「…………! 今のは…………!」
『レーダーに反応があったよ。間違いなく、木岐坂ちゃんの合成弾だね』
修はオペレーターの宇佐美からの報告を受け、思案する。
此処で香取隊が合成弾を使って来るのは、想定してはいなかった。
この状況下でレーダーに映るリスクを冒すようには思えなかったのだが、どうやら向こうの考えは違ったらしい。
一応、それらしき理由であれば考えられる。
が、それは修にとってあまりにもリスクとリターンが釣り合っていないように見えたのだ。
(確かにこの環境なら、撃ってすぐ姿を晦ませば捕捉される事は早々ないだろう。けど、近くに敵が潜んでいる可能性を考慮していないのか? いや────────そうか)
だが。
修はそこまで考えて、一つの可能性に思い至った。
それは。
(近くに敵がいても、
────────
確かに合成弾は使用中無防備になる諸刃の剣だが、その隙をカバー出来る仲間がいれば話が違って来る。
此処で彼女達が合成弾使用に踏み切ったのは、三浦か若村が護衛として樹里に合流した可能性が高い。
修は、そう結論した。
「それなら…………! 空閑、作戦を変更するぞ。お前は────────」
『レーダーに反応アリだっ! ありゃ間違いなく爆撃だぞっ!』
「チィ…………ッ!」
弓場は舌打ちし、駆け出しながらシールド張るタイミングを見計らう。
あれは十中八九、合成弾である
レーダーに反応があったと言う以上、間違いない。
ならば、対処法はシールドでの防御しかない。
何せ、
恐らく、向こうもレーダー頼りでこちらの正確な位置は掴めてはいないのだろう。
距離が離れている上に、この猛吹雪だ。
幾ら樹里とはいえ、適当に放った弾が巧く弓場に当たってくれるとは考えていない筈だ。
だからこそ、多少逃げた程度では爆破範囲から出られないよう広範にバラ撒いたに違いない。
弾同士の距離もそこそこ離れている為、一発当たった程度では全てが誘爆するとは限らない。
というより、そうならないよう意図的に調整している気配すらあった。
この試合の参加者で合成弾を使えるのは、樹里ただ一人。
故に、この爆撃の主は彼女に間違いない。
樹里のトリオン評価値は、12。
つまり出水と同値の威力を持った爆弾が、広範囲にバラ撒かれている状態なのだ。
幾ら弓場の走力が高くとも、多少走った程度で逃げ切れるものではない。
だからこそ、
ハウンドでも同じ射程距離は叩き出せるが、猛吹雪の影響で正確な位置を視認出来ない以上はレーダーを見て適当撃ちになる。
普段であれば脅威となる樹里の強化視覚を用いた超々遠距離攻撃も、この純白の闇の中では使い物にならない筈だ。
だが、樹里は────────────────否。
香取隊は、合成弾という手札を切って来た。
弓場の詳細な位置が掴めずとも、爆撃に巻き込めるように。
もう少し早く気付けていればバイパーを用いての迎撃も出来たが、どうやらあの合成弾は弾速重視に設定しているらしくかなり弾が速い。
此処は、シールドで凌ぐ他道はなかった。
「く…………!」
爆撃の到達直前にシールドを張り、その一瞬後に弾幕が地面に着弾。
次々と爆発が起こり、広範囲を爆煙が覆い尽くす。
その中で、弓場はシールドを張ってその爆撃の猛威を凌いでいた。
「外岡ァ、木岐坂の位置はどうだァ…………っ!?」
『…………っ! すいません、そこまで離れてはないっぽいんですが、吹雪で詳細な位置までは掴めません…………っ! レーダーからももう消えてますっ!』
「チィ、流石にそう巧くはいかねェかァ」
爆撃を凌ぎながら外岡の報告を聞き、弓場は舌打ちする。
確かに樹里は爆撃という派手な手札を切って来たし、レーダーに位置も映っていた。
