香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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新星の反響

 

 

「…………マジかよ」

 

 若村は目の前で起きた試合の顛末に、本気で引いていた。

 

 香取に連れられて見に来た試合であるが、本当の意味で彼が三雲修という少年の真価を識るのはこれが初めてであった。

 

 大規模侵攻の際の無茶を知って警戒はしていたが、あくまでも「一応気を付けとくか」くらいの認識だった。

 

 それがどれだけ甘い評価だったのか、若村は今回の試合を以て思い知る事になったのだ。

 

 ワイヤー陣を組み上げ、それを利用して二部隊を相手に立ち回る手並み。

 

 躊躇なく相手の隊長を徹底的に狙い、一切の迷い追い詰めるその容赦のなさ。

 

 そして、莫大なトリオンを持つ狙撃手とA級クラスの動きをする攻撃手のエースという凶悪な手札。

 

 何より、自分が弱いという事すら利用し尽くした独自の戦術。

 

 どれを取っても、若村の想像を超えていた。

 

 遊真の実力が想像以上だったのもそうだし、千佳の砲撃の威力にも驚いた。

 

 しかし何より、修の躊躇のなさが怖かった。

 

 今回彼が狙った柿崎と来馬は、ボーダー内でも有数の人格者として知られている。

 

 当然慕う者も多く、試合とはいえ彼等を狙って相手を追い詰める修のやり方はそういった者達の顰蹙を買う危険があった。

 

 にも関わらず修は躊躇なく彼等を狙う作戦を実行に移し、完遂して村上まで倒してみせた。

 

 太刀川が解説の場で修の事を褒めちぎっていなければ、その懸念は現実のものとなっていた可能性は高かった。

 

 NO1攻撃手である太刀川の発言というのはそれだけ重く見られており、彼がハッキリと「修に非は無い」と宣言した事で表立って修を糾弾する者はまずいないだろう。

 

 修を非難するという事は太刀川の発言に否を突き付けるのと同義である為、周囲の眼を気にする者程そんな愚行は犯さないのである。

 

 恐らくではあるが、太刀川はそこまで考えて修を持ち上げる発言をしていたのだろう。

 

 そのあたりのバランスの取り方が巧いのが太刀川の特徴であり、彼をある程度知る者にとってそれは常識でもあった。

 

 人格的には駄目人間としか言いようのない太刀川だが、A級一位部隊の隊長としての性格はしっかりと買われているのである。

 

 まさかそんな太刀川の性質も考慮した上で作戦を実行したとは思いたくないが、どちらにしろ躊躇なく多方面に喧嘩を売りかねないやり方を選んだ時点でとんでもないクソ度胸があるのは確定している。

 

 他人の眼を気にし過ぎるクチの若村としては、どちらにしろその行為だけでドン引きものだった。

 

 彼は、知らない。

 

 修は他人の評価等は実益を伴わないものであれば一切の興味がなく、それ故に今回の作戦を迷わず実行したのだという事を。

 

 他人の眼を気にして行動を躊躇しがちな若村と異なり、修は自分がどう思われるかなど全く気にしないし、彼が気を遣うのは自分の目的の為に利益になるかどうかだけである。

 

 故に「今回でなるだけ点を荒稼ぎする」という目的の為に有用だったので、迷いなくこのやり方を採用した次第である。

 

 そも、修のやった事は太刀川の言うように何も間違ってはいない。

 

 分かり切った敵の弱点を突いて行動しただけで、彼等に何ら非はないのだ。

 

 むしろ、その戦術を徹底しNO4攻撃手の村上を倒した手腕をこそ褒められるべきなのだ。

 

 幾ら弱点を突いたといえど、それだけで倒せる程村上は甘くはない。

 

 それを利用し尽くした上で、的確な戦術を成功させ続けたからこそ彼に刃を届かせる事が出来たのだ。

 

 その手並みは、鮮やかだとしか言いようが無い。

 

 故に若村はドン引きしつつも、同時に称賛の感情も持っていたのだ。

 

 いずれにせよ、村上を倒したというのはそれだけの偉業なのだから。

 

「凄かったね。まさか、村上先輩を倒しちゃうなんて。たった2ラウンドで上位に上がって来ちゃったし、葉子ちゃんの言う通り警戒しなきゃいけない相手だね」

「だから言ったでしょうが、警戒しときなさいって。まあ、予想の斜め上をカッ飛んでったのは確かだけどね」

 

 そう言って、香取も三浦に同意する。

 

 修への警戒度は最初から高かった彼女であるが、今回の試合を見て自分の認識がまだまだ甘かった事を思い知らされた。

 

 まさか、村上を倒して完全試合(コールドゲーム)を達成するなどとは思っていなかったからだ。

 

 大量得点くらいはするだろうとは思っていたが、村上を倒すとまでは思っていなかったというのが正しい。

 

