香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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雨取千佳②

 

 

「────────というワケで、次の試合は那須先輩への対策をメインにやっていきたいと思う。那須先輩は対処を誤るとそれだけで負けかねない相手だし、此処が勝負どころだと思う」

 

 修はチームメイトを前に、作戦の提示を行っていた。

 

 既に、ランク戦ROUND4は明日に迫っている。

 

 故にこれまでも対策を練っていたのだが、それがしっかりと形になった為こうして説明しているのだ。

 

 チーム内での情報共有は、なくてはならないものだ。

 

 生駒隊のようにほぼ事前説明なしでも動けるレベルの部隊は、稀だ。

 

 修達はランク戦初参加である以上、経験が足りていない。

 

 故に、こうした事前準備は必須と言える。

 

 無論、初参加であれだけやれている彼等が異例なのは間違いないのであるが。

 

「たしかに。あの弾幕は正面突破するのは少し骨が折れるもんな。物陰に隠れてならいけるかもだが」

「複雑な地形の場合、那須先輩の機動力が底上げされるから一筋縄じゃいかないだろうけどね。障害物を全く苦にしない射程持ちだから、対応が難しいんだ」

 

 でも、と修は続ける。

 

「那須隊は那須先輩っていう強力なエースがいる割に、そこまで成績は振るっていない。これは那須先輩がエースと隊長を兼任しているから負担が大きいという理由の他に、()()()()に理由があると考えられるんだ」

「ふむ」

 

 修の持論を聞き、遊真は眼を細めた。

 

 否定も肯定もしない。

 

 ただ、説明を待っている。

 

 そんな遊真を見て、修は説明を続けた。

 

「那須隊はログを見る限り、点を取る時は大抵那須先輩のバイパーで相手を倒してる。けど、バイパー自体は威力が低いし、シールドを広げれば集中突破でもされない限り防御は破れない。だから、熊谷先輩の旋空や日浦さんの狙撃なんかと併用して守りを崩してる」

 

 でも、と修は続ける。

 

「レイガストとシールドを併用した村上先輩相手には、防御を崩せずにジリ貧になって負けてる試合があった。こんな感じで、一定以上の対応力と防御能力を持ってる相手には決定打が足りないってのが那須隊の弱点なんだと思う」

 

 修の言う通り、那須隊は那須という凶悪なエースを有する割に成績はそこまで振るわない。

 

 その理由の一つに、火力不足がある。

 

 那須隊が点を取る場合は那須の変化弾(バイパー)で奇襲するかそれを防御した相手に熊谷が旋空を放つ、もしくは茜が狙撃する、といった形となっている。

 

 しかしこの戦術は相手によっては通じ難い場合もあり、那須と同格以上のエースがいる部隊相手だと分が悪い。

 

 また、メインを張る点取り屋が那須しかいない為に彼女の負担が大きく、指揮か戦闘のどちらかが覚束なくなる、といったケースも見られている。

 

 それだけ指揮官とエースの兼任というものの負担は大きく、同じく隊長兼エースである香取がそれをやれているのはある程度の割り切りを行っているからだ。

 

 事前の作戦の立案は主に華が中心となって行い、チーム内でしっかりと作戦を練り上げる。

 

 その上で試合に臨み、咄嗟の判断は香取が即断即決で実行する。

 

 これが出来ているから今の香取隊は巧く回っているのであり、実際那須も似たような事はやっていた。

 

「それから、那須隊は那須先輩が対処出来ない相手をどうにかする手段がないってのもある。香取隊だとワイヤー陣や木岐坂先輩の狙撃や射撃っていう択があるけど、那須隊は極論那須先輩さえ押さえられれば何とかなるからね」

 

 しかし、香取隊との最大の違いは「エースが相手を圧倒する」以外の点取り手段があるかどうかだ。

 

 香取隊であればワイヤー陣による攪乱や樹里という高火力の投入、カメレオンによる奇襲や香取の単騎特攻等の選択肢があるが、那須隊にはそれがない。

 

 那須隊は如何にエースの那須を活躍させるかを戦術の中核に置いており、それ以外の勝ち筋に乏しい傾向がある。

 

 熊谷は受け太刀を軸にした防衛力は高いがその戦法は時間稼ぎや味方を守る事に比重を置いており、単独で点を取れたケースはあまりない。

 

 茜も狙撃手として点を取った事はあるが、それも那須が暴れている状況での不意打ちが前提となる。

 

 故に那須さえ封じてしまえば問題ない、という修の評価は間違っていないと言える。

 

「けど、裏を返せば那須先輩を自由にしてしまうとそのまま試合を持っていかれる恐れがある。だから、その対策に一番力を割く事にしたんだ」

「おれもそれで良いと思うぞ。確かにあの機動力から来る弾幕は厄介だし、自由にしたくないのも分かるからな。けど、諏訪隊はどうするんだ?」

「そっちは、可能なら序盤に諏訪さんか堤さんを落としておきたい。空閑、頼めるか?」

「了解。転送位置にも依るだろうけど、何とかするさ」

 

