香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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第四試合、開始

 

 

「さて、ROUND4開始目前となりました。実況は私、二宮隊オペレーターの氷見と、解説の辻、荒船隊長の三名でお送りします」

「よろしくお願いします」

「よろしく頼む」

 

 ランク戦ブース、実況席。

 

 そこに座った氷見が、まずは始まりの挨拶を行っていた。

 

 解説席に座るのは彼女と同じ二宮隊所属の辻と、荒船隊隊長の荒船の二名。

 

 通常解説実況に同じ部隊のメンバーが複数置かれる事は早々ないが、辻は女性恐怖症でまともに話せる女性が現在氷見だけという有り様である為、彼に解説役をさせるには氷見とのセット運用が必須なのでこういう形になっている。

 

 辻の女性恐怖症は疾患レベルではないにせよ、女性を前にするとしどろもどろになりまともな会話が成立しなくなるのは確かだ。

 

 そんな辻が今となっては唯一動揺せずに話せるのが付き合いの長い同じ部隊のオペレーターの氷見であり、彼をこの場に担ぎ出す為に桜子が彼女に直接交渉を行ったのは言うまでもない。

 

 実況システムの立役者にして責任者である桜子は当然辻の女性恐怖症についても既知であり、これまでそれを理由に解説の席に着く事を断り続けていたのだが、此処で「じゃあ氷見さんとセットにすれば大丈夫ですね」と思い至り、彼女に話を持っていった次第である。

 

 氷見としてもこれはこれで良い機会だとして快く承諾し、辻を引っ張ってこの場に馳せ参じた次第である。

 

 辻も色々お世話になっている氷見から促された事もあり、特に抵抗なくこの席に座る事になったのだ。

 

 もう一人の解説が攻撃手繋がりである程度交流のある荒船だった事も、その決断を後押しした一因だろう。

 

 荒船は現在は狙撃手となっているが、今でも個人ランク戦には弧月を携えて顔を出しており、攻撃手面子との関係性は継続している。

 

 口下手気味な辻にとっても良く世話を焼いてくれる兄貴分であり、彼の隣ならば安心して座っていられるという塩梅だ。

 

 そんなこんなで、この組み合わせによる実況が生まれたのであった。

 

「じゃあ、まずは前回の試合結果を受けてのランク変動を表示します。後からゴチャつくから、今日の昼の部の結果は反映していないので、ご了承下さい」

 

部隊順位得点
二宮隊 1位29Pt 
影浦隊 2位25Pt 
生駒隊 3位21Pt 
香取隊 4位21Pt 
王子隊 5位17Pt 
東隊 6位17Pt 
鈴鳴第一 7位17Pt 
玉狛第二 8位17Pt 
弓場隊 9位16Pt 
諏訪隊 12位14Pt 
漆間隊 11位12Pt 
那須隊 12位12Pt 
荒船隊 13位9Pt 
柿崎隊 14位7Pt

 

「見ての通り、玉狛第二と弓場隊が中位落ち。その代わりに上位に上がって来たのが、東隊と鈴鳴第一になります」

「どちらも、今シーズンの開始時には上位にいた面子ですね。東隊はともかく、鈴鳴第一は今期のROUND1とROUND2では無得点が続いていたのでこの繰り上がりには驚きました」

「そーだな。鈴鳴はあの二敗が余程耐えたのか、新戦術引っ提げて点をもぎ取って行きやがったからな。今思い出してもありゃ参るぜ」

 

 三人の解説通り、前回の試合結果により順位には大きな変動があった。

 

 上位に上がったばかりの玉狛とこれまでB級上位をキープして来た弓場隊が中位落ちし、その代わりに鈴鳴が上位に復帰。

 

 しかも二試合続けての無得点からの、一挙5点獲得による昇進だ。

 

 確かにこれは、インパクトがあると言って良いだろう。

 

