香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ROUND2/case玉狛第二④

 

「玉狛第二、ワイヤー陣を利用した連携で猛攻っ! 今度は照屋隊員の足をもぎ取ったぁ!」

「巧いですね。考えられた戦術です」

 

 ランク戦、実況席。

 

 そこでは興奮気味に試合の経緯を語る桜子と、淡々とそれに相槌を打つ時枝の姿があった。

 

 観客も修の執拗な攻撃にセコイと言う者もいれば、徹底しているその姿勢に恐れ戦く者もいた。

 

 どちらにしろ、現在玉狛第二がこの試合の台風の目になっている事は間違いは無かった。

 

「玉狛第二は徹底して柿崎隊長を狙う戦略を取り、足を失い回避が難しくなっている柿崎隊長を庇うように照屋隊員の動きを誘導している。結果として照屋隊員にかかる負荷は大きくなり、今回の被弾に繋がったワケです」

「最初、柿崎を一息に落とさずに足だけ削ったのはわざとだな。あのタイミングなら足を削るだけじゃなく落とす事も出来ただろうが、それをしなかったのは柿崎を動き難くして照屋の動きを制限する為だろ」

「ふむ、ちなみにお聞きしますが柿崎隊長を落として照屋隊員を二対一で叩く、という方法を取らなかったのは何故でしょうか? そちらの方が単純にやり易いようにも思えるのですが」

 

 太刀川の言葉に対し、桜子はそう指摘する。

 

 確かに、彼女の言う通り柿崎をさっさと落としてしまえば二対一で照屋と戦う事が出来るので、そちらの方が良さそうには思える。

 

 そうせずに敢えて柿崎を生存させた理由について、気になるのは当然だろう。

 

「普通ならな。けど、言っちゃ悪いが三雲は戦力として一人分として換算するには色々と足りな過ぎる部分が多い。だから、二対一になったところでそこまで有利にはならないんだ」

 

 けど、と太刀川は続ける。

 

「柿崎が生存して、尚且つ自由に動けない状況なら話は変わって来る。幾ら威力の低い弾でも、当たればダメージを受ける以上防御をせざるを得ない。そういう状況だと、射手として中距離火力を持っている三雲はその場にいるだけで無視出来ない駒に変わるんだよ」

「そうですね。トリオン体の強度は、トリオン量に左右されません。どちらにしろ急所を射抜かれれば落とされるのは変わらないですし、回避が難しい状況であればどうしても対処の難易度は上がります。たとえそれが、トリオン量の低い三雲隊長の攻撃であってもです」

 

 そう、修は単体で見れば脅威であるとはとても言えない。

 

 基礎は学んでいるし、戦い方を覚えてもいる。

 

 しかしそれはあくまでも短期間で醸成した付け焼刃のものが多く、他のボーダー隊員と比較すればその練度は天と地ほどの差がある。

 

 故に、戦闘能力()()で見た場合、修は無視しても構わない相手、となってしまうのだ。

 

 されど、柿崎が足を削られ機動力が落ちている現在であれば話は変わる。

 

 修の攻撃自体はシールドを張れば難なく防げてしまうのは変わらないが、同時に遊真の対処もしなければいけない以上ただ防御にだけ専念すれば良いとはならない。

 

 スコーピオンによる攻撃は広げたシールドでは防げないし、かといって集中シールドを張れば修の弾が飛んで来る。

 

 相手の足を削り、尚且つ遊真と組む事によって修は自身を「無視出来ない駒」として仕立て上げたのだ。

 

 単体では脅威にならなくとも、状況を整え超抜級のエースと組む事で厄介極まりない駒と化す。

 

 それが、今見えている三雲修の特性であった。

 

「虎太郎がもうすぐ合流出来るが、むしろ三雲達はそれを待ってるな。今、柿崎隊の二人はどっちも足が削れてる。回避が難しい二人を抱えながらじゃ、虎太郎がやられるのも時間の問題だろ」

