香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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香取隊Ⅻ

 

「おーっと、此処で三雲が緊急脱出(ベイルアウト)…………ッ! 三浦の奇襲で、遂に玉狛の指揮官が落ちたぜ!」

「まさか、こうなるとはね。中々に強かじゃないか、カトリーヌ」

 

 王子は修脱落の報を受け、眼を細めた。

 

 その瞳には弟子が落とされた事への落胆ではなく、それを成し遂げた香取隊への称賛が浮かんでいる。

 

 それはそうだろう。

 

 基本的に修は1対1で戦えばまず負けるし、実力的にはギリギリB級下位といったレベルに過ぎない。

 

 彼が接敵すればこうなるのは自明の理であり、だからこそ修は今回悪天候を用いて身を隠して敵を攪乱していたのだから。

 

 そんな修の思惑を超えて彼を仕留めてみせた香取隊にこそ称賛を、というのは当然の話であった。

 

「まー、三雲が弱いのは聞いてたけどよ。それでも、良く見付けられたよなー。こんな吹雪で、視界も利かないってのにさ」

「そこが注目すべきポイントだよ、ハルニレ。ミューラーは何も、闇雲にオッサムを探し当てたワケじゃあない。きちんとした理屈に則って、その居場所を暴いたんだ」

「ほむ? けど、三雲はバッグワームでレーダーから消えてたのにどうやって探し出したんだよ? 弓場さんとニアミスはしたけど、すぐに姿を晦ましてたしよ」

 

 そう、光の言う通り修の隠形は徹底していた。

 

 この猛吹雪という超絶悪天候を用いて姿を隠し、弓場を釣り出す時も囮人形を使って自身は決して姿を見せなかった。

 

 故に香取隊も弓場隊も修の詳細な居場所までは把握出来ていなかった筈であり、何故その彼を探し当てられたのか疑問に思うのも当然と言えよう。

 

「多分、香取隊はオッサムの思考を読んでいたんだよ。オッサムの事だから、此処から盤面をひっくり返す為に必ず三度目の起爆を狙って来る、ってね。だから、メテオラが設置されているであろう場所にミューラーを向かわせたんだ」

「んあー? そんなん、どうやって見当付けたんだよ?」

「これまでのメテオラの起爆範囲と、アマトリチャーナのいた()()だよ。多分ハナナンはそこからアマトリチャーナの移動ルートを逆算して、三つ目のメテオラが置かれているであろう場所を導き出したんだ」

 

 説明するとね、と前置きしながら王子は続ける。

 

「今回、アマトリチャーナのメテオラの起爆は二回あった。つまり、その場所は確実に彼女が通った()であるという事だ。そして、その二つとアマトリチャーナが罠を踏んで緊急脱出(ベイルアウト)した場所の位置関係を考えれば、三つ目のメテオラが置かれたであろう場所に当たりを付けられると思わないかい?」

「あ、成る程なー。確かにそれなら出来るわな」

「ああ、勿論正確なオペレートは必須だがな。染井にはそれが出来た、という事だろう」

 

 理屈としては、こうだ。

 

 これまで玉狛は、千佳のメテオラを二度に渡って起爆している。

 

 そして、次の爆弾を設置しようとしている最中に千佳は地雷を踏んで落ちたと考えれば。

 

 それにより、炸裂弾(メテオラ)の設置場所────────────────即ち、()()()()()()()()というのが見えて来るのだ。

 

 王子は言わなかったがこれを突き止めるには正確なMAP情報が必須であり、言う程簡単な事ではない。

 

 しかし内心でこの試合のMAP選択の裏には何かあると踏んでいた王子は、敢えて突っ込みはしなかった。

 

 そこは公の場で発言すべき事柄ではないのは明瞭で、そもそも基本的に王子は心情的には修の味方のつもりである。

 

 勿論直接ぶつかれば容赦はしないが、彼の目的の実現に関して自分が出来る事があれば協力は惜しまないつもりだし、知られてマズイと思われる事に対して口を噤む程度の分別もある。

 

 なんだかんだで弟子が可愛いという結論に落ち着くのだが、そんな事は当然口には出さない。

 

