「おう、やってくぜランク戦ROUND3! 解説はこのアタシ、仁礼光と王子隊の王子、蔵内だ!」
「よろしく」
「よろしく頼む」
ランク戦ブース、実況席。
そこではマイクを握った光が元気良く挨拶し、解説役の王子と蔵内がそれに続く。
通常解説役に同じチームのメンバーが複数付く事は珍しいのだが、王子の場合は公衆の面前でも構わずその独特なネーミングで隊員を呼ぶ為、そのフォローが出来る蔵内は半ば必須なのだ。
以前に王子と辻という組み合わせで解説に呼んだ時は辻が王子の
その反省も踏まえてランク戦の実況・解説の全てを手配している桜子は、基本的に王子を解説に呼ぶ時は蔵内をセットで呼ぶようにしたのである。
加えて割と突拍子もない発言を不意打ちでする事もある王子なので、実況席に座るオペレーターにも強心臓が求められる。
その点怖いもの知らずといった性格の光は適任であり、想定通りニコニコ笑顔で王子と顔を突き合わせている。
桜子の人選は、間違っていないと言えた。
「さーて、今回
「アマトリチャーナの事だね。ハルニレの指摘通り、規格外のトリオンを持っているから、アイビスでの狙撃が文字通りの砲撃になってしまうんだ。あれは派手だよ」
「ほー、成る程なー。ま、実際に見りゃ分かるか。けど、そーなっとバ火力持ちの玉狛が有利な感じか?」
「いや、一概にそうとは言えないかな」
ほむん、と光は訝し気な顔をして王子の眼を見やる。
そんな彼女に対し笑みを浮かべながら、王子は自分の見解を述べた。
「確かにアマトリチャーナの砲撃は脅威だけど、派手な分射線が丸見えだ。狙撃手としての技量はまだまだ発展途上と言えるし、付け入る隙は幾らでもあると思うよ」
それに、と王子は続ける。
「高火力の持ち主なら、香取隊にもいるからね。ジュリアーナの超々遠距離狙撃は、かなり厄介だよ」
「あー、香取隊に入ったっつー新狙撃手の事か。確か、トリオンが出水と同じなんだっけか?」
「評価値で言えば12で、同値だね。つまりイズイズと同じレベルの火力で、狙撃や射撃が飛んで来るんだ。二宮さんレベルじゃないとはいえ、かなりの脅威だと思うよ」
成る程なー、と光は納得する。
彼女は性格上王子のように丹念にログ漁りをしたりはしないが、大雑把な噂話程度の情報であれば自然と集められる程度のコミュ力がある。
自分から意図して動かずとも、友人と会話を重ねるだけである程度の情報は取得出来てしまうのだ。
今回もその広い交友関係と物怖じしない性格を活かして自然と必要最低限の情報は集めた後であり、王子が行ったのはその補足に過ぎない。
そもそも彼女が所属する影浦隊は王子隊のように予め作戦をきっちりと決めて相手の戦力を入念に分析し、その上で最適な戦略を探す、などといった事は行わない。
基本的に影浦隊は属する個々人の能力が非常に高い事を活かして出たトコ勝負で臨機応変に対応するのが常であり、そんな
臨機応変の極地である生駒隊とも似ているが、こちらは本当の意味で行き当たりばったりに近く、まともな戦術と呼べるかどうかも怪しい。
しかし隊員の対応能力がずば抜けて高い上にエースの影浦は奇襲や不意打ちを察知出来る
超抜的なエースがいない事が戦術上のネックである王子からしてみれば羨ましい限りだろうが、かといって本気で彼が影浦隊を羨む事はない。
ないものねだりをした所で何も利益がない事は理解出来ているし、自分達なりのやり方で上を目指すのだと決意してもいるからだ。
そんなこんなで、対照的なチームのオペレーターと隊長は色々とズレた部分がありつつも奇跡的な噛み合いを見せているのであった。
「それから、玉狛も香取隊もその両方がスパイダーを使うっていうのも特徴的だな。ただ、トリオンと機動力の差がある分陣地作りは香取隊に軍配が上がりそうだが」