「そうですね。柿崎隊が此処から勝つのは、相当難しいと言わざるを得ないでしょう。少なくとも、巴隊員が合流した時点で逆転の目はなくなると思います」

 

 加えて、照屋の足を削ったのは未だ合流出来ていない虎太郎を縛る為でもあった。

 

 B級中位の部隊の隊員としては優秀な能力を持つ虎太郎であるが、流石に片足を失った二人をカバーしながらでは出来る事には限りがある。

 

 傍目から見ればただ足が削れただけの柿崎隊の二人だが、()()()()()()()()という基本戦術に拘り続ける限り彼等に最早逆転の目は無いと言っても良い。

 

 ワイヤー陣を張り、二人の足を削る事に成功した時点で既に柿崎隊の無力化は済んでいると言っても過言ではないのだから。

 

「成る程。となると、未だ動かない鈴鳴第一の動向が気になるところですが」

「勿論それも想定の内だろ。このままじゃ、柿崎隊の点は全部玉狛に取られる。鈴鳴としちゃ、それを黙って見てるってのはナシだろうからな。そろそろ、出て来るだろうぜ」

「ええ、現在柿崎隊の二人は足が削れて回避が困難な状態にあります。鈴鳴としても、玉狛に取られる前に点にしておきたいという思惑はあるでしょう」

 

 それから、と時枝は続ける。

 

「未だに姿を現していない雨取隊員がいますからね。柿崎隊が全滅した後であれば、彼女の砲撃で炙り出されて纏めて倒される危険があります。見た目はメテオラのようではありますが、雨取隊員の砲撃はアイビスに依るものですからね。シールドも意味を成さないので、自由(フリー)になった空閑隊員が護衛に就いた上で砲撃を連打すればもう打つ手はないでしょうね」

 

 

 

 

「来馬先輩、このままだと柿崎隊は全員玉狛にやられます。介入しますか?」

「そうだね。それしかないか。黙っていたら、空閑くんが雨取さんの護衛に就いちゃうからね。それだけは避けないといけない」

 

 主戦場と程近い、路地裏。

 

 そこでは合流した村上と来馬が、今後の展望について相談していた。

 

 柿崎と照屋の足が削れてしまった以上、柿崎隊の全滅は時間の問題。

 

 三点をみすみす彼等に譲ってしまうのは、流石に看過出来ない。

 

 加えて、彼等を倒した後で手が空いた遊真が千佳の護衛に就いてしまえば砲撃の雨による蹂躙が待っている。

 

 そうなればほぼ詰んだも同然であり、此処から自分達が得点する為にはあの戦場に介入する他ない。

 

 鈴鳴第一はどちらかといえば守備に寄った戦術を基本とする部隊であり、NO4攻撃手である村上を中心とした戦いが基本だ。

 

 単純に村上というエースに依った戦術が最もシンプル且つ強力であり、落とされ難い彼を中心とした守備陣形を崩すのはそう簡単な事ではない。

 

 その単純ながらに強力な戦術を以て、鈴鳴第一はB級中位の中でもトップクラスの順位を維持し続けていた。

 

 村上は単体で見ればB級上位でも充分通用する実力を持っており、隊全体の練度が上がれば上位に上がってもやっていけるだけの潜在能力(ポテンシャル)はあるのだ。

 

 初戦では隊の練度が足りなかった為に手痛い洗礼を受けて中位に戻される事になってしまったが、鈴鳴第一は決して弱いチームではない。

 

 だが、現時点では守備重視の戦術が基礎である為に突破力に欠ける面があるのは事実だ。

 

 今まで見た限りでも飛び抜けた機動力と戦術的な巧者であると評価出来る遊真が護衛に就いた上で砲撃を連打して来る千佳を打ち倒せるかといえば、明確に無理だと言える。

 

 太一によるカウンター狙撃(スナイプ)が決まれば何とか、といったところであるが彼の狙撃精度では遊真に守られた千佳を討てるかは疑問が残る。

 

 彼を信じていないのではなく、狙撃は当然警戒しているだろう相手の防御を射抜くには単純に太一の技量が事実として足りていないのだ。

 