「そういえば、第三試合では荒船隊も鈴鳴と戦ったんでしたね」

「ああ、諏訪隊と柿崎隊と一緒にな。いつも通り包囲狙撃の陣を敷いたんだが、例の新戦術で突破されてな。その間に半崎が鋼に落とされて、穂刈は柿崎隊にやられた。諏訪隊は柿崎と虎太郎を落としたんだが、代わりに諏訪さんがやられてな。後は鋼が俺を一騎打ちで負かした後、不意打ちを狙ってた笹森を返り討ちにして堤さんと照屋が自己緊急脱出(ベイルアウト)で試合終了、って寸法だ」

 

 そう言って、荒船は前回の試合の事を軽く解説する。

 

 彼等荒船隊は普段通り得意戦術を以て挑んだのだが、鈴鳴はそれを真っ向から打ち破り、点をもぎ取って行ったというワケだ。

 

 大まかな試合の流れを聞き、氷見は成る程、と頷いた。

 

「では、その新戦術を引っ提げて来た鈴鳴は今回の試合どう立ち回ると見ますか? MAP選択は、市街地Dというものでしたが」

「そーだな。市街地DっつうクソMAPを選んで来た以上、確実に狙撃手封じの目論見はあるだろ。重要なのは、そっからどう動くかだけどな」

「そうですね。香取隊も生駒隊も、狙撃手を封じただけでどうこうなる相手ではありません。共に、近接に強いエースがいますから」

 

 そうだな、と荒船は頷く。

 

「辻の言う通り、どっちの部隊も狙撃手だけで回ってる部隊じゃねぇ。確かにそれが封じられるのは痛手じゃあるが、香取と生駒の二人をどうにかしないといけないからな」

 

 荒船の言う通り、香取隊と生駒隊はそれぞれ近接に強いエースを擁している。

 

 狙撃手が封じられるのは確かに痛いが、それだけで戦えなくなる程ではない。

 

 むしろ、実質狙撃手なしでどうその二人を抑え込むかが課題であるだろう。

 

「けど、何か考えはあんだろ。鈴鳴(あそこ)なら何か、思いも寄らない戦術を引っ提げて来てもおかしくないと思うぜ」

 

 

 

 

「問題は、狭い所での香取さんをどう対処するかって所と、生駒くんへの対策だね。地形で一方的な展開だけは封じたしある程度保険もかけてあるけど、それだけじゃ足りないかもしれないね」

 

 鈴鳴第一、作戦室。

 

 そこで来馬は、最後の確認を行っていた。

 

 狙撃手封じを行ったとはいえ、まだ課題はある。

 

 相手の二部隊のエース二人をどう対処するか、という大きな問題が。

 

「正面から戦うなら、一人は抑える事は出来ると思います。ですが」

「うん。香取さんがそれに乗って来るとは限らないし、生駒くんとやり合っている時に不意を突かれるのも厳しいね。出来るなら、どちらかにダメージを与えて動きを縛った上で主導権を取りたいけれど」

「そういう思惑に、水上くんが気付かない筈がないわね。彼の洞察力なら、こっちの作戦はある程度筒抜けだと思っても過言じゃないと思うわ」

 

 今はそう言って、現状の懸念点を指摘した。

 

 彼女の言う通り、水上ならこちらの思惑程度は軽く見透かしていると思うべきだろう。

 

 水上と今は同じ学校に通う同学年の生徒であり、クラスは同じではないがある程度交流はある。

 

 故に彼の曲者ぶりに関しては熟知しており、その上でこう断言しているワケだ。

 

 あれは生駒隊という環境だから矛を仕舞っているだけで、本質的に一筋縄ではいかない捻くれ者の極地である。

 

 その彼相手に現状では心許ないと、今は判断しているワケだ。

 

「確かに、そうかもしれないね。一応作戦は用意したけど、それも何処まで通じるか」

「あ、じゃあじゃあ、アレやりましょうよアレ。ホラ、こないだ俺が提案したやつ」

「…………あれ、本当に出来るのかしら? 大丈夫なのよね」

 

 そんな折、元気良く挙手して意見を告げたのは太一である。

 

