香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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総評/ROUND3

 

部隊得点生存点合計
香取隊426
玉狛第二202
弓場隊00 0

 

「決着~~っ! 弓場隊長が緊急脱出(ベイルアウト)! 試合は6:2:0で香取隊の勝利だぜっ!」

「お見事だね、カトリーヌ。実に鮮やかな手並みだったよ」

 

 試合が終わり、会場が歓声に包まれる。

 

 そんな中で王子は普段通りの冷静な表情で、一人したり顔で頷いていた。

 

「玉狛の仕掛けに度胆を抜かれたけれども、結局最後は全部香取隊が持っていったね。最後までの流れが、とても綺麗だったよ」

「そうだな。けど一応、最後何が起きたかを解説しておこうか。色々、連続して事が起こっていたからな」

 

 そうだね。と王子は蔵内の提案に頷く。

 

 確かに彼の言う通り、最後の局面は目まぐるしく状況が変わっていた。

 

 全てを理解出来ていない者もいる筈なので、説明があった方が良いだろう。

 

「まず、ミューラーはオッサムが起爆し損ねたアマトリチャーナのメテオラを改めて起爆した。狙いは当然、それに伴う混乱で隙を作る事だね」

「置きメテオラは誰が外殻(カバー)を破壊しても起爆するからな。それを起爆しようとしていた三雲を落とした以上、三浦には任意のタイミングで爆弾を起動させる権利を得たワケだからな」

 

 そう、二人の言う通り三浦は修を倒した事で目の前に設置されているメテオラの扱いを自由にする権利を得た。

 

 千佳のメテオラの爆破規模は尋常ではなく、一手対処を誤ればその時点で即死する危険極まりない爆弾である。

 

 そしてだからこそ利用価値があり、香取隊は即断でそれを利用する事を選んだのだ。

 

「香取隊がミューラーをオッサムの下に向かわせたもう一つの目的が、これだったろうからね。爆弾を玉狛ではなく自分達の望むタイミングで起爆させて、最大のチャンスを作り上げる。それが、香取隊の最終作戦の肝だったってワケさ」

「そして、これは香取隊も予想していなかっただろうが、此処で弓場さんが勝負をかけに来た。弓場さんはリスクを冒して空閑の足を削り、自分は若村を落としに行ったんだ。一歩間違えれば自分が爆発に呑まれる危険を冒しながらの行動だから、かなりの綱渡りだったろうな」

「この弓場さんの行動が、一つのターニングポイントだったのかもね。香取隊の当初の想定ではクーガーじゃなく弓場さんを狙っていたのかもしれないし、だとしたらその流れを変えたんだから本当に大したものだよ」

 

 けど、と王子は続ける。

 

「弓場さんのこの行動は、結果的に全面的に香取隊を利する結果になったのは皮肉だけどね。弓場さんとしてはクーガーとカトリーヌを争わせている間にジャクソンを仕留めるつもりだったんだろうけど、ジュリアーナが既に近くに潜んでいた事でクーガーの撃破まで繋げられてしまったワケだからね」

「可能なら若村を倒した後、足を削られて消耗した空閑も狙いに行きたかった筈だからな。そういう意味では、裏目に出たとも言えなくはない」

「とはいえ、邪魔なカトリーヌをクーガーに押し付けるという目的自体は果たしていたんだ。結果だけを見て論じても、少しナンセンスかもね」

 

 王子の言う通り、弓場は恐らく香取の標的を遊真に変えている隙に若村を仕留め、それが終わり次第消耗した両者を叩く心づもりだったのだろう。

 

 弓場の想定では幾ら足を削って隙が出来たとはいえ、遊真は早々には倒れない計算だった筈だ。

 

 しかしそこに、すぐ近くに潜んでいた樹里という乱数が加わった。

 

 誰にも気付かれずに主戦場近くに移動していた樹里は、その狙撃を以て遊真の撃破を成功させた。

 

 香取一人では遊真をその場で固めるくらいが精々だっただろうが、そこに防御不能の樹里のアイビスによる狙撃が放たれた事で、彼の脱落に繋がったのだ。

 

 逃げ遅れた事で爆発に両足を持っていかれていた遊真であるが、彼はいざとなればその状態でも食らいついて来そうな怖さがある。

 

 それを考えれば、あの場面で仕留める事に成功したのは大金星と言えるだろう。

 

