香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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三雲修Ⅶ

 

「今度のランク戦のMAPは、香取隊との契約通り市街地Aでいく。それにあたって、戦略を説明したいと思う」

 

 玉狛支部、その一室。

 

 そこでチームメンバーを集めた修が、作戦会議を始めていた。

 

「…………」

 

 尚、部屋の隅にはヒュースもいる。

 

 彼が部隊に参加出来るのはまだまだ先ではあるが、指揮官である修の思考傾向を知っておきたいとの事で作戦会議には参加する事になったのだ。

 

 ROUND1やROUND2も陽太郎の薦めでモニター越しの観戦自体はしていたので、修の戦い方自体は理解している。

 

 しかしこうして直に彼の考えを聞く事で、隊長の方針がどのようなものなのかを判断していきたいのだろう。

 

 前回の試合の指揮である程度ヒュースの中の合格点は出ているが、それはそれとして彼に手抜きという概念はない。

 

 やるならば徹底的にが信条(モットー)である以上、やれる事をやらないという選択肢は有り得ない。

 

 故にこうして、作戦会議に傍聴者として参加しているのである。

 

「取り敢えず、指定されたMAPとしては割と良い方だったと思う。流石に市街地Cや摩天楼は高望みし過ぎだと思ったけど、これはこれで悪くない」

「そっちは流石に香取隊の関わりを疑われかねない、とでも考えたんじゃないか?」

「それもあると思う。けど、他にも香取隊はあまり自分達に有利()()()地形を選びたくなかったんだと思うんだ」

 

 そんなヒュースの視線を受けながら講釈を続ける修の発言に、遊真がほぅ、と息を漏らす。

 

 彼自身ある程度予想はしているのかもしれないが、此処で下手に口を出さない程度の謙虚さは持っている。

 

 なんだかんだで縁の下の力持ちも出来るのが、遊真の強みの一つなのだから。

 

「あまりにも地形が香取隊に有利だと、今度はぼく達と弓場隊の共闘って選択肢が出て来るからね。勿論場合によってはそれも考慮に入れていたし、多分そこを警戒されたんだと思うよ」

「ふむ。だからそういうMAPは選ばなかったって事か」

「ああ。市街地Cと摩天楼は、ROUND1とROUND2で香取隊にとって有利なフィールドである事が客観的な事実として分かっている。だからもしも染井先輩がそちらのMAPを選んでいたら、状況にも依るけど弓場隊との事実上の共闘を選んでいたかな」

 

 修の推察では、香取隊が今回市街地Cのような彼女達に明確に有利なMAPを選ばなかったのは、そこを懸念したからだと考えている。

 

 確かに有利な地形で戦えば、試合を優勢に進める事が出来るだろう。

 

 しかし盤面の天秤があまりにも香取隊に傾き過ぎる事が誰の眼から見ても明瞭だった場合は、共通の敵認定されて袋叩きにされる危険があるのだ。

 

 勿論部隊の性質によっては敵チーム同士での事実上の共闘が難しい場合もあるが、王子の教導を受けた修は当然その程度こなすし、弓場隊もそれが出来る程度の柔軟性は持ち合わせている。

 

 故に香取隊はあからさまに自分達に有利なMAPを選ぶ事を避けたのだろうというのが、修の見立てだった。

 

「オサムの見立てに異論はない。恐らくはオレが香取隊の立場でも、市街地Cと摩天楼は避けただろう」

「じゃあ、なんで市街地Aにしたんだ? 他にも色々MAPはあるし、適度に香取隊に有利なMAPもありそうなモンだけど」

「そこは多分、下手に極端なMAPを選んでぼく達に利用されるのを警戒したんじゃないかなって。あくまでも、推論だけど」

 

 ふむ、と自然に会話に入って来たヒュースを受け入れつつ、遊真は修の話に目を細める。

 

 そしてチラリと、隣に座る千佳を見た。

 

