香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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生駒隊Ⅲ

 

 

「隠岐隊員、カメレオンで潜伏していた三浦隊員により緊急脱出(ベイルアウト)。高低差(トラップ)にやられましたね」

「巧いね。あれは引っかかると思うよ」

 

 辻はそう言って、氷見の言葉に賛同する。

 

 会場は厄介な狙撃手である隠岐相手に見事暗殺を成功させた三浦の活躍に沸いており、絵面としても相当なものがあったので盛り上がりも頷ける話だ。

 

 闇の中から急に姿を現して弧月一閃で隠岐を葬ったその姿は、それだけ絵になっていたのだから。

 

「カメレオンは、使用中他のトリガーが一切使えなくなる。だから当然バッグワームも脱ぐ必要があるから、レーダーにも映ってしまうのが一つの難点なんだけど、それを高低差を利用した位置の重なりで巧くカバーするなんてね」

「この市街地Dが、上下に広いモール内での戦闘がメインであるからこそ出来たやり口だね。他のMAPじゃ、同じ建物内に複数名がいる状況なんて早々無いだろうし」

「そーだな。加えて言えば、香取は太一を落とす為っつう()()()()()()()()があった。だからその反応がある事を違和感に思わずに、スルーしちまったワケだな」

 

 今回の作戦の巧い所は、太一撃破の為に一階に向かった香取の位置を利用した事である。

 

 これが今まで香取の位置が不明な中、突然下に反応が出たとすれば警戒するだろう。

 

 だが、今回に限って言えば香取には太一を落とす為という明確な下へ向かう理由があった。

 

 その太一を彼女が撃破した直後だった事もあり、一階の香取の反応に関してはそこにあると分かっている()()()()()として隠岐の思考から外れていたのだ。

 

 確かに香取の機動力は脅威だが、一階から彼のいる四階まで上がるのにはそれなりに時間がかかるし最短ルートで向かうなら吹き抜けを通るしかない。

 

 だからこそ隠岐は迂闊に吹き抜けには近付かないようにしていたし、下方への警戒は怠らなかった。

 

 故に既に確認した自身の近辺への危機意識が薄れてしまい、三浦の奇襲を受けて倒れた、という寸法である。

 

「今回のは、即興で組み上げた戦術だろうな。太一の消灯戦術に関しちゃ流石に想定してなかっただろうし、丁度香取が太一を片付けに行ったのを利用して罠を張った、って所か」

「恐らくですが、香取隊は生駒さんが生駒旋空を床越しに撃った時点で隠岐くんが上の階にいると確信を持ったのだと思います。向こうが見えない床越しに正確に旋空を当てたという事は、上に()があったという事ですから」

「そうだね。上位チームではもう常識みたいになってますが、生駒さんが壁越し旋空を当ててくる時は大体隠岐くんに高所を陣取られていると考えて間違いないですからね。そうでもなければ、流石に壁越しに早々当てられはしませんし」

 

 成る程、と荒船は頷く。

 

 B級上位として散々生駒隊とやり合った経験のある二宮隊の二人にとっては既知の情報であるが、生駒が旋空を壁越しに正確に当ててきた場合は、十中八九隠岐がその場所が見える高所に陣取っていると見て間違いないのだ。

 

 何せ、幾ら射程が40メートルある生駒旋空とはいえ、壁の向こうを視認出来ない事には正確に相手に当てる事など出来はしない。

 

 それを実現する為には当然ながら、別の()が必要になるのだ。

 

 そしてその眼の役割を担う者こそ、グラスホッパーを用いて素早く高所を陣取る事が出来る隠岐、というワケだ。

 

 今回は主戦場がモール内という事で同じ戦法は出来ないだろうと傍から見れば思えただろうが、この建物の天井は天窓になっている事に加え、中央には大きな吹き抜けがある。

 

 故に、吹き抜けの近くにいる相手であれば天窓の付近に陣取れさえすれば、充分にその位置を観測可能なのだ。

 

 だからこそ隠岐はこのモールの構造を利用し、生駒の眼となるべく屋上へ待機していた。

 

 そして来馬に旋空を当てるという生駒の眼となる役目を終えた後、追撃として狙撃を行ってから逃走。

 

 そのまま四階へ降り立ち、そこで待ち構えていた三浦にやられたという顛末である。

 

 辻や氷見の言うように恐らく香取隊はこの生駒旋空を正確に来馬に当てた段階で隠岐の存在を推測し、即興で三浦による待ち伏せ奇襲を立案したのだろう。

 

 そこから速やかに準備を行い、スムーズに作戦を実行した手腕には目を見張る。

 

 これが前期までは好き勝手に動くだけでチームの体を成していなかった部隊とは、とても思えないくらいに。

 

「成る程な。強い戦術だからこそ、読み易かったってワケか。今期の香取隊は、本当にそういう読みの鋭さがずば抜けてやがんな」

「そうですね。成長が伺えます」

「とはいえ、もう一度当たったとしても負けるつもりはないですからね。私達は、B級一位の二宮隊なので」

 

 氷見はそう言って、珍しく強気な姿勢を強調してみせる。

 

