香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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香取隊Ⅹ

 

 

「弓場さんと空閑が戦闘し(バトッ)てたが、そこに香取が乱入! 三部隊のエース同士の三つ巴になったぜ!」

「そこで介入するのか。意外だね、カトリーヌ」

 

 三部隊、エース揃い踏み。

 

 その見栄えのする絵面に沸く観客を他所に、王子は神妙な顔で頷いた。

 

 確かに、と蔵内も王子に同意する。

 

「てっきり香取隊はこのまま潜伏を続けて、漁夫の利を狙う作戦かと思っていたからな。爆撃に乗じて近付いたとはいえ、まさかこうも簡単に姿を見せるとは意外だった」

「うん、ぼくもそう読んでたから余計に違和感がある。もしかすると香取隊は、もっと別の作戦を立てているのかもしれないね」

「ほー、別の作戦ってなんだ?」

「それはまだ、確定は出来ないな。候補は幾つかあるけれど、材料が足りない。だから、此処で口に出すのは止めておこうかな」

 

 なんだよケチー、と言ってぶーたれる光だが、王子は涼しい顔だ。

 

 あながち、間違った事を言ってはいないというのもある。

 

 当初香取隊の動きを見た王子は、彼女達の作戦はまずは玉狛と弓場隊をぶつからせて、機を見て介入して漁夫の利を得るものなのだと考えていた。

 

 玉狛の仕掛けた()()を弓場隊に踏みに行かせた流れから、今回香取隊は徹底してリスクを管理しつつ堅実に取れる点を取る────────────────要するに、王子隊が得意とするタイプの戦術を採用したのだと判断していた。

 

 同じく玉狛を軽く見ていない王子にとっては理に適った戦術であり、ある意味で最適解の一つでもある事から当初はその推測をすんなり受け入れる事が出来ていた。

 

 だからこそ、香取のこの動きには不自然さが際立つ。

 

 爆撃に乗じて接近するまでは良いが、そこで遊真を標的に選んだ事で簡単に奇襲を止められてしまった。

 

 あの状況であれば、リスクは高いが弓場を狙った方が攻撃が通る確率はあっただろう。

 

 弓場は攻撃手キラーの異名を持ち中距離戦に強いが、死角から一気に距離を詰める事が出来れば仕留められる可能性はある。

 

 安定はしないが、香取という駒はそれだけの爆発力がある事は確かなのだ。

 

 如何に攻撃手殺しに特化した性能をしているとはいえ、弓場のトリガーは拳銃型だ。

 

 至近距離まで迫った格闘戦特化の相手を凌げる確率は、遊真の方が高いだろう。

 

 無論、気付かれて迎撃されるリスクはあった為、それを嫌った可能性はある。

 

 あくまでもこれは弓場の察知が遅れた場合の想定なので、言っても仕方ないかもしれない。

 

 もしくは、もう少し二人の戦闘を観察しながら処理能力が圧迫された所を見計らう方が良かっただろうというのが王子の見解だ。

 

 二人はまだ戦闘を開始したばかりであり、まだ処理能力には余裕があった。

 

 相手が若村のようにミスを引きずって動きが悪くなるタイプであればともかく、弓場は逆に奮起する分類の人間だ。

 

 遊真に至ってはこれまで盤面を思い通りに進めて来た玉狛の側の人間である為、気負いも何も存在しない。

 

 そんな中、佳境でもないのに強引に介入して姿を現した香取の姿は王子には不自然に映ったのである。

 

「ただ、一つ言うのであれば姿()()()()()()()()()()()()()()と見た方が良いかもしれないね。あくまでも、ぼくの推察が合っていればの話だけど」

「成る程、何となくだが言いたい事に想像はついた。それなら、俺も口にするのは止めた方が良さそうだな」

「ほーん、そこまで言うなら何も言わねーけどよ。後でちゃんと説明しろよなー」

「勿論。その時は、しっかり説明させて貰うよ」

 

 約束だかんなー、と告げて光は一先ずの納得を見せる。

 

 彼女もまた、この場で追及しても欲しい答えが返って来るワケではないと理解したのだろう。

 

 光はざっくばらん、というか大雑把な性格で、細かい事は基本的に気にしない。

 

