「千佳…………ッ!?」
修はその知らせを前に思わず叫びをあげ、唇を噛んだ。
通達されたのは、千佳の
あまりにも突然な、仲間の脱落の報だった。
千佳から、奇襲を察知したような連絡はなかった。
戦闘経験に乏しい彼女では隠れている隊員を見付ける事は出来ず、背後から襲われたのであればそれこそ為す術なくやられるだけだろう。
しかし、だからといってこれはあまりにも突然過ぎた。
何が、起きたのか。
修は、混乱の極地にいた。
『ご、ごめん修くん。実は────────』
「────────なんだって?」
そして、知る。
緊急脱出してしまった千佳から受けた、彼女の脱落の真実を。
それは────────。
「おーっと、此処で雨取が緊急脱出…………! 得点したのは、香取隊だっ!」
「これは…………」
「成る程、スパイダーに接続した置きメテオラによる起爆
────────文字通りの
それこそが、千佳を葬った光の絡繰りであった。
何が起きたのかを理解した王子は、一層笑みを深くする。
「この試合、ミューラーもジャクソンも各地を駆け回っているだけで一向に他の部隊の隊員と接敵する気配がなかった。てっきりぼくは彼等がオッサムやアマトリチャーナを探しているのだと思っていたのだけれど、彼等はただ闇雲に動いていたワケではなかったという事だね」
「そういう事になるな。香取隊の狙いは、最初から────────」
「────────悪天候を利用した、メテオラ
やるねぇ、と王子は素直な感嘆と共に頷く。
インパクトこそ千佳のメテオラとは比べ物ならないが、意趣返しとしてはこれ以上のものはない。
そのやり口に、感心すら覚える王子であった。
「スパイダーは通常の妨害や足場として設置するワイヤーとしての用途の他に、メテオラと組み合わせる事で簡易的な地雷を作り出す事が出来る。これがどういう事かというと、折角だから弾トリガーの仕組みから解説していこうか。クラウチ」
「そうだな。射撃トリガー、銃手トリガー問わず弾を飛ばすタイプのトリガーは内部の弾体がカバーで覆われていてな。この弾体は大気に触れると炸裂する性質を持っていて、それを防いで射程を伸ばす役割がカバーにはあるんだ」
「威力を決める弾体、射程を決めるカバー、そしてその二つを飛ばす為の噴進剤で弾トリガーは構成されている。そして、弾トリガーは有機物無機物問わず何らかの障害物に衝突した瞬間、このカバーが破損して内部の弾体が大気に触れて炸裂するといった寸法だ」
王子と蔵内は簡易画面に分かり易い図解を描き、弾トリガーの仕組みを説明する。
こうして改めて弾トリガーの仕組みを知る機会など早々なかったのかC級は物珍しそうな顔をしているし、B級の面々もそういった事に詳しくない者は成る程、と頷いていた。
このあたり、二人の教師適性の高さが分かろうというものだ。
「重要なのは、このカバーが破損、要するに
「メテオラは何かに当たった衝撃で起爆していると考えている隊員もいるかもしれないが、実際はこういう仕組みになっているんだ。つまり置きメテオラというのは正確には衝撃を与えて起爆させるのではなく、
二人の言う通り、このあたりを勘違いしている隊員は多い。
トリオンで出来た弾頭であるという事もあるのだろうが、現実の爆弾とは爆破に至る
通常の爆薬のように衝撃を与えて起爆しているようにも見えるが、その内実は異なる。
あくまでもメテオラが起爆するのはカバーが外れて内部の弾体が大気に触れた時なのであり、カバー自体はそう硬いものではないので弾同士が触れた時や障害物に当たった時に容易く自壊して炸裂する為に、衝撃で起爆しているように見えていたというだけなのである。
衝撃が加わるような事があれば大抵の場合カバーは破損して即座に起爆するのは確かなので、結果としては間違ってはいない。