しかし、猛吹雪の遮光カーテンの所為で正確な位置までは視認出来ず、どうやらバッグワームもすぐに纏い直した様子だ。
恐らく、既に発射位置からは移動しているだろう。
だからこそ、このままこの場に居座るワケにはいかない。
こちらの位置のみが割れているという状況は、今は危険過ぎる。
まさかこの状況下で合成弾という手札を切って来るとは思っていなかったが、そもそも今回の試合は最悪の悪天候である猛吹雪に支配されている。
通常のセオリーなど、まず通じないと見るべきだ。
その状況下での爆撃の有用性と相手の位置の掴み難さのレベルを、見誤っていた。
それを既に理解していた香取隊は、的確にこちらを追い立てる手を打って来た。
爆撃という手札をチラつかせつつ、こちらにも
中々に、強かな戦術と言えた。
(このまま此処にいたら、爆撃の的になるなァ。癪だが、バッグワームを纏い直して木岐坂のいるらしき方角に近付くっきゃねェか)
此処で爆撃を仕掛けて来たという事は、恐らく香取隊は弓場と正面対決をする心づもりは無いと見て良い。
もう片方の玉狛も反応が無い以上、この場に留まるのは徒に爆撃の的になるリスクを冒すだけだ。
挑戦状をスルーされたのは少々以上に癪ではあるが、こういう展開も有り得るかもしれないと覚悟してはいた。
いたのだが、予想より香取隊がクレバーな様子を見て意外にも思っていた。
(こうすりゃあ、香取はノって来ると思ったんだがなァ。あいつも、大人になっちまったっつぅ事か)
チィと寂しいなと、弓場はかつての挑戦に正面から乗って来た香取の姿を想起して苦笑いする。
香取隊が成長しているのは、情報として知ってはいた。
しかしメインはあくまでも樹里の入隊であり、香取の本質は早々変わらないだろうと考えてもいた。
だが、それは間違いだった。
香取は最早個人の感情頼りに動く才能だけの駒ではなく、立派にチームのリーダーとして計算が出来るようになっている。
ならばそれを惜しむのではなく祝福すべきだろうと、弓場は結論付けた。
勿論、祝砲代わりに
後輩の成長を喜ぶ気持ちはあるが、今は試合中だ。
取り敢えず、偉そうに
敗者に語るべき言葉はなく、勝者のみが自分の意思を押し通せるのが
ならばその流儀に従って、成長した香取隊を全霊で叩き潰してやるべきだろう。
今の先制爆撃は、後輩の成長を侮った駄賃と思うつもりだ。
弓場は覚悟をキメ直し、ある程度の障害を覚悟で地を蹴って。
「…………!」
────────中空から飛来する、白い刃を見た。
投擲されたその
しかし、吹雪の先で踊る小さな影は凄まじいスピードで跳躍し、姿を消した。
「────────成る程。おめェーが来たか、空閑ァ」
一瞬ではあるが、間違いない。
白く染めた
てっきりこのまま潜伏するかと思われた相手がやって来た事に、弓場はニヤリと笑みを浮かべる。
その手に持つ銃口が、眼鏡と共にギラリと輝きを放っていた。
「香取隊による爆撃を凌いだ弓場さんだが、此処で空閑が来襲…………っ! エース同士の一騎打ちになったぞっ!」
「此処で出て来るとはね。少し意外だよ、クーガー」
王子は映像を見ながら、ふむ、と頷く。
彼としては、此処で遊真が出て来た事が少々予想外だったようだ。
「てっきり、玉狛はこのまま潜伏して漁夫の利を狙う作戦かと思ったんだけどね。此処で弓場さん相手に仕掛けて来るとは、予想より大胆な策に打って出たねオッサム」
王子としては、玉狛はこのまま何かしらの作戦の準備をしつつ、香取隊と弓場隊がやり合う中で時期を見て介入する方針なのだと思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば爆撃に乗じて遊真が弓場相手に仕掛けて来ている。
