香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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玉狛第二⑤

 

 

「…………っ!」

 

 一瞬にして周囲を呑み込んだ大爆発を、弓場は固定シールドを張ってやり過ごした。

 

 ()()()がある事は考慮はしていたが、まさかこんな近くにあったとは盲点だった。

 

 遊真がスコーピオンを投擲して起爆したメテオラの位置は、一度目の爆発の効果範囲のギリギリ外側といった所だ。

 

 余程正確に爆破の規模を測定していなければ、まず出来ない設置場所である。

 

 矢張り、相当綿密に準備を重ねている様が見て取れた。

 

(…………肝が冷えたが、何とかなったか。だが、今これをした理由はなんだ? 一度目とは違って、俺等は()()の存在を知ってる。闇雲に(バク)ったところで仕留められる筈がねェのは承知の筈だが)

 

 気になるのは、このタイミングで起爆を実行した()()だ。

 

 一度目のそれとは異なり、こちらは特大の置きメテオラという鬼札の存在を知っている。

 

 既に一度使ったのだから二度目がないと思う程弓場は楽観的ではないし、他にも爆弾を設置している事が看破されている事自体は玉狛も想定している筈だ。

 

 加えて遊真の取った起爆方法は上空に跳び上がってからのスコーピオンの投擲によるものであり、ハッキリ言ってかなり目立つ。

 

 たった今まで遊真は弓場達と鍔迫り合いを行っていた最中であり、幾ら猛吹雪の最中とはいえ戦っていた相手がいきなりそんな真似をすれば嫌でも目がつく。

 

 だからこそ弓場を含めた()()がシールドによる防御が間に合ったし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 無論、起爆を実行した遊真当人もグラスホッパーによって遥か上空へと退避していた為爆破に巻き込まれてはいない。

 

(────────待て。今、空閑は…………っ!)

 

 そこで、気付く。

 

 敵の、玉狛の意図に。

 

 起爆そのもので仕留められないであろう事は、分かっていた筈だ。

 

 だが。

 

 その起爆を防ぐ為に固定シールドを使った以上、すぐにその場から逃げる事は出来ない。

 

 それは、近くで待機させていた帯島も同様だ。

 

 そして。

 

 高高度へ逃れていた遊真は、爆発で一瞬だけ猛吹雪が吹き飛ばされた時に、それを視認していた筈なのだ。

 

 即ち。

 

 ()()()()()を、である。

 

「────────そこか」

 

 遠く、上空でそんな声が聞こえた気がした。

 

 同時に再び猛吹雪の幕が下りると同時に、小さな影が加速を付けてとある方向へ急降下する。

 

 彼の標的。

 

 帯島の、いる場所へと。

 

「帯島ァ…………ッ!」

 

 

 

 

「…………!」

 

 通信越しの弓場の怒声を契機に、帯島は一直線に自分に向かって来る人影の存在に気が付いた。

 

 いきなりの大爆発に肝が冷えたのは彼女も同様であり、弓場からの警告がなければシールドを張るのが遅れていた可能性もあった。

 

 何とかシールドの展開を間に合わせて一息ついていたのだが、どうやら敵はそう甘くはなかったらしい。

 

 爆発をやり過ごし、固定シールドを解除された帯島の下に、白い流星が迫っている。

 

 落ちて来る星の名は、空閑遊真。

 

 弓場から正面から一人で当たるなと厳命されていた、玉狛第二のエースである。

 

「ハウンド…………ッ!」

 

 迫る遊真に対し、帯島は追尾弾(ハウンド)での迎撃を選択した。

 

 誘導設定をあまり強くはせず、扇状に広がるように弾幕を展開する。

 

 遊真の機動力が高いのは、承知している。

 

 故にこれは相手に当てる事を意識したものではなく、防御を強要する事を目的とした弾道だ。

 

 樹里のように高いトリオンなど持ち合わせていない帯島にとって、ハウンドで相手を固めるのは限界がある。

 