しかしその過程には、明確な差異があるという事だ。
「この仕組みを利用したのが、スパイダーとメテオラを組み合わせた地雷なのさ。スパイダーを置きメテオラに打ち込んでおいて、そのワイヤーに人が触れる事でキューブの穴を塞ぐ役割を果たしていたスパイダーが外れ、弾体が大気に触れて起爆する。その場におらずとも敵がその糸に触れさえすれば起爆する、簡易式の地雷の完成というワケさ」
「スパイダーが撃ち込まれたとしても、そのワイヤーが蓋の代わりをするからそれが外れない限り起爆しない事を利用した設置罠、という事だ。ちなみにこれは先端がキューブ状になっていて名実共に
いいんじゃないかな、と王子は蔵内に促した。
あくまでも自分達はスパイダーを使った地雷というC級は恐らくは初めて見るであろう代物に対する説明をついでに行っただけで、今は講義の時間でも研修の時間でもない。
アンコールがあれば追加説明も吝かではないが、試合は今も進行中である以上あまり寄り道をし過ぎるのはいけないだろう。
そう考えて、二人は解説に戻る事にしたのである。
「ミューラーとジャクソンは、これを各所に仕掛けて回っていたというワケだ。スパイダーに続いてメテオラまでセットしてるから、ミューラーはともかくジャクソンは何かしらこれまで使っていたトリガーを抜いてそうだね」
「そうだな。恐らくは突撃銃の片方か、カメレオンのどちらかといったところだろう。ともあれ、重要なのはそこじゃない。三浦と若村は、
そうだね、と王子は頷く。
「ただ、そう言うと少し語弊があるかな。正確には、自分の攻撃用トリガーを使って直接相手を叩く気がなかった、と言うべきだね」
「そうだな。彼等は三雲くんや雨取を探す振りをしながら、ひたすらこの罠を仕掛け続けていたというワケだ。玉狛が、いや────────────────
蔵内の言う通り、香取隊の狙いは修や千佳を直接探し当てて叩く事ではなかった。
彼等はそうしているように見せかけて、各所にこの地雷を設置して回っていたのだ。
今回千佳がそうだったように、玉狛の戦術の肝は彼女が特大の爆弾である
その為には千佳はフィールド内を駆け回らねばならず、必然的に地雷を踏む確率は高くなる。
香取隊はそれを見越して、この罠を仕掛け続けていたというワケだ。
「恐らく、何らかの理由で香取隊は玉狛が悪天候を仕掛けて来ると予想はしていたんだろうね。だから、悪天候で通常より更に見え難くなるスパイダーを利用した地雷戦術を実行に移した。今回はそれが見事、功を奏したワケだね」
「ああ、香取があのように前に出たのは陽動の為だろうな。敢えて香取が姿を見せる事で三浦・若村による索敵を警戒させ、玉狛側に焦りを生ませる。そうして、雨取が足元への警戒を疎かにするよう仕向けたんだろう」
「ぼくも同意見だ。アマトリチャーナは二人の奇襲にこそ警戒をしていただろうけど、反面足元への注意はあまり向けてはいなかっただろう。香取隊がスパイダーを使うという情報は知っていただろうが、スパイダーは単体では引っかかってもダメージは無い。その場に敵がいなければ、単に転ぶだけで終わるからね。警戒が薄れても、無理は無いと言える」
加えて、香取が敢えて目立つ行動を取る事で彼女が陽動であるという印象を与え、千佳に逃走を促すよう誘導したのだ。
あのような不自然なタイミングで主戦場に介入した以上、何か意図があると警戒されるのは当然だ。
だが、それこそが罠。
香取は玉狛に千佳を探しているという
そうする事によって千佳の足元への警戒を薄れさせ、この罠に仕掛ける事こそが香取隊の狙いだったワケである。
スパイダーは鍔迫り合いの時に足を引っかければ致命的な隙を作ってしまうが、目の前に敵がいない状態でそうなっても単にその場で転ぶだけだ。
