香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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第八幕~B級ランク戦ROUND3/Third Rank Battle of White Girl
第三試合、到来


 

 

「じゃあ、最終ミーティングをするわよ。と言っても、あくまでも再確認だけどね」

 

 2月8日、朝。

 

 ランク戦ROUND3、その当日。

 

 香取隊の面々は隊室に集まり、最後の打ち合わせを行っていた。

 

 とはいえ、大まかな作戦方針は既に決めてある。

 

 本人が言っている通り今回はその再確認といった意味合いが大きく、このタイミングで大きく作戦を変えるケースはあまり無い。

 

 ランク戦の開始直前に各チームに告知される選択MAPの情報によって作戦の練り直しを迫られる場合もあるが、今回に限っては香取隊は戦うMAPを事前に知る事が出来ている。

 

 故にあくまでも最後の確認という意味合いであり、しかして欠かす事の出来ない既定挙動(ルーチンワーク)でもある。

 

 生駒隊等はこの時間をほぼ雑談に興じていたりするが、あれは彼等が細かい打ち合わせなどなくても臨機応変に動けるだけの地力を個々で備えているから行えるのであって、他所の部隊が似たような事をやればどうなるかは以前の香取隊が実証している。

 

 昔の香取隊は試合前であろうと些細な事での口論に時間を費やし、碌な話し合いが出来ていなかった。

 

 その結果が成績の低迷であり、一時は中位落ちまで経験した原因となる負債である。

 

 香取や樹里といった大駒を抱えるチームではあるが、全員の戦術レベルが統一されておらず判断力もまだまだ未熟な以上、こういった工程を欠かす事は出来ない。

 

 以前までなら面倒と切って捨てていた香取本人が率先してそれを行っているあたり、彼女達の成長が見て取れる。

 

 様々な意味で、以前とは違う事を示している好例と言えた。

 

「今回戦うMAPは、市街地A。特徴がない事が特徴な、オーソドックスなMAPね。ランク戦じゃ、市街地Bに次いで選ばれる事が多い地形でもあるわね」

「葉子、そういうの分かるんだ」

「分からいでか。こちとら何回ランク戦やってっと思ってんのよ。アンタこそ、市街地Aの事は分かるのよね?」

「戦う地形の下調べは、基本。賢から教わった」

「へぇぇぇぇぇぇ、そう」

 

 茶々を入れる樹里に青筋を立てながら突っ込む一場面もあったが、そこはご愛敬だろう。

 

 基本的に香取は樹里と共に戦える事が楽しくて仕方がないので、多少のお茶目程度は笑って流す程度には機嫌が良いのだ。

 

 傍目からはそうは見えないが、長い付き合いの華や樹里には筒抜けである。

 

 流石にそこまでの機微は分からない男性陣二人にとっては、唖然とするしかない光景ではあるのだが。

 

「基本は、ワイヤーを張りながらあのクソメガネ────────────────三雲を探して潰すわ。ただ、弓場隊を潰す隙があればそっちも狙ってくわよ」

「前も言ったが、それでいいのか? 玉狛と共同で弓場隊を打倒する、ってのが玉狛との暗黙の了解だったと思うが」

「何言ってんの。ただ三雲の案に乗っかるだけじゃ、良い様に利用されて終わりよ。お膳立てに乗るだけで素直に得させてくれる程、あいつは性格良くないわよ」

 

 ぐ、と若村が反論が浮かばず押し黙る。

 

 確かに、共同で弓場隊を打倒し易くなるのがMAP情報を共有する最大の利点ではある。

 

 しかしその思惑に乗るだけでは、確実に利用されて痛い目に遭う事が目に見えている。

 

 香取はそう断言し、疑っていない。

 

 そしてそれは恐らく事実なのだろうと、若村も理解する他なかった。

 

 修の試合に於ける悪辣さは、ROUND2の試合を見た限りでも充分過ぎる程伝わって来た。

 

 観戦していた若村も「そこまでやるか」とドン引きしたのは事実であり、ああいう真似をする相手が素直に共闘の利益だけを享受させてくれるとは思えない。

 

 むしろ笑顔で握手をした裏で隠したナイフで刺す程度の事は、平気でやって来るだろう。

 

 あくまでたとえではあるが、修ならそのくらいはやる。

 

 そう信じざるを得ない程、彼のROUND2での戦いぶりは徹底していた。

 

 故に、香取の意見に異論を挟む余地はない。

 

 それを改めて突き付けられ、若村は「オレはまだまだだな」と項垂れるのであった。

 

「ま、向こうもこっちが共闘に素直に乗るだけとは思ってないでしょうし、お相子ってやつよ。むしろ、アンタがそれらしい素振りをしてくれれば相手を騙せるかもだし、アンタはアンタらしくやれる事をやればいいのよ。頑張んなさい!」