 彼女自身元来強さや地位に拘るタイプではないが、二宮隊の()()に関しては別の意味もある。

 

 以前、かつて同じチームだった鳩原が人を撃てないという理由で二宮隊は遠征部隊から外された事がある。

 

 その時、二宮は上層部に直談判し、「二宮隊がA級一位になったらもう一度遠征行きを検討して貰う」という交渉をしていたのだ。

 

 上層部の反応は芳しいものではなかったものの、それは当時に二宮隊にとって一つの希望だった事は言うまでもない。

 

 けれど。

 

 結局その希望は叶う事なく、鳩原は一人部外者と共に密航して姿を消した。

 

 もし、あの頃自分達が充分な成果を示せていたのなら。

 

 そう思わなかった日は、無いと言って良い。

 

 仮にそれが実現不可能なもしも(if)だったとしても、彼等二宮隊にとっては一つの後悔として胸に刻まれている事は間違いない。

 

 故に、二宮隊は負けるワケにはいかない。

 

 未だにいなくなった少女に心を囚われている優しい隊長の為にも、勝ち続け前を向き続ける必要がある。

 

 それは、誰が相手だろうと変わりはしない。

 

 だからこそ、この宣誓には意味があるのだ。

 

 いや、意味などなくても良い。

 

 ただの自己満足であっても、それが上を目指し前に進む一助となるのならば。

 

 それで、良いのだから。

 

「さて、これで生駒隊は残り二名。鈴鳴も残り二名に対し、香取隊は四名全員が健在です。数の上では香取隊が有利となりましたが、どう見ますか?」

「そうだな。確かに、四人全員が無事でいるっつーのは強みだ。けど、鈴鳴も生駒隊も残ってる駒がどいつもこいつも曲者揃いだ。鋼も来馬さんが負傷して碌に動けないとはいえタダでやられるタマじゃねーし、生駒隊が水上と生駒が揃って残ってるのが怖ぇな」

 

 重い情念を垣間見せていた空気を自ら断ち切って話を振って来た氷見に対し、荒船はそう返す。

 

 思うところはあるだろうが、このあたりの切り替えは流石と言える。

 

 確かに彼の言う通り村上は負傷した来馬という枷を背負っているとはいえ一筋縄でいく相手ではないし、生駒隊はエースの生駒とブレインの水上が揃っているのが中々に脅威ではある。

 

 香取隊は全員揃っているが、エースの実力に関してのみ言えば正面戦闘では三人の中では香取がやや劣る。

 

 相手はNO6攻撃手と、NO4攻撃手。

 

 如何に人数の上で有利であっても、それを容易くひっくり返しかねないのがB級上位のエース級なのだ。

 

 部隊の超抜級エースとは、戦術そのものをひっくり返しかねない戦略兵器的な側面を持つ。

 

 エース一人だけで勝てる筈はないが、逆に言えば充分なサポートの上でエースが十全に暴れれば劣勢の一つや二つは容易く翻る。

 

 それが絶対的なエースを擁する部隊の強みであり、トランプにたとえれば切り札(ジョーカー)の有無と同じと言って良い。

 

 相手のエースが健在である限り、試合はどう転ぶか分からない。

 

 それは、エースの実力が圧倒的なものとなるB級上位に於いては一つの暗黙の了解であった。

 

「エースをちゃんと活躍させられるかどうかで、今後の展開は決まるだろうな。どのチームのエースも、それだけの力がきちっとあっからな」

 

 

 

 

(よし。巧く行った)

 

 三浦はカメレオンを解除したまま、ガッツポーズを取った。

 

 最初に作戦を聞いた時は巧く行くか不安であったが、予想以上にカッチリと嵌まったようで隠岐は最後まで三浦の存在に気付く事はなかった。

 

 これで、敵の狙撃手は全員落とせた。

 

 更に最大の不安要素であった生駒も既に姿を見せており、不意打ちの心配はほぼ無いと言って良い。

 

 加えて、香取隊(じぶんたち)はまだ全員が健在だ。

 

 相対する部隊は、その両方が残り二名ずつ。

 

 しかも鈴鳴に至っては来馬が負傷している為、動きは大幅に鈍っていると見て間違いない。

 

『雄太。可能ならバッグワームで潜伏して、機会を待ちましょう。葉子の到着を待って、同時に仕掛けるわ』

「了解」

 

 三浦は華の指示を受け、こくりと頷いた。

 

 今は太一撃破の為に下に行っていた香取だが、彼女の足なら此処まで登って来るのにそう時間はかからない。

 

 自分は潜伏しつつそれを待ち、準備が整った所で挟撃を仕掛ければ良い。

 

「…………!」

 

 だが。

 

 その目論見は、既に見破られていた。

 

 三浦は自身に向かう弾丸を視認し、咄嗟にバックステップで避ける。

 

 彼の視線の先には、既にキューブを傍らに待機させていた水上の姿があった。

 

(…………まあ、そう簡単にはいかないか…………!)

