香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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香取隊Ⅺ

 

「弓場さんとクーガーが戦ってるトコに、ジャクソンが介入したか。中々に良い手だね、これは」

 

 王子は画面に映る光景を見て、意味深な笑みを浮かべる。

 

 そんな王子を見て、光は首を傾げた。

 

 彼女からしてみれば、王子の言葉は少々疑問に思うところがあったからだ。

 

「んー、そうかぁ? 若村と弓場さんの実力差だと、すぐにやられちまうんじゃねーの?」

「1対1ならね。確かに、単騎での実力で考えればジャクソンには悪いけど弓場さんが彼に負ける目はまずない。けれど、これはチーム戦────────────────加えて言うなら、()()()の状況下にあるというのが重要なんだ」

 

 まず前提として、と王子は前置きして続ける。

 

「今の状況として、弓場さんはクーガーと戦闘中だ。だから当然、ジャクソンにかかりきりになるワケにはいかない。射程では弓場さんが有利だけど、少しの隙でも晒せば致命的になるのがクーガーという駒の恐ろしい所だからね」

「そうだな。空閑は身軽で小柄だし、弾を当てるのも至難の業で何より突破力がある。事実上A級クラスの駒を相手にしているなら、他の相手に対して安易に力を注ぐワケにはいかないだろう」

「それに、あの場にいるのはジャクソンと弓場さんだけじゃない。まだ本格的に参戦はしていないけど、カトリーヌの姿もある。勿論こっちも放置出来る駒じゃないから、弓場さんはかなり慎重な立ち回りを求められるんだ」

 

 王子の言う通り、現在弓場は遊真と戦闘中な上に香取まで近付いて来ていて、決して若村にのみ注力出来る状況にはない。

 

 仮に若村だけを集中して叩けばすぐに落とす事も出来るかもしれないが、それをすれば遊真か香取が斬り込んで来るであろう事が容易に想像出来る為迂闊に動く事が出来ないのである。

 

「だから、()()()()()が此処ではかなり効いて来るんだ。弓場さんのリボルバーは知っての通り射程と装弾数を切り詰めて威力と弾速に特化した仕様だけど、当然通常の銃手トリガーと比べて射程は短い。特に、相手が突撃銃型(アサルトライフル)ともなれば猶更だね」

「取り回しに特化した拳銃型や近距離での面火力を重視した散弾銃型と違って、突撃銃型は単純に銃手としての中距離火力と安定性を突き詰めたタイプだからな。射程も長いし、連射性能もかなり高い。だから、若村は弓場さんに対しては相手の射程外から一方的に弾を撃ち続ける事が出来るんだよ」

「勿論機動力の差があるから普通ならシールドを張って距離を詰めれば簡単に有利不利は逆転するんだけど、今それをすればどうなるかは自明の理だからね。弓場さんも、安易には動けないというワケだ」

 

 そして、その状況下では単純な射程の違いが大きく響いて来る。

 

 弓場のリボルバーは王子の説明した通り射程と装弾数を切り詰めて威力と弾速に特化しており、通常の銃手トリガーと比べればかなり射程は短くなっている。

 

 その為、距離を維持する事さえ出来ればオーソドックスな突撃銃型(アサルトライフル)タイプのトリガーを使う若村は一方的に攻撃を行う事が可能なのだ。

 

 故に、射程の差異は明確な不利要素として現出するのだ。

 

 勿論普段であれば、機動力の差を活かして距離を詰めて銃撃する事も可能だろう。

 

 残念ながら若村の走力では、直線距離では弓場の足に勝ちようがないからだ。

 

 そして距離を詰められれば若村の側に成す術はなく、そのまま落とされてしまうだろう。

 

 ────────あくまでも、これが1対1の戦いであれば、の話であるが。

 

 現在、弓場は遊真と香取という二人のエースに警戒しながらの戦闘を強いられている。

 

 特に遊真とは接敵の真っ最中であり、余計な力を割く余裕などない。

 

 その状況下では強引に若村に接近するのはリスクが高く、隙を突かれて落とされる可能性も大いに有り得る。

 

 今は自分一人しか隊の生き残りがいない以上、弓場は安易に動くワケにはいかない。

 

 何せ、まだこの試合で弓場隊は一点も得点していないのだ。

 

 このまま落ちれば0ポイントで終わる事になり、流石にそれは看過出来ない。

 

 その心理的な縛りが、若村を守る防壁として機能しているというワケだ。

 

「けれど、弓場さんも後がないからチャンスがあれば誰が相手であろうと獲りに行く事になるだろうね。そのあたりをどう捌くかが、今後の趨勢を決める事になると思うよ」

 

 

 

 

(うざってェ…………! 良い攻撃するじゃねェか、若村ァ!)