 今の訝し気な発言と視線に対し、太一はニコリと笑って返した。

 

「大丈夫ですってっ! それに、あの二部隊相手に勝つなら、これくらいの事はやんないといけないと思いますしねっ!」

「やってみても良いんじゃないかな。今ちゃんも、準備はしてあるんだよね?」

「ええ、一応は────────分かりました。やるだけやってみます」

 

 いぇい、と言いながらガッツポーズを決める太一を尻目に、今はため息を吐いた。

 

 少々奇抜な作戦で尚且つぶっつけ本番に近いので巧くいくか不安ではあるが、現時点で戦力的に厳しいのは確か。

 

 なら、藁にも縋る思いでやってみても良いだろう、と開き直ったのである。

 

 何より、来馬がゴーサインを出したのなら否はない。

 

 今もまた、村上や太一ほど露骨ではないが、この菩薩のような優しさを持つ隊長に心酔している一人なのだから。

 

「じゃあ、その作戦を軸に動く事にするよ。頼んだよ、皆」

 

 

 

 

「気になるのは、今回生駒隊がどう動くかだな。いつもなら隠岐が速攻で高所を取って戦場を俯瞰して情報面で優位に立つのがパターンだが、今回それは出来ねーしな」

「そうですね。市街地Dは、モール内が主戦場となるMAPです。高所を取っても建物内の様子までは見通せない以上、そういった戦術は使えないでしょう」

 

 辻はそう言って、荒船の言葉に同意する。

 

 生駒隊は普段、まずはグラスホッパーを持つ隠岐がその機動力を活かして即座に高所を取り、そこからのスコープ越しの視認で情報アドバンテージを獲得してから動く事が多かった。

 

 隠岐のグラスホッパー装備は見つかり易くなるというデメリットを抱える反面、素早く高所を取る事に秀でている。

 

 そしてスコープという望遠装置を持つ狙撃手がそこに陣取る事で、いつでも狙撃が出来るよう備えつつレーダーに頼らない視認での情報収集が可能となるのだ。

 

 しかし今回、その手は使えない。

 

 市街地Dはショッピングモールの内部が主戦場となるMAPであり、高所に陣取った所でモール内部までは見通せないからだ。

 

 そのやり方が封じられているのは、生駒隊にとってそれなりに痛手であろう事は言うまでもない。

 

「そこまで不自由はしないんじゃないかと思います。生駒隊は対応力ならB級の中でもピカ一の部隊ですし、いつもの戦法が使えないなら使えないで何かしらの方法で対応して来ると思います」

「成る程。確かに生駒隊の面子は、地力そのものが高ぇからな。そのへん、流石B級上位に安定している部隊ってワケだ」

 

 しかし、それでも問題は無いだろうと辻は告げ、荒船も説明を聞いて納得する。

 

 生駒隊は対応力が非常に高い部隊であり、多少得意戦術が潰れた所で即座に対処して来るのが目に見えているからだ。

 

 安定した地力と、臨機応変の極地とも言うべき対応力。

 

 それこそが、生駒隊の真髄なのだから。

 

「特に、エースの生駒さんは堅実な戦法を得意とする方ですからね。派手な生駒旋空に隠れがちですが、あの安定感のある戦い方は同じ攻撃手としてとても参考になると思っています」

 

 

 

 

「────────なんか今、ホメられた気がする」

「何言うてるんですかイコさん」

 

 生駒隊は、様々な意味でいつも通りだった。

 

 承認欲求が割と高くボケに人生を懸けている生駒は神がかり的な直感を無駄に駆使して、解説席の誉め言葉を察知していた。

 

 なお、当然その間彼がカメラ目線であった事は言うまでもない。

 

「いや、なんとなく可愛い後輩キャラに褒められた気がすんねん。せぇへん?」

「もしかしたら辻あたりが解説席で褒めてんのとちゃいます? 割とあの子、イコさん尊敬してましたやん」

「マジかいな。じゃあ後で確認してみてもええ?」

「それは止めといた方が良いんと違いますか? 保護者(二宮さん)に睨まれる思いますわ」

「そうなん?」

「そうなんです」

 