「ぐぉ…………っ!?」

 

 バァン、と勢い良く若村の背を叩きながら、香取はにこやかにそう宣言する。

 

 恐らくは萎んだ若村を元気づける為にやったのだろうが、いちいち挙動がオーバーアクション過ぎるのはご愛敬だ。

 

「…………ぬぅ…………」

 

 若村も香取が自分を案じて発破をかけてくれたのが分かるだけに、文句を言い難い。

 

 そんな彼を見て「よし!」と自己完結した香取は、話を進めた。

 

「問題は、玉狛が天候をどう弄って来るかなのよね。雨にして視界を悪くしたり、雪にして足場を悪くしたりってパターンは考えられるけど、そのあたりどうなの華?」

「多分だけど、暴風雨あたりにして狙撃手の視界を制限して来るんじゃないかな。玉狛にも狙撃手はいるけど人を狙わない雨取さんには視界の有無はあんまし関係ないし、それよりも樹里の視界()()()()方に舵を切って来ると思う」

「ん。流石に暴風雨とかだと、普段より有効射程は少し落ちるかも。少なくとも、ROUND1の時みたいなのは無理かな」

 

 そう、と華は自身の考えが間違っていなかった事を確認し頷く。

 

 樹里のサイドエフェクト、強化視覚は数キロ先の光景を裸眼で視る事が出来るようになる効果を持っているが、透視というワケではないので()()()は無視出来ない。

 

 雨風で物理的に視界が悪くなっている状態では、当然見通せる範囲は普段より狭くなる。

 

 要するに樹里は裸眼の状態で望遠鏡を常時装備しているに等しいのだが、空が曇っていればそれだけ視界は悪くなるし、暴風雨ともなれば猶更だ。

 

 それを考えると、樹里の超々遠距離狙撃を封じる為に暴風雨という手札を使って来る展開は充分に考えられた。

 

「視界の悪い状態だと、至近距離で弓場さんに遭遇する危険性も高くなるわ。そういう状態だと樹里の索敵も普段通りにはいかないでしょうし、気を付けて」

「わ、分かりました」

「了解」

「ま、当然ね」

「ん、了解」

 

 加えて、視界状態が悪くなれば樹里が高所を取って戦場全体の俯瞰情報を仲間と共有するというのも難しくなる。

 

 完全に視界が塞がれるワケではないので周囲一帯の索敵は行えるだろうが、普段のように遠く離れた場所の光景すら筒抜けという状態までは望めないだろう。

 

 それを理解しているからこそ華はチームメイトに念押しし、全員がそれに同意したのだ。

 

 これまでの試合では樹里の俯瞰情報のお陰で助けられた場面が幾度もあり、そのありがたみは十二分に身に染みている。

 

 今回それが期待出来ないとなれば、より一層の警戒が必要だろう。

 

 相手が相手なだけに、警戒は幾らしても足りないのだから。

 

「でも、視界が悪くなるという事は弓場隊の狙撃手の外岡くんも強みをあまり活かせなくなるのはメリットね。彼の隠密能力は、かなり厄介だもの」

 

 

 

 

「外岡ァ、おめェーは木岐坂が出て来っまで忍んでろ。最悪、一度も撃たなくて良いくらいの覚悟キメとけ」

「了解しました」

 

 弓場隊、隊室。

 

 そこでは直立不動で隊員の前に仁王立ちした弓場が、チームメイトに指示を出していた。

 

 この部屋にはちゃんと椅子はあるのだが、弓場は頑なに座ろうとせずそもそも彼の分の椅子は撤去されている。

 

 願掛けか何かかもしれないが、隊長が作戦会議中座らないのに隊員が座っていては文字通り据わりが悪いという事で、全員直立してのミーティングが弓場隊の基本姿勢(デフォルト)だ。

 

 他の面々は何とか弓場用の椅子を準備しようと画策中だが、それが巧くいくかは神のみぞ知るといった所だ。

 

「けど、雨取ちゃんの方は良いんですか? あの砲撃、撃たれると結構危なそうですけど」

「おめェーが言ったんだろうが、雨取が人を撃てねェってェ事はよォ。なら、フツーに人が撃てる木岐坂の方を優先すんのは当然ってワケだ。まだ意見があんなら受け付けるぜ」

「いえ、それならそれで構いません。おれは、役割をこなすだけですから」

 

 ならいい、と弓場は外岡との話を打ち切った。

 

 確かに、間違ってはいない。

 

 千佳の火力は脅威極まりないが、人を狙って撃てないというのであれば警戒優先度は一気に下がる。

 

 故に超々遠距離狙撃とそれを支える高トリオンという分かり易い脅威のある樹里の警戒を優先するのは、むしろ当然と言えた。

 

 生真面目な弓場隊員は、全員が玉狛及び香取隊の試合ログを確認している。

 