 別に弟子馬鹿がバレても構わないのだが、単に自分が中立を気取っていた方が後々修の助けになり易いと考えての事だ。

 

 王子は修の事を大変気に入っており、今後も公私に渡って長く付き合い続けたいと思っている。

 

 そのあたり薄々察している蔵内も何も言わないあたり、修の王子隊内の好感度が天元突破(カンスト)しかけているのは事実だろう。

 

 それに隊外で気付いているのは玉狛支部の数人と王子と直接交流を持った水上くらいである為、王子のやり方は間違っていないと言える。

 

 勿論修と話した事すらない光には関係のない部分なので、気取られる事もないのである。

 

「それから、二回目の起爆の瞬間にジュリアーナが三つ目のメテオラの居場所をある程度視認していた可能性もあるね。爆発の瞬間は吹雪が一瞬とはいえ吹き飛ぶから、それで分かったのかもだ」

「最初から、当たりは付けていたのだろうな。そこに木岐坂の視覚情報が加わって確信を得た、といったところか」

「成る程なー」

 

 また、今回はそれに加えて爆破の瞬間の樹里の視覚情報も判断材料になった可能性がある。

 

 幾ら吹雪が吹き飛ぶとはいえあくまでも一瞬なのでその間に目的の物を見付けるのは至難の業だが、強化視覚の副作用(サイドエフェクト)を持つ樹里であれば可能だろう。

 

 彼女が今回その視力を活かせていないのはあくまでも猛吹雪のカーテンで物理的に視界が塞がれているからであって、遮るものがなくなれば一瞬であっても樹里の視線は標的に届く。

 

 勿論あくまでも朧な形での視認であろうが、事前に起爆位置や千佳のいた場所から当たりを付けていたのならば充分な最後の一押しとなっただろう。

 

 これまでの玉狛の残した痕跡を丁寧に追い続けた、香取隊の作戦勝ちと言える。

 

「オッサムの失敗は、同じ戦術に頼り過ぎた事だね。確かにアマトリチャーナの特大メテオラの起爆は有効な戦法だけど、二度も見れば三度目もあると警戒するのは当然だ。そのあたりの配慮が、少し足りていなかったかな」

「このあたりは、戦闘経験の不足が出た形になるな。忘れがちだが、玉狛は今期初めてランク戦に参加するチームだ。こういう所で経験の浅さが出るのは、むしろ当然と言えるだろう」

 

 王子の言う通り、今回の修の失敗は同じ戦術に依存し過ぎた事にある。

 

 確かに、千佳のメテオラ起爆は有効な戦法だった。

 

 それによって実際に二人を落としているのだから、頼りたくなる気持ちも分かる。

 

 しかし、必勝の名を冠した常態戦術(テンプレ)程、対策された時に脆いものはない。

 

 仮に部隊の得意戦術があるとしても、それ()()に頼り切る戦法はいざそれに対策をされた時に崩壊する脆さを抱えている。

 

 B級中位以上の部隊は概ね「こうなれば強い」という展開はあるが、決してそれに頼り切るような愚は犯さない。

 

 たとえば今戦っている弓場も二丁拳銃による銃撃は強烈だが、だからといって常時両攻撃(フルアタック)を解禁しているワケではない。

 

 場合によっては帯島や外岡と連携した堅実な戦術も見せるし、単にアステロイドの連打だけではなく時と場合によっては変化弾(バイパー)を用いる事もある。

 

 このように、如何にチームにとって()()戦術があろうが、常にそれを前提とした戦略では相手の対策が刺さった時に容易く崩壊する脆さを抱えてしまうのだ。

 

 故に得意戦術というものは()()()()()()()()()()()()()()()()くらいに留め、サブプランを幾つも用意しておくのが普通なのだ。

 

 これはランク戦の経験を重ねれば自然と分かる事であるのだが、修はランク戦を今回を含めてたったの三度しか経験していない。

 

 それでこれだけの戦果を挙げているだけ大したものだが、彼は指揮官としては素人である事に変わりはない。

 

 王子の教導によって知識面は大幅にカバーされてはいるが、それでも()()()()というものが圧倒的に足りていないのだ。

 

