香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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弓場隊Ⅱ

 

『葉子、帯島ちゃんが空閑くんに獲られた。もうすぐ、空閑くんと弓場さんが接敵するみたい』

「さっきの爆発の時に位置を見抜いたワケか。先を越されたわね」

 

 香取は樹里からの報告を聞き、溜め息を吐く。

 

 遊真によるメテオラ起爆そのものは充分防御が間に合うものではあったが、そのあまりにも常識外れな効果範囲から抜け出す事までは出来なかった。

 

 故に香取もまた固定シールドで難を逃れる以外の選択肢を取れず、既に上空へと逃げていた遊真の行動を阻止出来なかったのだ。

 

 あの爆発を凌ぐ為には、シールドでの防御が必須であった。

 

 それを利用して玉狛は帯島の位置を炙り出し、そこへ遊真を急行させて落としたのだろう。

 

 固定シールドは強固な反面、使えばその場から動けなくなるという無視出来ないデメリットが存在する。

 

 これは状況によっては致命的と成り得るものであり、相手の攻撃に対して必ずしも固定シールドが最適解に成り得ない理由となる。

 

 固定シールドは確かに並大抵の弾幕は防ぎ切るし、全方位からの攻撃を受けたとしても早々破られる事はない。

 

 しかし広げたシールドである以上硬度には限度があり、アイビスのような強力な点の攻撃の前には破られるし、旋空も基本的に防げないと考えた方が良いだろう。

 

 千佳レベルの常識外のトリオンの持ち主のそれであればまた変わってくるが、並のトリオンで作られた固定シールドは絶対の盾と称するには穴が多いのだ。

 

 それでも千佳のメテオラを防ぐ為には最適であるのは事実であり、足場ごと吹き飛ばされても崩れないという点でも優れている。

 

 だが、それでも一度張ってしまえば移動を阻害されるという事実は消えない。

 

 玉狛はそれを利用してこちらが固定シールドを張るよう誘導し、爆発で障害物を纏めて吹き飛ばして帯島の位置を炙り出したのだ。

 

 これまでそれを使わなかったのは、爆発の効果範囲に千佳がいた為だろう。

 

 先程千佳が緊急脱出(ベイルアウト)した場所は、今の爆発の効果圏内であった。

 

 だからこそ使用を渋っていたのであろうが、奇しくもこちらのメテオラ(トラップ)による千佳撃破が起爆の引き金になったのだとも言える。

 

 これでもう巨大メテオラが追加される事はないし砲撃の脅威もなくなったが、二点目を玉狛に取られたのは少々痛い。

 

 残る駒が一筋縄ではいかない者達ばかりな事もあって、少し前のめりになる必要がありそうだった。

 

「樹里、一応聞くけど他に()()は見えた?」

『爆破の時の一瞬の事だから確証はないけど、怪しい所ならあった。一応、MAPのデータと照らし合わせれば分かるかも』

「上出来。華」

『分かった。照合するね』

 

 香取はチームメイトの報告を聞き、頭の中で作戦を組み直す。

 

 本当であれば隙を見て隠れている帯島を落とすつもりであったが、先んじてそれをやられてしまった以上別のプランに移るしかない。

 

 三浦と若村が仕掛けたメテオラ(トラップ)は、今の爆発でかなりの数が吹き飛ばされてしまった。

 

 恐らく、あの起爆は帯島を炙り出す為だけではなく、何処に仕掛けてあるか分からない地雷を物理的に消滅させる狙いもあったのだろう。

 

 玉狛は、香取隊(こちら)に時間を与え過ぎた。

 

 三浦と若村には試合開始後からひたすらに置きメテオラを仕掛ける事に専念するように告げてあり、彼等は忠実にその指示に従って動いていた。

 

 一応華が効率的な設置ルートを指示はしていたが、敵を探すでもなくひたすらに罠を仕掛け続けるのは神経を使った事だろう。

 

 それに関する労いは後にするとして、彼等の頑張りの大半が文字通り吹き飛ばされたのは少々痛い。

 

 一応最大の狙いである千佳の撃破は遂行出来たので成果がなかったワケではないが、地雷の存在によって玉狛の動きを縛る目的もあったので万々歳とはいかない。

 

 故に、此処から盤面を動かすには少々工夫が要るのは確かだった。

 

(この場合、三雲(メガネ)がやりそうな行動は────────────────よし、これで行くか)

 

 香取は、自身の思考を言語化する事に慣れていない。

 

 頭の回転自体は速い為直感的に正解に辿り着きはするが、それを周りに説明する能力に欠けているのだ。

 

 少なくとも、修のように懇切丁寧に仲間に作戦を説明してその通りに動いて貰う、というタイプではない。

 

 単に思考の結果だけを開示して、それに仲間を従わせる、というのが香取の指揮のやり方だ。

 

 これまでは彼女の天才性に対するチームメイトの理解が足りていなかった為指揮として成立していなかったが、樹里との騒動や大規模侵攻を経た事で仲間内の結束が強まり、この方法でも指揮を執れるようになったのである。