 加えて、向こうは障害物お構いなしの砲撃を撃ってくる相手だ。

 

 太一の位置がバレた瞬間、周囲の障害物ごと吹き飛ばされて終わりだろう。

 

 故に自分達が勝つ為には、柿崎隊がやられる前に主戦場に介入する他ない。

 

 今であれば柿崎隊と疑似的な共闘を行う事も、彼等に先んじて柿崎隊を倒す事も不可能ではない。

 

 可能であるというだけで、実際にそれが出来るかは分からない。

 

 その程度玉狛が想定していない筈はないし、厳しい戦いになるのは事実だろう。

 

 だが、この場を逃がせば勝機が失われるのは事実。

 

 どう考えても、今介入を行う以外に選択肢は無いと言っても過言ではない。

 

 少なくとも、玉狛がワイヤー陣を構築し柿崎隊を詰みの盤面に追い込んだ時点で手遅れに等しかったのだ。

 

 その点は、柿崎隊と同じく合流を優先した鈴鳴の失態と言える。

 

 玉狛にこの展開に持っていく準備をする時間を与えたのが、彼等の一番の失策と言えた。

 

「行こう。今出て行かなきゃ、もう勝機はないからね。厳しいけれど、これしか方法がないならやるしかないよ」

 

 

 

 

「千佳は基本的に、必要な場面が来るまでは撃たせない。そうする事で、相手の動きを縛る事が出来るからだ」

 

 過日、玉狛第二作戦室。

 

 そこでは、修がチームメイトに対しROUND2の作戦方針を打ち出していた。

 

 遊真は黙って頷き、千佳もそれに続く。

 

 しかし、千佳の表情は優れない。

 

 修の方針は、彼女が「人を撃てない」という弱点を隠す為であろう事が見えていたからだ。

 

 千佳は事前に修達に、「自分は人を撃てないだろう」と申告していた。

 

 それを咎めるでもなく受け入れた二人は、「じゃあその前提で作戦を組み上げよう」と言ってくれた。

 

 ギリギリまで千佳に撃たせない、という方針はそのフォローである事が容易に想像出来たからだ。

 

「…………ごめんね。わたしが、ちゃんと人を撃てれば」

「それは構わないって言った筈だよ。勿論人を撃てた方が助かるのは確かだけれど、無理にそうしろって言うつもりはないからな。むしろ、無理を強いてお前のコンディションが悪くなる方が問題だとぼくは思う」

「そうだな。向き不向きってのがあるし、無理にやらせる方が駄目だろ。それならそれで、今ある手札で戦えば良いだけだ」

「そうだよ。千佳ちゃんはちゃんとチームに貢献出来てるし、問題ないって」

 

 しかし、そんな自身の落ち度を謝る千佳を修達は総出でフォローする。

 

 基本的に彼等は身内に甘いという玉狛の気質を受け継いでおり、千佳へ対する態度は過保護であると言っても過言ではない。

 

 特に修は千佳の事は麟児に託された大切な少女という想いがある為、猶更だ。

 

「それに、千佳の砲撃の威力は、ROUND1で充分見せつけられた。だから今回は、相手はそれを警戒して来る筈だ。だから、()()()()()()()()。そうする事で、相手に千佳の砲撃を警戒させて動きを縛る事が出来るからね」

 

 だが、それだけで終わらないのが王子の薫陶を受けた修である。

 

 千佳が人を撃てないという前提を考慮した上で、彼女の存在そのものを戦術に組み込む。

 

 使えるものは全て使うという王子の教えが、確かに修の中には息づいていた。

 

「千佳が人を撃てない事を、相手は知らないからな。千佳が隠れているだけで、砲撃を警戒させ続ける事が出来る。アイビスでの砲撃だからシールドを貫通出来るし、空閑が護衛に就いた状態で砲撃をされるのだけは避けたいって思うのが普通だからな」