「加えて、弓場さんの最大の誤算になったのはジャクソンとジュリアーナの連携だね。前回の試合では連携が組めずに敗退に繋がった両者だけど、今回はきっちり連携を成功させて来たね」

「そうだな。若村は弓場さんの銃撃で即死せず、木岐坂のハウンドが落ちる場所に弓場さんを誘導するという役目を見事にこなして見せた。地味に思えるかもしれないが、これも立派な連携の形だからな」

 

 そして、最も注目すべきなのはあの若村が樹里との連携を成功させた事だ。

 

 弓場の銃撃という特大の殺意を向けられておきながら即死せず、樹里が撃ったハウンドが当たる位置まで弓場を誘い出したその手腕は称賛されて然るべきものだろう。

 

 特に、一撃目でほぼ戦闘不能に追い込まれたとはいえ生存し、試合終了まで脱落しなかった点が素晴らしいと言える。

 

 あそこでもし落とされていれば弓場隊に点が入っていただろうし、弓場に他所に目を向ける余裕が出来てハウンドに気付かれていた可能性もある。

 

 一撃で即死しなかった時点で、若村は充分に仕事をこなしたと言えるのだ。

 

 たとえ絵面が地味だったとしても、チームに貢献した事は間違っていないのだから。

 

「そうだね。弓場さんを討ち取ったのはジュリアーナだけど、それはジャクソンの活躍なしでは成し得なかったと言っても過言じゃない。最後まで裏方に徹するかと思ってもいたけど、いの一番で大金星を挙げたね」

「そーだな。確かに影浦隊(ウチ)も、ゾエが生き残ってりゃそれだけで仕事すっからな。ただ生きてるだけでも役に立つ、ってのは確かだろーぜ」

 

 光は王子の説明を自隊に照らし合わせ、成る程、と頷いた。

 

 影浦隊は北添が適当炸裂弾(メテオラ)で場を攪乱するという、目立つ役割を負った彼が撃ち続ける、または追手を対処している間に影浦やユズルが点を取る、といったやり方を良く採用する。

 

 基本的に着火役の北添の生存については度外視される事が多いが、彼が生き残っている限り何処で爆撃が飛んで来るか分からないので、敵はその対処にリソースを割かざるを得ない。

 

 そうして処理能力を削った敵に影浦が突貫し、乱戦の中で点を稼ぐのが影浦隊の基本戦術だ。

 

 それを考えれば陽動役は出来るだけ生き残った方がチームに貢献出来るのは確かなので、光も王子の説明に納得を得たワケである。

 

「けど、ハウンドってあんなに射程伸びんだなー。何処まで上に上げるんだ、って思ったぜ」

「ジュリアーナはトリオンが豊富だからね。射程に可能な限りトリオンを割り振れば、あのくらいの芸当は出来てしまうのさ。弾速にも結構振ってたみたいだし、トリオン強者の弾丸は厄介だというのが改めて実証された形になるね」

 

 王子は次に、最後の決め手となった樹里のハウンドについて言及する。

 

 樹里の放ったハウンドはかなりの高高度まで撃ち上げられており、尚且つ降り注ぐ弾速も相当なものだった。

 

 遥か上空から一気に飛来した事も、弓場が反応し切れなかった要因である。

 

 王子の言う通り、大分射程と弾速にトリオンを割り振ったのだろう。

 

 代わりに威力は減衰していた筈であるが、元々弾トリガーは直撃すればトリオン体を貫通するには充分なダメージを与えられる。

 

 どれだけトリオンがあろうがトリオン体の強度自体は一定である為、シールドを張られる事を考慮しなければ極論威力は必要無いと言っても過言ではないのだ。

 

 故に樹里は威力は最低限まで落とし、思い切り射程と弾速にトリオンを割り振ったのだろう。

 

 そうでもなければあのような芸当は、まず出来ないであろうからだ。

 

 それでも光が驚いていたのは、その射程が今まで見た事もない程長かったからだろう。

 

 同じトリオン強者の二宮の弾幕は腐る程見た事のある光だが、今回樹里は限界まで射程を上げていた為、既知のトリオン強者の弾幕よりも長い射程に見えていたとしても不思議ではない。

 

 二宮の場合は戦術の都合上ある程度威力も確保する必要がある為、今回の樹里のような極端な調整はまず行わないので無理もない。

 

 加えてこのような極端な調整で結果を出す事が出来たのは猛吹雪という極まった悪天候があるが故、という事も忘れてはならないだろう。

 