 精々一瞬動きを封じる事が出来れば儲けものというレベルであり、固めた防御を貫通する弓場と組みでもしない限り決定打に欠けるのも事実だ。

 

 だが、今はこれで良い。

 

 弓場と自分の位置は、そう離れてはいない。

 

 この場の襲撃さえ乗り切る事が出来れば、弓場と合流して挟み撃ちする事も可能であろう。

 

 玉狛の狙いが起爆を契機にした帯島の位置把握と撃破にある事が明白である以上、このタイミングの奇襲さえ凌いでしまえばこちらの優位になる。

 

 先程緊急脱出(ベイルアウト)したのは、千佳である可能性が高い。

 

 緊急脱出の光が上がった場所は此処からかなり離れていたし、先程まで遊真と一緒にいたであろう修の位置としては違和感がある。

 

 加えてこのタイミングで起爆という鬼札を切ってきた事からも、もう地雷の追加が望めない────────────────即ち、メテオラの設置主である千佳がもういない事が推察される。

 

 向こうとしては千佳の脱落が確定的なものになる前に、この奇襲で帯島を点にしたかったというところだろう。

 

 玉狛の隊長の修は戦術家としては優秀だが、反面個人の戦闘力は高くないと聞いている。

 

 故に戦力的な面のみで考えれば玉狛の遊真のワンマンチームに近く、彼さえ落としてしまえば勝ち筋はほぼ無いと言って良い。

 

 なので千佳が落ちたと思われる現状、勝負を急ぐのは理解出来る。

 

 玉狛第二は遊真という超抜的なエースと規格外のトリオンを持つ千佳という二枚の尖り過ぎている駒の存在に支えられた、ピーキーな性質を持つチームだ。

 

 この二枚の手札を良い意味で性格の悪い指揮官である修が駆使する事で、玉狛の戦術は成り立っている。

 

 嵌まれば凶悪な反面、一つでも手札が欠ければ一気に行動に縛りがかかるという弱点をもこのチーム構成は内臓している。

 

 特に、まともなポイントゲッターが遊真一人である、という事実は見逃せない。

 

 千佳は人を撃てないらしいし、修は1対1で相手を落とせるような駒ではない。

 

 だからこそ、この機会に点を稼いでおこうと考えるのは理解出来た。

 

 戦術の根幹を担う一翼が欠けた以上、多少強引にでも帯島を落として点にしたいという思惑に違いない。

 

 故に、此処で遊真の側に退くという選択肢はない。

 

 案の定、彼はこちらのハウンドをシールドを張る事で凌いで突貫を続行した。

 

(防御した…………! 多分、もう一度ハウンドを撃っても防がれるだけ…………! なら…………!)

 

 帯島は想定通りシールドでの防御を選択した遊真を見て、即座に弧月を抜刀する。

 

 再度遊真に対してハウンドを使っても、同じようにシールドで防がれるだけだろう。

 

 向こうは弓場の到着までにこちらを仕留めなければいけないのだから、退いて仕切り直すという選択肢は取らないであろう事も推察出来た。

 

 だから、そこを狙う。

 

 用いるのは、旋空。

 

 あらゆる守りを突破する防御不能の一撃を、遊真に見舞う。

 

 恐らく向こうは、こちらが再びハウンドを使う事を想定している筈だ。

 

 遊真の機動力を知っている以上、その選択肢がベターなのは誰が見ても分かる。

 

 確かに、ハウンドでも多少は時間を稼ぐ事は出来るだろう。

 

 しかし、その()が続かない。

 

 ログで見た遊真の立ち回りを考慮すれば、接近を許した時点でまず勝ち目はないと思って良いだろう。

 

 自身を卑下するワケではないが、映像で見た遊真の戦いぶりは思わず惚れ惚れする程に洗練されていた。

 

 自分では、正面からはまず勝てない。

 

 そう思わせるに充分な圧を、画面越しの遊真は放っていたのだ。

 