この行動は、少々予想外だったと言って良い。
「考えられる可能性としては、弓場さんの位置を見失う事を恐れたんじゃないか? 居場所の分からない弓場さんと突然遭遇して味方がやられるリスクを考えれば、無い話じゃないと思うが」
「もしくは、香取隊に弓場さんに近付く気が無いと見て強引に戦況を動かしに来たか、かな。どちらにせよ、ぼくには少しリスキーな行動に映るよ」
でも、と王子は続ける。
「だからきっと、何かしらの考えはあるんだろう。もしくは、
「────────」
「チィ…………ッ!」
弓場は吹雪の奥から飛んで来るスコーピオンの投擲を避け、そちらへ駆けながら正面に向けて銃撃する。
しかし、白い闇の中を動く影は一瞬で別の場所へと跳躍し、弓場の銃撃は空を切る。
あのスピードから考えて、向こうは間違いなくグラスホッパーを使っているのだろう。
加えてレーダーにも映っていない事から、スコーピオンとグラスホッパーを順次切り替えて使用しているものと思われる。
入隊して間もないと聞いているが、大したトリガー捌きだと弓場は感心する。
(こっちの攻撃は当たりゃあしねェが、向こうの攻撃も大した脅威にゃなってねェ。スコーピオン投げは、直線にしか飛ばねェからなァ)
千日手に近い状況であるが、それは向こうも同じだ。
遊真は徹底して弓場に近付く事なく、スコーピオンの投擲のみに絞って攻撃を仕掛けて来ている。
正確に弓場目掛けて投げて来るのは流石ではあるが、直線にしか飛ばない単発の飛び道具など怖くはない。
スコーピオンは投げただけでは集中シールドを突破出来る程の威力は望めず、力づくで防御を突破するには相当な過重を加える必要がある。
投擲ではそれ程の威力はまず望めない以上、今のところ遊真の攻撃は牽制以上の意味は成していない。
遊真を見失わないように彼を追って大分走ってはいるが、これが陽動である事など弓場にはとうに見え透いていた。
(多分、仲間のいるトコまで俺を引っ張ってく
恐らく、遊真の狙いはこのまま弓場を自分の仲間の射程内まで誘導する事だろう。
そこで修、もしくは千佳の二人がかりで弓場を仕留めるつもりに違いない。
だがそれは裏を返せば、未だに居場所の手がかりが一つもない玉狛第二のメンバーの下に自ら誘っているという事でもある。
当然リスクはあるが、同時にチャンスでもある。
相手がそういうつもりなら、こちらはそれを正面から打ち破るまでだ。
(外岡ァ、帯島ァ、聞こえるな? 多分、この先に玉狛の誰かがいる。外岡はすぐに狙える場所まで移動、帯島は裏に回れ)
『『了解!』』
幸い、弓場隊の面々はこの近くまで来ている。
遊真を直接狙う事は難しいかもしれないが、弓場を挟み撃ちするつもりで出て来た玉狛の隊員を外岡か帯島に奇襲させれば落とせる確立は高いだろう。
恐らく、待ち構えているのは修だ。
修は確かに厄介な駒だが、実力自体は高くないどころか弱いと言って良い。
十中八九ワイヤー陣を張っているだろうが、それならそれで姿を見せた段階で外岡に狙撃させれば良い。
幸いと言うべきか、この天候下では一度撃った狙撃手が再び身を隠す余地は充分にある。
樹里が実例を示したように、撃った後すぐに移動すればその位置を追跡する事は至難の業だ。
更に言えば彼女と違い外岡はバッグワームを外す気はサラサラ無いので、発見される確率はかなり低いだろう。
視界が利かない為相当近付く必要はあるものの、やる価値は充分にある筈だ。
弓場は再び飛んで来た遊真のスコーピオンを避けながら、注意深く周囲を観察する。
そして。
(来たかァ…………ッ!)