 傭兵である遊真は、ある程度戦術的な視点も持っている。

 

 故に修に言われずとも把握出来ている事は割と多いが、それでも質問を重ねるのは改めて彼の意向を理解したおきたいという理由の他に、千佳への配慮もある。

 

 千佳は王子の教導を受けた修や元傭兵の遊真と違い、戦術に関しては完全な素人だ。

 

 確かにレイジの指導を受けてはいるが、それはあくまでも狙撃手という駒としての技術教育であって戦術的な知識はさほど叩き込まれてはいない。

 

 これは下手にそういう視点を教えて千佳の基礎修練が疎かになる事を嫌ったレイジの方針の為でもあるが、そもそも他に明確な指揮官がいる以上彼女が敢えて戦術を学ぶ優先度は高くないという考えがある為だ。

 

 修は元来の資質と王子の教導が奇跡的に噛み合った結果、指揮官としては経験の浅さを考えれば異例な程の成長を遂げていた。

 

 他の師匠では基礎や技術を中心に教えていたであろうから、こうまで指揮官として成長できたのは紛れもなく王子の指導との相性の良さがあっての事だ。

 

 王子と修は、似ている部分が多い。

 

 固定観念に囚われない思考や、こうと決めれば突っ走る事に一切の迷いが無い事等様々な共通点がある。

 

 その最たるものの一つとして、手札の選り好みを全くしないというものがある。

 

 通常、ROUND2で修が取ったような相手の弱点をあからさまに突く戦法というのは場合によっては厭われる事がある。

 

 真剣勝負である以上大なり小なり相手の弱みを突く戦術は横行するものだが、それにしても修のあれはあからさまに過ぎた。

 

 加えて言えばそれを行使した相手が人望の厚い柿崎や来馬という事もあって、解説組のフォローがなければ修にヘイトが集まっていた可能性は充分に考えられた。

 

 修はそういった可能性も考慮しながら、()()()()()()()()()()

 

 何故ならば、そうなったところで自分達に()()()()デメリットは発生しないからだ。

 

 修本人が叩かれる事はあるだろうが、チームとして不利になる事はないだろうとの判断があった為に彼はそういった側面を気にする事はなかった。

 

 基本的に修は自分が受ける他者からの評価に一切の関心がなく、身内に迷惑をかけなければそれで構わないと思っている。

 

 被害が自分一人で済む程度の悪評であれば、修がそれに興味を持つ事はない。

 

 もしも害意の矛先が他人に向くようであれば色々と()()必要は出て来るが、あくまでもその程度の認識だ。

 

 基本的な精神が鋼鉄の硬度なので、普通ならば耐えられない悪評であろうとも、本人にとってはさざ波に等しいのである。

 

 更に言えば、今回に限れば仮に解説組のフォローがなくても大事になった可能性は低いだろう。

 

 修は本人の与り知らぬところでC級隊員からは英雄視されており、強者に阿る性質のある彼等は崇拝対象が多少えげつない戦略を取ったところで結果的に勝てていればあまり気にしない。

 

 そもそも柿崎隊の「隊長を庇う事が多い」性質や鈴鳴の「何が何でも隊長を庇う事が確定している」性質の事など、C級隊員は知らないのだ。

 

 彼等からしてみれば玉狛に柿崎隊や鈴鳴がただ蹂躙されているようにしか映らず、その絵面の派手さもあって当時会場にいたC級達は単純に修達の活躍に沸いていた。

 

 正隊員になるとそもそもルール違反ではない以上如何なる手段も取り得るという現実を受容しなければ上を目指す事など出来ない事くらいB級中位以上は承知しているので、そもそも問題になる事がない。

 

 そして精神的に未熟な者がいるB級下位の面子も、敢えて波風を立てるような愚行を犯すような者はいない。

 

 第一に彼等は修達玉狛のメンバーに大規模侵攻で助けられた恩があるので、基本的に好感度はプラスに傾いているのだ。

 