 だから、此処で落とす。

 

 それが出来ずとも、手傷の一つでも与えられれば儲けものだ。

 

 今更逃走が叶うとは思っていないし、それなら腹を括って迎撃をした方が良いだろう。

 

 何せ、向こうにはグラスホッパーがある。

 

 機動力に大幅なブーストをかけるあのトリガーがある以上、追走劇でこちらに勝ち目はない。

 

 故にこの一撃で、最悪でも遊真に回避の択を取らせて時間を稼ぐ。

 

 当たればそれが最良だが、遊真の反応速度なら見切られる可能性も充分にある。

 

 それでも、時間さえ稼げば弓場の合流が間に合う。

 

 当初は折を見て介入して遊真の隙を突く、もしくは援護に出て来た修を仕留める算段だったが、こうなっては仕方がない。

 

 一人では敵わない相手なら、二人がかりで倒す。

 

 ただそれだけの話であり、そこに持っていく為にはこの襲撃を乗り切るのは絶対条件だ。

 

 だから、その為に使える手は何でも使う。

 

 それが、この場での最適解。

 

 そう信じて、帯島は旋空を撃ち放った。

 

「え…………?」

 

 だが。

 

 予想に反して、帯島の旋空は迫る人影を容易く両断した。

 

 避ける気配すら、微塵もなく。

 

 帯島の一撃は、呆気なく相手に直撃した。

 

(…………違うっ!)

 

 否。

 

 そう見えたが、違う。

 

 眼を凝らす。

 

 帯島の旋空によって、斬られた()()

 

 それは、持ち主の手で脱ぎ捨てられた()()()()()()であった。

 

 とうの遊真本人は、影も形もない。

 

(何処に…………っ!?)

 

 そして、気付く。

 

 帯島の背後。

 

 そこに、地面に着地してその手にスコーピオンを携えた遊真の姿がある事に。

 

 既に、距離は至近。

 

 退避は、まず不可能。

 

 防御が間に合うかどうかも、賭けといったところだ。

 

 だが、やるしかない。

 

 帯島は目の前の遊真に全神経を集中し、その一挙手一投足を見逃さないよう注視して。

 

「…………え?」

 

 ────────気付けば、その背に地面から伸びた刃が突き立っていた。

 

 何が、起きたのか。

 

 帯島は背中から突き立ち自身の胸を貫いた刃の出所を見て、気付く。

 

 そのブレードは、地面を突き破る形でこちらに伸びていた。

 

 この現象は、知っている。

 

 もぐら爪(モールクロー)

 

 地面や壁を経由してブレードを出現させる、スコーピオンの派生技術。

 

 遊真本人が握っていたブレードは、あくまで囮。

 

 本命は、このもぐら爪を用いて帯島を仕留める事だったのだ。

 

 現に、帯島は遊真本人への警戒に全神経を使っていた為、もぐら爪の存在に気付く事が出来なかった。

 

 猛吹雪で足元すら碌に見えない環境も、それを後押ししたのだろう。

 

 結論すれば、帯島は遊真に良い様に踊らされる形で敗北したのだ。

 

「…………弓場さん、すみません」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が、帯島の敗北を告げる。

 

 直後、彼女の戦闘体が崩壊し、光となって消え失せた。

 

 

 

 

「玉狛のメテオラ起爆で脱落者は出なかったが、ここで空閑が帯島を撃破…………! 玉狛に二点目が入ったぜ!」

「切り替えが早いな。判断も悪くない」

 

 蔵内は千佳がやられてすぐに次の策に出た玉狛を、修の判断を評価して頷いた。

 

 戦術の根幹を成していた置きメテオラの設置役である千佳を失ったのは、玉狛にとって大きな痛手だ。

 

 しかし、だからこそその情報が弓場隊にも確定情報として広まる前に次の手に打って出た判断の速さは大したものだ。

 