 言動もノリ任せの事が多く、他者との会話に一切の抵抗がなく言いたい事をズケズケ言うタイプだ。

 

 陽キャの窮極のような性格であり、基本的に彼女が人付き合いで困った事はない。

 

 王子の癖の強い性格も理解している為、此処で詰めてものらりくらりと躱されるだけなのが目に見えている。

 

 それなら確約だけはしておいて、この場は流した方が手っ取り早いと察したのだろう。

 

 影浦隊でも存分に活かされている割り切り体質が、自然に出た結果と言える。

 

「あとは、玉狛がこれを受けてどう動くか、だね。きみのやり方を見せて貰うよ、オッサム」

 

 

 

 

『今、かとり先輩とかち合った。爆撃も飛んで来たけど、撃った奴の位置は分かるか?』

「宇佐美先輩に聞いたけど、レーダーには映ってないらしい。だから、さっきのは合成弾じゃなく炸裂弾(メテオラ)だと思う」

 

 そっか、と通信越しに届く遊真の声を聴き、修は思案する。

 

 遊真から爆撃を受けた直後に香取が介入して来たと聞いたからてっきり誘導炸裂弾(サラマンダー)を使って来たのだと考えたのだが、宇佐美が言うにはレーダーにはそれらしき反応は映っていないらしい。

 

 つまり今の爆撃の主である樹里はバッグワームを脱いでおらず、メテオラを単発で使ったという事に他ならない。

 

 そこが、どうにも引っかかった。

 

(レーダーに映るのを嫌った…………? でも、この天候なら位置を晒すリスクはある程度軽減されてる。それは分かってると思うけど、それでも木岐坂先輩の位置を知られたくなかったのか…………?)

 

 樹里は狙撃手ではあるが、同時に射手としての顔も持つ。

 

 現にこの試合で彼女が最初に行った攻撃は合成弾による爆撃であり、出水と同値のトリオンから繰り出される高威力の爆撃は脅威だ。

 

 この猛吹雪という環境下では通常の狙撃が通り難いのは見ての通りだし、狙撃手ではなく射手として振舞っている理由も理解出来る。

 

 だが、この場面で合成弾ではなくメテオラを切って来た理由がいまいち掴めなかったのだ。

 

(サラマンダーの方が色々と小回りは利くし、障害物を排除した上で空閑に攻撃を加えるのもやり易かった筈だ。或いは、根こそぎ建物を破壊して弓場さんの射線が通るのを嫌ったのか?)

 

 サラマンダーであれば、路地の周囲を根こそぎ破壊してそこに香取を突っ込ませる事も出来た。

 

 しかしメテオラによる一方向からの爆撃であった為に、路地の上部を吹き飛ばすに留まり遊真の迎撃を許している。

 

 或いは障害物がなくなる事で弓場の銃撃が通り易くなる事を嫌ったのかもしれないが、どちらにせよ推測に過ぎない。

 

(今考えるべきは、どう動くかだ。()()()の起動はタイミングを見てからでないといけないし、千佳を安全圏に退避させる必要もある。今回はどちらのチームにも人が撃てない事はバレてると考えて良いだろうし、反撃がないと分かってる千佳を万が一にも相手の前に出すワケにはいかないからな)

 

 今回、千佳は人が撃てない事が相手チームにバレている。

 

 あくまでも推測に過ぎないが、諸々の材料を考慮した結果その可能性が高いと修は見ていた。

 

 つまり、千佳は敵に見付かればほぼ終わりと言って良い。

 

 幾らトリオンが高かろうが、反撃が来ないと分かっている相手程やり易い相手もない。

 

 千佳は機動力もそう高くはないし、硬いシールドで時間稼ぎは出来るだろうがそれにも限界はあるだろう。

 

 そもそも千佳は戦闘経験が少ない為に咄嗟の奇襲には反応出来ない可能性が高いし、不意打ちをされた時点で終わると思って良いだろう。

 

 故に、仕掛けを起動する前に彼女を安全圏に移す必要があった。

 

 千佳の現在位置は、遊真達のいる場所とそう離れていない。

 

 ()()を使ってもシールドを張れば問題なく凌げるだろうが、その場合周囲の建物が地形ごと根こそぎ吹き飛ばされるので、物理的に彼女が視認される危険があった。

 