 特に自分達の失態を拭ってくれた茶野隊に至っては本気で感謝しており、以前に本部の廊下で出会った際にはしきりに頭を下げ続けるという場面もあった。

 

 大規模侵攻では立場故の空回りもあって失態を演じてしまった茶野隊であるが、大失態をしてしまったショックと最悪の事態を防いでくれた修達への感謝の念で揺れ、後者に大きく傾いたようであった。

 

 そこで自分達など比べ物にならないくらい目立ち英雄視された修への悪態ではなく、助けられた事への感謝を口にするあたり人間的には善良であるのが見て取れる。

 

 そんなこんなで、修は悪辣な戦法を取りつつも目立った悪評を晒す事態にはなっていない。

 

 注目すべきは、修が万が一の時のデメリットを考慮した上でそれを呑み込んだところである。

 

 王子もまた、同じ傾向がある。

 

 彼はチームの性質上勝つ為には「獲れる駒を取る」という戦術を行使し、積極的に強敵と戦う事を避けて弱い駒を狙うといった行動も普通に取る。

 

 それもまたROUND2の修程ではないが嫌われ易い戦法ではあるが、王子は「それがウチのやり方だから」と一切気にした風がない。

 

 勿論相手チームの戦法に表立ってケチを付けるような低俗な輩は正隊員にはいないものの、観戦しているC級から野次が飛んだ事はある。

 

 それでも王子は涼しい顔で、「じゃあ、君達ならどうやって勝つのかな?」というマジレスを以てC級複数名をガチ泣き寸前まで追い込んだ事もあった。

 

 理路整然と並べられる正論を前に涙目になったC級の面々の姿はそれはもう語り草となり、以降王子に盾突くような馬鹿なC級はいなくなった。

 

 やり方は違えど、リスクを自然に排除しつつ見栄えを気にしない戦法を取る事に躊躇がないあたりは矢張り似た者師弟である。

 

 そんなこんなで最初から指揮官としてグングン伸びていた修と、戦闘自体が全くの素人で思考自体も戦い向きではない千佳とでは矢張り戦術的な思考のレベル自体がかなり差があるのだ。

 

 だからこそ修の意図を分かり易く千佳に伝えるべく、遊真は敢えて質問を繰り返し、噛み砕いた情報を千佳に伝えようとしているのだ。

 

 あまり色々な知識を詰め込んで混乱させたくないというレイジの方針も分かるが、かといって全くの無知であるといざという時に自己判断で動く事が出来なくなる。

 

 故に遊真は敢えて解説を促す役に徹しているのであり、レイジもまたどちらが正しいというワケでもないので黙認している状態にある。

 

 なお、ヒュースはそんな遊真の意向はとうに承知している為口を挟む事はない。

 

 隊員に欠点や弱みがあるのならば、それをフォローするのは部隊の一員としては当然だと思っているからだ。

 

 優秀で欠点のない戦闘員だけで部隊を構成するなど、まず夢物語であると言っても良い。

 

 アフトクラトルの例で見てもエネドラは戦闘能力自体は本物だが末期状態では性格に難があり過ぎて協調を乱すなんてものではなかったし、ランバネインも能力も高く性格も悪くはないが生真面目なヒュースとはウマが合わない面もあった。

 

 その上で「排除するしかない」とされたエネドラやヒュースは相当異例なケースであり、様々な例外的要素が重なった結果である。

 

 普通は、仲間の欠点を受け入れた上でどうにか巧く部隊が回せるようにやりくりするものなのだ。

 

 その努力をヒュースは軽視しないし、今後自分が入る部隊である以上成長を阻害するつもりもまた無い。

 

 結果として質問をする遊真と答える修、それを多少の口出しをしつつ静観するヒュースと傾聴する千佳という構図が生まれたのであった。

 

