香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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香取隊Ⅷ

 

 

「…………成る程、あれがあのメガネの今回の()()()()か。弓場隊を当てて正解だったわ」

 

 視界の利かない猛吹雪の中、香取は戦場を眩く照らした大爆発の跡地の方角を見て目を細めた。

 

 その間にも周囲への警戒は欠かしておらず、ピリピリとした空気を纏っているが顔を顰めるのみで動揺はしていない。

 

 玉狛の仕掛けた特大の()()を見た反応としては、少々落ち着き過ぎているようにも思えた。

 

『いいの? 弓場隊が一人、獲られちゃったみたいだけど』

「あれがこっちにぶつけられるよりは万倍マシよ。その為にアンタに爆撃させて、弓場隊を玉狛にぶつけたんだしね」

『実際、葉子の危惧は正しかったと思う。わたしも、まさかあんな方法で罠を仕掛けて来るとは予想出来てなかったし』

 

 通信越しに受けた樹里の指摘に香取が答え、それに華が同意する。

 

 流石に悪天候を使ってあんな戦術を取って来るとは、流石の華も予測出来ていなかった。

 

 そこは、事実なのだから。

 

「────────あいつが、あのチビが人を撃てないって弱点を放置するワケない。だから絶対にそこをカバーするか、それを利用した()()()()を用意してると思って、弓場隊を爆撃で動かしたのよ。ああすれば、玉狛は乗って来るとも思ったしね」

『ええ、弓場さんが移動を始めた事と、大まかな樹里の位置が分かった事で踏ん切りがついたんでしょうね。彼等はB級二位以内という明確な目標があるから点が欲しい筈だし、チャンスがあれば弓場隊に仕掛けに行くであろう事は分かっていたからね。誰を落としても一点なんだし、そこをえり好みするような性格にも見えなかったわ』

「結果としちゃ、予想よりえぐい罠仕掛けてたワケだけどね。あんなの、戦略兵器以外の何物でもないでしょ。ったく、ホンット性格悪いわねあのメガネ」

 

 今回、香取は修が間違いなく何らかの()()()()を仕掛けて来ると踏んでいた。

 

 大規模侵攻でのトリガー解除(ぼうきょ)や先日の会談の一件を経た今、香取の修への理解度はある程度向上している。

 

 それ故に、千佳が人を撃てないという明確な弱点を放置するとはどうしても思えなかったのだ。

 

 だからこそ「千佳は脅威にならない」という前提で挑めば痛い目に遭うと直感で理解していた香取は、樹里に命じて弓場を爆撃させた。

 

 あれは他からは弓場の動きを縛る為、もしくはミスを誘発する為と考えられていたが、その実態は彼を────────────────弓場隊を動かして、玉狛の初見殺しに()()()()()()()()である。

 

 香取は修が何かしらの悪辣な罠を用意しているという確信こそあったが、それが実際にどんなものまでは分かっていなかった。

 

 だからこそ、まずは弓場隊を玉狛にぶち当ててその手札を切らせる事にしたのである。

 

 前回の交渉時に、玉狛は遠征を()()()()目指していると言っていた。

 

 修からの情報でB級でも個人単位でなら選抜の可能性があるとは聞かされていたが、チーム全員が遠征参加の資格を得る為には今まで通りB級二位以内という従来のA級昇格試験の参加資格と同じ条件が必要となる。

 

 ある程度ぼかしてはいたが、恐らく上層部との交渉時にそういう条件を出されたに違いないと華が修との会話の中から分析してくれていた。

 

 故に、修達玉狛第二は何が何でもB級二位以内に食い込まなければならない。

 

 その為には当然点が必要であり、点を取るチャンスがあれば積極的に動くだろうという目算があった。

 

 これは修達の事情を取引の対価として知ったが故の読みであり、未だ遠征試験の内容変更について知らされていない他のチームでは知り様のなかった情報だろう。

 

 そう考えれば修の提供した追加情報が彼の行動パターンを分析する材料となったので、結果オーライとも言える。

 

 ともあれ、香取の狙いは弓場隊を動かして修の仕掛けた()()を踏ませる事だった。

 