 この戦場には猛吹雪が吹いているが、メテオラの爆発の際には一瞬であれ範囲内の吹雪はかき消される。

 

 故にあくまでも一瞬であるが、トリオン体の動体視力ならば視認される危険はある。

 

 千佳のメテオラの爆破範囲はかなり広く、少し走った程度で逃れられるものではない。

 

 現在、位置が分かっていないのは弓場隊の帯島と、香取隊の三浦・若村・樹里である。

 

 樹里に関しては今の爆撃である程度方角は分かったが、それでも詳細な位置となると不安が残る。

 

 そのいずれと遭遇しても、千佳は詰む。

 

 そう考えれば、一刻も早く彼女を安全圏に避難させる事は急務と言えた。

 

「千佳、お前の避難が完了次第こっちで爆弾を起爆させる。だから、なるべく早く指定の位置まで走ってくれ」

『りょ、了解』

 

 修は千佳に指示を送り、吹雪の向こうを見据える。

 

 そして、大きく息を吐いた。

 

(取り敢えず、作戦は巧くいってる。あとは、()()がどれだけ通じるのか。それと、相手がどう動いて来るか────────────────まだ、課題は多いな)

 

 

 

 

「────────!」

「…………!」

 

 香取は距離を取るなり、遊真に向けて拳銃を撃ち放つ。

 

 当然、これは牽制だ。

 

 遊真がシールドを張れば一手使わせる事が出来るし、そうでなくとも。

 

「そう来るわよね…………!」

 

 彼が回避の選択肢を取れば、そこへ追い縋るだけだ。

 

 香取は壁面を蹴り、一気に跳躍。

 

 横へ避けた遊真へ、ブレードを振りかぶる。

 

「────────俺を、忘れちゃいねェか?」

「「…………!」」

 

 ドドン、という銃声と共に弓場のリボルバーが火を噴いた。

 

 この場にいるのは、香取と遊真だけではない。

 

 弓場隊のエースたる弓場もまた、この戦場の参加者なのだ。

 

 当然、それを失念する二人ではない。

 

 即座に両者はグラスホッパーを起動し、その場から退避。

 

 弓場の銃撃は、そのまま空を切る。

 

「────────」

 

 同時に、遊真はスコーピオンを投擲。

 

 短刀型の白い刃が、無造作に弓場に向かって投げつけられた。

 

「…………!」

 

 当然、それを素直に受ける弓場ではない。

 

 サイドステップを踏み、投擲を回避。

 

 そのまま、リボルバーから第二射を撃ち放つ。

 

 神速の早撃ち、六連。

 

 それが狙う標的は、遊真だ。

 

「────────!」

 

 その行動を見た香取は、迅速に行動に移した。

 

 すぐさま拳銃を抜き放ち、斉射。

 

 標的は、遊真ではない。

 

 彼が逃げるであろう、上空。

 

 その通り道に、香取は銃撃を()()()

 

 弓場の弾を回避しようと上に逃げれば、香取の弾が当たる。

 

 かといってこの路地は狭く、横に逃げるには幅が足りない。

 

 しかし弓場の銃撃はシールドで防ぐには威力が高く、ピンポイントで集中シールドを張らなければまず突破される。

 

 ならば、どうするか。

 

「…………っ!」

 

 答えは、一つ。

 

 上に逃げつつ、シールドで防御。

 

 遊真は跳躍で弓場の銃撃を回避しつつ、香取の銃撃はシールドで防御した。

 

 香取の使用したトリガーも弓場と同じアステロイドだが、あくまでもこちらは銃手の使うスタンダードな調整の弾だ。

 

 ハウンドと比べれば威力は高いが、一発二発でシールドを突破出来る代物ではない。

 

 アステロイドは確かに威力特化の弾丸ではあるが、イーグレットと異なり基本的に数を撃って相手の防御を突破する仕様である。

 

 使用者が余程トリオンが高くなければシールドで簡単に止められるし、攻撃を受け続けさえしなければすぐに突破される危険もない。

 

 アステロイドの役割とは相手が動きを止めた所を狙い、集中攻撃で守りを削って()()事にある。

 