故に戦闘中でなければ致死性の罠ではないという認識を持たせ、まんまと千佳を地雷を踏ませる事に成功したのである。
そもそも狙撃手である彼女が戦闘状態に至った時点で既に詰みのようなものなので、そう認識しても無理からぬ事と言えるのだが。
元々、近付かれてもどうにかなるという荒船や樹里の方が例外なのだ。
故に逃走にこそ全神経を使うのはある意味では正しい判断であり、今回はそこを利用された形になる。
樹里は精神性は純粋な狙撃手のそれではないが、狙撃手としての基礎知識や一通りの訓練は受けている。
その中には当然狙撃手が撃った後や敵に発見された時の対処等も入っており、簡略すると「ひたすら逃げの一手」という説明に終始するので、そこから着想を得たのだろう。
樹里自身は「わたしは別だけど」と考えてはいたが、元々地頭が良いので教えられた事は自然と記憶出来ているのが彼女だ。
華の質問にも淀みなく答えたであろう事は容易に想像出来、今回は事前準備を怠らなかった香取隊に軍配が上がったというワケだ。
「さて、これでアマトリチャーナは消えた。けど、まだ彼女の置いた
「…………成る程、スパイダーにそんな使い方があったのか。失念していたよ」
修は千佳からの説明で凡その事態を把握し、溜め息を吐いた。
スパイダーとメテオラを組み合わせた、文字通りの
千佳はそれに引っかかり、突然の事で何も反応出来ずに落ちた、というワケだ。
修もスパイダーは使っているが、彼にトリオンの余裕は殆どないどころか皆無に近い。
その為これ以上スロットにセットするトリガーを増やせばまともな戦闘の継続も怪しくなるレベルであり、メテオラを使うという発想がそもそもなかった。
その為使うメリットが見当たらず、修は自身の使うトリガーの選択肢からは最初から排除していた。
どの道修のアステロイドでは何発撃とうが相手のシールドを突破する事は出来ないも同然なのでさして変わりはないのだが、だからといって敢えてメテオラを選ぶ理由が見当たらなかったのもまた事実なのである。
故に今回のスパイダーを利用したメテオラ
確かに修は王子の教導を受け、戦術の造詣が深くなっている。
しかし根本的な経験不足は何も解消されておらず、いわゆる頭でっかちの状態に近いと言えなくもないのだ。
だからこそ事前準備をしっかりと行い万全の対策を立てて戦いに挑んではいるが、イレギュラーな状況への対応の場数だけは足りていない。
こればかりは実際に経験する他ないものであり、王子の指導力不足というワケでもない。
その状態で此処までやれている事自体異例と言えば異例であり、修は充分良くやっている部類と言える。
「話は分かった。想定し切れなかったぼくのミスだ。千佳は気にしなくていい」
『う、うん…………』
若干納得はしていなさそうであるが、試合中に反省会をやる余裕などない。
修は意識を切り替えて、これからの事に思考を移した。
「とにかく、若村先輩達の仕掛けたワイヤーメテオラがまだ何処にどれだけあるか分からない。闇雲に動いても、恐らく何処かで引っかかるだろうな」
だから、と修は続ける。
「────────逃げ回るのは終わりだ。勝負をかけるぞ。空閑」
「────────了解」
遊真は修からの通信を受け、グラスホッパーを踏み込み跳躍。
大きく上へと跳び上がり、同時にあらぬ方向へとスコーピオンを投擲した。
「「…………っ!」」
その行動の
同時に遊真は再びグラスホッパーを踏み込み、その場から大きく離れていく。
直後。
遊真が投げたブレードが、その先にあった
箱、否────────────────吹雪に埋もれた巨大なトリオンキューブはスコーピオンによって穿たれ、即座に起爆。
再び、未曾有の大爆発がフィールドを呑み込んだ。