 

 弓場はシールドで若村の銃撃を防御しながら、内心で彼に称賛を送った。

 

 此処で悪態ではなく称賛になるあたり、彼の人の良さが滲み出ている。

 

(けど、こりゃあ厄介だなァ。香取も中々仕掛けて来ねェし、我慢ってモンを分かってやがる)

 

 しかし、現状が不利である事に変わりはない。

 

 現在弓場は遊真との戦闘の最中であり、そこに若村が介入して来ている形になる。

 

 遊真は先程からグラスホッパーで跳び回りながら散発的にスコーピオンを投げつけて来ており、一向にこちらに近付いて来る気配がない。

 

 いっその事近付いてくれさえすればやり様はあるのだが、どうにも遊真の側に攻めっ気が見えない。

 

 だからこそ、若村の銃撃が効いて来るのだ。

 

 弓場と若村とでは、単純に射程の差がある。

 

 威力と弾速に特化した弓場のリボルバーでは、どうしたって通常のアサルトライフル相手には射程の面で劣る。

 

 それを分かっているのか、若村は一定の距離から近付かず銃撃を続けている。

 

 その立ち回りこそが、現状の弓場に対する最適解であるが為に。

 

 一点でも点が欲しい弓場としては誰が相手でも落としに向かいはしたいが、今この状況で強引に動けば二人のエースが動く事が目に見えている。

 

 しかも、自分とは異なり相手にはまだ位置が見えない仲間がいるのだ。

 

 修は先程から何をしているのか分からないし、樹里に至っては大まかな方角以外は不明という有り様だ。

 

 孤軍奮闘するしかなくなっている弓場では、向こうとは切れる手札の数が違い過ぎる。

 

 外岡が早期に落とされ、帯島もまた撃破された事で実質手足がもがれたような状態になってしまっているのである。

 

 それを行ったのがどちらも玉狛であるあたり、今回彼等は確実に弓場隊(じぶんたち)を対策して試合に臨んだのだという事を思い知らされている最中であった。

 

(嫌みな程合理的だなァ、三雲って奴は。流石、王子の弟子なだけはあるか)

 

 此処に来て自分は、王子の弟子であるという修の駒としての性質(パーソナル)を軽視していた事に気が付いた。

 

 王子の()()()()()は、元々同じ部隊だっただけに良く知っている。

 

 その王子の教えを受け継ぎ、更に彼と波長が合うような精神性をしているのだから、徹底して対策(メタ)を積んで来る事くらい予想しておくべきだったのだ。

 

 彼等玉狛第二がROUND2で戦った相手がどちらも分かり易い弱点を抱えていた相手だっただけにそこを突いた悪辣さに目が行きがちだが、あれは明確な穴があったから突いただけであり、本当に目を向けるべきは相手の弱みを最大限に利用した玉狛の巧みさと、その洞察力である。

 

 相手の弱みを突ける、という事は対戦相手の研究を怠らなかった事の証左であり、それは称賛されこそすれ決して非難されるような事ではない。

 

 勝負の世界は極論勝ち負けが全てであり、ルールに違反していない以上は相手がどんな手段を使おうが対応出来ずに負けた方が悪いのだ。

 

 ランク戦の雰囲気が部活の試合じみている為忘れがちになる者もいるが、これは歴とした()()()()()()()()()である。

 

 弓場を含め戦いを楽しんでいる者が多い事も否定はしないが、その本質は()()で成果を挙げる為の積み重ねの一環だ。

 

 決して生身の傷付く事のない仮想空間での戦闘は、極論実戦に向けての準備運動に過ぎない。

 

 故に、ランク戦での経験は実際の戦場での対応力に直結する。

 

 大規模侵攻で特級戦功という戦果を挙げた修は、それを理解していたのだろう。

 

 だからこそ、玉狛は相手の研究を怠らず、その性質に応じた戦術を徹底した。

 

 その結果としてあるのが今の自分の有り様であり、認識が甘かったと言わざるを得ないというのが正直な所だ。

 

(ただのルーキーなんて、とんでもねェ。こいつァ大した度量(タマ)だ。それを見抜けてなかった時点で、俺もまだまだ甘ェ)

 

 だが、と弓場は吹雪の向こうでこちらを睥睨する遊真を、そして今も尚銃撃を続けている若村を一瞥した。

 

(送り出した神田を安心させる為にも、無様は真似は出来ねェ。もう勝ちの目が薄いのは百も承知だが、最後まで足掻かせて貰うぜ)

 

 

 

 

「葉子、今の所弓場さんが距離を詰めて来る様子はねぇ。これでいいんだよな?」

『ええ、そのまま撃ち続けなさい。でも、相手の動きにはしっかり注意して。弓場さんにしろ空閑にしろ点が欲しい筈だから、その場で一番弱いアンタを狙って来る可能性は充分あるからね』

 

 若村は分かった、と言って頷く。

 

 現在、彼は香取の指示で弓場に対して銃撃を続けている。

 

 傍から見れば弓場と戦闘している遊真の援護にも見えるが、あくまでも彼の狙いは戦況の膠着である。

 

 攻撃手である遊真と銃手ながら近距離専門である弓場が相手であれば、若村の持つ射程はかなりの有利要素となる。

 

 射手と異なり引き金を引くだけで弾を撃てるので、充分に注意していれば弾幕を張るだけでそれなりの牽制になって相手を寄せ付ける事が無いからだ。

 

 無論、シールドを張っての強引な突破の前には無力だが、今は弓場と遊真が睨み合っている為にそのリスクはある程度抑えられている。

 