 また、もう一つの対戦相手である諏訪隊に関しては遊真に任せると修は口にした。

 

 安請け合いしたように見える遊真であるが、実際にそれが可能である以上誇張表現でも何でもない。

 

 遊真は個人の実力だけ見れば、間違いなくA級クラスであるのだから。

 

「諏訪隊は、諏訪さんと堤さんのダブルショットガンの面火力が脅威だけど、そこを封じればどうにかなると思う。だから、合流前にどちらかは落としておきたいからな。勿論、その為に()()()はやるけどね」

「まあ、どちらにしろ手を抜くつもりはないよ。暴れられると厄介だし、可能な限りすぐに落とすさ」

 

 諏訪隊は隊長の諏訪と堤の二人で行うショットガンの面制圧火力が特徴の部隊であり、もう一人の隊員の笹森はそれをカメレオン等でサポートしている。

 

 その最大の脅威は二人が組んでの面火力なので、どちらかを先に落とせれば脅威度が減るのは間違いない。

 

 言うは易しだが、それが実行可能な駒がこちらにはある。

 

 油断は許されないが、問題は無さそうに想えた。

 

「ヒュースは何か意見はあるか?」

「特にないな。お前の方針で問題はないだろう。強いて言えば、那須(ナス)の対策がそれで充分なのか気にはなるがな」

 

 会議を無言で傍聴していたヒュースに修が水を向けると、ヒュースは淀みなくそう答えた。

 

 未だ入隊式を終えておらずチームには加入出来ていないヒュースであるが、試合前の会議にはこうして必ず参加している。

 

 自身が加入前という事もあって積極的に口を出す事はしないが、こうして求められればすぐに答えを返すあたり、その律儀な性格が伺えた。

 

「ヒュースから見て、どのあたりが問題なんだ?」

「那須の対応能力を少し甘く見ているように感じた。オレから見るに、那須の咄嗟の対処能力は相当に高い。多少の小細工であれば、強引に突破して来るだろう」

 

 ヒュースはそこまで言うと一旦咳ばらいをし、話を続けた。

 

「オレの蝶の盾(ランビリス)も相当繊細な制御の要るトリガーだが、那須のあれも似たタイプの制御能力が必要であるように感じた。それをあそこまで使いこなせているのであれば、処理能力は見た目以上に高いと見るべきだろう。後ろに眼がある、くらいに考えて対応を練った方が良い筈だ」

「成る程。なら、ヒュースならどう対応する?」

「一番は、火力で圧倒する事だ。お前の言った通り、那須の弱点は火力不足だ。確かに厄介な駒ではあるが、圧倒的な火力に対する対応策は無いだろうからな。実際、二宮(ニノミヤ)と正面から戦えばどちらが勝つかは明白だろう」

 

 単純明快なヒュースの解答に、成る程、と修は頷く。

 

 確かに火力不足を突くには、それが最適解ではある。

 

 問題は。

 

 どう、それを実行するかであるが。

 

「けど、玉狛第二(ウチ)じゃその選択肢は取れな────────」

「────────()()()()()()() 千佳(チカ)なら、それが可能だ」

「…………!」

 

 だが。

 

 修が敢えて眼を背けていたその答えに、ヒュースは容赦なく切り込んだ。

 

 そこまで言うとヒュースは千佳に眼を向け、口を開いた。

 

「千佳のトリオンなら、問題なく那須を正面から圧殺出来る。どころか、適当に爆撃をするだけで今回の相手なら楽に勝てるだろうな」

「で、でも千佳は人を撃てないから────────」

「────────それは、千佳がそう言っているだけだろう? 実際に試したワケではないし、千佳がそう思い込んでいるだけの可能性もある」

 

 それに、とヒュースは続ける。

 

「オレから見て、千佳は人を撃てる側の人間に見える。メテオラの起爆で敵を倒した時も大きく動揺する姿は見られなかったし、やってみれば大丈夫だった、という事もあるだろう。そのあたり、ハッキリさせておきたい」

 

 突然のヒュースの爆弾発言に、場の空気が静まり返った。

 

 修は呆気に取られているし、遊真はふむ、と眼を細めた。

 

 そして、とうの千佳は。

 

 何処か、()()()()()()()()()()()()

 

「千佳、お前はどう考えている? 今の話を聞いて、何か言いたい事がありそうだが」

「…………うん、そうだね。ありがとう、ヒュースくん。そこから先は、わたしが話すよ」

「…………そうか」

 