 最後まで勝敗に影響したあたり、この猛吹雪という天候がどれだけの力を持つかは分かろうと言うものだ。

 

「今回弓場隊は、その天候と玉狛の奇策、それすら利用した香取隊に終始翻弄された形になるね。最初にトノくんが落ちたのも痛かったし、オビ=ニャンとの連携もやる隙がなかった。徹頭徹尾、主導権を握られたままだったのは弓場さん的にはもどかしかったんじゃないかな」

 

 

 

 

「言うじゃねェか王子ィ。まあ、その通りだがよ」

「弓場さん…………」

 

 王子の正鵠を射ていた指摘に、弓場はそう言って頭をかいた。

 

 ふぅぅ、と大きく溜め息を吐き、弓場は顔を上げる。

 

「大体、王子のヤロウの言う通りだ。俺等は今回、まともに主導権を握れてなかった。トノが落ちたのも俺の指示ミスだし、帯島が落とされたのも俺の見通しが甘かったからだ」

 

 だが、と弓場は続ける。

 

「────────次は、こうはいかねェ。今回で、玉狛のやり口はある程度理解出来た。なら、二の轍は踏まねェよう気ィつけちゃあ良いハナシってだけだ」

「弓場さん…………」

「シケたツラすんじゃねェよ帯島ァ。今回は情けねェ結果に終わっちまったが、まだROUND3だ。ちィと厳しくはなったが、巻き返しはまだまだ出来るさ。それこそ、今期初参加であっという間に此処まで登って来た玉狛の連中みてェになァ」

 

 ニカリ、と弓場は帯島の頭を撫でながら笑ってみせる。

 

 それは試合中の鋭い眼光とは異なる、気の良い兄貴分じみた穏やかな笑みであった。

 

「中位落ちは経験しちまうかもしんねーが、そうなったとしても俺等ならすぐ戻って来れるさ。そん時ァ、俺が責任持って引っ張って行くからよ。それで勘弁してくれや」

「いえ…………! わたしも、頑張りますっ! わたしだって、弓場隊の一員ですからっ!」

「そうっすよ。後で神田先輩にゃ色々言われるかもしれませんが、その時に笑い話に出来るように精一杯やっていきましょう。まだまだこれからですよ、弓場さん」

「おう、ありがとな。オレァ良いチームメイトを持ったぜ」

 

 帯島と外岡の決意表明を受け、弓場はもう一度笑みを浮かべた。

 

 そしてふぅ、と息を吐いて上を見上げる。

 

 かけた眼鏡が、ギラリと眩く輝いた。

 

「今回はしてやられたが、次はきっちり借りィ返してやっからな。おめェー等、覚悟しとけ」

 

 

 

 

「玉狛第二は猛吹雪という極度の悪天候とアマトリチャーナのメテオラの起爆、っていう鬼札を引っ提げて盤面をかき乱しまくったワケだけれど、蓋を開けてみると最終的にそれらを全て香取隊に利用される形になってしまったね。方向性自体は面白かったから、あとは()()()()()が課題かな」

 

 王子はそう言って、玉狛の話へ移った。

 

 修の師である王子の発言であるので、そこには一定の説得力がある。

 

 私情を排して客観的に告げている点も、その公平さを印象付けていた。

 

「確かに、一度目の起爆は大成功だった、と言って良いだろう。けれど、その後も同じ手を使い続けたのは不味かったね。二回目も成功したからこれでいける、と思ったのかもしれないけど、これは経験の浅い者が陥る典型的な陥穽なんだ」

「そうだな。確かに強力な戦術ではあったが、それはあくまでもタネが割れていない、或いは相手がその戦術へ適応しきれていない状況だから活きるものだ。つまりは」

「────────相手に()()()戦術は、ただ使っても成功すると思っちゃいけないって事だね。これは、実戦では鉄則だ。どれだけ強力な戦術であろうと、それを使って来ると分かってさえいれば対策なんて幾らでも立てられるからね」

 

 王子の言う通り、確かに千佳炸裂弾(メテオラ)の起爆は強力な戦術であった。

 

 それで二回も得点したのだから、自信が付くのも無理はないと言えよう。

 

 しかし、既に二回も見せてしまった戦術が、三度目も通じると考えたのは頂けなかった。

 

 どれだけ強い戦術でも、タネが分かっている上にそれが来ると想定までされていれば、やりようは幾らでもあるのだから。

 