「そうだね。確かにスパイダーはごく微量のトリオンで設置出来るけど、持ち主のトリオンが多ければそれだけ余裕は出来るし、何よりオッサムとミューラー、ジャクソンでは機動力が違う。手数も香取隊の方が多いし、
王子や蔵内の言う通り、今回の試合では香取隊・玉狛双方共にスパイダーを使う隊員がいる。
香取隊では若村・三浦が、玉狛では修がその役割を担っている。
しかし当然、修と前者二人とではトリオン量も機動力も違う。
修の機動力は評価値で言えば4であり、トリオンに至ってはたったの2だ。
対して三浦は機動力評価はなんと8もあり、トリオンは5。
若村でも機動力は6でトリオンも6と、修よりはずっと上だ。
その差が試合では如実に出るだろうというのが王子達の見立てであり、現状の情報からでは反論の余地はない。
あくまでも、
「MAPは、市街地Aか。これはまた、オーソドックスなMAPを選んだね。オッサム」
「市街地Aですか。特徴のない、スタンダードなMAPですね」
「そうだね。てっきりもっと癖の強いMAPを選んで来るかと思ったけど、少し意外だね」
弓場隊隊室では、選ばれたMAPに対し帯島と外岡が反応していた。
ROUND2の玉狛の悪辣ぶりを見た二人はもう少し捻ったMAPを選んで来ると思っただけに、些か拍子抜けですらある。
「…………」
そんな中、弓場は目を細めて選ばれたMAPの映像を凝視していた。
ギラリ、とサングラスが光り弓場が口を開く。
「…………どうにも、匂いやがるなァ。MAP選択権を得たっつーのに、市街地Aとはなァ。こいつァ何か
「裏、ってどういう事ですか…………?」
「とにかく、額面通りに受け取んなってこった。悪ィが俺も正確な言語化はしてやれねェ。なんつーか、
い、いえ、と恐縮する帯島を見て苦笑しながら、弓場は画面を再び凝視する。
弓場もまた、帯島達と同じく
(あの三雲っつう奴は大規模侵攻の時にマジモンの
客観的に見れば、市街地AというMAPは弓場隊にとっては歓迎出来る。
最も戦い易い市街地B程ではないが、それでも極端に不利になるようなMAPではなく、不意の遭遇戦もやり易い事から弓場にとっても願ったり叶ったりだ。
こちらに別段不利を強いるワケでも、自分達が特別有利になるワケでもない地形を、玉狛第二が選ぶとはどうしても腑に落ちなかったのだ。
「…………外岡ァ、多分だが玉狛は悪天候を設定して来る可能性がある。その時は木岐坂のマークに拘り過ぎず、臨機応変に動け」
「悪天候に、ですか? それまたどうして」
「MAP選択が普通に過ぎんだよ。こりゃきっと、MAPで油断させて天候で刺して来る
「了解しました。じゃあ、その時はやれる事をやる感じでいきますね」
おう、と弓場は外岡の返事に満足して頷く。
此処まで普通なMAPを選んだ以上、仕掛けて来るとすれば天候の方だろうと弓場は見たのだ。
一見普通なMAPで油断させ、悪天候で舞台そのものをひっくり返して優位に立つ。
これならば、今までに得た玉狛第二の戦術イメージとも合致する。
恐らくはこれで正解だろうと、弓場はニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「よォし、気張れよ。どっちも一筋縄じゃいかねェ相手だが、こちとらずっと上位でやってた
「「はい!」」
「意外だな。三雲くんならもっと、癖のあるMAPを選ぶと思ったんだが」
「そうだね。けど、オッサムの事だから何か考えがあるんだろう。そのあたり、色々楽しませてくれそうだね」
玉狛第二のMAP選択を受けて、修の人と成りを知る蔵内と王子はそれぞれの感想を口にした。
市街地Aという選択は、彼等の知る修の性格を考えれば少々違和感がある。
市街地Dや市街地Eあたりを選んで来てもおかしくはないというのが、彼等の事前の想定だったからだ。