 まさか仕掛けられていたのが文字通り特大の()()であったとまでは予想出来なかったが、これで初見殺しの被害を弓場隊に押し付ける事が出来た。

 

 そういう意味で、今回の作戦は成功と言えるだろう。

 

「今落ちたのって、誰だと思う?」

『弓場さんじゃないのは確かだから、外岡先輩か帯島さんのどちらかだと思う。ただ────────』

『光の上がった場所を考えると、外岡先輩っぽい。あそこ、狙撃手が陣取るには割と良い位置だし』

『────────って樹里が言ってるんだけど、どう思う?』

「なら外岡先輩でしょ。そいつも一応狙撃手なんだし、その言葉を信じるわ」

『葉子、わたしも立派な狙撃手。一応じゃない』

 

 はいはい、とダウナーな雰囲気全開でありながら割と殲滅狂(トリガーハッピー)な親友をいなしつつ、香取は思案する。

 

 狙撃手である外岡が落ちたというのは、朗報だ。

 

 何せ外岡は隠密能力がとにかく高く、最初の一発を撃つまで見つかった事はほぼない。

 

 以前に生駒旋空に偶然巻き添えを喰らって落ちた事はあったが、実際に探そうと思って探し当てられた試しはないのだ。

 

 そんな外岡が落ちてくれたというのは、ありがたい情報である。

 

 これで、残る狙撃手は自部隊の樹里と玉狛の千佳のみ。

 

 そして千佳は直接人を狙って撃てないという事実は変わらない以上、()()()脅威はなくなったと見て良い。

 

 これは、香取隊にとってこの上なく有利に働く。

 

 何せ、こちらには狙撃手の樹里がいる。

 

 千佳と違って何の問題もなく人を撃てる彼女の存在は、他の部隊にとってこの上ない()()となる。

 

 ネックとなるのはこの悪天候であるが、それでも先程樹里から申告された内容を鑑みれば何も手がないワケでもない。

 

 問題は────────。

 

「…………玉狛が、一体あとどれだけあの()()を仕込んでいるかよね。少なくとも一つ以上、下手をすると三つくらいあってもおかしくないわ」

 

 ────────玉狛の仕掛けたメテオラ(じらい)が、あれ一つで終わる筈がないという事だ。

 

 今回、修が猛吹雪という悪天候を選択したのはあの巨大なメテオラキューブを隠す為であった事は明らかだ。

 

 だからこそ、初見殺しの最初の一発を使ったとしても、第二、第三の地雷を用意していないとは思えない。

 

 何せ、吹雪で視界がほぼゼロに近い以上、どれだけメテオラを仕掛けても相当近付かなければ視認すら出来ないのだ。

 

 故にある意味で仕掛け得であり、それをどれだけ設置しているか分からないというのが最大の懸念点(ネック)であると言えた。

 

「樹里、一応聞くけどアンタの眼でなんか見える?」

『今は、何も。流石に此処まで吹雪いてると、いつものようにはいかないよ』

「そっか。取り敢えず、アンタは華のナビゲートに従って移動してて。撃つ時はこっちで指示するから、勝手するんじゃないわよ」

『わかった』

 

 ふぅ、と樹里に指示を出して香取は白い闇の奥を見据える。

 

 レーダーに映っていた反応は弓場のものだけであった為、修が一体どうやって弓場隊を罠に嵌めたのか具体的な手段は分からない。

 

 千佳の炸裂弾(メテオラ)が起爆してそれに外岡が巻き込まれたというのは状況的にも分かるのだが、それに際してどのような手を使って弓場隊を嵌めたまでかは不明なのだ。

 

 だからこそ残りの()()の位置は知っておきたかったのだが、そう巧い話はないらしい。

 

(なら、そういうのがあるって念頭に置いて行動するしかないわね。取り敢えず、初見殺しの内容は知れた。後は、それに引っかからずにどう立ち回るかよね)

 

 しかし、玉狛の仕掛けていた罠の基軸自体は掴む事が出来た。

 

 千佳の置きメテオラの起爆が、恐らく今回の玉狛の作戦の肝だろう。

 

 流石に初見であればどうしようもなかったかもしれないが、タネが分かれば対処法はある。

 