「これまでのやり取りで、香取隊にはある程度ぼく達への警戒心を芽生えさせる事が出来た筈だ。だから、()()()M()A()P()()()()()()()()()()()()()()()()って思わせる事が出来たんだと思うんだ。だから下手に市街地Dや市街地E*1みたいなMAPを選ばれるよりは、よっぽど良い結果に出来たんじゃないかな」

 

 それにしても少し警戒され過ぎてた気がするけど、と修は呟くが、彼は知らない。

 

 修自身の与り知らぬ所で香取隊とは因縁が生まれており、それによって香取からは異様なまでの注視と警戒を、樹里からは別ベクトルの警戒心を抱かれているなどという事は。

 

 神ならぬ修には、分からなくとも無理はないと言えた。

 

「今回やるつもりだった作戦は、その二つのMAPだと少し都合が悪いからね。それならそれでやりようは考えてはいたけど、基本的にそうなる可能性自体は低いと見ていたよ。今回は、弓場隊もいるしね」

「弓場隊は、ログを見る限りどちらかといえば閉所が得意な印象だからな。隊長のゆばさんは、銃で戦う攻撃手(アタッカー)って感じで狭いトコで当たるとキツそうだったし」

「ああ、弓場隊がいる以上閉所で戦わざるを得ないMAPはまず選ばないだろうと見ていたよ。香取隊とMAP情報の共有をした時点で弓場隊を()()事は想定していたし、わざわざそちらに有利な地形を選ぶ事はまずないだろうってね」

 

 今回、玉狛と香取隊はMAP情報を事実上共有している。

 

 故に唯一それを知らない弓場隊相手に有利を取る事が出来る為、基本的な方針は二部隊で弓場隊を()()()()事だ。

 

 勿論本質的には敵同士である以上隙を見て背中を刺しに行く事は忘れないし、それは向こうも同じだろう。

 

 しかしどの道弓場隊を標的にする事自体は既定路線である為、敢えて彼等に有利な地形を選ぶ理由は微塵もない。

 

 そういう理由から、修が選ばれたくなかった閉所MAPが指定される事はないだろうと見ていたワケだ。

 

「その上で、香取隊に対し有利を取る為に天候設定を弄ろうと思う。MAP情報は共有出来ていても、こっちは分からないからね」

「それ、協定違反にならないのか?」

()()だよ、空閑。契約条件は、あくまでも香取隊の指定したMAPを選ぶ事()()だ。天候設定については、一文たりとも契約条項に組み込んではいないんだよ」

 

 成る程、と遊真は頷く。

 

 修の言う通り、香取隊と交わした契約内容には天候設定についての文言は一文字たりとも無い。

 

 故にそれを変更するのは契約違反にはならないのだと、修は断言した。

 

 契約の穴を突くようなやり口だが、それを言えば穴のある契約を結んだ向こうにこそ非がある。

 

 同じ陣営で戦うのであればともかく、試合でぶつかる以上隙を見せた方が悪いのが当然なのだから。

 

「一応文句を言われないように()()()情報は渡しておいたから、これについては気にしなくていい。何かあったら、ぼくが責任を取るよ。それが、隊長の役目だからね」

「そこはオサムに任せるさ。けど、なんかあったら頼れよ」

「勿論だ」

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべながら遊真と修は腕を軽く合わせる。

 

 その様子に千佳が二人の信頼関係の縮図を見ていいなぁ、と羨ましそうにしており、ヒュースは元より義と誠実を旨とする為にこうした仲間意識については好意的だ。

 

 質実剛健こそが正義だと思っているヒュースにとって、こういった健全な上司と部下の関係性は歓迎して然るべきものなのだろう。

 

 そのあたり、軍人としての気質と諸子としてエリン家に迎え入れられた経験が合致して良い感じに適応していたヒュースであった。

 

「作戦を言うぞ。ぼく達は今回、天候を────────」

 

 そうして、作戦会議は続く。

 

 その日は夜遅くまで、玉狛支部の灯りは灯ったままであった。

*1
市街地Eについては前作を参照。簡単に言えば駅地下MAP

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