崎の背後に回り、スコーピオンで斬り付ける。

 

 最初に、虚を突かれた事が痛かった。

 

 そして、現在片足を失っている柿崎は咄嗟の回避行動が行えない。

 

 彼は万能手(オールラウンダー)ではあるが、どちらかといえば中距離を得意とするタイプである。

 

 至近距離まで肉薄されたA級クラスのエースの攻撃を地力で凌ぐ手段を、彼は持ち合わせていなかった。

 

 振り下ろされる刃を見て、柿崎は己の対処が間に合わない事を悟った。

 

(やられる…………っ!)

 

 

 

 

「隊長…………っ!」

「…………!」

 

 だが、その予想は実現しなかった。

 

 右足を失った事で咄嗟の対処が遅れた柿崎への攻撃を、横から介入した照屋が防いだからだ。

 

 ガキン、という硬質な音と共に遊真のスコーピオンが照屋の弧月に受け止められる。

 

 すると即座に遊真はバックステップで距離を取り、ワイヤーを掴んで跳躍。

 

 今度は柿崎の真横に移動し、背を屈めて突っ込んで来た。

 

「く…………!」

 

 弧月での防御を行う為に突撃銃型(アサルトライフル)を破棄していた照屋は、その挙動を見て舌打ちする。

 

 完全に今のは、自分に柿崎を庇わせる為の攻撃だった。

 

 右足を失い機動力の低下した柿崎を狙う事で、照屋に弧月で彼を庇わせる行動を強要した。

 

 ワイヤー陣を利用した遊真相手では、闇雲に銃撃しても回避されるのが目に見えていた。

 

 それだけスパイダーを利用した遊真の三次元機動は脅威極まりないものであり、安易な銃撃を選択する事は憚られた。

 

 何が何でも柿崎を守りたい照屋としては、あの場では弧月での防御を選択する他なかったのである。

 

 そして、その為にはアサルトライフルを破棄する必要があった。

 

 トリガーをオフにすれば破棄する必要まではないと思うかもしれないが、単純に弧月を持ったままアサルトライフルを所持しているのは動きの邪魔になる。

 

 銃身の長い突撃銃型(アサルトライフル)は、近接戦闘を行う上では無視出来ない荷物となってしまうからだ。

 

 それ故にアサルトライフルを所持するタイプの万能手(オールラウンダー)は弧月を使用する時は銃を破棄するのが普通であり、特別な理由がない限りはオフにして所持し続ける事はしない。

 

 近接戦闘に於いて、余計な重石を付ける事は致命的な隙を生む恐れがあるからだ。

 

 これが香取のようにハンドガンを所持するタイプの万能手ならホルスターに収めるだけで済むが、あれは香取が銃手トリガーを完全に牽制用と割り切っているから出来る事だ。

 

 ハンドガンタイプでは火力と連射性に乏しく、正面からの撃ち合いでは突撃銃型(アサルトライフル)にはまず勝てない。

 

 撃ち合いに強いという特性を持ったアサルトライフルは、銃手トリガーの中ではスタンダードで最も人気がある。

 

 しかしその分小回りを犠牲にしている面はあり、今回はそこを突かれたというワケだ。

 

 柿崎を狙ってそれを庇わせ、弧月での防御を強要した挙句に銃撃の可能性を排除しながら最短距離で突っ込んで来る。

 

 明らかにこれは、照屋の対処能力を加味した上で構築された戦術と言えた。

 

(もしかして、あの大規模侵攻での戦闘で私の対処能力を見ていたから、敢えて私が庇える範囲で隊長を狙ったっていうんですか…………っ!?)

 

 照屋の脳裏に、大規模侵攻の際に共闘した修の姿が想起される。

 

 彼と遊真には、多大な恩がある。

 

 あそこで彼等がやって来なければ、キューブと化してしまった柿崎を敵に奪われてしまった可能性が高かったからだ。

 

 黒トリガーという前代未聞の脅威を前に、自分は無力だった。

 

 あの時助けられた事は今でも感謝しているし、彼等に対し悪い感情など抱きようがない。

 

 ない、のだが修はその時の経験も容赦なく戦術に組み込んで来ているようだった。

 

 近くで共闘した為、自分がどの程度の対処能力を持つかは把握されていただろう。

 

 それは仕方ないし、不可抗力というものだ。

 

 これは単に修が、その時の経験を戦術に流用する事に一切の躊躇をしなかったというだけの話だ。

 

 勿論最初からそのつもりだったと邪推する事はないが、大恩ある相手の容赦の無い行動に複雑な心中の照屋だった。

 

(けど、やる事は変わらない…………!)