 爆弾があると分かっているのなら、いつそれが爆発しても良いように立ち回るだけだ。

 

 言うは易しではあるが、やり様があるだけマシというものだ。

 

(狙撃の脅威がないなら、動ける範囲は広くなる。そこを活かして、どうにかしていくのがベストね)

 

 

 

 

『すんません。何も出来ずに落ちちゃいました』

「ありゃあ俺のミスだ。おめェーの所為じゃねェよ。むしろ、謝るべきはこっちだろうが」

 

 通信で外岡から謝罪を受けた弓場は、そう言ってふん、と鼻を鳴らす。

 

 あれは明らかに自分のミスであると考える弓場にとって、外岡を責めるべき理由は見当たらない。

 

「それに、おめェーの警告がなきゃ俺もやられてたからなァ。それに関しちゃ、感謝もしてんだぜ」

『…………ありがとうございます』

 

 彼は自分の指示に従っただけなのだから、むしろ最後に警告を送ってくれた分だけ仕事をしていたと言うべきだろう。

 

 試合中の反省会というものがどれだけ不毛かを理解している弓場達にとって、これ以上この話題を引きずる意味はない。

 

 即座に切り替えて、次の議題に移る事となった。

 

「外岡ァ、何か気付いた事はねェか? 何でもいい、言ってみろ」

『そっすね。まず、推定雨取さんのメテオラのキューブは小屋くらいの大きさがあります。その大きさの箱型のシルエットがあったら、注意して下さい』

「デケェな。そりゃあ確かに、こんな天候でもなきゃ罠に出来ねェワケだ」

 

 弓場は外岡からの話を聞き、成る程と頷く。

 

 何故玉狛がこんな極端な悪天候を設定したかは分からなかったのだが、千佳の巨大に過ぎるメテオラのキューブを隠す為だったに違いない。

 

 通常の天候であれば、余程の広さのある建物の中くらいにしか隠す事など出来ないだろう。

 

 だが、この一寸先も見えない白い闇の中であれば話は変わる。

 

 猛吹雪で視界が塞がれている以上、余程近付かない限りは構造物はシルエットくらいしか判別は出来ない。

 

 玉狛はそれを利用して、普通ならまず隠せないサイズの置きメテオラを堂々と設置していたのだ。

 

 流石にこれは、初見で見抜くのは無理があったと言えるだろう。

 

『それから、弓場さんが見た人影は店頭の看板人形にカーテンか何かをかけて偽装した身代わりでした。これからも、同じ手を使って来る可能性はあるかもしれません』

「成る程なァ。そりゃあ、どっちかっつーと凶報だな。要するに、人影を見てもすぐに撃てねェって事だからなァ」

 

 また、修の使った身代わり戦術に関しても厄介だった。

 

 何せ、同じ手を使って来ない保証がないのだ。

 

 吹雪の中では、ある程度距離が離れるだけで相手の姿はシルエットしか分からなくなる。

 

 今回はそのシルエット目掛けて狙撃を敢行したワケだが、その対象認識方法をまんまと利用された形となる。

 

 この戦術の厄介な所は、絡繰りを知っていても尚こちらに縛りを設けて来る所にある。

 

 何せ、人影が見えたとしてもそれが本物か偽物かが分からない上に、下手をすればその先に特大の爆弾が設置されているかもしれないのだ。

 

 要するに、今後は明らかに自部隊ではない人影が見えても迂闊に先制攻撃を仕掛けられない、という事になる。

 

 これは射程を以て攻撃手をボコる弓場にとって自身の強みを殺されたに等しく、この戦法は明らかに彼への対策(メタ)を意識している。

 

 無論それ以外の採用理由もあるだろうが、そういった要素がある事は否定出来ない。

 

 つまり弓場は以降、狙撃手の外岡を欠いた状態で射程の有利を封じられながら立ち回る他ないのだ。

 

 それは弓場隊にとってかなりの痛手であり、修の敷いた見えない縛りの意図(イト)が徐々に足首に絡まって来るのが見えて来るようでもあった。

 