 村上は本人が攻撃よりも守備重視の立ち回りをする為に得点力はそう高くはないが、生存能力は凄まじく高い。

 

 高度な技量と機転に支えられた防御能力が、彼に刃を届かせる事を許さないのだ。

 

 香取とて相当調子が良く条件が整わない限り勝てない相手であり、場合によっては戦う事を避ける相手でもある。

 

 その村上を倒したという事の意味は、想像以上に大きい。

 

 幾ら弱点を突いたとはいえ、その守りを突破して斬り伏せる事の出来る者などそう多くはないのだから。

 

「…………使えるわね」

「ん? 何がよ」

「彼等の試合データよ。葉子、これからも玉狛第二の試合は欠かさずチェックしましょう」

「それはいいけど、なんで?」

「参考に出来る部分が多いの。思った以上にね」

 

 そんな中、試合中ずっと黙って観戦していた華は唐突にそう告げた。

 

 何か、思うところがあったのだろう。

 

 香取もその言を傾聴する姿勢に入り、華は続けた。

 

「私達と同じワイヤー陣を使った事もあるけれど、強い駒もそうでない駒も利用し尽くしてる戦術は学べる部分が多いわ。今後ランク戦を勝ち抜く上で、良いモデルケースになってくれる筈よ」

「…………そういう事か。確かに、一理あるわね。()()()()()()()()なんて、一番得意でしょうからねあっちは」

「…………!」

 

 香取の言葉に、若村は眼を見開いた。

 

 華はオブラートに包んでいたが、香取はそんな事をせずにストレートに言ったのですぐに気付いた。

 

 弱い駒、とは自分の事であると。

 

 そして、そんな自分がチームに貢献する為に必要な参考例こそが修であると。

 

 彼女達は、そう言っているのだと理解した。

 

「三雲くんは、戦術立案能力もかなり高いみたいだしね。現場指揮はまだ拙い所があるけれど、隊を結成して間もない事を考えれば破格と言っていいわ。チーム単位でも、参考に出来る部分が多いのは間違いないわね」

「そうね。()()()()()()()()()()、なんてお誂え向きの子もいるみたいだし、チェックしない理由がないわね」

「…………そうだな」

 

 二人の言葉に、若村は頷く。

 

 以前は自分の実力を高めるしか強くなる方法はないと思い込んでいた若村だが、そんな固定観念を最初からぶち破って見せた修の姿に思うところがなかったワケではないのだ。

 

 実力が足りずとも、創意工夫次第で隊に貢献する方法など幾らでもある。

 

 それを実地で示してくれた好例があるのだから、参考に出来る部分はするべきだろう。

 

 流石に修程極端に弱いワケではないが、B級上位の中では下から数えた方が早い駒である自覚はある。

 

 故に、自分がどう動けば良いかのお手本が出来た事は大きいと言える。

 

 そういう意味でも、この試合を見に来た意義はあったと言えた。

 

「でも、その樹里は何処にいるんだか。誰に教わりに行ったかは知らないけど、勿体ない事してるわよね」

 

 

 

 

「葉子がわたしの事噂してる気がする」

「急にどうしたの樹里ちゃん」

「なんでもない。ただ、言わなきゃいけない気がしただけ」

 

 そ、そう、と電波な発言に若干引きながら出水は相槌を打った。

 

 上層の観覧席から試合を見ていた二人だが、こちらは大袈裟なリアクションを取るタイプではないので静かなものだ。

 

 もっとも、試合中無言になっていた樹里は色々と思うところがありそうではあった。

 

「どうだった樹里ちゃん。玉狛第二の試合は」

「とても、性格が悪いね。良い意味で。参考になる部分は、色々あると思う」

「そーだな。三雲くんはどんな作戦でも躊躇なく実行するだろーし、隊の編成も君の所と似た部分があるしな。参考に出来る部分は、どんどん真似てくといいかもだ」

 

 そう言って、出水はニカリと笑った。

 

 彼の言う通り、玉狛第二の隊編成は香取隊とある程度共通項がある。

 

 近接戦闘に特化したエースに、弱くともスパイダーという補助手段のある駒。

 

 そしてトリオンの高い狙撃手の存在と、割と共通している部分があるのだ。

 

 もっとも若村は修程極端に弱いワケではないし、トリオン量では千佳は規格外にも程がある為完全に同じというワケでもない。

 

 それでも参考に出来る部分が多いのは、頷ける話であった。

 

「…………けど、なんであの時砲撃で直接落とさなかったんだろ。その方が手っ取り早いし、楽なのに」

「流石にそこまでは分かんねーな。雨取ちゃんの技術の問題とか、そのあたりとかかもしれねーし」

「ふぅん」

 

 そして、同じくトリオンの高い狙撃手という共通項を持つ樹里だからこそ気付いた疑問点に対し、出水はお茶を濁した。

 

 あの場面で、柿崎や村上を直接砲撃で狙わない理由が思い至らなかったのである。

 