 

 無論香取の指揮が説明不足が常である事は変わらないので、そのあたりは華がフォローする形になる。

 

 華も口が回る方ではないのだが、完全感覚派な香取と異なり理屈を重視する理論派である為、ある程度香取の思考の流れを読み解いてそれを噛み砕いて説明する事は出来るのだ。

 

 無論幼馴染故の理解あっての事だが、これは身内部隊という性質を活かした形になる。

 

 香取隊は他の部隊と異なり完全に香取を中心としたプライベートの関係者のみで構成されており、部隊間()()の繋がりではなく公私に渡って関係を築いている間柄である。

 

 以前は身内だけしかいない事が悪い意味で作用して部隊間の空気がギスギスしていたが、今はそれもなくなっている。

 

 身内故の遠慮のなさがかつては安易な罵倒や口喧嘩に発展しがちであったが、今は良く知る間柄である事を活用して部隊間の意思疎通をスムーズにする事に成功しているのだから分からないものである。

 

 香取は作戦を組み終えるとまずは華にそれを話し、チームメイトに通信を繋いだ。

 

「雄太、麓郎。アンタ達に指示を出すわ。華に案内して貰うから、指定した場所に行きなさい。そしたら────────」

 

 

 

 

「────────!」

 

 帯島を撃破した、その直後。

 

 遊真は殺気を感じ取り、その場から跳び退いた。

 

 次の瞬間、彼のいた場所に無数の銃弾が叩き込まれる。

 

 その射線の向こうには、拳銃を抜き放った弓場が舌打ちをして遊真を睨み(ガン)つけていた。

 

「…………間に合わなかったか。やってくれたじゃねェか、空閑ァ」

「────────」

 

 遊真はこちらを見据える弓場に対し、真っ向から視線を返す。

 

 たった今跳び退いた事で、両者の距離は凡そ25メートル程度といったところだ。

 

 弓場の射程は22メートル強と聞いているのでギリギリ射程には入っていないが、彼が駆け出せば一瞬で射程圏内に詰められるだろう。

 

 これまでに見た弓場の動きからその走力は低くはなく、むしろ高い部類であると遊真は見ている。

 

 加えてあのリボルバー二丁による早撃ちがある為、一瞬の油断が即死に繋がる厄介な相手だ。

 

 既に弓場隊は残り一人となったものの、決して気を抜いて良い相手ではない。

 

 弓場拓磨という漢は、それだけの脅威なのだから。

 

「────────行くぜ」

「…………!」

 

 戦闘は、唐突に再開された。

 

 弓場は迷う事なく遊真に向かって距離を詰め、それと同時に発砲。

 

 それに呼応するように遊真はグラスホッパーを起動し、空中へ跳躍。

 

 直後、スコーピオンを投擲する。

 

 勿論、当たる事は期待していない。

 

 回避、もしくは防御に一手を消費させ、足止めをするのが狙いだ。

 

 弓場は銃手ではあるが、その本質は射程持ちの攻撃手に近い。

 

 というよりも、剣を銃に持ち替えた攻撃手と言っても過言ではない。

 

 彼の持つ二丁拳銃は可能な限り射程と装弾数を削る事で威力と弾速を上昇させた代物であり、近距離では必殺の武器となるがその反面射程では普通の銃手に劣る。

 

 だが、それでも攻撃手より広い間合いで戦える事に間違いは無い。

 

 故に対攻撃手の戦いでは基本的に弓場が有利なのだが、此処までの悪天候ではそうとは言い切れない部分も出て来る。

 

 視界を覆う猛吹雪は容易く対戦相手の姿を覆い隠すし、遊真はグラスホッパーを持っているので一瞬で弓場の射程外に出る事が出来る。

 

 一度姿を見失ってしまえば、白い闇に溶け込む染色されたバッグワームや隊服の所為で次の襲撃が察知し難くなる。

 

 弓場は攻撃手に近い戦い方をするとはいえ、その本質は銃手。

 

 当然ながら近距離を超えた至近距離ともなれば攻撃手に対しては一手遅れるし、懐に飛び込まれれば流石に分が悪い。

 

 攻撃手のブレードは斬る、払う、突くといった多彩な攻撃方法があるのに対し、弓場は引き金を引いて弾丸を撃つ、という動作しか取れないからだ。

 

 無論彼の早撃ちに対応するのは至難の業だが、ただ振るうだけで攻撃になるブレードトリガーと引き金を引いて弾丸を発射する二工程が必要な銃手トリガーとでは、至近距離での戦闘に於いてはその一歩の遅れが致命的になりかねない。

 

 故に遊真の勝利条件は如何に弓場から姿を隠し、奇襲の条件を整えられるかにある。

 

 流石に真正面から挑めばリーチの差で負けてしまう為、遊真は基本的にゲリラ戦に特化した戦法を取る事になる。

 

 そこで逃げ場として最適なのが、空中だ。

 