 こればかりは訓練で教えられるようなものではなく、実際に体験を積み重ねるしかない部分なのだ。

 

 そこがまだ実感出来ていなかった事が、今回修が香取隊の手を読み切れなかった原因と言える。

 

「さて、解説は此処までにしよう。ミューラーという駒まで解禁した以上、香取隊はもう時間をかけるつもりはない筈だ」

 

 だから、と王子は続ける。

 

「────────これから一気に動くよ、盤面が。多分、その為にミューラーをあそこに配置したんだろうからね」

 

 

 

 

「葉子ちゃん、三雲くんを落としたよ」

『良くやったわ…………っ! ()()は…………っ!?』

「今、目の前にあるよ。間違いなく、雨取さんのメテオラだと思う」

 

 三浦は通信で香取にそう告げると、視界の先にある巨大なトリオンキューブを見上げる。

 

 吹雪で全体像は良く見えないが、先程修が弾を撃ち込もうとしていた事からあれが置きメテオラである事は間違いない。

 

 その報告を聞いた香取はよし、と意気込んだ。

 

『じゃあ、()()()()()。巻き添えで吹き飛ばないよう、気を付けなさいよ』

「了解」

 

 そして。

 

 香取の指示を受けた三浦は手に持っていた弧月を無造作に投擲し、直後に固定シールドを展開。

 

 次の瞬間、弧月がトリオンキューブに到達。

 

 刃がそのカバーを破壊し、膨大な光の濁流が爆発となって戦場を呑み込んだ。

 

 

 

 

「────────!」

 

 修の脱落報告の直後、遊真はその光を眼にした。

 

 その方角に()があるかを知っている遊真は、即座にグラスホッパーを踏み込んだ。

 

 メテオラ自体は固定シールドで防げるが、現在上空にいる遊真にとっては着地してシールドを張るよりも上に逃げた方が手っ取り早い。

 

 故に遊真は迷いなくグラスホッパーを踏み込もうと、足を延ばして。

 

「…………っ!」

 

 ────────その足を、真下からの銃撃で撃ち抜かれた。

 

 眼下を、見る。

 

 そこには、シールドも張らずにこちらに銃口を向ける弓場の姿があった。

 

 理解する。

 

 爆発の到達前、爆風によって吹雪が一時的に吹き飛ばされる最中。

 

 弓場は姿が露になった遊真に向けて、銃撃を撃ち放ったのである。

 

(充分距離を取っていたハズ────────────────いや、そうか)

 

 だが、遊真は弓場の銃撃が届かない距離を保っていた筈だ。

 

 だというのに、現実に彼の弾は遊真に届いている。

 

 それは何故か。

 

 答えは、弓場が使用した弾が()()()()()()()()()()からだ。

 

 弓場は普段弾倉に込めているのはアステロイドであるが、場合によってはもう一つの弾を使う事がある。

 

 それこそが、変化弾(バイパー)

 

 変幻自在の軌道を描く、弓場のもう一つの弾丸である。

 

 バイパーは威力ではなく、その自在な弾道を以て相手を仕留める特殊弾だ。

 

 そして射手とは異なり即席の調整は出来ないものの、予め決めておいた弾道から選び取って撃つ事が出来る弾ではある。

 

 弓場はその性質を利用して、予めアステロイドでは届かない距離に届くように射程を調整した弾道を用意していたに違いない。

 

 近距離で戦う銃手という特殊な性質を持つ弓場の射程である22メートルという距離は、彼を知る者にとっては既知のものだ。

 

 だからこそそれ以上距離を取れば安心だと思い込んでいる相手に弾を叩き込む為に、そういう弾道を用意していたのだろう。

 

 そして、起爆の瞬間と言う普通なら回避か防御に全力を注がなければならない場面を狙い、遊真に弾丸を届かせた。

 

 その度胸は、弓場らしいと言うべきだろう。

 

「────────!」

 

 そして次の瞬間、夥しい光が周囲を呑み込んだ。

 

 規格外のトリオンによって齎された爆発が、雪原と化した街を蹂躙する。

 

 光が、視界を覆い尽くした。

 

「…………ッ!」

 

 結果。

 