 千佳を失ったのは経験不足に依るものが大きいとはいえ、すぐに立て直しを図れるあたり王子の教育の成果が見て取れたと言えよう。

 

「そうだね。流石にタネが割れている以上、単にメテオラを起爆しただけでは点を取る事は不可能だ。だが、あれだけの規模の爆発である以上、咄嗟の回避は非常に難しい。よって、あれを凌ぐ為にはシールドで防御を固める他ないワケだけど」

「それを利用して、障害物を物理的に排除した上で帯島の位置を特定したワケだな。空閑本人はグラスホッパーで上空に跳び上がっていたし、爆破で一瞬とはいえ猛吹雪が晴れたワケだからその瞬間に帯島を視認していたんだろうな」

「そうだね。今までそれをしなかったのは、恐らくアマトリチャーナが爆破の効果範囲内にいたからだろう。アマトリチャーナも爆破自体はシールドで防げるだろうけど、それで位置がバレるのを嫌ったワケだね」

 

 だけど、と王子は続ける。

 

「そのアマトリチャーナが落ちた事で、爆破を躊躇う理由がなくなった。奇しくも、香取隊の行動が起爆の引き金を引いた形になったね」

 

 今回、玉狛が起爆からの帯島奇襲に踏み切った最大の理由は千佳の脱落である。

 

 これまではたった今爆破したメテオラの効果範囲内に千佳がいた為に彼女の退避が完了するまで起爆には踏み切れなかったのだろうが、その彼女本人が落ちた事でそれを躊躇う理由がなくなった。

 

 恐らく、千佳の脱落という玉狛にとっても想定外だった事象がなければ、このタイミングでの起爆は有り得なかっただろう。

 

 そう考えれば香取隊の行動がこの展開を決定づけたとも言えるあたり、面白いところではある。

 

「それから、オビ=ニャンを仕留めた手際も大したものだよね。最初にハウンドをシールドで防御した事でオビ=ニャンに強引な突破を狙っていると認識を植え付けた上で、バッグワームを使った身代わり奇襲。最後にはもぐら爪(モールクロー)まで使う徹底ぶりだ。やっぱり、クーガーは侮れないね」

「そうだな。帯島には弓場さんとの合流まで持ち堪えられれば良いという目算もあっただろうから、そこを巧く突いた形になる。幾ら猛吹雪で視界が悪いとはいえ、バッグワームを身代わりに使うという発想力も驚嘆に値するな」

「だよなー。ああいう使い方があるなんて初めて知ったぜ」

 

 うんうん、と蔵内の言葉に同意して光は頷いた。

 

 バッグワームは基本的にレーダーから身を隠す為のものであり、実際に纏うマントはその効果を齎すアクセサリーに過ぎない、というのが概ねの隊員の認識だろう。

 

 実際には今回玉狛がやったように環境色と同じ彩色にする事での迷彩効果も狙えたりするのだが、大体の場合はレーダーから映らなくなる効果の方が本命であり、実際に纏うマントはそれに伴うオマケという印象が強い筈だ。

 

 遊真はそれを今回身代わりとして用いて、戦果を挙げた。

 

 その発想力は驚嘆すべきものであり、発言者が表情筋があまり動いていないように思える蔵内であったとしても同意するのも頷ける。

 

 なお、とうの蔵内は初見の印象と異なり実はかなり涙もろいのだが、そこは置いておく事とする。

 

「これで玉狛に二点目が入って、香取隊は一点、弓場隊はまだポイントなしだね。残り一人になって弓場隊はかなり厳しいけれど、もう爆弾の追加がない以上玉狛も余裕があるワケじゃあない」

 

 王子はそう告げると、画面を見てにこやかに微笑んだ。

 

「もう、試合は佳境だ。此処からどう盤面が動くのか、楽しみだね」

 

 その視線の先、画面の中で駆けていく修の姿が映る。

 

 弟子の奮闘する姿を見て、王子はより一層笑みを深くするのだった。

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