「これまでの二試合で、失態らしい失態を犯していなかったのが此処で響いて来た形になるね。ランク戦は、失敗を積み重ねて成長していくものだ。オッサムは戦いに於ける成功体験はそれなりにあったみたいだけれど、逆に()()()()というものに欠けていた。それが、今回の敗因と言えるだろうね」

 

 

 

 

「失敗した経験が足りない、か。成る程、確かにぼくの経験不足が今回の敗因だな」

近界(あっち)じゃ、あんま無い考え方だな。失敗したら普通死ぬんだし、負けても死なないこの世界だからこその考え方だと思うぞ。これは、おれも盲点だった」

 

 修は王子の薫陶を聞き、深く頷いていた。

 

 同様に、遊真もその説明に成る程、と頷いていた。

 

 失敗すれば即死に繋がる近界の戦場で生き抜いて来た遊真にとっては、そもそも()()()()()()()という考え方自体縁遠いものだったのだろう。

 

 故に遊真は他者の失敗例を参考にする事はあっても、自分が失敗をした経験は左程多くはなかった。

 

 それこそ例の黒トリガー襲来事件の時を契機に、彼は慎重な行動を心掛けていたからである。

 

 そう考えるとあの時の失敗経験が遊真を強くしたとも言えなくはない為、内心としては複雑なところであろう。

 

 父親を失った時の記憶は、未だに彼の心を蝕んでいるのだから。

 

「とにかく、これまで以上に情報と検証を進める必要があるな。ヒュースが参加してくれるROUND6まで、可能な限り手札を増やして経験を積んでいかなきゃならない。二人共、頼んだぞ」

「ああ」

「うん!」

 

 チームメイト二人の返答を聞き、修はふぅ、と息を吐いた。

 

 その様子を見ていたヒュースは無言で佇んでおり、特に罵倒も助言もする気はないようだ。

 

 自分が直接参加したワケではないのだから文句を言う筋合いはない、とでも思っているのかもしれない。

 

 そのあたり、生真面目な軍人気質が透けて見えるヒュースであった。

 

「二点しか取れなかったのは痛いけど、まだ挽回は出来る筈だ。ここから、堅実に上を目指していこう。近道なんてないっていうのは、今回で身に染みたところだしね」

 

 

 

 

「香取隊は、ほぼベストな立ち回りと言えたね。オッサムの初見殺しを弓場隊に押し付けて相手の思惑を透かせたし、とにかく堅実な立ち回りが目に付いたね」

「そうだな。以前の攻撃的な立ち回りとは打って変わっているが、猛吹雪という特殊な条件下ではあれがベストだったのも事実だ。細かい所はこれまでにも解説しているし、これ以上は要らないかもな」

 

 一方、香取隊に関しては王子達は素直に称賛していた。

 

 今回彼女達は特にミスらしいミスもなく立ち回っており、その結果として四人全員が生存した状態で試合を終えている。

 

 少なくとも若村は落ちるだろうと予測していただけに、この結果には瞠目せざるを得なかった。

 

「ジュリアーナの超々遠距離狙撃を封じるには確かに悪天候は有効だけど、そうなると逆に彼女達の奇襲を察知し難くなるデメリットが出て来る。それを踏まえて、これから香取隊と戦うチームは戦術を考える必要が出て来るだろうね」

「ああ、極端なMAP選択や天候設定は嵌まれば有効な反面、地形を利用されたりすれば逆効果になるリスクも孕んでいる。それらをどう扱うかが、今後は重要になるだろうな」

 

 今回、香取隊は玉狛が仕掛けた悪天候を逆に利用する形で勝利を収めている。

 

 確かに樹里の眼を封じるには悪天候は有効だが、こういった形で逆用される事もあるというのは中々にネックだろう。

 

 今後、香取隊と戦うチームは頭を捻らざるを得ない筈だ。

 

「おし、終わりだな。ありがとさん」

 

 解説が終わったと判断した光はニカリと笑い、周囲を見回す。

 

 語るべき事は語ったので、これで終わりで良い筈だという判断である。

 

 そして予想通り王子と蔵内がこくりと頷いたのを確認し、光は再び声を張り上げた。

 

「これでB級ランク戦、ROUND3は終了だっ! 次の対戦組み合わせは夜の部が終わった後になるぜ。じゃ、お疲れ様でした、だっ!」

 

 元気の良い光の宣言と同時に、ROUND3は正式に終わりを告げた。

 

 様々な波乱を呼んだ第三試合は、こうして幕を閉じたのである。

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