 

 それを見て、三浦は内心で苦笑する。

 

 流石に今自分を見失えばどうなるかは、向こうも分かっているらしい。

 

 水上はこちらの行動を読んで、先んじてそれを潰す為にわざわざ姿を晒して来たのだ。

 

 三浦(じぶん)を、間違っても()()()()()()()()()()にしない為に。

 

 既に生駒隊は、全ての手札(カード)を切っている。

 

 生駒旋空での奇襲という最強の手札は鈴鳴相手に使ってしまった後であるし、隠岐が退場している以上狙撃という手も使えない。

 

 故に、此処でカメレオンと旋空の両方が使える三浦が姿を晦ませばそれは最大級の脅威と成り得る。

 

 カメレオンを使うのは若村も同じだが、アサルトライフルを扱う彼と異なり三浦には旋空という防御不可の攻撃がある。

 

 それをカメレオンやバッグワームからの奇襲で使って来られれば、致命傷を受ける可能性は充分にあった。

 

 だからこそ水上は自分の位置を晒すリスクを抱えてでも、こうして三浦の足止めに現れたワケだ。

 

 香取隊(じぶんたち)が使える必殺の手を、一つでも削ぐ為に。

 

『予定変更よ。雄太』

「分かってる。水上先輩は、こっちで抑えるね」

『頼んだわ』

 

 こうなった以上、切り替えるしかない。

 

 三浦は此処で優秀なサポーターである水上の足止めを行い、主戦場への介入を防ぐ。

 

 先程の案より防御的な立ち回りとなってしまうが、水上もまた野放しにして良い相手ではない。

 

 以前から何度も戦っている相手として、彼の立ち回りの巧みさには散々辛酸を嘗めさせられて来たのだから。

 

 彼を侮る理由は、皆無に等しかった。

 

「行くよ」

 

 三浦は弧月を構え、慎重に水上と対峙する。

 

 やがて水上から第二射が放たれ、二人の戦闘が開始された。

 

 

 

 

「旋空弧月」

「「…………!」」

 

 旋空一閃。

 

 階下から放たれた拡張斬撃が、村上へと襲い掛かる。

 

 村上は即座に来馬の肩を担ぎ、後方へ跳躍。

 

 拡張斬撃の一撃を回避するが、次の瞬間には下の階にいた生駒が跳躍し、同じ階へと上がって来た。

 

「旋空────────」

旋空弧月

「…………!」

 

 咄嗟に旋空を放とうとする村上だが、残念ながら居合を修めた生駒に剣速────────────────しかも、初太刀の速度で敵う筈もない。

 

 村上は凡その事柄を己の副作用(サイドエフェクト)によって100%学習出来るが、生来の身体能力やセンスまでは変わらない。

 

 生駒の剣才は生来のものを鍛錬によって磨き上げた代物であり、居合のノウハウ等は当然村上には備わっていない為、その点でも当然違いは出る。

 

 以前興味を持って生駒に生駒旋空を習いに行った事はあるのだが、結局習得には至らなかったのがその証拠だ。

 

 村上の能力はどんなものでも身体に記憶させられるが、記憶出来るのと実際に出来るかどうかはまた別の話だ。

 

 常人に可能な範囲であれば幾らでも再現可能なのが村上の副作用の恐ろしい所であるが、才覚やセンスといった生来のものや特殊な環境が必要になるものとなれば彼に習得可能な技術の範疇外となる。

 

 故に、剣速という一点に於いて村上は生駒には敵わない。

 

 剣速、射程が通常のそれに倍する彼の秘儀、生駒旋空が横薙ぎに襲い掛かった。

 

「く…………!」

 

 村上は咄嗟に来馬を押し倒し、間一髪で斬撃を回避する。

 

 首狙いだったのか、割と高い位置に斬撃があったのが幸いした。

 

 二人揃って地面に倒れ込むという隙だらけの姿だが、幸いな事に生駒旋空は連射出来ない。

 

 その圧倒的な剣速と射程の代価として、この居合斬りじみた絶技は単発でしか撃てないのだ。

 

「旋空弧月」

 

 だがそれは、居合抜きじみた剣速の必殺の一撃が一度ずつしか来ないという意味でしかない。

 

 技の硬直が終了した生駒は、即座に通常の旋空を連射。

 

 忍田のように四連射等は流石に出来ないが、二連程度であれば生駒なら可能だ。

 

 生駒旋空は連射出来ないが、それならそれで通常の旋空と使い分ければ良いだけの話。

 

 確かに生駒旋空は強力無比な必殺の一撃と言えるが、生駒はそれだけを妄信するような暗愚では決してない。

 

 むしろ惚けた言動とは裏腹に戦闘思考自体はかなりシビアであり、堅実な立ち回りをする相手なのだ。

 

 その手堅い戦闘スタイルは辻が手放しで称賛するだけあり、隙が少なく崩し難い。

 

 数字の上での攻撃手の順位は村上の方が上ではあるが、それは必ずしも生駒が村上に劣るという意味ではない。

 

 この順位はあくまでも所持しているポイントによって決まるものであり、必ずしも相手に直接勝つ必要は無いのだから。

 

 数字は嘘をつかないが、数字だけでは真実は見えない。

 

 村上VS生駒。

 

 この見る人が見れば垂涎ものの対戦カードの火蓋は、こうして切って落とされた。

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