「…………香取隊が、妙に静かだなァ。あいつ等、最初に爆撃して以降は音沙汰がねェよなァ?」

『一応言っとくが、レーダーにゃ映ってねーぜ。一応木岐坂の移動予測範囲は映しとくが、誰かと一緒なら移動速度が上下する可能性もあっからな。あんまし当てにはすんなよ』

「了解だ。なんかあったら教えろ」

 

 おう、という返事を聞き、弓場は思案する。

 

 香取隊の動きが、少し妙だ。

 

 てっきり散発的に爆撃を繰り返してこちらを追い込む腹積もりかと思ったが、最初の一発以外は全く音沙汰がない。

 

 香取の好戦的な面しか知らない弓場としては、彼女が変わったという話を考慮してもその動きには違和感しか抱けなかった。

 

(…………こりゃあ、香取隊は最初(ハナ)から俺等に玉狛の罠を踏ませる気で動いてたってェ事だよなァ? 状況からして、そうとしか考えられねェ)

 

 そこで弓場は、香取隊が自分達に玉狛の仕掛けた罠を踏み抜かせる目的で動いていた事を察した。

 

 あの爆撃は単にこちらにプレッシャーを与えて攻め入る隙を見付ける為のものではなく、弓場隊を動かして玉狛の仕掛けた罠を作動させる目的だったのだ。

 

 どういう理屈かは分からないが、香取隊は玉狛が()()()()罠を仕掛けていると察していた。

 

 だがそれがどういった内容なのかは分からなかった為、弓場隊を誘導してそれを踏みに行かせた、という事なのだろう。

 

(神田の奴がやりそうな手だな。そう考えっと、香取隊の奴等の方が一枚上手だったと見るべきだろうな。ったく、短ェ間に大した度量(タマ)になったモンだぜ)

 

 当然、それを恨む事はない。

 

 してやられたのはこっちの失態であるし、むしろその強かさを称賛する想いもある。

 

 だが、現実として厳しい立ち位置に置かれたのは事実。

 

 そこは、どうにかしなければならない。

 

(今からでもバッグワームを使って遭遇戦を仕掛けるべきかァ? いや────────)

 

 弓場は一旦身を隠してのゲリラ戦を思いつくが、そこですぐさまかぶりを振った。

 

(────────んな事したら、玉狛があと幾つあの爆弾を仕掛けて来るか分かったもんじゃねェ。放っとくと、MAP全域を巻き込む爆発を起きる規模まで爆弾を設置される可能性もある。あの規模の威力なら、現実に出来ちまいそうだからなァ)

 

 下手に玉狛に時間を与えるのは、得策ではない。

 

 何せ、あの爆弾は一発限りのものではない。

 

 使用者のトリオンが続く限り、幾らでも生み出せるのだ。

 

 噂に聞く通りのトリオン量の持ち主であれば、トリオン切れによる設置限界はまずないと見て良い。

 

 少なくとも、この試合中にトリオンが尽きるなどという希望的観測は抱かない方が得策だろう。

 

 放置を選択した場合、街中に爆弾が仕掛けられて一斉起爆で纏めて吹っ飛ばされる、という可能性もなくはないのだ。

 

 実際にそれが可能なだけの威力が、あの爆弾には存在するのだから。

 

「帯島ァ!」

『は、はいっ!』

「さっきと同じだ。俺が囮になって、玉狛を釣り出す。そこを二人で挟撃すんぞ」

『了解ですっ!』

 

 故に、戦術は変えない。

 

 香取隊に前に出る気が見えない以上、その役割はこちらで負うしかない。

 

 貧乏くじを引かされているのは理解しているが、それでも此処で動かなければ最悪のワンサイドゲームになりかねないのだ。

 

 未だに四人全員が揃っている香取隊と二人しか残っていない弓場隊とでは、前提条件が違う。

 

 無論不利なのはこちらの方だが、それでも勝つ為には動くしかないのだ。

 

「行くぞ。厳しい展開だが、勝ちの目がゼロになったワケじゃねェ。気張れよ、帯島ァ」

『はいっ!』

 

 弓場は帯島の返事を聞きながら、吹雪の中を走り始める。

 

 二丁拳銃を携えた漢が、白い闇の中を疾駆していった。

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