 樹里もまた高いトリオンを持つ狙撃手である為、あの状況での最適解が「アイビスで直接柿崎か村上を狙う」事である事はすぐに察せられた。

 

 自分ならそうするから、という視点があった為、その違和感が目に付いたのだ。

 

 樹里は眼を細め、思案する。

 

 仮に自分が同じ状況に置かれたのならば、あの場面で直接敵を狙わない理由が無い。

 

 少なくとも、村上はどうか分からないが柿崎や虎太郎はそれで落とせただろう。

 

 それをしない、という事は相応の理由がある筈なのだ。

 

 自分達の作戦が何処まで通用するかと考えて敢えて狙わせなかった可能性も考えはしたが、リスクとリターンが見合っていない。

 

 あの場には、村上がいたのだ。

 

 彼程の超抜的なエースがいる戦場で、試行的行動を取る程の余裕があるとは思えない。

 

 結果としては圧勝ではあったが、何か一つボタンの掛け違えがあれば状況がひっくり返っていてもおかしくはなかったのだ。

 

 一連の試合の流れを見ても、修はそんな状態でリターンの低い行動を取るタイプにはどうしても思えなかった。

 

(となると、やらなかったんじゃなく()()()()()()理由があるよね。考えられるのは、もしかして────────)

 

 

 

 

「アマトリチャーナは人を撃てない。成る程、これが君たちのチームの瑕疵というワケか。オッサム」

 

 王子隊、隊室。

 

 そこではモニターを通じて試合を観戦していた王子がチームメイトに対して開口一番そう告げていた。

 

 修の予想通り、王子は試合を見て千佳に直接相手を狙わせなかった違和感に即座に気付いた。

 

 師匠をしていた為修の性格を良く知っている王子は、その情報からすぐさま正解に辿り着いた。

 

 相手の行動を分析し、客観的視点を排除して敢えて性格読みで答えを導き出す。

 

 このあたりは、似た者師弟と言えるだろう。

 

「成る程、確かにそれならあの場で直接相手を狙わなかった事にも納得がいく。三雲くんなら、そういう駒はああ使うだろうしな」

「そうでしたか。じゃあ、木岐坂さんみたいに都度高威力の狙撃に警戒する必要はない、という事ですね」

「いや、一概にそうとも言い切れない。相手はオッサムだ。こうして情報が露見する事を、想定していないとは思えないな」

 

 そして、だからこそ王子は千佳が人を撃てないという情報がこうして伝わる事も織り込み済みだろうと確信していた。

 

 王子は、修の性格を理解している。

 

 彼は持てる手札を使い尽くす事を躊躇せず、自分に取れるあらゆる手段に手を伸ばそうとする。

 

 そして、手駒に瑕疵があるのならばその穴すら利用して勝ちに繋げるのが修のやり方だ。

 

 千佳は人を撃てないから脅威となる駒ではない、という固定観念を持っていれば、そこをこそ突かれるに違いないと彼は考えていた。

 

 推論に過ぎないが、どちらにせよ彼が修に対し油断をする事はないだろう。

 

 それだけ、短い付き合いの中でも濃密な時間を過ごして来たのだから。

 

「どちらにしろ、たった二試合で上位に上がって来たのは伊達じゃない筈だ。予想以上に楽しませてくれるようで、何よりだよ」

「上位に上がって来たという事は、俺達とも当たる可能性があるって事だからな。その内機会は来ると思ってはいたが、予想以上にそれは早くなりそうだ」

「そうですねっ! 三雲くんは良い人ですし多少思うところはありますが、それはそれとして戦うなら全力を尽くしますっ! それが礼儀ですからっ!」

「うんうん、カシオはそれで良いよ。手を抜く方が、却って失礼だからね」

 

 王子隊の三人は、共に修とは仲が良い。

 

 とうの王子が度々この隊室に招いて指導をしつつ交流を重ねていたのだから、相応に親密度は上がっているのだ。

 

 そして、だからこそ分かる事がある。

 

 たとえ自分達と戦う事になっても、修は一切の躊躇も容赦もしないだろうと。

 

 たとえ、恩のある相手でも。

 

 たとえ、自分の大切な相手だとしても。

 

 勝利が目的の為に必要ならば、文字通り叩き潰す事に一切の躊躇いが無い。

 

 それが修という少年の在り方であり、それを王子は深く理解していた。

 

 最初見た時に感じたシンパシーは、全く間違ってはいなかった。

 

 それを、今回の試合を見た事で王子は深く実感していた。

 

(想像以上に指揮官として成長しているようで、嬉しいよオッサム。どのタイミングで当たるかはまだ分からないけれど、そうなったら全力で叩き潰しに行ってあげよう。それが、ぼく達の間では一番の返礼だからね)

 

 王子は想定以上の修の成長ぶりに笑みを浮かべ、戦意を漲らせる。

 

 彼等と戦う日は遠くはないと、既に確信しているようであった。

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