 

 照屋は再度弧月で遊真の突撃を防ぎ、同時に柿崎を守れるよう位置取りを調整する。

 

 兎にも角にも、このまま主導権を渡しっぱなしにする事だけは避けなければならない。

 

 そう判断し、照屋は即座に柿崎に進言する。

 

「隊長、私が防御を担当します。隊長は銃撃での応戦をお願いしますっ!」

「わかったっ!」

 

 部下の進言を、柿崎は迷いなく受け入れた。

 

 照屋が防御を行い、その隙に柿崎に銃撃して貰えればそれだけで遊真の行動を牽制する事が出来る。

 

 そう考えた照屋の提案は理に適っているし、柿崎としても拒否する理由はなかった。

 

「────────」

 

 攻撃を防がれた瞬間即座に後退し、上空へ跳躍した遊真はそのまま急降下して突撃して来る。

 

 真っ直ぐ突っ込んで来る遊真に対し、柿崎は銃口を向ける。

 

 アサルトライフルから無数の弾丸が飛び出し、攻撃に晒された遊真は即座に真横へ跳躍。

 

 ワイヤーを辿る三次元機動で移動し、柿崎の背後を取った。

 

「…………!」

 

 しかしそれを予期していた照屋がカバーに入り、遊真の攻撃は弧月で受け止められる。

 

 特にそれに驚いた様子のない遊真は即断で後退し、柿崎の真横へ移動する。

 

 そのままノータイムで地を蹴り、突貫。

 

 こちらに迫る遊真を、照屋と柿崎の二人が迎え撃つ。

 

 どちらも迷いのない、流れるような攻防。

 

 柿崎が中距離戦を得意としているのと対照的に、どちらかといえば照屋は近距離戦の方を得意とする。

 

 あくまで比較的であり、どちらに特化したタイプの隊員というワケではない。

 

 しかし基本姿勢がイケイケゴーゴーな好戦的な照屋にとっては、実のところ剣を持って突っ込む方が性に合ってはいたのだ。

 

 故に、弧月の扱いだけで見れば柿崎より照屋の方が習熟度は高い。

 

 そして、その真価は仲間との連携によって発揮される。

 

 合流を第一として来た柿崎隊は、連携の練度()()を見ればB級中位の中でも相当に高い。

 

 確かに初動が決まりきっているのは頂けないし、穴も大き過ぎる戦法ではある。

 

 しかしその分仲間との連携の経験は豊富に積んでおり、いざチームメイトと組んでの攻防であれば早々崩れる事はない。

 

 柿崎自身それを誇りにしているし、この場で防御に回ってくれている照屋の事も信頼している。

 

 故に、躊躇なく柿崎は向かって来る遊真に対し銃撃を敢行する。

 

 否、しようとした。

 

「隊長…………っ!」

「…………っ!」

 

 ────────柿崎は照屋の呼びかけで()()に気付き、銃撃を中断してシールドを展開。

 

 間一髪で防御に成功し、横から飛んで来た弾丸は弾かれた。

 

 その方角には、弾丸を撃った相手であろう修の姿。

 

 彼が迎撃するタイミングを待っていた、伏兵による攻撃であった。

 

 今のは、危なかった。

 

 完全に遊真への対処に集中していた為に、危うく修の攻撃に被弾するところであった。

 

 咄嗟の防御が成功したのは、奇跡と言って良い。

 

「え…………っ!?」

「文香…………っ!?」

 

 否。

 

 それは、仕組まれた奇跡であった。

 

 柿崎達がそれを理解したのは、修のいる場所とは反対方向から地を這うように飛んで来た弾丸が遊真の攻撃を防御していた照屋の足を撃ち抜いた後だった。

 

 何が起きたのか、言うまでもない。

 

 修は遊真への対処で手一杯となっている照屋の処理能力を柿崎を攻撃する事で更に圧迫し、予め配置していた置き弾を用いて彼女の足を貫いたのだ。

 

 最初から、柿崎を庇わせる事を前提とした攻撃。

 

 あくまでも修は柿崎を狙い続ける事で照屋の負担を増大させ、その隙を突く事を徹底した作戦を組み上げていたのだ。

 

 相手に弱みがあるのならそれを突く事を躊躇せず、その上で自分達の強みを押し付ける戦術を組み上げ翻弄する。

 

 それが、王子の教導を受け成長した現在の修の戦闘スタイルであった。

 

 自分自身は弱くとも、工夫と戦術で理論的に相手を追い詰める。

 

 そんな方向性を持った指揮官として、修はこの場に立っていたのだった。

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