 遊真は間一髪でグラスホッパーでの退避に成功していたが、無傷とはいかなかった。

 

 一瞬のタイムラグにより、爆発に両足を持っていかれてしまったのだ。

 

 これでは、まともな戦闘継続は不可能。

 

 そして。

 

「────────」

「…………!」

 

 それを見逃す、香取ではない。

 

 グラスホッパーを用いて肉薄していた香取は、即座に拳銃を撃ち放つ。

 

 足をもがれ、回避の択が取れない遊真はそれをシールドで防御する他無い。

 

「────────ッ!」

 

 そのシールドを、貫く光があった。

 

 それが放たれたのは、地上。

 

 丁度遊真の真下に位置する、瓦礫の中。

 

 そこにいつの間にか潜んでいた樹里が、アイビスの銃口をこちらに向けていた。

 

 少女の弾丸は、正確に。

 

 遊真の胸を、撃ち貫いていた。

 

「参ったね。けど、次は負けない」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 アイビスによって胸部を吹き飛ばされた遊真は、そう言って笑い。

 

 罅割れたトリオン体は崩壊し、光の柱となって消え失せた。

 

 

 

 

「ぐ…………っ!?」

 

 そして。

 

 地上では、固定シールドによって難を逃れていた若村が銃撃によってその右腕を吹き飛ばされていた。

 

 撃ったのは当然、弓場である。

 

 彼は間一髪でシールドの展開が間に合い、爆発を凌いでいたのである。

 

 当然、彼が狙うのはこれまで二人のエースの存在によって標的に出来なかった若村である。

 

 遊真の足を撃ったのは、あくまでも香取隊の矛先を彼に向かわせる為、

 

 本命は、そうして出来た隙に若村を落とす事だった。

 

 だが、それは若村も予想していた。

 

 だからこそ咄嗟の集中シールドが間に合い、何とか急所だけは守る事が出来た。

 

 しかし被弾を避けられたワケではなく、右腕を突撃銃ごと吹き飛ばされてしまったのである。

 

 致命傷ではないが、既に銃ごと腕を落とされている以上最早反撃は出来ない。

 

 そして最早、弓場に攻撃を躊躇う理由など何もなかった。

 

 弓場は再装填を終えたリボルバーを、再び若村に向ける。

 

 もう、時間はない。

 

 遊真を落とした香取が此処に来る前に、決着(ケリ)を付ける必要がある。

 

 未だ、香取隊は全員が生き残っている。

 

 此処で若村を落としておかなければ、4対1の圧倒的劣勢な状況が待っているのだ。

 

 そうでなくとも遊真が消えた今、香取隊には何の制限もない。

 

 総火力を以て、弓場を押し潰して来るだろう。

 

 その前に、一点をもぎ取る。

 

 それが今の弓場に出来る、最善であるのだから。

 

「…………っ!?」

 

 ────────だが。

 

 その銃口が、火を噴く事はなかった。

 

 上空が降り注いだ無数の流星が、弓場の身体を刺し貫いたが故に。

 

 真上という死角から墜ちて来たそれは、紛れもなく追尾弾(ハウンド)

 

 されど、先程樹里は地上から狙撃を行ったのを確認している。

 

 ならば、この弾は何なのか。

 

(そうか…………! 予め高高度に撃ち上げておいて、此処に落ちて来るように調整してたってワケかよ)

 

 真相を、理解する。

 

 樹里は狙撃を行う前に予め高高度に山なりになるような弾道でハウンドを撃っておいて、この場所に落ちるようにしていたのだ。

 

 それは、つまり。

 

 若村はただ闇雲に動いたのではなく、その狙いは。

 

 ────────弓場を此処に誘き寄せて樹里のハウンドを当てる事にあった、というワケだ。

 

 ニヤリと、若村が精一杯の笑みを浮かべる。

 

 右腕を失い満身創痍の彼の浮かべるその笑みは、紛れもなく勝利者のそれであった。

 

「────────やるじゃねェか、若村ァ」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が、弓場の脱落を告げる。

 

 称賛の言葉を残し、最後に残った銃手が光の柱となって消えていく。

 

 波乱続きの第三ラウンドは、こうして幕を閉じたのであった。

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