 二宮程のトリオンがあれば話は別だが、アステロイドの一般的な扱い方はこうなる。

 

 そもそも、射手は基本的にポイントゲッターとしての役割を期待されるポジションではない。

 

 例外は二宮や那須であるが、前者はトリオンが豊富過ぎて威力が高過ぎる(バグっている)だけであり、後者はそうする事でしか部隊が点を取れないからに過ぎない。

 

 故に、通常のアステロイドであれば弾数が少なければ不意打ち以外で脅威になる事は少ないのだ。

 

 まして、香取の扱っているのは拳銃型だ。

 

 拳銃型の銃手トリガーは取り回しに優れる反面、弾数や威力はどうしても突撃銃型に劣る。

 

 香取もそこは割り切って使っているのだが、牽制以上の意味を見出し難いトリガータイプである事に間違いは無い。

 

 故に遊真は迷いなくシールドでの防御を選択し、事なきを得たのだ。

 

(…………突っ込んで来ないか。思ったより、攻めっ気がないな。わざわざ姿を晒した以上は何かあると思ってたけど、もしかして────────)

 

 そこで無理に攻めて来ない香取を見て、遊真は思考を巡らせる。

 

 意気揚々とやって来た割に、香取はどうにも消極的な立ち回りに思えるのだ。

 

 彼女の突破力の高さは、ログで見ている。

 

 香取が本気になれば強引に距離を詰める事など造作もないし、現に遊真はわざと隙を作って待ち構えてもいた。

 

 しかし、一向に乗って来る気配がない香取を見て流石におかしいと考え始めたのだ。

 

 そして、その答えは。

 

(────────狙いはチカか?)

 

 ────────彼女が、囮である事に他ならなかった。

 

 

 

 

『千佳、空閑からお前が狙われてる可能性があるって進言があった。多分だけど、若村先輩や三浦先輩がお前を探してるんだと思う。だから、移動の時には気を付けてくれ』

「わ、わかった」

 

 千佳は一人吹雪の街を走りながら、修の指示を聞いて頷いた。

 

 遊真の見解では香取はあくまでもこちらの眼を引き付ける囮であり、本命は若村と三浦による千佳の()()()()の可能性が高いのだという。

 

 目立つ香取が派手に立ち回り、その隙に千佳を探し出して落とす。

 

 それが香取隊の作戦なのだろうと、遊真は語ったのだそうだ。

 

 戦術に疎い千佳からすればそうなのか、と納得するしかないし、今自分が出来る事はこの場から離れる事だけなのも理解している。

 

 既に()()は設置し終えた後だし、今はその効果範囲から逃げている最中だ。

 

 人を撃てない自分を慮ってその活用方法を考えてくれた修には感謝しかないし、実際に自分の作り出したメテオラで緊急脱出(ベイルアウト)する者が出ても、実際目にしていなかったからなのかそこまでの衝撃はなかった。

 

 ある意味、この極寒のカーテンがあって良かったとも思うべきだろう。

 

 千佳のメテオラの爆発は遠くからでも視認出来たが、猛吹雪のお陰で立ち上った緊急脱出の光は僅かしか見えなかった。

 

 起爆したのが自分ではない事もあって、千佳の精神状態は安定していた。

 

(今は、早く逃げないと。そしたら、もう一個メテオラを置いて────────)

 

 だからか、千佳は既に()の事を考えていた。

 

 指定の場所まで逃げた後は、次の爆弾を設置するように言われている。

 

 既に設置した分だけでも作戦利用には充分だが、時間があるなら仕掛けを追加して欲しいとも言われている。

 

 それは自分の役割を欲しがっている千佳を慮る修の気遣いでもあったが、やるべき事が明確化されている千佳の足取りは軽かった。

 

 しかし警戒しろと言われているので曲がり角を曲がる時等には特に左右に目を配り、慎重に移動していた。

 

「…………え…………?」

 

 ────────だから。

 

 その()()への注意は、怠っていた。

 

 パチン、と何かが切れる音が千佳の耳に響く。

 

 そして。

 

「…………っ!?」

 

 その糸が繋がれていた先の、小さな箱。

 

 設置されていたメテオラが起爆し、千佳は為す術なくその爆発に巻き込まれた。

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