 その中でもROUND1で樹里が見せた超々遠距離狙撃と爆撃の二枚の手札は、放置すれば詰むと確信する程の相手として見えた。

 

 ROUND2では彼女以上のトリオンの暴威を持つ二宮がいた為に目立たなかったが、そんなものなどない弓場隊にとっては明確な脅威である。

 

 故に狙撃手である外岡を()()()()()として運用するのは、普通に考えれば無難どころか最善であるとも言える。

 

「ただ、雨取の砲撃には巻き込まれねェように気ィ付けろ。狙って人を撃てねェとしても、巻き添えになるのは充分考えられっからなァ」

「ええ、了解です。流石に、あれに巻き込まれるのは勘弁ですからね」

 

 その上で、千佳の砲撃の()()()()を警告するのも忘れない。

 

 千佳が人を撃てないと仮定しても、その砲撃の破砕力は凄まじく、巻き込まれれば掠っただけでも緊急脱出(ベイルアウト)しかねない。

 

 隠れ潜む外岡にとってはこのケースが一番対処不能である為、そのあたりは充分に警戒するに越した事はない。

 

 早々()()が起こる事はないだろうが、可能性として考えられる以上警戒するのは当然の事と言えた。

 

「帯島ァ、おめェーはなるだけ俺との合流を目指せ。空閑や香取とは、一人で正面から当たんなよ」

「分かりました! なるだけ合流を目指す、ですねっ!」

「ああ、もしも遭遇し(バチッ)ちまったらオレんトコに連れて来い。二対一っつーんは性分じゃねーが、そうも言ってられねー相手みてーだしよ」

 

 ただ、と弓場は続ける。

 

「香取はともかく、空閑は俺の早撃ちは初見の筈だ。だからもしもこっちが先にぶつかったら、(こいつ)をお見舞いしてやるぜ」

 

 

 

 

「警戒すべきは、弓場さんの早撃ちもだな。空閑、対処出来そうか?」

「至近距離で正面からぶつかったら、かなり危ない────────────────というか、まず無理だな。基本的に不意打ち狙いで行くしかないと思う。多分だけど、見てから反応してたんじゃ間に合わない気がするしな」

 

 玉狛第二、作戦室。

 

 そこで遊真は弓場に対する所見を口にし、それを受けた修が成る程、と頷いた。

 

「じゃあ、予定通りワイヤーを張りながら不意打ちを狙おう。()()()で倒せれば一番だけど、それ以外の勝ち筋も作っておかなきゃマズイしな」

「一応、香取隊と共闘する事になってたんじゃないのか?」

「流石に、素直に乗ってくれる事はまずないと思う。機会があればそうなる、くらいに考えておいた方が良いよ。まあ、こっちの()()の事があるからほぼ可能性は無いくらいに言っても過言じゃないと思うけどね」

 

 修は元々、香取隊が素直に共闘に乗るとは思っていなかった。

 

 むしろ、()()()()()()()()のだが、それはさておき。

 

 交渉に訪れた際の感触だと、元々香取隊は自分達玉狛に対する警戒度が妙に高いように思えた。

 

 故に彼女達が素直に共闘を受けてくれると思い込む程修は浅慮ではなく、むしろその状況を利用してこちらを獲りに来るくらいはするだろうとも思っていた。

 

 修は情がないワケではないが、それを目的の為に必要な理論の上に置く事が無い。

 

 必要ならば幾らでも人を疑い、蹴落とし、叩き潰す事に一切の躊躇がないのだ。

 

 無論相手の性質によっては共闘を前提に考えただろうが、香取隊と直に接した時の様子から見て素直に乗って来る相手ではないと判断したワケである。

 

 このあたりの洞察力、交渉術は王子の教導によって培ったものであるが、その教育方針が修の性根とすこぶる相性が良かったという事情もある。

 

 実際王子の指導を受ける事で修の指揮能力や交渉能力は格段に上がっており、記者会見の時の立ち回りで根付に目をかけられる原因になるだけの成長は遂げているのだ。

 

 記者会見での立ち回りを直に見た根付は絶対に口には出さないが内心で真剣に修の将来の幹部入りを検討しているし、同じようにその光景を見ていた唐沢はとうの昔に修の後方理解者(ファン)と化していた。

 

 特定の人間のみに効く魅力のようなものが修にはあり、それにガッチリ嵌まった者達は現時点でも複数名存在する。

 

 それを思えば、C級に英雄視される程度の事はなんという事はない。

 

 良くも悪くも王子の影響を受けて、順調に我が道を進んで(せいちょうして)いる修であった。

 

「だから、天候設定でまずは盤面の主導権を取る。色々考えたけど、昨日言ったように選ぶ天候は────────」

 

 三者三様、ミーティングが進んで行く。

 

 そして。

 

 ROUND3、開始の時間がやって来た。

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