こちらに向かって、側面から飛んで来る弾を見た。
弓場はシールドでそれを受けつつ、その威力のなさから修の弾丸であると推定。
「見付けたぜ」
そして吹雪の向こうに、建物を背にする明らかに遊真とは頭身の異なる人影を見付けた。
弓場は修と直で対面した事はないが、今飛んで来た弾から考えてもあれが修である事は間違いないと言える。
修のトリオンは低いと聞いているので、弓場の銃撃であれば問題なくシールドを貫通出来る。
しかし、彼の射程にはまだ収まっていない。
弓場のリボルバーの射程は、22メートル。
これは旋空弧月を少し上回る程度の射程であり、この射程と威力、そして凄まじい弾速が組み合わさる事で弓場は攻撃手キラーという異名を冠する事となった。
攻撃手では自分の間合いに入る前に弓場の高威力の早撃ちが連続で叩き込まれ、一方的にボコボコにされる。
この特性によって弓場は攻撃手に対する圧倒的な優位性を得ており、その絶死圏を超えて来るのは生駒旋空を持つ生駒くらいのものだ。
だが当然、威力と弾速に振っている分他の銃手よりも射程で劣るのは事実である。
修はトリオンは低いが、それでも射程重視に調整すれば弓場より広い射程距離を持つ事は可能だ。
総じて、この距離では弓場はまだ攻撃出来ないのは事実だ。
弓場
恐らく、向こうも弓場の射程距離は把握しているだろう。
どうやら王子の弟子であるとの話も聞いているので、当然こちらの射程や戦闘スタイルなんかも教えられている筈だ。
そのあたり、元チームメイトなだけに「あいつならそのくらいはやる」という信頼というか確信があるのだ。
故にこそ、それを利用する。
向こうはまだ、この距離なら安心と思っている筈だ。
だからこそ、そこを突く。
切る手札は、外岡の狙撃だ。
向こうが逃げに入る前に、外岡の狙撃でまずは修を仕留める。
放置すればするだけ厄介な仕掛けを構築して来る相手など、仕留められる時に仕留めておくのが最良だ。
(外岡ァ!)
『了解』
そして。
弓場の号令を受け、外岡は吹雪の中に立つ人影に向かって引き金を引いた。
(気付いてない。獲った)
外岡はスコープ越しに、弾丸の行方を見る。
標的は、未だ動く気配はない。
トリオンが低いと聞いているので、集中シールドを張ったところで耐えられるかは不明だし、そもそも戦闘経験が少なければ集中シールドを用いてピンポイントで狙撃を防御など出来はしない。
射線が中々通らなかったのでかなり近くまで来なければならなかったが、その甲斐はあったと言える。
今からでは、回避も間に合わないだろう。
これで、仕留めた。
「────────え?」
────────そう、思っていた。
だが、外岡は見た。
自分の弾の、向かう先。
そこに立つ、人影
それは、正確にはヒトではない。
店の前に置かれていたであろう、等身大の宣伝用の
人影ではなく、
それにカーテンか何かをかけてバッグワームのマントのようなシルエットを形作っていた形代の頭部を、外岡の弾丸は撃ち抜いたのだ。
されど、それ以上に目を見開かざるを得なかったのは。
建物だと思っていた、その人形が立てかけられていた
スコープ越しに凝視してようやく気付いたその正体は、白い
件の人形は、そのキューブと密着する形で設置されていた。
つまり、張りぼての耐久力しかなかったその人形の頭部を撃ち抜いた弾丸は、そのまま背後の
「弓場さん…………ッ!!!」
『────────!』
そして。
着弾と共にそのトリオンキューブは────────────────
膨大なトリオンによって構築された爆弾はその暴威を解放し、轟音と共に前代未聞の大爆発が周囲一帯を呑み込んだ。