「そうだな。あの威力の砲撃だから、障害物もお構いなしなのは前の試合で見せてやったからな。あれで布石を打てたから、今回無理をする必要はないだろ」

「ああ、その通りだ。いつまでも隠し通せるとは思わないが、使える内はブラフでも何でも使った方が良い。そっちの方が、単純に勝率が上がるしな」

 

 未だに千佳が人を撃てないという情報は、他チームには漏れていない。

 

 ROUND1でも千佳が砲撃を撃って間宮隊を炙り出した後、彼等を遊真が瞬殺した為にバレる要素など無いからだ。

 

 故に他部隊は、「千佳の砲撃でやられる可能性」を考慮して動く事を強いられる。

 

 見た目はメテオラのようではあるがあれは歴としたアイビスによる攻撃なので、シールドは容易く貫通する。

 

 障害物も、射線すらお構いなしに撃ち込んで来る大威力の砲撃はランク戦では脅威極まりない。

 

 たとえそれが本当はブラフに過ぎなかったとしても、それを知る手段の無い者達にとっては現実の脅威として考える他ない。

 

 修はそれを利用し、相手チームの動きを徹底的に縛り誘導するつもりだった。

 

 使えるものは何でも使い、今ある手札で勝負を仕掛ける。

 

 それは王子からの教導で教え込まれた基本であり、修の性質とも合致する考え方だ。

 

 修は傍目から見ると正義感の熱い善人に見えるが、その実態は自分の信条の為であれば社会通念や組織のルールなど知った事ではないという強烈な自我の化身だ。

 

 なまじその基本姿勢が模範的な優等生である為に露見し難いが、彼にとって最も重要なのは()()()()()()()()()であり、極論それ以外はどうでも良いと切り捨てる事が出来る。

 

 現在はそれが()()()()()()()()()()()()という方向を向いている為、遠征に行く事を最優先目標として邁進している状態だ。

 

 故に、勝つ為ならば以前共闘した相手の情報を利用する事にも躊躇いは無い。

 

 成り行きとはいえ、柿崎隊とは大規模侵攻で共闘する機会があった。

 

 当時照屋の援護には相当助けられたが、それはそれとしてその時の経験を活用する事に一切の躊躇いが無いのが修である。

 

 あの時照屋は、キューブ化された柿崎を守る事に全力を尽くしていた。

 

 周囲の生物弾を薙ぎ払いながらも、その片腕に抱えたキューブだけは何が何でも離さなかったのがその証拠だ。

 

 当時の行動から修は、照屋は何があっても柿崎を守る感情で動く少女であると分析していた。

 

 無論当時そう考えていたワケではなく、照屋が属する柿崎隊と戦う事になった段階で当時の記憶を思い返し、そう解析したというだけの話だ。

 

 時として銃を持っている腕よりもキューブを抱えている腕の方を庇うような仕草さえあった為、この推察は間違ってはいないだろう。

 

 それが判明した時修は即座に彼女のその性質を作戦に利用する事を思いつき、今回の戦術を組み上げるに至ったのだ。

 

 恩のある相手でも、たとえ自分にとって大切な相手であろうとも。

 

 目的の為ならば利用する事も、叩き潰す事も躊躇しない。

 

 仮に何かの拍子で千佳と敵対する立場になったとしても、その戦いに於ける勝利が目的に通じるのならば彼は容赦しないだろう。

 

 相手を殺さなければならない、というのであればともかく単純な試合や試験で敵味方に別れた程度で躊躇する修ではないからだ。

 

 この精神性は王子の教導の影響ではなく、完全に修の自前のものである。

 

 王子の薫陶はその性質に合致した戦略を取り易くしただけに過ぎず、彼の本質は一切ブレていない。

 

 それが三雲修という自我(エゴ)の化身、その在り方の根幹であるのだから。

 

「じゃあ、予定通り柿崎隊の足を削れたらそこから一気に詰めに行こう。巧く行けば、完全試合も夢じゃないぞ。頑張ろう」

「「了解」」

 

 こうして、修は作戦を組み上げ試合に臨んだ。

 

 そして盤面は彼の想定通りに進み、修の仕掛けが今、作動しようとしていた。

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