 いつも通りの漫才を繰り広げる、生駒と水上。

 

 此処に至るまでシークタイムゼロでノリツッコミを返しているあたり、関西人の血が伺える。

 

 試合前とはとても思えない、和気藹々な普段通りの生駒隊であった。

 

「またそうやってボケ倒して。今回は隠岐が使えへんのやぞ? 大丈夫なんか?」

「まあ、大丈夫でしょ。狙撃手が使い難くなったんは香取隊も同じですし、閉所でやり合うならやり合うでやり様はあるしな」

 

 ため息を吐く真織に対し、水上はそう言って眼を細める。

 

 生駒隊の頭脳担当である水上の脳内には、既に試合の絵図が描かれている。

 

 詳しい事前説明はしない。

 

 必要最低限、どう動くかさえ伝えておけばその通りに動いてくれるのがこの生駒隊だからだ。

 

 彼等は水上の指示を遂行する事に一切の躊躇いがなく、逡巡する隙さえ無い。

 

 だからこそ試合前の大事な時間にこんな惚けたやり取りを平然と行えるのであり、他のチームが真似ればどうなるかは言わずもがなである。

 

「いつも通り、出たトコ勝負で行きましょ。ウチらは、それが一番強いやり方やからな」

 

 

 

 

「あとは、香取隊がどう動くかだな。これまでの試合で散々暴れた木岐坂も、このMAPじゃかなり動き難いだろ」

「ええ、彼女の超々遠距離狙撃もこのMAPじゃ意味がありませんからね。市街地DはMAP自体は狭いですし、主戦場が屋内になりますから」

 

 二人の言う通り、今回の市街地Dでは樹里の超々遠距離狙撃は意味を成さない。

 

 地形そのものが狭い上、屋内が主戦場となるのでどれだけの射程を持とうが意味が無いからだ。

 

 そういう意味で、樹里を主戦力として暴れさせて来たこれまでの方法は通じないという事である。

 

 故に、香取隊はどう動くのかに注目しているのだ。

 

「多分、ワイヤー陣もこの地形じゃやり難いと思いますね。何処で戦うかにも依りますが、屋内で戦う以上ワイヤーは屋外より見つけ易いでしょうし、最悪仕掛けてる所を発見される恐れもあります」

「そうだな。けれど、屋内戦闘なら香取さんが動き易くなるから、彼女を中心に戦略を立てるんじゃないかな」

「同感だな。複雑な地形での戦闘は、三次元機動が得意な香取の十八番だ。この試合じゃ機動力であいつに付いていける奴は、あんましいねぇからな」

 

 良いトコグラホ持ちの南沢ってトコか、と告げる荒船の言葉通り、こと機動力のみに注視するなら香取は今回の試合ではトップクラスの駒である。

 

 鈴鳴は言わずもがな守備重視の戦略で機動力は高いとは言えないし、生駒隊も南沢と隠岐がグラスホッパーを持っており機動力も高いが、近接戦闘では当然香取に分がある。

 

 南沢は一時はマスタークラスに至った事もある実力者だがその能力にはムラがあり、攻撃一辺倒で安定感に欠ける面がある。

 

 そういう意味で、機動力という一点では香取隊が優位とも言えるのだ。

 

「だから香取隊としちゃ、香取をどう活かすかが鍵になって来るだろーな。エースの片割れが使い難いなら、もう一つを使うしかねーだろ」

「そうですね。さて、そろそろ時間ですね」

 

 一通り説明を聞いた氷見は咳払いをし、手元の機器を操作する。

 

 前置きは、これくらいで良いだろうと。

 

 彼女は時計を見て、判断を下した。

 

「では、始めます。全部隊、転送開始」

 

 氷見の宣告と共に、各部隊の隊員の仮想空間への転送が開始される。

 

 四度目の試合の幕が、上がった。

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