 通常の環境であれば下手に上空に逃げるのは狙撃等の的になり易いが、この悪天候下であればそのリスクは一気に下がる。

 

 外岡がそうであったように相当近付かなければ狙撃手といえど標的を狙う事は出来ず、そこまで近付いてくれたなら弓場を放置してそちらを狙うという選択肢も出て来る。

 

 残る狙撃手である樹里の火力は厄介だが、単騎であればある程度はどうにかなる。

 

 この白く閉ざされた視界を利用すれば、狙撃手に接近するのはそう難しくはない。

 

 相手は強化視覚の副作用(サイドエフェクト)を持っているという話だが、サイドエフェクトはあくまでも人の五感の延長線上にある能力であり、超能力のように摩訶不思議な現象を起こせるワケではない。

 

 視力が強化されたとて、物体を透過してその先を視る事は出来ない。

 

 要するに幾ら目が良くても物理的に視界が塞がれていればどうしようもない筈であり、接近出来さえすれば狙撃手の一人くらい屠る事は出来るだろう。

 

 通常の天候であればともかく、この猛吹雪の環境下ではこちらを視認出来るのはある程度近付いた後である筈だ。

 

 だからこそ、むしろ樹里には撃ってきて欲しいくらいなのである。

 

 仲間が全員脱落し攻める以外に選択肢のなくなった弓場と比べれば、厄介さで言えば樹里の方に軍配が上がる。

 

 視界が利かないとはいえ樹里の無差別爆撃は流石に脅威であり、開き直って完全に射手として動かれればその暴威に修が巻き込まれかねない。

 

 故に仕留めるチャンスがあれば積極的に仕留めておきたい相手であり、この動きはむしろ彼女を誘き出す釣りであるとも言える。

 

「…………!?」

 

 だが。

 

 それは、弓場が素直に回避や防御の択を取った場合の話である。

 

 弓場はスコーピオンの投擲に対し大きく回避する事も、シールドを張る事もしなかった。

 

 彼は、あろう事かリボルバーの持つ腕を振るい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

 確かに銃手トリガーの銃身はそれなりに頑丈に作られており、ブレードトリガーの直撃でも受けない限りは破壊はされない。

 

 しかしだからといって銃身の腹でスコーピオンの側面を叩いて軌道を変えるなどといった離れ業を行おうとは、誰が思おう。

 

 一歩間違えれば自分の腕が斬り落とされかねない蛮勇であり、普通思いついても試そうとは思わない。

 

 正直に言って、弓場の覚悟を甘く見ていたとも言える。

 

 仲間全員が脱落し、一人だけ生き残った弓場は最早後がない状況にあった。

 

 そんな状態で普通の戦い方をしていては、勝つ事など夢のまた夢だ。

 

 だからこそ、リスクを許容して賭けに出たのだ。

 

 この場で遊真を取り逃がせば後が厳しい事くらい、弓場は承知している。

 

 幾ら弓場といえど、周りが敵しかいないこの状況で身軽に雪原を跳び回る遊真の位置を完全に見失ってしまえばかなりの窮地に立たされる事は必定だ。

 

 雪の積もった街は相応の機動力の低下を齎すが、遊真にはグラスホッパーを利用した三次元機動がある為それを最低限に抑える事が出来るのだ。

 

 積もった雪に足を取られるならば、そもそも地に足を付けなければ良い。

 

 暴論のような屁理屈であるが、決して間違ってはいないのが厄介な所である。

 

 故に、此処で遊真の企みに乗るのは論外。

 

 多少のリスクを負ってでも、遊真を視界内に留めた状態で戦闘を行う。

 

 それが、今弓場に出来る最善の選択だった。

 

「────────!」

 

 そこで、弓場は目にする。

 

 側面からこちらに向かって来る、一つの影に。

 

 凄まじいスピードで中空を跳び回る姿から、それがグラスホッパーを使っている事は間違いない。

 

 この試合で遊真以外にグラスホッパーをセットしている隊員は、一人だけ。

 

 香取隊隊長、香取葉子に他ならない。

 

 この状況下で、ハンドガンという牽制手段を持つ香取の参戦は少々苦しいところである。

 

 想定していた事態の一つとはいえ、あまり歓迎したくない状況である事は言うまでもない。

 

 これで弓場はグラスホッパーで自在に跳び回る二人のエースと、身を隠す場所もない瓦礫の山の上で迎え撃つしかなくなった。

 

「…………!」

 

 そして。

 

 今回は、それだけでは終わらなかった。

 

 第三の人影に気付いて、弓場がシールドを張った直後。

 

 背後から、無数の弾丸が斉射され弓場のシールドに着弾した。

 

 たった今聴こえた発射音と状況を見る限り、これを撃ったのが誰かはすぐに分かった。

 

「若村か…………!」

 

 この試合で弓場を除けば、唯一の銃手。

 

 若村が持つ、突撃銃型(アサルトライフル)の攻撃に他ならなかった。

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