 え、と驚いた声を挙げる修を尻目に、千佳はすっと立ち上がってその場に集まった面子の前で顔を上げた。

 

 その眼に恐怖は無く、緊張を孕んだ視線で周囲を見回していた。

 

「あのね、わたし────────────────人を、撃てるかもしれない」

 

 そして。

 

 彼女は遂に、その一言を口にした。

 

 唖然とする修を前に、千佳は続ける。

 

「ちょっと機会があって、なんで自分が人を撃てないのか考えてみたんだ。そしたら、そしたら、その────────────────わたしのトリオンで人を撃って、それを他の人に責められるのが怖い、って思ったの」

「千佳…………」

 

 修は突然の昔馴染みの少女の独白に、眼を見開いていた。

 

 この少女は、心の中でこんな事を考えていたんだと。

 

 今になって、思い知ったからだ。

 

「修くんには、話したよね。わたしの友達が、連れて行かれた時。あの時、周囲のみんながわたしの話を信じ始めたのが怖くて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って責められるのが怖かった」

 

 だから、と千佳は続ける。

 

「それから、わたしは誰かに責められるのが怖くて、目立つ事をしたくなかったの。だから、わたしのトリオンで人を撃って怖いとか、ズルいとか思われないかとか、そういう事ばっかり考えてた。それが修くん達に迷惑をかけてるって、分かってたのに」

「…………! いや、それは違うぞ。ぼく等は迷惑だなんて」

「────────だから、修くんがあの大規模侵攻の時にあんな危険を真似をしちゃった時は本当に怖かった。修くんが本当に死んじゃうんじゃないかって、とっても心配だった」

「…………っ!?」

 

 いきなり大規模侵攻の時の行動を指摘され、修は眼を白黒させた。

 

 実のところ、修はあの時の自分の行動が間違いだったとは一切思っていない。

 

 鬼怒田や遊真に散々絞られはしたが、それでも目的の為ならブレーキが一切存在しないのが修だ。

 

 自分の行動に後悔はないし、同じ状況になればまたやるだろうと断言出来る。

 

 だが。

 

 その行動を千佳に責められるのは、彼にとって盲点ではあった。

 

 自分の行動の結果がそんな所に返って来るとは、彼の計算の外であったのだから。

 

「あの時、わたしは見てるだけだった。見てるしか、出来なかった。もしもあの時わたしにちゃんと実力があれば、あんな真似をさせる事はなかったんじゃないかって、そう思ってたの」

「千佳…………」

「だから、思ったの。わたしも、出来る事はなんでもしたい、って。だから、だからね。このまま、自分の我が儘だけで人が撃てない振りを続けるのは良くないって、そう思ったの」

 

 だから、と千佳は続ける。

 

「わたしも、人を撃てるようになりたいと思う。だから、そのチャンスをくれないかな? 一度じゃ無理かもしれないけど、少しずつやっていこうと思うんだ」

 

 そう言って、千佳は言葉を締め括った。

 

 それを聞いた遊真やヒュースは沈黙し、修の答えを待っていた。

 

 彼等からすれば強要したのであればともかく、千佳が自発的に言い出した以上は可能な限りその意思を汲むべきではあると考えている。

 

 しかし、決定権を持つのは修だ。

 

 もしも修が駄目と言えば、ヒュースはともかく遊真はそれに準じるだろう。

 

 ヒュースは納得はしないかもしれないが、隊長の意思決定を覆すつもりまでは無い。

 

 正式に入隊した後であればもう少し口出しをしたかもしれないが、未だ武器を手に取る前の自分ではそこまでの資格は無いと考えているからだ。

 

 視線が、修へ向く。

 

 三対の眼を向けられた修は、しばし思案する。

 

 そして。

 

「────────分かった。けど、絶対無理はするな。無理そうだと思ったらストップをかけるから、そのつもりでいろよ」

「…………! うん、ありがとう。修くん」

「いや、お前の気持ちを考えてなかったぼくの落ち度でもある。けど、無理をする事はないからな。駄目だと思ったら、いつでも言えよ」

 

 うん、と笑顔で頷く千佳を見て、修はふぅ、とため息を吐いた。

 

 本当に千佳が人を撃てるのかはまだ分からないが、その()()をするのにROUND4は丁度良いのは確かだ。

 

 戦闘経験を積みたいのである程度は真っ当な試合をするつもりだが、此処で点を荒稼ぎしておきたい心胆もある。

 

(────────けど、もしそれが可能なら此処からの戦略が大きく変わる。勿論無理はさせられないから作戦の大筋自体は変えずに、出来れば儲けものくらいに考えておこう。その方が、リカバリーが利き易いからな)

 

 なお、それはそれとしてシビアな考えが出来ているあたり、王子の教育の行き届き具合が伺える。

 

 こうして玉狛第二は、一つの転機を迎えるのであった。

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