ショッピングモールが主戦場となる市街地Dや駅の地下通路が主戦場となる市街地Eという閉所MAPでは、圧倒的に弓場隊が有利となる。
それを見込んで敢えてそのMAPを選び、弓場隊にヘイトを集中させる事で香取隊と疑似的な共闘を行う、というパターンすら想定していた。
しかし、選ばれたMAPは市街地A。
強いて言えば若干弓場隊に有利そうに見えるMAPではあるが、自然と共闘へ結びつく程の有利は付かない。
そんなMAPを選んだ事が不可解ではあったが、少なくとも無策ではないという信頼が王子にはある。
付き合いは短いが、それでも波長が合ったという事もあり熱心に指導を行って来たのだ。
今の修の戦術レベルなら、このMAPで何かを仕掛けてくれるだろうと王子は信じているのである。
そしてそれは、蔵内も同意するところだった。
「あー、なんだ? 王子、この三雲って奴の事知ってんのか?」
「一応、師弟関係を結んでいるんだ。今はランク戦期間中だから、一時的に休止しているけどね。少なくとも戦術の基礎は教え込んだし、彼は中々筋が良いから良いモノを見せてくれると思うよ」
瞬間、会場が目に見えてざわついた。
王子が修の師匠であるという人によっては初耳な事を聞いた観客の反応は、様々だ。
ああ道理でと納得する者や、そういやそんな事言うとったな、と思い出す者。
うげ、とあからさまに顔を顰める者や、ふむふむ成る程、と一人納得する
あの性質の悪さはそういう事かね、と頬をひくつかせる室長等、とにかく色々な反応が見られた。
良い意味でも悪い意味でも王子の名と奇行は知れ渡っており、その弟子と知られたからには一定の色眼鏡で見られる事は避けられないだろう。
勿論その程度でどうにかなる修ではない事は王子も承知しているので、理解した上でのカミングアウトである。
しれっとこういう事をするあたり、矢張り似た者師弟と言えた。
「へー、王子が弟子を持つとか意外だな。なんつーか、弟子取ってるイメージが沸かねー」
「これでも教える事は好きだし、弟子を持つのも中々に面白いと思っているよ。オッサムは物覚えはそんなに良くないし物分かりも良くはないけど、とにかく勝つ事に対して貪欲だからね。色々とウマが合った部分もあって、今では
「ああ、才能があるワケじゃないがとにかく真面目でな。教え甲斐のある生徒だったよ」
成る程なー、と光は王子達の話を聞いて一先ず納得する。
破天荒の極地のような王子が弟子を取った事は意外ではあるが、今の発言からは修に対する本気の好意を感じ取れた。
蔵内も相当な好感を持っているようだし、王子隊と修が仲が良いというのは事実なようだ。
ともあれ、別段気にする程の事でもない。
王子とはそこまで接点があるワケではないし、修とはそもそも話した事すらない。
関わる事があったら声かけてみっかな、程度の扱いだ。
陽キャの擬人化のような光ではあるが、本当に見境なく声をかけまくるというワケでもない。
機会があればするし、そうでなければしない。
その程度だ。
王子が同類認定をしているような気配があるのであんまし良い性格じゃなさそうだなぁとも思うので、敢えて自分から関わる事はないだろう。
時と場合によっては、話が別になるかもしれないが。
「お、そろそろ時間だな。じゃあ行くぜ、全部隊転送開始!」
そして定刻になり、参加者の転送が開始される。
所定の位置にいた三部隊の面々は、一斉に仮想空間へと転送された。
「…………! これは…………!」
樹里が仮想空間に降り立った時、目の前にあったのは
何処までも広がる銀世界、
見渡す限り白いヴェールで覆い尽くされた、自身が今何処に立っているかすら定かではない極寒の街並み。
『MAP、市街地A。天候────────』
そして、アナウンスがその異常の名を告げる。
それは────────。
『────────
────────視界全てが埋まる、
数寸先すら見えない