 弓場としては無理な突破を狙った隙を遊真に突かれる危険があるし、向こうもまた安易に近付いて弓場の銃撃を喰らうのは御免な筈だ。

 

 更に本格的に参戦はしていないとはいえ香取も近くで待機しており、実力的にはこの場で最も劣る駒である若村が狙われ難い状況を作り上げる事に成功している。

 

 但し、それでも若村が両チームにとって魅力的な()である事に変わりはない。

 

 弓場も遊真も、無理をしてエースを倒すよりは正面から勝負す(ガチ)れば確実に倒せる若村を仕留めたくて仕方ない筈だ。

 

 故に警戒は必須であり、その理屈は分かった為若村も頷いたワケである。

 

 ストレートに「弱い駒だから狙われると意識しろ」と言われた若村であるが、その心に反発はない。

 

 自分が弱い事などとうに承知であり、今更張るべき意地など残っていない。

 

 以前であれば反射的に言い返したかもしれないが、それがどれだけ見苦しい事だったのかを自覚した今となっては黒歴史のようなものだ。

 

 それに、ROUND2での修の立ち回りを見て多少の意地で迷惑をかけるよりは自分の価値を客観視してそれを利用するくらいで丁度良いのだと学んだ、という事情もある。

 

 修が証明した通り、弱さ、実力の低さというものは武器になる。

 

 勿論それが極まっている修と違い若村は彼程極端に弱くはないが、B級上位という魔窟では少々見劣りする駒であるのは確かだ。

 

 銃手としての腕は並だし、犬飼の教導で成長はしたがまだまだサポーターとしての能力は発展途上どころか最低限のレベルをクリアした程度でしかない。

 

 そんな自分がB級上位勢にとっては狙い易い駒である事は、今更言うまでもない。

 

 だから、それを利用するくらいしなければ此処から先チームに貢献する事など夢のまた夢だろう。

 

 香取はこんな自分でも役に立てると言ってくれたし、折り合いが悪かった樹里も正面から向き合ってくれるようになった。

 

 なら、自分が頑張らない理由はない。

 

 以前と異なり香取の性質もある程度理解出来た今となっては、彼女の指示に従う事に否やは無い。

 

 聞いた作戦内容も合理的であったし、特に否定する理由が見つからなかった、というのもある。

 

 若村は銃撃を続けながら、よし、と気合いを入れ直した。

 

(とにかく、此処で時間を稼ぐ。それが、今のオレが出来る精一杯なんだからな)

 

 

 

 

「────────そろそろかな」

 

 猛吹雪の中、修は視界の先にある巨大な白い物体を前に頷いた。

 

 雪に埋もれた巨大な箱の正体は、規格外の大きさを持つトリオンキューブ。

 

 千佳が残した、最後のメテオラであった。

 

 今の修の位置は、遊真達が戦っている場所とそう離れてはいない。

 

 先程の起爆範囲の、ギリギリ外側。

 

 そこに、このメテオラは配置してある。

 

 この場での起爆に成功すれば、主戦場は問題なく巻き込める位置でもあった。

 

(空閑一人だと、今の状況じゃ決定打が足りない。なら、もう一度爆破でチャンスを作って点を取る。少し不安要素はあるけど、やるしかない)

 

 修がやろうとしているのは、この場での炸裂弾(メテオラ)の起爆である。

 

 現状、自分が一人であの主戦場に乗り込んでも碌な活躍は出来ない事は理解している。

 

 香取と弓場の二人のエースのいる戦場では、単騎の駒として圧倒的に劣る自分が生き残れる目など無いだろう。

 

 それに、両部隊とも保持ポイントがそう離れていないので、あまり相手に得点をする機会を与えたくないという想いもあった。

 

 だからこそ、此処で起爆という形でチャンスを作りそこを遊真に突いて貰う。

 

 起爆は当然ながら修のアステロイドで行う為、自分に逃げる時間はない。

 

 修の固定シールドで千佳のメテオラの爆発に耐え切れるかは不明であるが、一応試合前の実験では辛うじて耐える事は出来る計算ではあった。

 

(とにかく、やるしかない。当初の想定とは結構ズレちゃったし、香取隊が動く前に何とかしないと)

 

 何より、此処で修が起爆を担当する前提で遊真には無理な攻めっ気を出さないよう伝えてあるのだ。

 

 彼が時間稼ぎに徹していたのは、修が此処に到着する時間を待つ為であった。

 

 遊真が稼いでくれた時間は、無駄には出来ない。

 

 そう考えて、修は起爆のアステロイド(ボタン)に手を伸ばした。

 

「────────え?」

 

 だが。

 

 起爆スイッチが、押される事はなかった。

 

 その前に、突然飛来した斬撃が、修の身体を両断したからだ。

 

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 何が起きたのか、分からないまま。

 

 機械音声が修の脱落を告げ、彼は光の柱となって消え失せた。

 

 そして。

 

「────────よし」

 

 その光景を見据える、一つの影。

 

 それは、バッグワームを纏い弧月を振り抜いた状態で佇む、三浦の姿であった。

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